銀河戦記/鳴動編 第一部 第十九章 シャイニング基地攻防戦 Ⅱ
2021.04.11

第十九章 シャイニング基地攻防戦




 もはやかごの鳥、絶体絶命の状態へと進展していく。
「これまでかな……」
 降伏するなら早い方が良い。
 そう思い始めた頃だった。
 第八艦隊を包囲殲滅しようとする敵艦隊の後方に新たなる艦影が現れたのだ。
「敵艦隊の後方に新たなる艦影確認」
「敵の援軍か」
「違います。味方艦隊! すでに敵艦隊と戦闘状態に入ったもよう」
「なに!」
「識別信号、第十七艦隊旗艦サラマンダーを確認」
「ランドールか!」
 味方の援軍の到着で、一斉に歓声があがる艦橋内。
「援軍が到着したぞ!」
「ランドール提督が救援に来てくれたんだ」
「これで一対一の互角だ」
「いや、ランドール提督が敵艦隊の背後をとっている。こちらのほうが絶対有利だ」
「勝てるぞ!」
 口々に叫んで意気あがる乗員。
 これまで艦橋内を覆い尽くしていた暗雲が、きれいさっぱりと消滅していた。
「よし、攻撃に転ずる。全艦全速前進して攻撃。敵は動揺している。集中砲火をあびせてやれ」
「はっ。全艦全速前進」
「砲撃開始」
 全員の顔色が見る間に活気に溢れていく。常勝不滅のランドール艦隊の到来で、全滅の不安は一掃され、士気は最高潮に達して小躍りして反撃開始の戦闘態勢に臨んでいた。
「提督。敵を挟み撃ちにして勝てそうですね」
「それもこれもランドールが救援にくれたおかげだ」
「しかし、シャイニング基地のほうはどうなっているのでしょうか」
「わからん。いくらランドールでも三個艦隊を撃滅したとは思えないが……」
「それに時間的に早すぎます。敵艦隊と交戦してこちらに来るには時間的に不可能です」

 一方背後を取られて窮地にたたされた連邦艦隊。指揮するは連邦軍第十七機動部隊司令官F・J・フレージャー少将である。
「敵艦隊の所属は、第十七艦隊と判明」
「何だと!? 第十七艦隊はシャイニング基地の防衛にあたっているのではないのか?」
「情報は確かなはずですが……」
「では、なぜあいつらがここにいるのだ」
「そ、それは……。シャイニング基地を放棄してこちらに回ってきたと考えるべきでしょうが……」
「それにしても、俺が戦う相手はいつもランドールだな。今回は違う相手と戦えると思っていたのにな」
「艦隊番号も同じですからね。めぐり合わせですかねえ」
「ミッドウェイやカラカス奪回作戦では撤退を余儀なくされて、せっかく第七艦隊の司令長官に抜擢されたというのに、あいつのおかげで古巣のこの機動部隊に出戻りだ」
「ですが、バルゼー提督やスピルランス提督のように艦隊を壊滅させられて捕虜になるよりはいいでしょう」
「ことごとく撤退してきたからな」
「ですよね……」
「仕方が無い。今回も撤退するぞ」
「命令を無視するのですね? また降格の憂き目に合いますよ」
「今は敵味方同数の艦隊ながらも挟み撃ち状態で、しかも背後を取られた相手はあのサラマンダー艦隊だ。勝てる見込みのない戦いを続けるのは無意味だ。全艦を立て直して撤退する」
「わかりました」
「いないはずの第十七艦隊がここにいる。情報が間違っていた以上、作戦命令も無効になったと考えてもよいだろう」
「閣下がそうお考えになるのなら」
「ま、ランドールがこちらに来ているということは、シャイニング基地を放棄してこちらの救援に回ったと考えるべきだろう。となれば、シャイニング基地はすでに我々の味方の手に落ちていると考えるのが妥当だ。その基地があれば侵攻作戦に支障はないだろうさ。無理してクリーグ基地を落とす必要もない」
「そう言われればそうですね」
「と、納得したならば。速やかに撤退するぞ」
「はっ!」


 サラマンダー艦橋。
「提督。敵艦隊が撤退をはじめました」
「意外に速い決断だったな。どうやら敵も私がシャイニングを放棄したことを察知したのだろう。とすれば無理してこちらに固執する必要はないからな」
「どうします。追撃しますか」
「その必要はない。敵を追いやるだけで十分作戦目的は果たした。後はガードナー提督にまかせる。それより転進準備にかかれ」
「かしこまりました」
「司令官は、フレージャー少将のはずですね。ハンニバル艦隊撃退の時のカラカス基地からの速やかなる撤退が印象的でした。それとミッドウェイもでしたね」
「フレージャーか……。確かレキシントンを撃沈された叱責から、ミニッツから出されていた中将への進級申請を、キングス宇宙艦隊司令長官によって却下されたらしいがな」
「レキシントンはキングスがかつて艦長をしていたらしいですからね」
「愛着のある艦を沈められれば責めたくもなるだろうさ。だが司令官として、私情を持ち込むようでは戦いには勝てないだろうさ。まだ確かな情報ではないが、そのキングスも作戦部長兼宇宙艦隊司令長官を更迭されるらしい」
「提督。ガードナー提督からです」
「ん。繋いでくれ」
 スクリーンにフランクが現れた。
「よく、来てくれた……といいたいが……おまえ、シャイニング基地はどうした」
「はあ、たぶん、今頃占領されているでしょうねえ。ま、これから奪還に向かいますよ」
「おい、おい。大丈夫なんだろうなあ……。こっちの助太刀をしてくれたのは感謝するが」
「私が、ただで明け渡すと思いますか?」
「思わんな」
「置き土産として、トロイの木馬を置いてきました」
「トロイの木馬か……今度はどんな罠を仕掛けたんだ?」
「それは後のお楽しみということで。急ぎますんで失礼します。提督は敵艦隊が引き返してきた時に備えていてください」
「わかった。ま、頑張りな」
「では」
 アレックスは敬礼して、通信機のスイッチを消した。
「シャイニング基地に戻るぞ。全艦、全速前進で向かえ」
「全艦、百八十度転進。コース座標設定α235、β1745、γ34。シャイニング基地へ、全艦全速前進」
 ゆっくりと方向を変えて元来た進路に戻るランドール艦隊。

 旗艦ヒッポグリフの艦橋では、スクリーンに映る去りゆくランドール艦隊の雄姿を、ガードナーが頼もしそうに見つめていた。
「提督。ランドール提督がトロイの木馬と言われておりましたが、どういう意味ですか」
「古代地球史にあるホメロスのイリアスという叙情史の中に記述がある。かつてトロイの城塞を攻略するのに、ギリシャ人は中の空洞に兵士を潜ませた木馬を、贈り物のように見せかけてまんまと城塞に侵入。夜中に兵士が木馬から抜け出して、城門を開け放してこれを攻略した、という話しだ」
「つまりシャイニング基地が木馬というわけですな。基地に罠をしかけておいて撤退し、わざと占領させる。しかしそこには……という算段ですか」
「そういうことだ。ただし、この戦いはイリアスに記述があるだけで、史実かどうかは明確な証拠が出ていないので疑問視されている。それにしてもだ……。ランドールに二度も助けられるとはな」
「ミッドウェイ宙域会戦以来ですか」

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2021.04.11 09:08 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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