銀河戦記/鳴動編 第二部 第十三章 カーター男爵 Ⅰ
2021.06.05

第十三章 カーター男爵




 エセックス侯国より帝国へと帰還の途についたマンソン・カーター男爵。
「まったく、どうなってるのだ? 候女の誘拐に成功したんじゃないのか?」
 憤懣やるかたなしという表情。
 王太子誘拐事件の時も、ぬか喜びした挙句が未遂だったという落ち。

「前方に艦影多数!」
 進路を塞ぐようにして多数の艦艇が出現した。
「相手より入電。停戦せよ!」
 停船命令に怒りを露にする男爵。
「どこのどいつだ! 私を誰だと思っているか! 映像に出せ!」
「映像に出ます」
 通信スクリーンに姿を現したのは、ジュリエッタ第三皇女だった。
「じゅ、ジュリエッタ皇女さま!」
 まさかの人物の登場に驚愕する男爵。
「ジュリエッタ皇女さまの旗艦、巡洋戦艦インヴィンシブルを確認しました」
 映像の皇女が告げる。
「停止して下さい。さもなくば撃沈もやむなしです」
 冷たく言葉を発するジュリエッタ皇女の姿に反発する男爵。
「理由を聞かぬ内は、同意できませぬ。いかに皇女だとしても、我々の行動の自由を妨げる権利はありますまい」

「あなたが海賊を使役して、セシル候女を誘拐したことは分かっております」
「証拠はあるのか?」
 図星を指されて、言葉使いが荒くなっていた。
「証拠ですか……。これなどはいかがでしょうか?」
 映像がどこかの部屋の中に切り替わった。机に対面する二人の表情は、一方は項垂れており、一方は胸を張って睨めつけるようにしていた。どうやら尋問部屋のようであった。
「これがどうしたというのだ?」
「尋問を受けているのは、帝国第一艦隊司令フランシス・ドレイク提督の副官です」
「そ、それがどうした? 私と何の関係がある?」
「そうですね。これだけでは、因果関係は分かりませんよね。では、これではどうでしょうか?」
 音声通信の声が再生されている。
「こ、この声は!?」
 聞こえてきた音声は、紛れもなく自分自身の生声だった。
「この音声は、海賊基地の通信記録です。海賊ですよ。なぜ海賊との通信記録にあなたの声が入っているのでしょうか?」
 証拠を突き付けられて、極まった男爵。
 意味深な合図を砲撃手に目配せで送る。
 それに気づいた砲撃手は、黙って指示に従って主砲の安全装置を外し、準備OKのサインを返す。
「答えはこれだ!」
 指をパチンと鳴らすと、砲撃手が発射スイッチを押す。
「発射!」
 艦首から一条のエネルギーが、インヴィンシブルへと一直線に走る。
 スクリーンを凝視する男爵。
「くたばりやがれ!」
 しかし、エネルギーは軌道を逸れた。
 逸れた一瞬だが、一隻の船が浮かび上がってすぐに消えた。
 その艦影は、紛れもなくPー300VXだった。
 特殊索敵機に搭載された、歪曲場透過シールドの威力だった。

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2021.06.05 15:34 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 デュプロス星系会戦 V
2021.06.04

第二章 デュプロス星系会戦




 別働隊指揮艦の艦橋。
 迫り来る敵艦隊との会戦の時が迫り、オペレーター達の緊張が最高潮を迎えようとしていた。
 正面スクリーンが明滅して、敵艦隊の来襲を知らせる映像が投影された。
「敵艦隊捕捉! 右舷三十度、距離三十二光秒!」
 目の前を敵艦隊が悠然と進撃している。
 ミスト艦隊が取るに足りない弱小艦隊とみて、索敵もそこそこにしてミスト本星へ急行しているというところだ。
 手っ取り早くミストを攻略し、先遣隊が帝国皇女の拉致に成功した後に、この星に連行してくるつもりなのかも知れない。
「時間通りです」
「ようし! 全艦攻撃開始だ」
 アレックスの作戦プランに従い、別働隊の敵艦隊に対する側面攻撃が開始された。

 敵艦隊の旗艦艦橋。
「攻撃です! 側面から」
 不意の奇襲に、声を上ずらせてオペレーターが叫ぶ。
「側面だと? こざかしい!」
「艦数およそ二百隻です」
「所詮は陽動に過ぎん。放っておけ。加速して振り切ってしまえ!」
「こちらは外洋宇宙航行艦、向こうは惑星間航行艦。速力がまるで違いますからね」
「競走馬と荷役馬の違いを見せてやるさ」
 別働隊の攻撃を無視して、速度を上げて差を広げていく連邦艦隊。

 別働隊指揮艦。
 正面スクリーンに投影された敵艦隊の艦影が遠ざかっているのが判る。
「距離が離れていきます。追いつけません」
「それでいい。作戦通りだ」
 落ち着いた口調で答える司令官。
 敵艦隊が別働隊の奇襲を無視して加速して引き離すことは予測していたことであった。
 アレックスの思惑通りに、事は運んでいた。
「さて、後方からゆっくりと追いかけるとするか……」
 艦橋にいる人々に聞こえるように呟く司令。
 頷くオペレーター達。
「よし、全艦全速前進!」
 ゆっくりと追いかけると言ったのは、敵艦隊のスピードに対しての皮肉であった。
 追いつけないまでも、敵艦隊に減速の機会を与えないように、後方から睨みを利かせるためである。

 その頃、連邦軍の艦影を捉えたミスト旗艦のアレックスは全艦放送を行っていた。
「……いかに敵艦が数に勝るとも、無用に恐れおののくことはない。わたしの指示通りに動き、持てる力を十二分に引き出してくれれば、勝機は必ずおとずれる。どんなに強力な艦隊でも所詮は人が動かすもの、相手を見くびったり、奢り高ぶれば油断が生じるものだ。その油断に乗じて的確な攻撃を敢行すれば、例え少数の艦隊でもこれを打ち砕くことができるだろう……」
 感動したオペレーターが、思わず拍手をすると、その波はウェーブとなった。
 放送を終えて照れてしまうアレックスであった。
 しかし、アレックスにはもう一つの放送をしなければならなかった。

 敵艦隊の指揮艦。
 機器を操作していた通信士が報告する。
「敵の旗艦から国際通信で入電しています」
 戦闘に際しては、通信士の任務は重大である。
 味方同士の指令伝達は無論のこと、敵艦同士の通信を傍受して作戦を図り知ることも大切な任務である。
「正面スクリーンに映せ」
「映します」
 オペレーターが機器を操作し、正面スクリーンにアレックスの姿が映し出された。
 スクリーンのアレックスが語りかける。
「わたしはアル・サフリエニ方面軍最高司令官、アレックス・ランドールである」
 途端に艦橋内にざわめきが湧き上がった。
 ランドールと聞けば知らぬ者はいない。
 そのランドールが、なぜミスト艦隊に?
 オペレーター達が驚き、隣の者達と囁きあっているのだ。
 スクリーンのアレックスは言葉を続ける。
「わけあって、このミスト艦隊の指揮を委ねられた……」
 疑心暗鬼の表情になっている司令官であった。
 ランドールと名乗られても、『はいそうですか』と即時に信じられるものではない。
 副官は機器を操作して、スクリーンに映る人物の確認を取っていたが、
「間違いありません。正真正銘のランドール提督です。それに、ミストから離れつつある艦隊を捕らえました。サラマンダー艦隊です」
「どういうことだ。タルシエン要塞にいるはずのやつらが、なぜここにいる?」
 何も知らないのは道理といえた。
 ランドール率いる反乱軍は、堅牢なるタルシエン要塞を頼りにして、篭城戦に出ているのではなかったのか……。
「おそらくランドールの目的は銀河帝国との交渉に赴いたのではないでしょうか?」
「交渉だと?」
「はい。反政府軍が長期戦を戦い抜くには強力な援護者が必要です。帝国との交渉に自らやってきて、補給に立ち寄ったこのミストにおいて、我々との戦いを避けられないミスト艦隊が、提督に指揮を依頼した。そんなところではないでしょうか」
「なるほどな……。とにかく大きな獲物が舞い込んできたというわけだ」
 すでにアレックスの挨拶が終わっていて、スクリーンはミスト艦隊の映像に切り替わっていた。
「敵艦隊、速度を上げて近づいてきます」
「全艦に放送を」
 通信士が全艦放送の手配を済ませて、マイクを司令に向けた。
「敵艦隊の旗艦には、宿敵とも言うべき反乱軍の総大将のランドール提督が乗艦しているのが判明した。その旗艦を拿捕してランドールを捕虜にするのだ。それを成したものは、聖十字栄誉勲章は確実だぞ。いいか、ランドールは生かして捕らえるのだ、決してあの旗艦を攻撃してはならん」
「なせです。捕虜にするのも、撃沈して葬るのも同じではないですか」
「ばか者。ここはミスト領内で、あやつの乗艦しているのはミスト艦隊だぞ。撃沈してしまったら、どうやってランドールだと証明できるか? 宿敵艦隊旗艦のサラマンダーならともかくだ」
「そうでした……」
「指令を徹底させろ」
「判りました。指令を徹底させます」

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2021.06.04 08:47 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 デュプロス星系会戦 Ⅳ
2021.06.03

第二章 デュプロス星系会戦




 サラマンダー艦橋では、アレックスからの連絡を今か今かと待ちわびていた。
「あれからだいぶ経ちますが、いまだに連絡がありません。提督はご無事なのでしょうか?」
「提督は十分な熟慮の上に行動なされたのです。心配することはないでしょう」
 アレックスとの付き合いが最も長く、その人となりを知り尽くしているスザンナが平然と答えた。
 いっかいの旗艦艦長から旗艦艦隊司令へと大抜擢され、アレックスからの信望厚い人物の発言である。その言葉を疑うものはいなかった。
「それよりも敵艦隊の動静に変わりはないか?」
「はい。侵攻ルート及び速度共に変化ありません」
「よろしい。こちらは戦闘態勢を維持、進路そのまま」
 アレックスからは戦闘態勢の発令があったものの、その後の指示はいっこうに出されていなかった。
 巨大惑星による重力ターンの実行中であり、進路を変えて迎撃に向かうことは不可能だった。
 仮に進路転換しようものなら、強力な重力によって失速し、巨大惑星に飲み込まれるのは必至だった。そのことは、スザンナが一番良く知っていることである。
「提督より入電です」
 一同がいっせいに通信士の方を振り向く。
「映像を正面スクリーンに映せ」
 敵艦隊の進撃推定コースの投影されていた正面スクリーンがアレックスの映像に切り替わった。SPとして同行しているコレットも側に待機している。
「提督、何かありましたか?」
 スザンナが尋ねる。
「ああ……。このわたしがミスト艦隊を臨時に指揮することになった」
「提督がミスト艦隊の指揮を?」
 スザンナに驚いた表情は見受けられなかった。もちろん通信を聞いている他の者も同様であった。
 敵艦隊の来襲となれば、英雄と称えられる提督に指揮を依頼することは、誰にも納得できる。
「そういうわけだ。君達は、そのまま予定通りに動いてくれ。こちらのことが済めば、後を追いかける」
「お一人で大丈夫ですか}
「我々は部外者だ。ミストのことに関しては、君達の手を借りることはできないだろう? ああ、戦闘態勢を解除して、警戒態勢に変更しておいてくれ。やつらが追撃してくることは不可能だろうからな」
「判りました。警戒態勢に移行し、このままのコースを予定通りに進みます」
「よろしくな」
 通信が切れ、敵艦隊の侵攻ルートの映像に切り替わった。
 アレックスらしく簡潔明瞭な短い通信だった。
「ということだけど、パトリシアはどう思っているの?」
 艦橋の後部で通信を聞いていたジェシカが隣にいるパトリシアに囁く。
「成り行き上で、そういうことになったのでしょうけど……。心配する必要はないと思いますよ」
「その根拠はどこから?」
「提督は、勝算のない戦いはなさりませんから」
「なるほど……。提督はミスト艦隊を指揮して、敵艦隊との戦いに勝利できると考えているわけね? それも三倍の敵艦隊と……」
「はい」
「そっか……。あなたがそう思っているのなら、確かなものでしょうね」
 パトリシアに限らず、艦橋にいる者のほとんどが、アレックスが負けるとは誰も思っていなかった。
 たとえ一度も指揮をとったことのない、未知数の多い艦隊としてもである。
「スザンナ。提督は後から追いかけられるとのことですから、その足となる高速艦艇を残しておかなければ」
「はい。すでに手配済みです」
 スザンナが答えた通りに、旗艦艦隊から護衛艦を含めた十二隻の小隊が、列から離れて惑星ミストへと向かっていた。
 もちろん重力ターンの最中なので、巨大惑星の重力に逆らわないように遠回りではあるが、いったん惑星をぐるりと周回するようなコースを取らなければいけない。
「旗艦艦隊が中立地帯に到着するのが早いか、提督がこの場を早々に片付けて、追いついてくるのが早いか……。ぎりぎりかしらね」
「そうですね……」
 敵艦隊の本体である連邦の先遣隊の動きが気になっていた。
 第三皇女を拉致しようとして、中立地帯へと向かっているはずである。
 もう一つの競争が存在していたのである。
 ランドール提督が追いついてくるのが早いか、連邦が中立地帯から帝国領内へ侵入して第三皇女が拉致されるのが早いか。
 時間との戦いでもあった。


 ミスト艦隊旗艦の作戦室。
 アレックスは各艦の艦長と部署の責任者を招集して、作戦会議を開いていた。
 アレックスが育て鍛えた艦隊の士官達なら、一つのことを伝えれば十のことを理解してくれていた。これまでのアレックス流の戦闘のありかたを知り尽くしていたので、こまごまとした残りの九割の部分は、言わずとも確実に伝わったのである。
 今回の戦闘に勝利するには、意思伝達を緊密に図っておかなければ、勝てるものも勝てなくなる。
「艦隊の半数を別働隊として、このラグランジュ点に待機させて、側面攻撃をかけます」
「別働隊ですか? ただでさえ、こちらの艦数が少ないというのに、別働隊を無視して本隊に急襲をかけられれば持ちこたえられません」
「そうかも知れませんが、我々に勝つ方法があるとすれば、これしか考えられません。側面から攻撃を掛けられたら、回頭して相手にするか、やり過ごして加速し本隊を急襲するかでしょう。そこに勝算が生まれます」
 会議に参加する者には、アレックスの真意が伝わらないようであった。自分が育てた艦隊ではないから致し方のないことであろう。
「詳しく解説してください」
「判りました」
 アレックスは苦々しく思った。
 パトリシアがいれば……。
 サラマンダーに残してきた作戦参謀。身近にその存在がないというのは、痛切なほどに身に沁みた。
 最高速・高性能のCPUを持っていたとしても、ディスプレイなどの表示装置や通信機器などの周辺機器が接続されていなければ、無用の長物と化してしまうのは必至である。
 敵に確実に打ち勝つには、綿密なる作戦立案が必要である。それはアレックスの頭の中でまとまってはいるのだが、何も知らない一兵卒に至るまで周知させるのは並大抵のことではない。
 早い話が口下手といって良いかも知れない。
 作戦会議から三時間が経過した。
 ミスト艦隊の本隊から離れていく別働隊。
 その指揮を執るのは、ミスト艦隊司令のフランドール・キャニスターである。
「司令、どうして別働隊の指揮を買って出たのですか?」
 副官が改めて聞きなおした。
 本来ならよそ者のアレックスが率いるべきはずである。
「別働隊は陽動とし、敵の攻撃を直接受け止めるのが本隊と考えるのが普通なのだが、提督はこちらが主力だと言った。それがゆえに半数の艦隊を割いたのだと」
「それが判りません。一応説明はされたのですが、どうしても納得できません」
「納得するしかないだろう。これまでの提督の作戦は、当初には誰にも受け入れられないことが多かったじゃないか。しかし、最終的には劇的な戦果を挙げて昇進してきた」
「それはそうですけどね」
「ともかくだ……。我々の総意で提督に指揮を委ねたのだから、最後まで信じて戦うよりないだろう」
「判りました」

 ミスト旗艦。
 その指揮官席に陣取るアレックス。
 正面のスクリーンには、本隊から離れていく別働隊が映し出されていた。
「別働隊。予定のコースに入りました」
「よろしい。敵艦隊との遭遇推定時刻は?」
「およそ五時間後です」
「そいじゃ、お出迎えするとしますか。全艦微速前進!」
「全艦微速前進」
 アレックスの補佐を勤める役になった副司令のコーマック・ジェイソンが命令を全艦に発令する。
 艦橋にいるすべての者が、これから繰り広げられることになる連邦軍との戦闘に胸をときめかせていた。
 何せ、共和国同盟の英雄と称えられる名将が、自分達の艦隊の指揮を執るのである。
 たとえ相手の艦数が数倍に勝り、歴戦の勇士達だったとしても、誰一人として不安を抱く者はいなかった。

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2021.06.03 16:40 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 デュプロス星系会戦 Ⅲ
2021.06.02

第二章 デュプロス星系会戦




 ミスト旗艦の発着ゲート。
 着艦したドルフィン号をミストの兵士達が取り囲んでいる。
 ドルフィン号のドアが開いて、特務捜査官コレット・サブリナ大尉を従えたアレックスが降りてくる。
 一斉にアレックスに向けて銃を構える兵士達。
 反射的に腰のブラスターに手を掛けるコレットだったが、アレックスに制止されて手を戻した。

 やがて一人の人物が、兵士達をかき分けて、アレックスの前に進み出た。
 兵士達に銃を下げるように指示してから、挨拶を交わしてきた。
「ミスト艦隊司令官のフランドール・キャニスターです」
 言いながら手を差し出していた。
「アル・サフリエニ方面軍司令官、アレックス・ランドールです」
 アレックスも答えながら、差し出された手を握り返した。
「アル・サフリエニ……ですか。まあ、ここはそういうことにしておきましょうか」
 共和国同盟軍はすでに存在しておらず、アル・サフリエニ方面軍という称号もすでに消滅していた。
 にも関わらずアレックスがその称号を名乗ったのは、デュプロス星系がバーナード星系連邦に対して、総督軍への編入を未だに態度保留していたからである。
「立ち話もなんですから、私のオフィスに案内しましょう。そちらの可愛いSPさんもご一緒にどうぞ」
 とコレットに視線を送った。
 可愛いなどと言われて頬を赤らめるコレットだった。
 無骨な男達しかいない戦艦にあっては、唯一の女性のコレットを可愛いと感じるのは当然かも知れない。
 実際にも、コレットはその名前にふさわしく、若く美しかったのである。
「一応規則ですので、銃をお預かりします」
 アレックスが頷くのを見て、銃を預けるコレット。

 司令官オフィス。
 司令官二人が、ソファーに腰掛けお茶を飲みながら会談をしている。
 コレットもお茶を勧められたが、丁重に断ってドアの前に直立して二人の会話を見つめている。
 SP要員としての任務を忘れないコレットであった。
「……なるほどね。用件は納得いきました。とにかくも貴艦らの所領通過を認めましょう」
「ありがとうございます」
「まあ、当方としても連邦に対しては、屈服するのも潔しとは思っていませんのでね。できれば中立を保てればと願っているのですよ」
「中立ですか? 連邦が許さないでしょう」
「確かに、いろいろと干渉をしてきますよ。直接の武力介入は今のところありませんが、いずれは……」
 と言いかけたときに、アレックスの携帯端末が鳴った。
「緊急入電です。すみません、ちょっと失礼します」
 一言断ってから、携帯を開いて連絡を取るアレックス。
「ランドールだ。スザンナ、どうした?」
『敵艦隊です。Pー300VXが、デュプロス星系に侵入したバーナード星系連邦と思われる艦隊の艦影を捕らえました。おそらく例の先遣隊の一部がこちら方面に進駐してきたものと思われます』
「判った。全艦、戦闘体勢で待機だ」
『了解! 戦闘体勢に入ります』
 連絡を終えて携帯を閉じるとミスト司令官が怪訝な表情でたずねてきた。
「戦闘体勢とはどういうことですかな」
 それに正直に答えるアレックス。
「どうやら、件のバーナード星系連邦が武力介入を仕掛けてきたもようです。そちらの所領内ではありますが、敵艦隊に対して戦闘体勢を取らせていただきました」
「なんですって? しかし当方の監視体制には……」
 言いかけたとき、今度は司令官オフィスのインターフォンが鳴った。
「どうした?」
『監視衛星がデュプロスに侵入する艦隊を捕らえました』
「バーナード星系連邦か?」
『おそらく……』
「よし、全艦、戦闘体勢をとれ!」


 ミスト艦隊旗艦の艦橋。
 司令官が迫りくる敵艦隊を迎撃するための指示を次々と出していた。
「敵艦隊の進撃予想ルートを出せ!」
 スクリーンにデュプロス星系の星図と敵艦隊の位置が示されていた。
 敵艦隊からまっすぐ延びる予想ルート。
「何だこれは? 奴らはまっすぐ進んでいるのか?」
「はい。一直線に向かってきます」
 それを聞いてアレックスが呟く。
「愚かなことだ。自滅するつもりかな……」
 それを聞きつけた司令官が、一瞬怪訝そうな表情を浮かべる。
「敵艦隊の勢力は?」
「戦艦四百五十隻、巡航艦三百二十隻、その他合わせて総勢千隻に及びます」
「対する我々は、せいぜい三百隻程度……。まともに戦っては勝負にならないな」
 勝勢は敵艦隊にあるのは明白な事実となっていた。
「司令……。本当にお戦いになられるのですか?」
 副官が心配そうに質問する。
「当たり前だ。事前の外交交渉もなく、予告なしにデュプロスに侵入してきた艦隊が、親善使節であるはずがないだろう」
「それはそうですが……」
 副長は和議の道を考えているようだった。
 しかし圧倒的に有利な側である敵軍が承諾するはずもなかった。
 ここに至っては、たとえ全滅しても戦うより道はなかった。
「提督。折り入ってお願いがあります」
「お願い?」
「提督にこのミスト艦隊の指揮を執っていただきたいのです」
「わたしが指揮を?」
 これまでにも数倍の勝る敵艦隊と戦い勝利してきたアレックスとはいえ、自身が育て鍛えてきた艦隊ではない。手となり足となって忠実に指令を遂行できるかは未知数であった。突拍子で理不全な命令が下されても、素直に従ってくれるかも判らない。
「本当に、わたしが指揮を執ってよろしいのですか?」
 再度確認を求めたのは、そんな疑心暗鬼からくるものであった。
 すると艦橋にいたオペレーター達が全員立ち上がった。
「提督! 指揮を執ってください」
「お願いします」
 次々と賛同の意を現していた。
「そういうわけです。ミスト艦隊の将兵全員が提督の指揮を願っています」
「はあ……。そうですか」
 髪の毛を掻くようにして、悩んでいるようであったが、
「判りました。指揮を執りましょう」
 いたしかなく承諾するアレックスであった。
 とにもかくにも迫り来る敵艦隊をどうにかしなければ、自分の旗艦艦隊も銀河帝国へ向かうことができないのも脳裏にあった。

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2021.06.02 08:41 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

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