再発・再入院
2019.12.24
○月○日 再発・再入院

 それからしばらくは安寧な生活が続いていた。

 入院生活で体力減退して、仕事をする気力もないし……。
 ともかく体力の回復に努めていた。

 退院からおよそ二ヵ月後。

 再び、食べたものを吐いてしまった。
 腸閉塞の再燃であった。
 また、敗血症か?
 例によって、

 胃に何か入っていると嘔吐。
 胃が空になると激しい痛み。

 繰り返されていた。
 これはもう入院ということが明確だったので、最初から入院の準備をして行った。


 病院を変えて、再入院となった。
 無理を言って退院した前回の病院には行きづらかったから。
「だから言ったでしょ。退院はまだ無理だったのよ」
 と言われたくなかったから。
 病名も確定できないくせに……。


 またしても入院である。
 例によって、静脈内点滴そして検査尽くめの日々の再開。

 尿検査、血液検査、レントゲン、超音波診断、CTなど。
 前回と同様の検査が実施されたのだが……。
 さらにより精査に調べるために、前回の入院では行われなかった検査が実施された。

 実施されたのは、ちょっと変わった大腸検査である。

 リアルでX線映像の見られる、TV-X線撮影装置に乗る。
 お尻からバルーンの付いた管を挿入される。
 造影剤を注入され、さらに腸管を膨らませるために、空気を送られる。バルーンは空気
や造影剤が漏れないようにするためのものである。
 気持ち悪い……。
 しかも、じっとしているだけじゃないのである。
 診察台の上を、右向いたり、左を向いたり、仰向け、俯け、と動き回って造影剤がまん
べんなく腸管内に行き渡るようにしなければならないのである。
 腕には点滴の針、お尻には管を挿入された状態で、動き回るのは苦労する。
 検査技師は、簡単に、
「今度は俯きですよ。はい、そこでじっとしてくださいね。撮影します」
 と言ってくれたりするのである。
 ほんとに疲れます。
 そして検査が終わったら終わったで……。

 造影剤や空気を注入され膨張した状態で、バルーンを抜いたらどうなると思いますか?

 想像したくないけど、悲しい現実です。
 バルーンを挿入したまま、トイレへ直行。
 看護師にバルーンを抜いてもらうと……。

 ほとほと疲労困憊状態で病室へ戻ります。
 その後も何回かトイレへ行くが、造影剤が残っていて乳白色のどろりとしたものが出て
くる。
 その日は、一日死んでいました。
あっと!ヴィーナス!!第五章 part-2
2019.12.23

あっと!ヴィーナス!!


第五章 part-2

 そこはランジェリーショップだった。

 見渡せばそこは……。
 可愛らしいブラジャー・ショーツから、殿方を魅了するセクシーベビードールまで。
 目を覆いたくなるような女性用のランジェリーが……。
 ところでランジェリー{lingerie}とは、フランス語で婦人用下着のことらしい。では
紳士用下着はなんというのだろうか? アンダーウェアでは男女とも使うし英語だもんね。
 さて……?
 意外と知られていないものですね。
 誰か教えてよ。あたしは和仏辞典持ってない。
 そもそも女性衣料品は、やたらカタカナ語それもフランス語を使いたがるのよね。それ
にくらべて男性衣料品は、下着と漢字かシャツなどの英語が多いと思う。
 ええい、そんなことはどうでもいいの!
 今の問題は、目の前にあるこのランジェリーだ。
「ねえ、これなんか可愛くていいわよ」
 と楽しそうに品選びしている。
 本人よりも母の方が夢中というところだ。
 自分じゃもう着ることができないとびきり可愛いものを、娘に着せて喜んでいるという
図式。
 いい加減にしてほしいなあ……。

 しかし……、いかにも楽しそうに娘のランジェリーを選んでいるその横顔を見てふと思
った。

 そうか……。
 母さんは、ずっと男六人の中でたったひとりの女性として、暮らしてきたんだったっけ
……。
 女同士だけの話を共有する相手もなく。ただ一人寂しく息子達を育ててきたんだ。
 すこし可哀想に思えてきた。
 それだけに女の子ができたということで、これほどまでに嬉しそうな表情を隠しもせず
にしているところなど見たこともなかった。
 そうだね。
 母さんと一緒にいる時くらいは、女の子らしくしていてあげよう。
 心底そう思った。
 ヴィーナスに対してはしゃくにさわるけど……。

「弘美ちゃん、ありがとう。また一緒にお買い物に行きましょうね」
 帰りの車の中で母は言った。
 別に母が「ありがとう」という筋合いのものではないが、一緒に楽しく買い物ができた
ことへの感謝の気持ちを現したものであろう。
「うん、そうだね」
 ごく自然にそう答えてしまう。
 まあ、いいさ。
 女の子としての躾には、ちょっとうるさいと思うこともあるけど、すべてはあたしのた
め。言葉遣いはやさしいしまなざしは温かい。
 親孝行も大切だよね。

11
退院
2019.12.23
○月○日 退院


 病名が確定しないながらも、入院は続いた。
 食っては寝るだけ、合間に検査の生活で飽きもする。
 しかしながら、自分には仕事があるし、各種ローンの支払いもある。
 いつまでも入院しているわけにはいかない。
 対症療法しかできなくて根本治療ができないというなら……。

「一旦、退院させてください」

 と願い出た。
 主治医は渋ったが、強く主張することで何とか退院の許可を取ったのである。

 退院証明書には
【ブドウ状球菌敗血症】
 と書かれていた。

 敗血症といえば死に至る場合もある感染症である。
 あわただしく退院したので、詳しく聞く余裕も無かった。

 そんなことよりも、入院費用やら滞納しているローン代金の方が大問題だったのだから。
 仕事休んで無給状態だったもんな。


 今回の入院では、敗血症の疑いありと診断されたが、その症状の多くは全身性エリテマ
トーデスのものと合致しており、やはり前兆現象と言える。
銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第五章 ターラント基地攻略戦 Ⅶ
2019.12.22

 機動戦艦ミネルバ/第五章 ターラント基地攻略戦


                 Ⅶ

 湿地帯の中を突き進むオーガス曹長の班。
 足を取られながらも前進を続けていた。
「ようし、ここらでいいだろう。上陸するぞ」
 向きを変えて、湿地帯から上がろうとするオーガス班。
 およそ三分の一ほどが上陸した時だった。
 森林の奥からミサイルが飛んできて、一機に命中した。
 ペイント弾が破裂して、機体を真っ青に染め上げる。
『ガラン上級上等兵、命中です。行動不能に陥りました。隊より離脱して帰還してくだ
さい』
 通信機から指示が入った。
 戦闘シュミレーションによって、攻撃を受けた場合の損傷状態が計算され、戦闘不能
と判断されて帰還命令が出されたのである。
「りょ、了解。帰還します」
 隊を離脱して帰還の途につくガラン上級上等兵。
 奇襲攻撃にたじろぐ兵士たち。
「な、なんだ? どうしたんだ」
 オーガス曹長も例外ではなかった。
「奇襲です。森の奥から攻撃を受けています」
「森の奥からだと?」
 攻撃は続いていた。
 次々と撃破されて離脱する機体が続出していた。
「一時後退だ。湿地帯へ戻れ」
 湿地帯へと避難するオーガス班の機体。
 だが、違う方角からの攻撃が加わった。
「後方よりミサイル多数接近!」
「ミサイル?」
「対岸より発射されたもよう」
「対岸というと、サブリナ中尉か!」
「挟み撃ちです」
 進むもならず、退くもならず。
 進退窮まって全滅の道を急転直下のごとくに陥るオーガス班だった。

 全滅だった。

「こんなのありか……? 二班から同時攻撃を受けるなんて」
「おそらく共同戦線を張られたのかと思いますが」
「共同戦線だと?」
「はい。作戦概要の禁止条項を確認しましたところ、ルール違反にはならないようで
す」
「サブリナ中尉の策略か」
「そのようですね」
 通信機が鳴った。
『オーガス曹長の班は、総員帰還せよ』
 ミネルバからの連絡は、冷徹な響きとなってオーガスの耳に届いた。
「了解。帰還する」
 ペイントまみれの機体が続々と帰還をはじめた。

「オーガス班、全滅です。総員、帰還の途に着きました」
「ふふん。天狗になっているから、こういうことになるのさ」
「これから、どうしますか?」
「共同戦線はここまでだからな。この勢いに乗ってハイネの班へ殴り込みをかけたいと
ころだ」
「C班ですね」
「まあ、ハイネは個人としての戦闘能力はずば抜けて高いが、所詮はただの下士官だ。
作戦を立て、隊を指揮するなどという頭脳プレーは経験がない。ちょっとかき回してや
れば、隊は混乱に陥り、士気は乱れて自滅する」
「サブリナ中尉の指揮下にあってこそのものということですね」
「その通りだ。ハイネ上級曹長、恐れるに足りずだ」
 数時間後、ナイジェル中尉率いるB班と、ハイネ上級曹長率いるC班が、戦闘の火蓋
を切った。
 ナイジェル中尉の予想通り、ハイネ上級曹長率いるC班は、緒戦こそ善戦したが、ナ
イジェルが放った陽動作戦に見事に引っかかって、善戦むなしく敗退した。
 奮戦むなしく帰還するC班を見送るナイジェル中尉。
「ようし続いて、残るD班との決戦だ。その前に補給だ。しっかり燃料弾薬を積み込ん
でおけ」
 負け組みが帰還した後に残された陣地は、勝ち組が自由に使っていいことになってい
た。

11
敗血症?
2019.12.22
○月○日 敗血症?


 なおも検査は続いていた。
 明確な診断がまだつかないではいたが、いろいろなことが判明しつつあった。
 肝臓機能の低下、血小板などの減少とか……。
 やがて、疑わしき病名が浮かんできたらしかった。

 敗血症、(SIRS・全身性炎症反応症候群)。
 (症候==悪寒、全身の炎症を反映して著しい発熱、倦怠感、認識力の低下、血圧低下
が出現する。進行すれば錯乱などの意識障害をきたす。DICを合併すると血栓が生じるた
めに多臓器が障害(多臓器不全)され、また血小板が消費されて出血傾向となる。起炎菌が
大腸菌などのグラム陰性菌であると、菌の産生した内毒素(エンドトキシン)によってエ
ンドトキシンショックが引き起こされる。また代謝性アシドーシスと呼吸性アルカローシ
スの混合性酸塩基平衡異常をきたす。ショック症状を起こすと患者の25%は死亡する。)

 細菌によって多臓器不全を引き起こしているのではないか、腸閉塞もその症状の一つで
はないかということだった。
 なおも病名は確定せず、疑わしき状態ということだったが、ともかく細菌感染は確から
しいということで、抗生物質を投与しましょうということになった。
 治療方針を敗血症として、治療が開始された。
 抗生物質投与には患者の承諾書が必要で書類も作成した。
 栄養点滴に加えて、抗生物質の輸液が追加された。

 確認のために、太腿の付け根にある総腸骨動脈から血液を採取してみるということだっ
た。
 総腸骨動脈?
 太い動脈血管からの採血は、看護師の資格ではできないので、主治医が直接採血するこ
とになる。
 血液採取は通常、腕の肘裏の静脈からだが、動脈からはほとんどやらない。
 手順はこうだ。
 脚の付け根を丁寧に消毒し、骨盤の淵あたりから出ている総腸骨動脈に注射針をプス
リ!
 採取して針を抜いたら、針跡をガーゼで押さえて止血する。
 しかし太い動脈はそう簡単には止血できない。
 強く強く、ひたすら強く押さえ続ける。
 ちょっと緩めてガーゼを外してみるが、
「まだ、だめね」
 ということで、再び押さえ続ける。
 何とか血が止まって、動脈採血は終了。
 感覚的に十分くらい経っただろうか。
 やっと血が止まって採血作業が終了した。
 主治医さん、ご苦労様でした。

 生きていれば生理現象がある。
 消化器系の病気なので、出したものはすべてチェックする。
 お小水は、糖尿や蛋白尿かどうかを調べるのに必要だ。
 採尿はトイレに常設された、名前の記入された容器に毎回入れておく。
 さすがに大の方は取り置きしないが、何回したかとかのチェックシートに記入。

 ああ!悲しや絶飲食。

 数日おきの超音波診断を経て、再度の食事摂取が認められた。
 当然最初は、重湯とよばれる十倍粥から。
 久しぶりに口から入れる食べ物。
 消化の良いおかずもついた。ほぐした魚と豆腐の味噌汁。
 再び三分粥、五分粥、八分粥、そして一般食まで進んだ。
 抗生物質の効果はてき面だったということだ。

 ここまでの治療は、根本的治療ではなくて対症療法でしかなかった。
 正確な病名が確定しなかったからだ。
 敗血症というのも、あくまで推測の域でしかなかった。
 病名が確定しなければ、本格的な治療はできない。

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