銀河戦記/鳴動編 第二部 第五章 アル・サフリエニ Ⅱ
2021.06.28

第五章 アル・サフリエニ




 ところが、総督軍にくみしたくないとある一国が差し迫って救援を求めてきて、それに呼応してゴードンが配下の艦隊を向かわせた。
 それが事の始まりだった。
 次々と救援要請を求める国が続出し、ゴードン率いるウィンディーネ艦隊が出動してきた。
「奴は独断先行が過ぎる」
 ゴードン率いるウィンディーネ艦隊は、独立艦隊で自由な行動がある程度許されていた。命令できる者は直属の上官であるアレックスだけであるが、本人は帝国へ行ってしまっている。よって、自由気ままに行動しているわけである。
 フランクは、指揮下の第五師団を当初予定通りの防衛陣から動かさなかった。また、チェスター准将の第十七艦隊以下の第八師団もそれに従った。ゴードンだけが突出して単独行動を続けていたのである。
 以前、ゴードンは冗談めいて言った事がある。
「遠征が失敗したら、いっそのことアル・サフリエニ共和国でも作って、細々とでもいいから生き残りを図った方がいいかも知れないね」
 当時は笑って済まされたが、
「もしかしたら……、本気でアル・サフリエニ共和国を興すつもりかもしれない」
 救援要請を受けているのは、そのための地盤固めかもしれない。住民達の心象を良くし、一念発起の際には協力を取り付ける所存なのだろう。
 銀河帝国からの放映は続いている。
 総督軍二百五十万隻に及ぶ侵略軍のことを報じており、アレクサンダー元帥が、これを百二十万隻で迎え撃つことを表明したと発表して終了した。
「百二十万隻対二百五十万隻か……。それなりに策を練ってはいると思うが、自分が育て上げた第十七艦隊とは違う。どこまでやれるのか見物だな」

 その頃、カルバキア共和国へ向かっているウィンディーネ艦隊。
「まもなくカルバキア共和国です」
「オードリー少佐を呼んでくれ」
 正面スクリーンにポップアップでオードリー少佐が現れた。彼はつい最近までゴードンの作戦参謀をやっていたが、配置転換で二千隻を従えた部隊司令官となっていた。
「敵艦隊の背後に先回りして退路を遮断してくれ」
「判りました。逃がしはしませんよ」
 ポップアップの映像が消えて、カルバキア共和国の首都星ニーチェが近づきつつあった。
 カルバキアは五十ほどの恒星・惑星からなる国家で、人が住めるのはニーチェだけだが、他惑星には鉄・ニッケル・タングステンといった鉱物資源が豊富に埋蔵されていて、鉱物資源大国となっていた。他惑星には軌道上に宇宙コロニーを建設して移り住み、資源開発を行っていた。
「敵艦隊発見!」
「ようし攻撃開始だ。一隻も逃がすなよ」
 ニーチェの軌道上に展開していた連邦艦隊、はるかに勝るウィンディーネ艦隊の来襲を受けて、あわてて撤退をはじめた。
「敵艦隊、撤退します」
「逃がすな。追撃しろ」
 アレックスの場合は、撤退する艦隊は追撃しないという方針を貫いていたが、ゴードンの場合は追撃して全滅させるのが方針のようだ。
 猛攻を受けて次々と撃沈していく連邦艦隊。退路に新たに出現した別働隊によって退路を絶たれ、観念した連邦艦隊は投降信号を打ち上げて停船した。
「白信号三つ。投降信号です」
「構わん。攻撃を続けろ。一隻も残さず殲滅するんだ」
 この頃のゴードン率いる艦隊は、皆殺しのウィンディーネと恐れられ、連邦軍にとっては恐怖の代名詞となりつつあった。ウィンディーネ艦隊とそうした連邦軍はことごとく全滅させられ、救命艇で脱出しようとする者までも容赦なく攻撃、一兵卒に至るまで残らず殺戮を繰り返していた。


 ゴードンの心は荒んでいた。
 その背景には悲しい物語があったのである。

 ゴードンには妹がいた。
 その妹を残して、トリスタニア共和国同盟首都星トランターを旅立って、アル・サフリエニ方面に赴任したゴードン。
 やがてバーナード星系連邦が攻め寄せてきて、トランターは陥落した。
 すぐさまバーナード星系連邦憲章に基づく占領政策が行われた。
 共和国同盟軍は解体されて、新たに共和国総督軍が設立され、徴兵制度によって兵役年齢にある男子はすべて徴兵された。
 各地に授産施設が開設され、妊娠可能年齢にある女性のすべてが強制収容された。
 授産施設。
 それはバーナード星系連邦にあって、人口殖産制度による『産めよ増やせよ』という考えにもとずく政策の一つであった。
 女性は、子供を産んで育てるもの。相応の年齢に達したら、授産施設に入所して妊娠のためのプログラムに参加する。
 スカートは女性のみが着るものだ。
 と、社会通念として教育されれば、誰しもがそう思い、男性はスカートを着てはいけないと判断する。それが自然なのだ。
 連邦に生まれた女性達は、幼少の頃からそう教えられ育てられたために、何の疑惑も持たずに殖産制度に従って、妊娠し子供を産みつづけている。
 もちろん妊娠し母となった女性達には、政府からの手厚い保護が受けられて働く必要もなく、養育に専念できるようになっている。
 占領総督府は、この授産施設による人口殖産制度を、共和国同盟の女性達にも適用したのである。
 そもそも共和国同盟憲章による教育を受けた同盟の女性達には、授産施設の何たるかを知るよしもないし、自分の意志によらない妊娠など問題外であった。
 子供は愛し合った男性と結婚して授かるものであって、授産施設で不特定の男性をあてがって妊娠させようなどとは、絶対に受け入れられない制度であった。
 地球古代史に記録のある、旧帝国日本軍が占領下の女性達に対して行なった強制慰安婦問題と同じではないか。(韓国軍慰安婦=第五種補給品と呼ばれた)
 しかし自分達の国家の制度は正しいと信伏する総督府によって、人口殖産制度は推し進められたのである。
 女性達は無理やり強制的に授産施設に連れてこられて、言うことを聞かないと逃げ出さないように裸にされて一室に閉じ込められ、毎日のように連邦軍兵士の相手をさせられた。
 抵抗する女性は手足を縛られて無理やりに犯された。かつて同様のことを行ったハンニバル艦隊の将兵達のように。
 当然として女性達は妊娠することになる。
 おなかの中にいるのは、身も知らぬ連邦軍兵士の子供。
 人工中絶は認められておらず出産するしかない。
 ここで女性達は二つの選択肢を与えられることになる。
 妊娠し子供を産み育てることを容認すれば、授産施設から解放されて自由になれる。少なくとも子供が十四歳になるまでは、次の妊娠を強要されることはない。
 もう一つは、密かに避妊ピルを服用しつつも、兵士達の相手をしながら耐え忍ぶことである。連邦軍には避妊ピルを知る者がいなかったからである。差し入れと称して授産施設の女性達に配られていた。
 ゴードンの妹も、そんな女性達の中にあった。
 そして妹は、第三の選択肢を選んだのである。
 妊娠したことを知った妹は、授産施設を抜け出し、自殺の道を選んだ。

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2021.06.28 07:12 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
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