銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章・皇位継承の証 Ⅲ
2021.06.21

第四章 皇位継承の証




 アレックス・ランドール提督は、第一皇子として最上位にあるものとして、謁見の間の壇上の玉座のそばの位置を与えられた。大臣や将軍達を上から見下ろす格好となったわけである。
 何かと反問していた大臣達の、ばつの悪そうな表情が印象的であった。
 そして、マーガレット皇女が、眼下にかしずいて、アレックスの言葉を待っていた。
 アレックスは、マーガレット皇女、すなわち自分の双子の妹の助命嘆願を、摂政であるエリザベス皇女に申し出た。
「そもそもマーガレット皇女は、私の身分を保全・確保しようとしたことが、反乱の要因となったわけで、今こうして私がここにいることが、皇女の正当性を証明するものです。情状酌量をもって対処していただければ幸いです」
「と、第一皇子が申しておる。大臣達はどう思うか?」
 何せ第一皇子は、皇帝に次ぐ地位であるから、その嘆願となれば絶対的とならざるを得ない。
「いえ……。第一皇子のご意見となれば、我々一同に反対する者はおりません」
「そうか……」
 と頷いたエリザベス皇女は、マーガレット皇女に向き直って発言した。
「マーガレットよ。そなたの起こした罪は重大ではあるが、皇子の温情をもってこれを許すことにする。今後とも第一皇子、並びに帝国に対して忠誠を誓うこと。よいな」
「はい。誓って忠誠を守ります」
「よろしい。では、列に戻りなさい」
 マーガレット皇女は深々とお辞儀をすると、ジュリエッタ皇女と対面する位置に並び立った。
 ほうっ。
 というため息が誰ともなく沸き起こる。

 その夜の宮殿での皇家の夕食の席。
 アレックスとマーガレットと家族が全員揃ったはじめての食事となった。
 政治においては摂政であるエリザベスが統制権を有しているが、身内だけの席ではアレックスが主人として最上の席を与えられた。それまではエリザベスが座っていた席である。
「ところで、アレックスが願い出ていた協定のことだけど……。まだまだ難解でさらに時間が掛かりそうです」
 エリザベスが申し訳なさそうに答える。ここは身内の席なので、皇子や皇女と言う公称は使わない。
「ベス、どういうことなの?」
 ジュリエッタが質問する。アレックスの第一皇子という地位をもってすれば、できないことなどないと思っていたからである。
「解放戦線との協定ともなれば、援軍を送るとしても一個艦隊やそこらで済むはずがないでしょう。それに援助物資の運搬にしても多くの輸送船を割譲しなければならないわ。しかも中立地帯を越えて共和国同盟に進駐することになる。総督軍や連邦軍が黙っているはずがないじゃない。これは国家間の紛争となるに十分な意味合いを持っている。つまり結局として全面戦争に向けて、銀河帝国艦隊全軍を動かすだけの権力が必要なの。それができるのは皇帝か、皇太子だけに許されていることなのよ」
「つまり、第一皇子の権限を越えているというわけね」
 マーガレットがエリザベスの後を受けるようにして答えた。
「でも、メグ。あのロベール王子にしたって、正式に皇太子になるのはまだ先のこと。悠長なこと言っていると、総督軍なり連邦軍が押し寄せてくるわよ」
 姉妹が議論している中、帝国の法律や儀式のことを全く知らないアレックスは、ただ聞き役に回るしかなかった。また末娘のマリアンヌも黙々と食べているだけだった。
「援助物資を供給するだけなら何とかなるけど……。ただし、解放軍が自ら引き取りに来るという条件付だけどね」
「無理よ。解放軍は帝国から共和国の向こう側にあるのよ。輸送艦隊を襲われたら元も子もないじゃない」
「唯一つ、裏道があるのよ」
 エリザベスが告白した。
 それは、アレックスを銀河帝国統合軍宇宙艦隊司令長官に任命するというものだった。
 銀河帝国宇宙艦隊全軍を指揮統制できるのは、事実上として司令長官ということになっており、歴代の皇太子が務めることが慣例として行われていた。
 皇太子イコール宇宙艦隊司令長官という図式が成立していたのである。
 あくまで慣例であって、憲法や法律には明確な規定は設けられていなかった。ここに、裏道が存在するのである。法令に定められていなければ、摂政権限で特別条令を発動して、アレックスを宇宙艦隊司令長官に任命することが可能だというのである。
 だからと言って、無制限に特別条令を発動できるわけではない。他国が侵略してきたなどの非常事態となり、帝国艦隊全軍で迎撃しなければならなくなった時などに限られる。
 そもそも帝国辺境には、御三家が自治領宇宙艦隊の保有を認められて防衛陣を敷いているわけだから、初動防衛に統合軍が動くことはなかった。
「でもこれからは、、以前にも比して総督軍や連邦軍の干渉が増えると思うわ。なぜって帝国軍に新たなる名将が加わったのだから。共和国同盟の英雄と讃えられたアレックス・ランドール提督が帝国軍の全権を掌握したら、もはや侵略の機会は失われる。だからこそそうなる前に、何とかしようと考えるはずよ」
 そう発言するジュリエッタの考えは正しい。
 総督軍や連邦軍と互角に戦うには、平和にどっぷりと浸かって退廃ムードにある帝国軍を、一から鍛えなおす必要もあった。帝国艦隊全軍を掌握したとしても、いざ戦いとなって将兵達が逃げ腰では意味をなさない。
 速やかに宇宙艦隊司令長官を任命し、迫り来る敵艦隊との総力戦に備えておくべきだ。
 ジュリエッタは、一刻も早くの司令長官任命を力説した。
 それに対して摂政という立場からエリザベスが説明する。
 宇宙艦隊を動かすには、すべからく軍資金が必要となってくる。燃料・弾薬はもちろんのこと、食料や兵士達の給料・恩給の積み立て、港湾施設での整備費用に至るまで、その資金を動かす権限を持っているのは、大臣達だからである。
 その大臣達の意向を無視するわけにはいかないし、だいたいからして保守的で頭の固い彼らの賛同を得るには、並大抵ではないということである。
 やはり絶対的権限を有する皇太子とならない限りは、本当に自由に艦隊を動かせないということである。
「摂政とて、そう簡単には決断を下せない難しい問題なのよ」
 エリザベスが深いため息をついた。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.06.21 07:26 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

- CafeLog -