銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 Ⅶ
2021.06.25

第四章 皇位継承の証




 その時一人の従者が駆け込んできた。
「大変です。共和国同盟との国境を守るマリアンヌ皇女さまの艦隊が攻撃を受けています」
「なんですって!」
 共和国同盟との国境にあるエセックス候国の守備艦隊として、ジュリエッタの第三艦隊と、マリアンヌの第六艦隊が交代で任務に当たっていた。現在はマリアンヌが、その旗艦マジェスティックにて指揮を執っていたのである。
 一同は驚愕し、アレックスを見つめた。
「連邦の先遣隊でしょう。本隊が進軍する前に偵察をかねて先遣隊を出すことはありえます。それがたまたま皇女艦隊と鉢合わせてして、交戦状態に入ったのでしょう」
「エリザベスさま。早速、救援を向かわせましょう」
 しかし、アレックスはそれを制止した。
「言ったはずです。国境を越えられてから行動を起こしても遅いとね。現場まで何時間かかるとお思いですか。救援隊が到着した時には、とっくに全滅しています」
「しかし、マリアンヌ皇女さまが襲われているのを、黙って手をこまねいているわけにはいかない」
「敵が攻め寄せて来ているというのに、体裁を気にしてばかりで行動に移さなかったあなた方の責任でしょう。私の忠告を無視せずに、あの時点で艦隊を派遣していれば十分間に合ったのです」
「そ、それは……」
 パトリシアが入室してきた。
「提督……」
「どうだった?」
「はい。マリアンヌ皇女さまは、ご無事です」
 おお!
 という感嘆の声と、何があったのかという疑問の声が交錯した。
「国境付近に待機させておいた提督の配下の者が救援に間に合ったようです。旗艦マジェスティックは大破するも、マリアンヌ皇女さまはかすり傷一つなくノームにご移乗なされてご安泰です」

「皆の者よ。良く聞きなさい」
 それまで静かに聞き役にあまんじていたエリザベスが口を開いた。
「摂政の権限としての決定を言い渡します」
 と言い出して、皆の様子を伺いながら言葉を続けていく。
「共和国総督軍が、帝国への侵略のために艦隊を差し向けたことは、もはや疑いのない事実です。不可侵にして絶対的である我等が聖域に、侵略者達に一歩足りとも足を踏み入れさせることなど、断じて許してはなりません。一刻も早く対処せねばなりません。ここに至っては摂政の権限として、このアレクサンダー皇子を宇宙艦隊司令長官に任じ、銀河帝国宇宙艦隊全軍の指揮を任せます」
 謁見室にいる全員が感嘆の声をあげた。
 宇宙艦隊司令長官に任じたことは、アレックスを皇太子として公式的に認めることを意味するからである。
 不可侵にして絶対的なる聖域である帝国領土を、敵の侵略から守るために、共和国同盟軍の英雄として采配を奮った常勝の将軍を、宇宙艦隊司令長官に任ずるという決定は即座に全艦隊に伝えられた。
 もちろん皇太子であることには一切触れられてはいなかったのであるが、皇太子殿下ご帰還の報はすでに非公式ながら全国に流されていたので、皇室が皇太子殿下を正式に認知したものとして、民衆はアレックスの宇宙艦隊司令長官就任の報に大いに歓喜したのである。


 新たなる情報がもたらされた。
 バーナード星系連邦において、クーデターが発生したというものであった。
 一部の高級将校が決起して、軍統帥本部などの軍事施設を占拠して高級官僚を拘禁し、国会議事堂、中央銀行、放送局など、軍事と政治経済の重要施設を手中に収めたのである。
 総督軍の帝国侵略開始と時を同じくして決起したのは、総督軍からの鎮圧部隊の派遣が困難な情勢となったことを見越してのことであろう。
「これで連邦側からの侵略の可能性は当分ないだろう。心置きなく総督軍と対峙する事ができる」
 軍事クーデターが成功したとはいえ、政治経済の中枢を押さえただけで、これから国家を立て直し、軍や艦隊を動かせるようになるにはまだまだ先の話となる。
 マーガレットの第二皇女艦隊とジュリエッタの第三皇女艦隊とを併合し、これにランドール旗艦艦隊を合流させて、総督軍に対する迎撃艦隊とした。他の艦隊を加えなかったのは、戦闘の経験もなく脆弱すぎて被害ばかりが増えると判断したからだ。また解放戦線に援軍を求めるにも遠すぎて無理がある。総督軍にはまだ二百万隻もの艦艇が残されている。それに対処するためにも解放戦線は動かせなかった。
 陣容は整ったものの、すぐには出撃はできなかった。
 国境を越えての大遠征となるために、補給を確保するための補給艦隊の編成と、燃料・弾薬・食料などの積み込みだけで三日を要した。
 それらの準備が整うまでの時間を使って、アレックスの大元帥号親授式と宇宙艦隊司令長官の就任式が執り行われることとなった。

 宮殿謁見の間が華やかな式典の会場となった。
 普段は謁見の間への参列を許されていない荘園領主や城主、そして下級の将軍達が顔を揃えていた。祝いの席をより多くの人々に見届けてもらおうという配慮だった。
「アレクサンダー第一皇子、ご入来!」
 重厚な扉が開かれ、儀礼用の軍服に身を包んだアレックスがゆっくりと緋色の絨毯の上を歩んでいく。宮廷楽団がおごそかな楽曲を奏でている。やがて壇上の手前で立ち止まるアレックス。
 参列者の最前列には皇女たちも居並んでいる。
 大僧正の待つ壇上前にたどり着くアレックス。
 ファンファーレが鳴り響き、摂政エリザベスが宣言する。
「これより大元帥号親授式を執り行う」
 壇上の袖から、紫のビロードで覆われた飾り盆に乗せられて、黄金の錫杖が女官によって運び込まれる。錫杖は権威の象徴であり、軍の最高官位を表わしているものである。
「銀河帝国第一皇子アレクサンダーよ。このたび銀河帝国は、汝に大元帥号の称号を与え、宇宙艦隊司令長官に任命する。銀河帝国摂政エリザベス」
 別の女官が勲章を乗せた運び盆を持って出てくる。エリザベスは、たすき掛けの勲章を受け取ってアレックスの肩に掛け、胸にも一つ勲章を取り付けた。そして豪華な織物でできたマントを羽織らせて、黄金色に輝く錫杖を手渡した。
 アレックスが与えられた錫杖を高く掲げると、再びファンファーレが鳴り響き、
「アレクサンダー大元帥閣下万歳!」
「宇宙艦隊司令長官万歳!」
 というシュプレヒコールの大合唱が湧き上がった。
 この儀式の一部始終は国際放映され、連邦や共和国へも流されたのである。

第四章 了

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2021.06.25 09:21 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 Ⅵ
2021.06.24

第四章 皇位継承の証




 その夜のアレクサンダー皇子を迎えての晩餐会は盛大であった。
 アルビエール候国内の委任統治領の領主達が全員顔を揃えていた。
 彼らの子弟達は統制官大号令によって、将軍の給与をカットされて不満があるはずだろうが、今はその事よりも自分の顔を売って、委任統治領の領主たることを安寧にすることの方が大切だと考えていたのである。
 アレックスのもとには、領主達が入れ替わりで挨拶伺いにきていた。その順番は、爵位や格式によって決められているようである。
 共和国に生まれ育った者としては、実に面倒くさくて放り出したくなる風習だが、これが立憲君主国における貴族達との交流であり、国政をも左右する儀式でもある。これから彼らを傅かせて帝国を存続させてゆく上で大切なものであった。
「いかがですかな? 楽しんでいらっしゃいますか?」
「はい。堪能させてもらっています」
 貴族達の挨拶には辟易するが、目の前に並べられた料理には感嘆していた。選びに選び抜かれた極上の品々、舌もとろけそうなほどの美味な一品。どれも見張るばかりの豪勢なものばかりだ。
「それは良かった」

「そうそう、この星に来る時に海賊に襲われましてね」
「なんと! それはまことですか?」
「私が幼少の頃にも襲われたようですけどね」
「あの時は、皇后がこちらで出産、育児と静養をしておりましてね。そして帝国へお戻りになられる時でしたな。船ごと誘拐されまして、皇后はお亡くなりになり、皇子も行方不明となられました。その実は、共和国同盟でご存命であらせられ、軍人として立派な偉業を成し遂げていらっしゃった。さすがにソートガイヤー大公様の血を継がれたお方だと感心している次第であります」
 褒めちぎられて、こそばゆく感じるアレックスだった。
「ともかく、帝国領と自治領との境界や、国境中立地帯付近を通る時は注意した方がよろしいでしょう」
「そうですな。気をつけることに致しましょう」
 これらの会話において、ハロルド侯爵の表情の変化を読み取ろうとしていたアレックスだった。内通者としての疑惑的な態度が現れないかと探っていたのであるが、侯爵の表情は真剣に心配している様子だった。そもそも、侯爵が皇子を誘拐する理由はどこにもないし、皇帝と血縁関係にあるものを自ら断ち切るはずもなかった。叔父と甥という関係は、確実に存在しているようであった。
 一応は念のための確認であった。

 翌日。
 自治領艦隊の一部を護衛に付けると言う侯爵の申し出を丁重に断って、サラマンダー艦隊にて首都星に戻ったアレックス。
 統合軍作戦本部長を執務室に呼び寄せると、海賊に襲われた経緯を伝えて、国境警備を厳重にして、海賊が侵入できないようにするように命じた。海賊追撃のために自治領への越境の許可も与えた。
 次々と戦争に向けての準備を続けているアレックス。
 そんな中、トランターのレイチェルのもとから暗号文がもたらされた。
 総督軍が、二百万隻の艦隊を率いて、銀河帝国への進軍を開始したというものだ。タルシエン要塞からも、進軍する二百五十万隻の艦隊を確認したという報告が入った。後者の数字が多いのは、輸送艦隊を含んでのことであろう。
 ついに戦争がはじまる。
 アレックスは身震いした。


 ただちに御前会議が招集された。
 その席には、パトリシアもアレックスの参謀として参列していた。
 トランターを発して進軍する二百五十万隻の艦艇の模様が放映されている。
 その映像に説明を加えるパトリシア。
「この映像は、皇子すなわちランドール提督配下の特務哨戒艇が撮影した、今まさに進軍中の総督軍の様子です。十日もしないうちに中立地帯を越え、銀河帝国への侵略を開始するでしょう。一刻も早く迎撃体勢を整えるべきです」
「しかし、友好通商条約はどうなるのだ」
「それは前にも申しましたように、条約は破られるものです」
「まさか、神聖不可侵のこの帝国が……」
 うろたえる大臣達。
「しかし、我々の情報部には何も」
「それはそうでしょう。帝国内にいる我々と違って、ランドール提督の元には同盟内にあって活発な活動をしている解放軍情報部を持っているのですから」
 パトリシアが説明する。
「そうはいっても現実に侵略を受けていない以上、帝国艦隊を動かすことはできない。宇宙艦隊司令長官がいない現状では」
「しかし国境を越えられてから行動開始しては遅すぎます。総督軍が進軍を開始したのは明白な事実なのです」
「戦略上重要なことは、情報戦において敵の動静を素早くキャッチして行動に移せるかにかかっているのです」
「二個艦隊以上を同時に動かし、国境を越えるかもしれない作戦を発動できるのは、宇宙艦隊司令長官だけなのです」
「宇宙艦隊司令長官ですか」
「銀河帝国皇太子殿下の要職で、他の者が就くことはできません」
「つまりは皇太子殿下がいなければ、どうしようもないということですか」
「帝国建設以来、一度も侵略の危機を経験することのなかった治世下にできた法ですから、矛盾が多いとはいえ法は順守されねばなりません」
 数時間が浪費され、その日の御前会議はもの別れという結果で終わった。

 それから幾度となく御前会議が行われたが、議論を重ねるだけで何の進展もない日々が続いた。
 二百五十万隻の艦隊が押し寄せてきているというのに、一向にその対策を見い出せず狼狽するばかりである。
 一方の将軍達は、日頃からアレックスに尻を叩かれながらも大演習に参加したり、新造戦艦の造船の様子を見るにつけ、戦争が間近に迫っていることを、身に沁みて感じ取っていた。
 アレックスの先見性の妙、共和国同盟の英雄たる卓越した指導能力には絶大なる信頼となっていたのである。
「それでは、この災厄ともいうべき事態。皇子はどのように対処なさるおつもりですか」
 エリザベスが改めて質問した。
「もちろん迎撃に打って出ます。第二と第三艦隊に出動を要請し、私の配下の艦隊と合わせて連合軍を組織して、この私が指揮を執らせて頂きます」
「しかし、中立地帯を越えての出撃は問題ですぞ。たとえ第一皇子とてその権限はありませぬぞ」
 アレックスは呆れかえった。
 侵略の危機にあるというのに、相も変わらず法令を持ち出す大臣達の保守的な態度は救いようがない。
 どうにかしてくれという表情で、エリザベスを見つめるアレックス。
 もはや最期の手段を決断する時がやってきているのである。

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2021.06.24 12:37 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 V
2021.06.23

第四章 皇位継承の証




 宮殿謁見の間。
「アレックス、だいぶ活躍しているようですね」
 エリザベスは、統制官大号令によって貴族達の反感が高まってきているのを知っていた。貴族達からの陳情もあったが、あえて是正はしなかった。
 ひたひたと押し寄せてくる外敵からの脅威に備えなければならないのは、ジュリエッタが襲われたことからしても、身に沁みて感じていたからである。
「はい。総督軍なり連邦軍との戦争が間近に控えているというのに、平和的ムードに浸っている人々があまりにも多いので、致し方なくはっぱを掛けております」
 すると大臣の一人が意見を求めた。
「統制官殿は戦争が間近だとおっしゃられたが、連邦・共和国双方とは友好通商条約を締結しており、戦争の危惧はないはずですぞ」
 大臣達は、貴族達の代弁者でもある。何かにつけて統制官たるアレックスのやることに異論を訴えていた。
「条約はいずれ破られるものです。過去の歴史をみれば判るでしょう。ジュリエッタ皇女が襲われたことは知らぬとおっしゃられるか?」
「いや、あれは海賊の仕業だということだが……」
「連邦軍ですよ。連邦艦を偽装して海賊に見せかけてはいるが、内装やシステムは紛れもなく連邦のものです。搾取した艦艇を調べて判明しました。総督軍は着々と侵略に向けての準備を進めています」
 さらに大臣達に脅しをかけるように強い口調で言った。
「もし仮に帝国軍が敗れるようなことになれば、貴族達のすべてが爵位を剥奪され、領地や土地を没収されてしまいます。よろしいのですか?」
 さすがに反論はできないようであった。
「私は、共和国同盟において連邦軍と戦い、同盟が滅んだ今もなお解放戦線を組織して戦い続けています。解放戦線の情報部からは、リアルタイムで連邦軍や総督軍の動きが、逐一報告されてきているのです。総督軍の帝国侵略近しとね」
 実際に戦い続けてきた解放戦線最高司令官としての発言は、重厚な響きを持っていた。
 静まり返る謁見の間。

 統制官執務室に戻ったアレックス。
 窓辺に佇みながら、眼下の宮殿参りの貴族達の行列を眺めている。
「戦争が間近に迫っているというのに、呆れた連中だな。己の保身のことばかり考えている。貢物を献上するくらいなら、民衆にほどこしをするなり、税金を下げるなりしないのだ。賄賂が横行し腐敗政治となっている委任統治領も少なくないという。いっそのこと統治領を輪番制にして、三年なり四年の任期で、どんどん頭を挿げ替えればいいのかも知れないな」
「それは軍部統制官の職務からはずれます」
 そばに控えていた次官が忠告した。
「判っている。言ってみただけだ」
 軍部統制官の仕事だけで、問題が山積みとなっているのである。
「国政のことを考えている暇はありません」
 とでも言いたげな次官の表情である。
「国政に関しましては、皇太子におなりになられた時に、改めてお考えになってください」
「ああ、そうだな……」
 それがいつになるかは判らないが……。
「さてと……。明日、明後日は故郷へ里帰りだ。留守の間のことは、予定通りに進めておいてくれ」
「かしこまりました」
 故郷とは、アレックスが生まれ育った土地である。アルビエール候国ハロルド侯爵の領地、惑星ソレントである。
 アレックスがこの大切な時期に、ソレントへの渡郷を決断したのには理由がある。
 あることを確認しようと考えたからである。


 首都星アルデランを出立する二百隻ほどの艦隊。
 アレックスを乗せたソレント行の一団である。
 アルデランを出立して六時間が経過した頃、艦のレーダーにほぼ同数の艦隊が映し出された。
「お迎えがきたようだ」
 それはサラマンダー艦隊であった。
 旗艦ヘルハウンドに乗り移り、ここまで送ってきた帝国艦隊に帰還を命じた。
 それは当初の予定にない行動であった。
「さてと……。奴らが乗ってくるかだな……」
 一言呟いて、サラマンダー艦隊に、予定していたコースを進軍させた。
 アルビエール候国との領界に差し掛かった時だった。
「右舷三十度前方に、国籍不明の戦艦多数! その数およそ三百隻」
 警報が鳴り響き、正面スクリーンには迫り来る敵艦隊が映し出された。
「やはりおいでなすったな。これで帝国内に内通者がいることがはっきりした」
 帝国内には、【皇位継承の証】を持つ皇太子に生きていられては困ると考えている連中がいるということである。彼らはどうやってかは知らぬが、海賊達と連絡を取り合って、今回と幼少の頃のアレックスを襲って、将来邪魔となる人物であるアレックスを消しに掛かっているのである。あるいは莫大なる身代金目的の場合もあるだろう。
「戦闘配備! 相手は国籍を隠蔽している海賊だ。徹底的にやっても構わん。しかしリーダーと思しき艦は足止めするだけにしておけ。捕らえて首謀者を吐かせてやる」
 いかに戦闘能力の高い海賊艦とて、サラマンダー艦隊とは比較にもならなかった。瞬く間に全滅させられ、リーダーらしき数隻がエンジン部を打ち抜かれて漂流していた。
 投降を呼びかけるアレックスだったが、リーダー達は無言で自爆の道を選んだ。
「こうなるとは思っていたが……。ま、確認が取れただけでよしとしよう」
 海賊艦隊を全滅させて、アルビエール候国へと向かうアレックスだった。

 アルビエール候国は、先代皇后の故郷であり、アレックスの故郷でもある。
 領主のハロルド侯爵は、自分の甥の来訪を大歓迎した。
「これはこれは、アレクサンダー皇子。よくぞ参られた」
「今日、明日とおせわになります」
「いやいや、二日間だけと言わずに、お好きなだけご滞在なされても結構ですぞ」
 血の繋がった叔父と甥という関係なのだから、もっと親しく会話してもよさそうなのであるが、幼少の頃より二十余年もの間音信不通で、形式ばった会話になるのは仕方のないことだった。
「メグも一緒だと思っていたのですが」
 もちろんメグとはマーガレット皇女のことである。
「いや、皇女は謹慎処分が完全に解けていないのです」
「それは残念です。次の機会には兄妹ご一緒にどうぞお越しください」
「ぜひ、そうさせて頂きます」

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2021.06.23 09:18 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 Ⅳ
2021.06.22

第四章 皇位継承の証




 アレックスが第一皇子として叙されて以来、宮殿にて謁見を申し出る貴族達が後を立たなかった。委任統治領を任せられた貴族達の統治領の安寧を諮ってのご機嫌伺いである。金銀財宝の貢物を持参しての来訪も少なくなかった。
 謁見が増えることによって、政治を司る御前会議の時間が割愛されるので、時として国政に支障が出ることもあるのだが、持参する貢物が皇家の財産として扱われるので、無碍にも断るわけにいかなかったのである。
 アレックスは、賄賂ともいうべき貢物が、当然のごとく行われていることに、疑問を抱いていた。
 しかし、宮廷における新参者であるアレックスには、口を挟むべきものではないと判断した。すでに既得権となっているものを覆すことは、皇族・貴族達の多大なる反感を抱かせることになる。
 郷に入れば郷に従えである。
 銀河帝国における確固たる基盤を築き上げるまでは、当面の間は目を瞑っているよりないだろう。

「ところで、皇子よ」
 謁見の間において、エリザベスが話題を振ってきた。
「はい」
「私は、皇帝の執務代行として摂政を務めているのですが、今後は皇子にもその執務の一部を任せようと思っています。取りあえずは軍部の統制官としての執務を担って貰いたいのですが、いかがなものでしょうか」
「軍部統制官ですか?」
 宇宙艦隊司令長官(内閣)、統合作戦参謀本部長(行政)、軍令部評議会議長
(司法)。
 以上が、軍部における三官職と呼ばれる役職である。実働部隊を指揮・運用したり、各艦隊の運行状態を把握し作戦を協議したり、人事を発動し功績を評価して昇進させ軍法会議にも諮ったりする。それぞれ重要な役職であるが、横の連絡を取り全体のバランスを調整するのが、軍部統制官という役回りで、軍部予算の配分を決
定する権限も有していた。現在そのポストは空席となっている。
 なお、司令長官は現在空位のままで、次官が代行して執務を行っている。
 アレックスを重要な官職につけようとするのには、後々の宇宙艦隊司令長官に就任させるための、軍部への足固めを図るというエリザベスの思惑があるようである。
「大臣達よ、依存はありませんか?」
 エリザベスが、大臣達に確認を求めた。
 保守的に凝り固まった大臣達である。
 即答は返ってこなかった。
 互いに小声で相談し合いはじめた。
 その相談の内容としては、第一皇子という地位や共和国同盟の英雄と讃えられるアレックスの将来性などに言及しているようであった。
 しばらく、そのやり取りに聞き耳をたてていたエリザベスだが、
「依存はありませんか?」
 再確認を求めることによって、やっとその重い口を開いた。
「依存はありません」
「将軍達はどうですか?」
 今度は将軍達に確認を求めるエリザベス。
「依存はありません」
 元々アレックスに対して好意的だった将軍達が反対することはなかった。
 これによって、アレックスは軍部統制官として、軍部の中に確固たる地位を与えられたのである。


 軍部統制官という官職に就いたことで、宮廷の一角に執務室を与えられたアレックス。
 まず最初に行ったことは、艦隊の予算配分状況を調べさせたことである。今は、想定される総督軍・連邦軍との戦闘が避けられない中で、現在予算をどれだけ消費しどれだけ残っているかを把握しておかなければ、いざ戦争という時に予算不足で艦隊を動かすこともできないという事態にもなりかねない。
 その作業は、次官として配属された新任の武官に当たらせた。
 やがて報告書を見たアレックスは驚きのあまり言葉を失ったくらいである。
 一艦隊あたりの予算がべらぼうな額だったのである。
 アレックスも共和国同盟軍や解放軍を統率しているから、軍政部長のルーミス・コール大佐の報告を受けて、どれくらいの予算が掛かっているかを知っている。
 ところが銀河帝国軍のそれは、共和国の三倍から四倍もあったのである。
 これはどういうことかと次官に尋ねるアレックス。
 委任統治領や荘園領以下城主に至るまでの何がしかの土地を与えられている高級貴族の子弟や、土地を持たない下級貴族まで、爵位を持つ者のほとんどが、将軍として任官されているという。しかも同じ階級ながら貴族というだけで、破格の給与が支払われているとも。
「貴族による、軍部予算の食い潰しじゃないか」
 階級に見合った仕事をしてくれるならまだ許せる。しかし戦闘訓練も行ったことすらない将軍が、艦隊を統率などできるはずがない。いざ戦争となれば、艦隊を放り出して一番に逃げ出すだろう。
 役に立たない金食い虫となっている貴族を軍部から放逐する事が、アレックスの最初の大仕事となった。
 人事を握っている軍令部評議会に対し、来年度から貴族を徴用することを禁じ、現在任官している貴族将軍の給与も段階的に引き下げるように勧告した。軍部統制官の権限である予算配分をカットすればそうせざるを得ないであろう。
 当然として貴族達の反感を買うことは目に見えているが、誰かが決断して戦争のための予算を作り出し確保しなければ、銀河帝国は滅んでしまうことになる。
 まさか帝国は戦争が起これば、戦時特別徴収令などを発して、国民から税金を徴収するつもりだったのか? それでは民衆の反感を買い、やがては暴動となってしまうじゃないか。
 アレックスは、あえて憎まれ役を買って出ることにしたのである。
 続いて、統合軍作戦参謀本部に対して、大規模な軍事演習を継続して行うように勧告して、演習のための予算を新たに与えた。予算の無駄使いのないように監察官も派遣した。
 そして、統合軍宇宙艦隊司令部に対しては、新造戦艦の建造を奨励して、老朽艦の廃棄を促進させた。工廟省には武器・弾薬の大増産を命じた。
 軍人なら艦を動かし、大砲をぶっ放したいと思うはずである。しかし、これまでは貴族達の予算食い潰しによって演習もままならず、大砲を撃ちたくても肝心の弾薬がないという悲惨な状態だったのである。まともに動けるのは、辺境警備の任にあって優先的に予算を回されていたマーガレットとジュリエッタの艦隊だけであった。
 すべては起こりうる戦争に向けての大改革である。
 後に【統制管大号令】と呼ばれることになる一連の行動は、貴族達の大反感を買うことになったが、一般の将兵達からは概ね良好にとらえられた。

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2021.06.22 07:57 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章・皇位継承の証 Ⅲ
2021.06.21

第四章 皇位継承の証




 アレックス・ランドール提督は、第一皇子として最上位にあるものとして、謁見の間の壇上の玉座のそばの位置を与えられた。大臣や将軍達を上から見下ろす格好となったわけである。
 何かと反問していた大臣達の、ばつの悪そうな表情が印象的であった。
 そして、マーガレット皇女が、眼下にかしずいて、アレックスの言葉を待っていた。
 アレックスは、マーガレット皇女、すなわち自分の双子の妹の助命嘆願を、摂政であるエリザベス皇女に申し出た。
「そもそもマーガレット皇女は、私の身分を保全・確保しようとしたことが、反乱の要因となったわけで、今こうして私がここにいることが、皇女の正当性を証明するものです。情状酌量をもって対処していただければ幸いです」
「と、第一皇子が申しておる。大臣達はどう思うか?」
 何せ第一皇子は、皇帝に次ぐ地位であるから、その嘆願となれば絶対的とならざるを得ない。
「いえ……。第一皇子のご意見となれば、我々一同に反対する者はおりません」
「そうか……」
 と頷いたエリザベス皇女は、マーガレット皇女に向き直って発言した。
「マーガレットよ。そなたの起こした罪は重大ではあるが、皇子の温情をもってこれを許すことにする。今後とも第一皇子、並びに帝国に対して忠誠を誓うこと。よいな」
「はい。誓って忠誠を守ります」
「よろしい。では、列に戻りなさい」
 マーガレット皇女は深々とお辞儀をすると、ジュリエッタ皇女と対面する位置に並び立った。
 ほうっ。
 というため息が誰ともなく沸き起こる。

 その夜の宮殿での皇家の夕食の席。
 アレックスとマーガレットと家族が全員揃ったはじめての食事となった。
 政治においては摂政であるエリザベスが統制権を有しているが、身内だけの席ではアレックスが主人として最上の席を与えられた。それまではエリザベスが座っていた席である。
「ところで、アレックスが願い出ていた協定のことだけど……。まだまだ難解でさらに時間が掛かりそうです」
 エリザベスが申し訳なさそうに答える。ここは身内の席なので、皇子や皇女と言う公称は使わない。
「ベス、どういうことなの?」
 ジュリエッタが質問する。アレックスの第一皇子という地位をもってすれば、できないことなどないと思っていたからである。
「解放戦線との協定ともなれば、援軍を送るとしても一個艦隊やそこらで済むはずがないでしょう。それに援助物資の運搬にしても多くの輸送船を割譲しなければならないわ。しかも中立地帯を越えて共和国同盟に進駐することになる。総督軍や連邦軍が黙っているはずがないじゃない。これは国家間の紛争となるに十分な意味合いを持っている。つまり結局として全面戦争に向けて、銀河帝国艦隊全軍を動かすだけの権力が必要なの。それができるのは皇帝か、皇太子だけに許されていることなのよ」
「つまり、第一皇子の権限を越えているというわけね」
 マーガレットがエリザベスの後を受けるようにして答えた。
「でも、メグ。あのロベール王子にしたって、正式に皇太子になるのはまだ先のこと。悠長なこと言っていると、総督軍なり連邦軍が押し寄せてくるわよ」
 姉妹が議論している中、帝国の法律や儀式のことを全く知らないアレックスは、ただ聞き役に回るしかなかった。また末娘のマリアンヌも黙々と食べているだけだった。
「援助物資を供給するだけなら何とかなるけど……。ただし、解放軍が自ら引き取りに来るという条件付だけどね」
「無理よ。解放軍は帝国から共和国の向こう側にあるのよ。輸送艦隊を襲われたら元も子もないじゃない」
「唯一つ、裏道があるのよ」
 エリザベスが告白した。
 それは、アレックスを銀河帝国統合軍宇宙艦隊司令長官に任命するというものだった。
 銀河帝国宇宙艦隊全軍を指揮統制できるのは、事実上として司令長官ということになっており、歴代の皇太子が務めることが慣例として行われていた。
 皇太子イコール宇宙艦隊司令長官という図式が成立していたのである。
 あくまで慣例であって、憲法や法律には明確な規定は設けられていなかった。ここに、裏道が存在するのである。法令に定められていなければ、摂政権限で特別条令を発動して、アレックスを宇宙艦隊司令長官に任命することが可能だというのである。
 だからと言って、無制限に特別条令を発動できるわけではない。他国が侵略してきたなどの非常事態となり、帝国艦隊全軍で迎撃しなければならなくなった時などに限られる。
 そもそも帝国辺境には、御三家が自治領宇宙艦隊の保有を認められて防衛陣を敷いているわけだから、初動防衛に統合軍が動くことはなかった。
「でもこれからは、、以前にも比して総督軍や連邦軍の干渉が増えると思うわ。なぜって帝国軍に新たなる名将が加わったのだから。共和国同盟の英雄と讃えられたアレックス・ランドール提督が帝国軍の全権を掌握したら、もはや侵略の機会は失われる。だからこそそうなる前に、何とかしようと考えるはずよ」
 そう発言するジュリエッタの考えは正しい。
 総督軍や連邦軍と互角に戦うには、平和にどっぷりと浸かって退廃ムードにある帝国軍を、一から鍛えなおす必要もあった。帝国艦隊全軍を掌握したとしても、いざ戦いとなって将兵達が逃げ腰では意味をなさない。
 速やかに宇宙艦隊司令長官を任命し、迫り来る敵艦隊との総力戦に備えておくべきだ。
 ジュリエッタは、一刻も早くの司令長官任命を力説した。
 それに対して摂政という立場からエリザベスが説明する。
 宇宙艦隊を動かすには、すべからく軍資金が必要となってくる。燃料・弾薬はもちろんのこと、食料や兵士達の給料・恩給の積み立て、港湾施設での整備費用に至るまで、その資金を動かす権限を持っているのは、大臣達だからである。
 その大臣達の意向を無視するわけにはいかないし、だいたいからして保守的で頭の固い彼らの賛同を得るには、並大抵ではないということである。
 やはり絶対的権限を有する皇太子とならない限りは、本当に自由に艦隊を動かせないということである。
「摂政とて、そう簡単には決断を下せない難しい問題なのよ」
 エリザベスが深いため息をついた。

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2021.06.21 07:26 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

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