銀河戦記/鳴動編 第二部 第五章 アル・サフリエニ Ⅲ
2021.06.29

第五章 アル・サフリエニ




 妹の自殺の知らせを、レイチェルから聞かされた時、ゴードンは号泣したという。
 唯一無二の肉親であり、幼少から自分が育ててきた可愛い妹の死は、連邦に対する激しい憎悪となって燃え上がり、彼を復讐鬼へと変貌させてしまったのである。
 妹の無残死のことを知っている参謀達は同情し、彼の狂気を止めることはできなかった。
「敵艦隊全滅しました」
「よし。惑星に降下して、地上に残る連邦兵士も一人残らず一掃しろ」
 降下作戦が実行され、連邦兵士は掃討されていった。
 カルバキア共和国首都星ニーチェのハーマン・ノルディック大統領と会見するゴードン。
「いやあ、あなた方が救援に来てくださって、助かりました。感謝いたします」
「当然のことをしたまでです。連邦軍は徹底的に排除すべきです」
「しかし投降した艦まで攻撃を続けて撃沈したのは感心しませんね」
「我々には捕虜を収容するだけの余裕はありませんし、逃がしてやれば、態勢を整えてまた舞い戻ってきます」
「国際条約に違反するのでは?」
「条約違反? 違反しているのは奴らの方じゃないですか。占領政策として連邦憲章にもとずく新政策を実施しました。個人の自由を完全に無視している。連邦では当然のことでしょうが、共和国においては何者にも束縛されない自由があったはず。それを連邦は……。占領下にある女性達は、連邦の兵士相手に妊娠を強制されるという極悪非道の扱いを受けています。それを知らないと言うのですか?」
「いや、それは良く存じております。我が国の女性達もその制度を強要されるところでした。それがために救援要請を行ったのですから」
「奴らは自分達の国の制度が一番と信じて疑わず、占領した国家の制度をことごとく改変しています」
「信じて疑わないから太刀が悪いですね」
「連邦の人間など抹殺されて当然です」
 それから二人は実務会議へと入った。
 カルバキア共和国の自治を将来に渡って維持するために、ウィンディーネ艦隊の一部を駐留させる事。カルバキアは、ウィンディーネ艦隊への燃料・弾薬・食料の補給の義務を負うこと。カルバキアの鉱物資源の採掘権の一部割譲などが取り交わされた。
 カルバキアにとっては不利な条件ではあるが、連邦の脅威が続いている以上、承諾するよりなかったのである。
 鉱物資源大国カルバキア共和国を友好国とし、鉱物採掘権を得た。鉱物は精錬して含有金属を取り出さなければならない。さらに造船所を確保して新造戦艦を建造して艦隊の増強も図りたい。
 こうしてゴードンが次なる友好国とする候補が上がった。
「カレウス星系惑星トバへ行くぞ」
 惑星トバは、一惑星一国家という小さな国家ではあるが、鉱物資源を輸入して精錬加工して輸出するという重金属工業都市であった。精錬した金属から戦艦を建造することのできる造船王国でもあった。
 技術立国にとって、技術者がどれだけ大事だかは、フリード・ケースンのことを考えれば一目瞭然のことであろう。たった一人で戦艦を開発設計できる能力者を失えば大きな痛手となる。そして幸いにもそのフリードはタルシエン要塞に在中であるから、戦艦の開発設計をやってもらい、惑星トバにて建造する。ゴードンの脳裏にはそういったプランが出来上がっていたようである。
 しかしながら惑星トバは、共和国が滅んだ時逸早く連邦に組みして、自治権を確保している。連邦としては無理に占領して、有能な技術者が逃亡するのを恐れて、自治権を認めてその工業力を掌握することにしたのである。
 当然ながら、連邦はそれ相応の駐留艦隊を配備していた。


「駐留艦隊の総数は、およそ一万八千隻です」
「工業大国を防衛するには、少な過ぎやしないか……?」
「補給の問題でしょう。工業国とはいえ、資源を輸入して加工品を輸出するという国政ですから、補給までは手が回らないでしょう。何よりも最大の問題が食料補給でしょう」
「自分達の国民でさえ食糧不足で困っているのにか?」
「その通りです。連邦軍は食料を自前で確保しなければなりませんから、大艦隊を派遣することはできないでしょう」
「だろうな」
「とにかく、数で圧倒して勝利は確実ですが、やりますか?」
「当然! 戦闘配備だ」
「了解。戦闘配備」
 戦闘が開始された。
 一万八千隻対十万隻という戦力差。数の上ではウィンディーネ艦隊の圧勝というところだが、技術大国を防衛する責務に燃える駐留艦隊の激しい抵抗にあって、一進一退が続いていた。というよりも、投降を一切認めない『皆殺しのウィンディーネ』と悟って、死にもの狂いで反撃していたのである。
「なかなかやるなあ……。エールを送りたくなるよ。しかしこれでどうだ」
 ゴードンは両翼を伸ばして完全包囲の態勢を取ると、オドリー少佐の部隊に突撃を命じた。
 ランドール戦法の攻撃力が加わると、さしもの駐留艦隊も態勢を乱して総崩れとなり、降伏を認めないゴードンによって全滅に至った。
 すぐさま惑星トバの首長と面会を求めたが拒絶された。
「我々はバーナード星系連邦と協定を結んだ。たとえ今ここで解放戦線と協定を結び直したとしても、連邦は再び艦隊を次々と派遣してくるだろう。たかが三十万隻そこそこの解放戦線に何ができる。最後に勝つのは連邦に決まっている。よって我々は解放戦線とは組みしない。判ったらさっさと立ち去るが良い」
 そういわれて、
「はい、そうですか」
 と引き下がるようなゴードンではなかった。
「言ってくれるねえ……感心するよ」
 相手が言うことを聞かなければ実力行使しかない。
 ただちに降下作戦に入り、瞬く間に惑星トバを占拠してしまったのである。
 首長ら高級官僚を拘束し、連邦軍排除派の民衆運動家のリーダーを首長に据えて、解放戦線との協定を結んでしまったのである。
 旧首脳陣は、ゴードンが実力行使という強行手段に出るとは思いもしなかったようである。アレックス率いるランドール艦隊が、民衆を大切にし解放のために戦っていることは知っている。
 おだやかなるアレックスの性格から民衆をないがしろにする行為には出ないだろう。
 そんな甘い考えがあったに違いない。
 しかし、連邦への復讐に燃えるゴードンには通じなかった。
 連邦の味方をすると公言したトバの首長を許すわけにはいかなかったのである。
 こうしてゴードンは、鉱物資源・精錬所・造船所と、戦艦を増強する手段を確保したが、肝心の資金がなかった。民衆から税金を徴収して運用資金を得られる政府軍と違って、解放戦線には海賊行為でもやらない限り資金集めは非常に困難であった。そもそもアレックスが銀河帝国へ向かったのも活動資金を援助してもらうためである。
 幸いにもカルバキア共和国から鉱物資源の採掘権が認められている。そこで資源を開発して希少金属を採掘して、それを売却して資金源とすることを決定した。そのために鉱脈探査の専門家を呼び寄せて調査に当たらせた。まるで山師のようで、どうなるものか判らないが、手をこまねいていては解決しない。
 その間にも、資金を提供してくれる友好国を求めて奔走するゴードンであった。

 第五章 了

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2021.06.29 15:23 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

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