銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 デュプロス星系会戦 Ⅲ
2021.06.02

第二章 デュプロス星系会戦




 ミスト旗艦の発着ゲート。
 着艦したドルフィン号をミストの兵士達が取り囲んでいる。
 ドルフィン号のドアが開いて、特務捜査官コレット・サブリナ大尉を従えたアレックスが降りてくる。
 一斉にアレックスに向けて銃を構える兵士達。
 反射的に腰のブラスターに手を掛けるコレットだったが、アレックスに制止されて手を戻した。

 やがて一人の人物が、兵士達をかき分けて、アレックスの前に進み出た。
 兵士達に銃を下げるように指示してから、挨拶を交わしてきた。
「ミスト艦隊司令官のフランドール・キャニスターです」
 言いながら手を差し出していた。
「アル・サフリエニ方面軍司令官、アレックス・ランドールです」
 アレックスも答えながら、差し出された手を握り返した。
「アル・サフリエニ……ですか。まあ、ここはそういうことにしておきましょうか」
 共和国同盟軍はすでに存在しておらず、アル・サフリエニ方面軍という称号もすでに消滅していた。
 にも関わらずアレックスがその称号を名乗ったのは、デュプロス星系がバーナード星系連邦に対して、総督軍への編入を未だに態度保留していたからである。
「立ち話もなんですから、私のオフィスに案内しましょう。そちらの可愛いSPさんもご一緒にどうぞ」
 とコレットに視線を送った。
 可愛いなどと言われて頬を赤らめるコレットだった。
 無骨な男達しかいない戦艦にあっては、唯一の女性のコレットを可愛いと感じるのは当然かも知れない。
 実際にも、コレットはその名前にふさわしく、若く美しかったのである。
「一応規則ですので、銃をお預かりします」
 アレックスが頷くのを見て、銃を預けるコレット。

 司令官オフィス。
 司令官二人が、ソファーに腰掛けお茶を飲みながら会談をしている。
 コレットもお茶を勧められたが、丁重に断ってドアの前に直立して二人の会話を見つめている。
 SP要員としての任務を忘れないコレットであった。
「……なるほどね。用件は納得いきました。とにかくも貴艦らの所領通過を認めましょう」
「ありがとうございます」
「まあ、当方としても連邦に対しては、屈服するのも潔しとは思っていませんのでね。できれば中立を保てればと願っているのですよ」
「中立ですか? 連邦が許さないでしょう」
「確かに、いろいろと干渉をしてきますよ。直接の武力介入は今のところありませんが、いずれは……」
 と言いかけたときに、アレックスの携帯端末が鳴った。
「緊急入電です。すみません、ちょっと失礼します」
 一言断ってから、携帯を開いて連絡を取るアレックス。
「ランドールだ。スザンナ、どうした?」
『敵艦隊です。Pー300VXが、デュプロス星系に侵入したバーナード星系連邦と思われる艦隊の艦影を捕らえました。おそらく例の先遣隊の一部がこちら方面に進駐してきたものと思われます』
「判った。全艦、戦闘体勢で待機だ」
『了解! 戦闘体勢に入ります』
 連絡を終えて携帯を閉じるとミスト司令官が怪訝な表情でたずねてきた。
「戦闘体勢とはどういうことですかな」
 それに正直に答えるアレックス。
「どうやら、件のバーナード星系連邦が武力介入を仕掛けてきたもようです。そちらの所領内ではありますが、敵艦隊に対して戦闘体勢を取らせていただきました」
「なんですって? しかし当方の監視体制には……」
 言いかけたとき、今度は司令官オフィスのインターフォンが鳴った。
「どうした?」
『監視衛星がデュプロスに侵入する艦隊を捕らえました』
「バーナード星系連邦か?」
『おそらく……』
「よし、全艦、戦闘体勢をとれ!」


 ミスト艦隊旗艦の艦橋。
 司令官が迫りくる敵艦隊を迎撃するための指示を次々と出していた。
「敵艦隊の進撃予想ルートを出せ!」
 スクリーンにデュプロス星系の星図と敵艦隊の位置が示されていた。
 敵艦隊からまっすぐ延びる予想ルート。
「何だこれは? 奴らはまっすぐ進んでいるのか?」
「はい。一直線に向かってきます」
 それを聞いてアレックスが呟く。
「愚かなことだ。自滅するつもりかな……」
 それを聞きつけた司令官が、一瞬怪訝そうな表情を浮かべる。
「敵艦隊の勢力は?」
「戦艦四百五十隻、巡航艦三百二十隻、その他合わせて総勢千隻に及びます」
「対する我々は、せいぜい三百隻程度……。まともに戦っては勝負にならないな」
 勝勢は敵艦隊にあるのは明白な事実となっていた。
「司令……。本当にお戦いになられるのですか?」
 副官が心配そうに質問する。
「当たり前だ。事前の外交交渉もなく、予告なしにデュプロスに侵入してきた艦隊が、親善使節であるはずがないだろう」
「それはそうですが……」
 副長は和議の道を考えているようだった。
 しかし圧倒的に有利な側である敵軍が承諾するはずもなかった。
 ここに至っては、たとえ全滅しても戦うより道はなかった。
「提督。折り入ってお願いがあります」
「お願い?」
「提督にこのミスト艦隊の指揮を執っていただきたいのです」
「わたしが指揮を?」
 これまでにも数倍の勝る敵艦隊と戦い勝利してきたアレックスとはいえ、自身が育て鍛えてきた艦隊ではない。手となり足となって忠実に指令を遂行できるかは未知数であった。突拍子で理不全な命令が下されても、素直に従ってくれるかも判らない。
「本当に、わたしが指揮を執ってよろしいのですか?」
 再度確認を求めたのは、そんな疑心暗鬼からくるものであった。
 すると艦橋にいたオペレーター達が全員立ち上がった。
「提督! 指揮を執ってください」
「お願いします」
 次々と賛同の意を現していた。
「そういうわけです。ミスト艦隊の将兵全員が提督の指揮を願っています」
「はあ……。そうですか」
 髪の毛を掻くようにして、悩んでいるようであったが、
「判りました。指揮を執りましょう」
 いたしかなく承諾するアレックスであった。
 とにもかくにも迫り来る敵艦隊をどうにかしなければ、自分の旗艦艦隊も銀河帝国へ向かうことができないのも脳裏にあった。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.06.02 08:41 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

- CafeLog -