あっと!ヴィーナス!!第五章 part-3
2019.12.24

あっと!ヴィーナス!!


第五章 part-3

「疲れたあーっ!」
 家に帰りついて、ソファーに寝そべるようにして、足の疲れを癒す。
 とたんに、
「弘美ちゃん、はしたないわよ」
 と注意される。
「へい、へい」
 起き上がって、腰掛けるように座ると、
「両足は広げずにちゃんと揃えてね」
 となる。
 女の子としての躾に、一所懸命なのは理解できるけど……。
 ああ、女の子ってなんて面倒くさいんだ。

 なんて考えていると、
「はい、弘美ちゃん」
 何か手渡された。
 広げてみると……。
「エプロンじゃない……」
「そ、夕食の支度のお手伝いね」
「な、なんでえ! 今まで、そんなことさせなかったじゃない」
「お料理は、女の子のたしなみよ。お手伝いしてもらいながら、少しずつ教えていくから
ね」
 そんなの男女不平等だよ。
 男が料理したっていいんだから。
 女の子だからっている理由だけで……。
「はい、はい。お台所へ行きましょう」
 しかし、母さんには通用しないみたい。
 ヴィーナスじゃないけど、このあたしを女の子として人前に出しても恥ずかしくないだ
けの躾をしようと一所懸命なのだ。
 ほとんど強引に台所へ連れていかれて手伝いをさせられるはめになった。
 それから包丁を持たされて、下ごしらえとしてにんじんやら肉などのカットをやらされ
た。

 手伝いをすること小一時間。
 そのうちに三々五々家族達が帰ってくる。
「母さんのお手伝いか。弘美ちゃん、えらい!」
 そう思うなら兄さんも手伝えよ。
 しかしそれっきりリビングに行ってしまった。
 母も兄弟達には手伝わせる気はないようだ。
「いいわ。弘美ちゃん、テーブルにお皿を並べて頂戴」
「うん……」
 すでにテーブルには皿や茶碗が重ねて置いてある。それを各自の前に並べていく。
「それじゃあ兄さん達を呼んできて」
 兄弟は全員帰ってきていた。
 母の家庭方針で、食事時間は午後七時と決められていた。
 家族はそれまでに帰るか、遅くなるときは必ず連絡することになっていて、全員ちゃん
と守っていた。そういった物事のけじめには、幼少の頃から厳しい母だったからである。

11
再発・再入院
2019.12.24
○月○日 再発・再入院

 それからしばらくは安寧な生活が続いていた。

 入院生活で体力減退して、仕事をする気力もないし……。
 ともかく体力の回復に努めていた。

 退院からおよそ二ヵ月後。

 再び、食べたものを吐いてしまった。
 腸閉塞の再燃であった。
 また、敗血症か?
 例によって、

 胃に何か入っていると嘔吐。
 胃が空になると激しい痛み。

 繰り返されていた。
 これはもう入院ということが明確だったので、最初から入院の準備をして行った。


 病院を変えて、再入院となった。
 無理を言って退院した前回の病院には行きづらかったから。
「だから言ったでしょ。退院はまだ無理だったのよ」
 と言われたくなかったから。
 病名も確定できないくせに……。


 またしても入院である。
 例によって、静脈内点滴そして検査尽くめの日々の再開。

 尿検査、血液検査、レントゲン、超音波診断、CTなど。
 前回と同様の検査が実施されたのだが……。
 さらにより精査に調べるために、前回の入院では行われなかった検査が実施された。

 実施されたのは、ちょっと変わった大腸検査である。

 リアルでX線映像の見られる、TV-X線撮影装置に乗る。
 お尻からバルーンの付いた管を挿入される。
 造影剤を注入され、さらに腸管を膨らませるために、空気を送られる。バルーンは空気
や造影剤が漏れないようにするためのものである。
 気持ち悪い……。
 しかも、じっとしているだけじゃないのである。
 診察台の上を、右向いたり、左を向いたり、仰向け、俯け、と動き回って造影剤がまん
べんなく腸管内に行き渡るようにしなければならないのである。
 腕には点滴の針、お尻には管を挿入された状態で、動き回るのは苦労する。
 検査技師は、簡単に、
「今度は俯きですよ。はい、そこでじっとしてくださいね。撮影します」
 と言ってくれたりするのである。
 ほんとに疲れます。
 そして検査が終わったら終わったで……。

 造影剤や空気を注入され膨張した状態で、バルーンを抜いたらどうなると思いますか?

 想像したくないけど、悲しい現実です。
 バルーンを挿入したまま、トイレへ直行。
 看護師にバルーンを抜いてもらうと……。

 ほとほと疲労困憊状態で病室へ戻ります。
 その後も何回かトイレへ行くが、造影剤が残っていて乳白色のどろりとしたものが出て
くる。
 その日は、一日死んでいました。

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