銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 XI
2019.12.21

第四章 皇位継承の証


                 XI

 首都星アルデランを出立する二百隻ほどの艦隊。
 アレックスを乗せたソレント行の一団である。
 アルデランを出立して六時間が経過した頃、艦のレーダーにほぼ同数の艦隊が映し出さ
れた。
「お迎えがきたようだ」
 それはサラマンダー艦隊であった。
 旗艦ヘルハウンドに乗り移り、ここまで送ってきた帝国艦隊に帰還を命じた。
 それは当初の予定にない行動であった。
「さてと……。奴らが乗ってくるかだな……」
 一言呟いて、サラマンダー艦隊に、予定していたコースを進軍させた。
 アルビエール候国との領界に差し掛かった時だった。
「右舷三十度前方に、国籍不明の戦艦多数! その数およそ三百隻」
 警報が鳴り響き、正面スクリーンには迫り来る敵艦隊が映し出された。
「やはりおいでなすったな。これで帝国内に内通者がいることがはっきりした」
 帝国内には、【皇位継承の証】を持つ皇太子に生きていられては困ると考えている連中
がいるということである。彼らはどうやってかは知らぬが、海賊達と連絡を取り合って、
今回と幼少の頃のアレックスを襲って、将来邪魔となる人物であるアレックスを消しに掛
かっているのである。あるいは莫大なる身代金目的の場合もあるだろう。
「戦闘配備! 相手は国籍を隠蔽している海賊だ。徹底的にやっても構わん。しかしリー
ダーと思しき艦は足止めするだけにしておけ。捕らえて首謀者を吐かせてやる」
 いかに戦闘能力の高い海賊艦とて、サラマンダー艦隊とは比較にもならなかった。瞬く
間に全滅させられ、リーダーらしき数隻がエンジン部を打ち抜かれて漂流していた。
 投降を呼びかけるアレックスだったが、リーダー達は無言で自爆の道を選んだ。
「こうなるとは思っていたが……。ま、確認が取れただけでよしとしよう」
 海賊艦隊を全滅させて、アルビエール候国へと向かうアレックスだった。

 アルビエール候国は、先代皇后の故郷であり、アレックスの故郷でもある。
 領主のハロルド侯爵は、自分の甥の来訪を大歓迎した。
「これはこれは、アレクサンダー皇子。よくぞ参られた」
「今日、明日とおせわになります」
「いやいや、二日間だけと言わずに、お好きなだけご滞在なされても結構ですぞ」
 血の繋がった叔父と甥という関係なのだから、もっと親しく会話してもよさそうなので
あるが、幼少の頃より二十余年もの間音信不通で、形式ばった会話になるのは仕方のない
ことだった。
「メグも一緒だと思っていたのですが」
 もちろんメグとはマーガレット皇女のことである。
「いや、皇女は謹慎処分が完全に解けていないのです」
「それは残念です。次の機会には兄妹ご一緒にどうぞお越しください」
「ぜひ、そうさせて頂きます」

11
はじめての食事なるも……
2019.12.21
○月○日 はじめての食事なるも……

 相も変わらずの検査の日々。

 イレウス(腸閉塞)を引き起こしている原因をつきとめてからでないと、本格的な治療
には進めないから。

 例えばイレウスを引き起こす要因として、

 ■機械的イレウス
  結石などの異物による閉塞。
  子宮外妊娠などによる腸管圧迫。
  寄生虫(回虫・サナダムシなど)。
  ポリープや腫瘍・癌による狭窄。
  クローン病、潰瘍性大腸炎などの炎症・癒着・屈曲。

 ■機能性イレウス
  急性腹膜炎。
  鉛中毒。
  運動性麻痺。

 などが挙げられる。

 これらの要因となっているものをしらみつぶしに当たっていって、一つずつ消し込みを
行って最後に残ったものが一番疑わしいということになる。(工藤新一風に)
 イレウスの治療の基本として、絶飲食によって腸を休ませて快方へと導くこと。
 点滴による栄養補給が一番の治療方法。

 水も食事も摂れない絶飲食。
 同室の患者さん達が、食事をしているのを横目で眺めているだけというのは、実に寂し
いものだ。
 それを十日間ほど続けたある日。
「食事を摂ってみましょうか」
 ということになった。
 イレウスの原因が判ったからではなくて、ためしに食事を入れてみて様子をみてみよう。
 試行錯誤的治療方法である。
 せっかくの食事を吐いてしまうかもしれないが、その時はそれなりに対処しましょうと
いうことである。

 その夜、はじめての食事が出された。
 といっても重湯である。
 米の研ぎ汁をそのまま煮ただけとも思えるような透明の液体。
 ほんの少し塩味がついているだけで、味もそっけもない食事。
 それでも何とか食事を終えた。
 吐き気は起きなかった。
 少しは快方に向かっているということか。

 三日後には、三部粥になった。
 しかし、その夜に熱が出た。
 翌日も三部粥だったが、やはり熱が出た。
 どうやら固形物が入ると熱が出るようである。

 というわけで、再び絶飲食に戻った。

 ああ!悲しや絶飲食。

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