銀河戦記/鳴動編 第二部 第十三章 カーター男爵 Ⅳ
2021.06.26
第十三章 カーター男爵
Ⅳ
公爵より情状酌量を得られたカーター男爵。
捲土重来よろしく、公爵の信頼を取り戻すためには何をするべきなのか……。
自分を拾ってくれた公爵への恩を返すには何をすべきなのか?
自らの居城に戻り策略を巡らす。
時は遡ること二十年ほど前。
男爵マンソン・カーターの家系は、没落貴族で爵位をも失っていた。
十五歳のおり糧を求めて、輸送船の乗組員として雑用係をやっていた。
その輸送船はロベスピエール公爵の持ち船であり、荷役に折に時折姿を見せる公爵の威厳ある態度に、憧れをも抱いていた。
そんなある日、公爵がウェセックス公国から帝国本星アルデラーンへと行幸する旅に同行することが叶ったのだった。
しかも、公爵の御座に酒などを運ぶ配膳掛かりに任命されたのだった。
行方不明となっているアレクサンダー王子に次ぐ皇位継承第二位であり、次期皇帝確実という身分であった。
間近で見る高級貴族に羨望のまなざしを向けるカーターだった。
突然大きく揺れる船体。
「何事だ!」
「か、海賊です!」
「やはり来たか! 応戦しろ!」
公爵の乗る船の周りに護衛艦が集まって、海賊の攻撃から守りつつ、反撃を開始した。
「どこの所属の海賊か?」
「おそらくは、この辺りを荒らしているドレーク海賊団かと思われます」
「そうか、捕まえて儂の前に引っ立てよ」
「かしこまりました」
船長はうやうやしく頭を垂れると、オペレーターに命令した。
「重戦艦を公爵の船の前に並べよ! さらに海賊船団を取り囲め!」
どうやら海賊の出現を予見して、護衛艦隊を隠し持っていたようだ。
完全包囲される海賊船団。
海賊と正規軍隊では火力がまるで違った。
抵抗空しく海賊はリーダーの船を残して全滅した。
リーダーのドレークは捕えられ、公爵の前に引きだされた。
後ろ手に縛られ跪かされているドレーク。
「一応、お主の名前を聞こうか」
厳かに質問する公爵。
「ドレーク。フランシス・ドレークだ!」
言うが早いか、隠し持っていたナイフで手綱を切って、公爵に襲い掛かった。
「危ない!」
配膳掛かりで傍に立っていたカーターが、公爵の前に立ちはだかりドレークの襲撃を防ぐ。ドレークのナイフが腹に突き刺さるも、カーターはその手をしっかりと掴んで離さなかった。
身動き取れなくなったドレークは、従者によって取り押さえられた。
「医者だ! 医者を呼べ!」
公爵の声が遠くなっていく。
無事を確認したカーターはそのまま意識を失った。
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