銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 IX
2019.12.07


第四章 皇位継承の証


                 IX

 軍部統制官という官職に就いたことで、宮廷の一角に執務室を与えられたアレックス。
 まず最初に行ったことは、艦隊の予算配分状況を調べさせたことである。今は、想定さ
れる総督軍・連邦軍との戦闘が避けられない中で、現在予算をどれだけ消費しどれだけ残
っているかを把握しておかなければ、いざ戦争という時に予算不足で艦隊を動かすことも
できないという事態にもなりかねない。
 その作業は、次官として配属された新任の武官に当たらせた。
 やがて報告書を見たアレックスは驚きのあまり言葉を失ったくらいである。
 一艦隊あたりの予算がべらぼうな額だったのである。
 アレックスも共和国同盟軍や解放軍を統率しているから、軍政部長のルーミス・コール
大佐の報告を受けて、どれくらいの予算が掛かっているかを知っている。
 ところが銀河帝国軍のそれは、共和国の三倍から四倍もあったのである。
 これはどういうことかと次官に尋ねるアレックス。
 委任統治領や荘園領以下城主に至るまでの何がしかの土地を与えられている高級貴族の
子弟や、土地を持たない下級貴族まで、爵位を持つ者のほとんどが、将軍として任官され
ているという。しかも同じ階級ながら貴族というだけで、破格の給与が支払われていると
も。
「貴族による、軍部予算の食い潰しじゃないか」
 階級に見合った仕事をしてくれるならまだ許せる。しかし戦闘訓練も行ったことすらな
い将軍が、艦隊を統率などできるはずがない。いざ戦争となれば、艦隊を放り出して一番
に逃げ出すだろう。
 役に立たない金食い虫となっている貴族を軍部から放逐する事が、アレックスの最初の
大仕事となった。
 人事を握っている軍令部評議会に対し、来年度から貴族を徴用することを禁じ、現在任
官している貴族将軍の給与も段階的に引き下げるように勧告した。軍部統制官の権限であ
る予算配分をカットすればそうせざるを得ないであろう。
 当然として貴族達の反感を買うことは目に見えているが、誰かが決断して戦争のための
予算を作り出し確保しなければ、銀河帝国は滅んでしまうことになる。
 まさか帝国は戦争が起これば、戦時特別徴収令などを発して、国民から税金を徴収する
つもりだったのか? それでは民衆の反感を買い、やがては暴動となってしまうじゃない
か。
 アレックスは、あえて憎まれ役を買って出ることにしたのである。
 続いて、統合軍作戦参謀本部に対して、大規模な軍事演習を継続して行うように勧告し
て、演習のための予算を新たに与えた。予算の無駄使いのないように監察官も派遣した。
 そして、統合軍宇宙艦隊司令部に対しては、新造戦艦の建造を奨励して、老朽艦の廃棄
を促進させた。工廟省には武器・弾薬の大増産を命じた。
 軍人なら艦を動かし、大砲をぶっ放したいと思うはずである。しかし、これまでは貴族
達の予算食い潰しによって演習もままならず、大砲を撃ちたくても肝心の弾薬がないとい
う悲惨な状態だったのである。まともに動けるのは、辺境警備の任にあって優先的に予算
を回されていたマーガレットとジュリエッタの艦隊だけであった。
 すべては起こりうる戦争に向けての大改革である。
 後に【統制管大号令】と呼ばれることになる一連の行動は、貴族達の大反感を買うこと
になったが、一般の将兵達からは概ね良好にとらえられた。


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あっと!ヴィーナス!!第三章 part-1
2019.12.07


あっと!ヴィーナス!!


第三章 part-1

 夜が明けた。
 これからの将来を案じてほとんど眠れなかった。
「弘美ちゃん。朝ですよ」
 朝はいつも低血圧だった。
 だから誰かに起こされる。ほとんどが武司兄さんだが……。
 あれ? 何で母さんが起こしにくるの?
 何せ六人分の朝食の支度やその他もろもろ、主婦の朝は忙しいから、起こしにこれる状
況ではないはずなのに。
「早く朝食を食べないと、学校に遅れますよ」
 と、やんわりとやさしく起こそうとしている。まるで女の子を起こすように……。
 女の子?
 あ?

 がばっ! と飛び起きて確認する。
 髪……長い。
 胸……ある。
 あそこ……ない。(涙)
「あーん。やっぱり夢じゃないよ……。女の子のままだよー」
 忙しい母さんが、わざわざ起こしにきたのはそのせいだったのね。女の子の部屋という
ことで、兄さん達は遠慮しているようだ。
「何を今更なことを言ってるんですか。ほらほら、早く着替えなさい」
 と、パジャマを脱がされ、素っ裸に……。
 うーん。この姿は兄さん達には見せられないよなあ……。
 ここにいるのは母と娘、女同士だからいいんだけど……。産みの親とはいえ、あまり裸
は見られたくないな。
 しかし母は一向に気にしていない。昨日のようにブラジャーとかの下着を着せられる。
 ブラジャーを着用しはじめて二日め。そうそう慣れるものではない。どうも窮屈な感じ
がする。
「いいわね……。じゃあ制服を着なさい」
「これって、栄進の女子制服じゃない。ヴィーナスがくれたやつ……」
「当たり前でしょ。女の子なんだから」
「これで学校に行くの?」
「大丈夫よ。ヴィーナスさんがおっしゃってたじゃない。ご近所さんから学校関係者まで、
弘美ちゃんに関わる人々の記憶をすり替えたって。戸籍も女の子になってるしね」
「そんなこと信じられないよ」
「女神さまなんだから間違いないわよ。今朝のゴミ出しの際に、近所の奥さんと話してい
て、弘美ちゃんの話題になるようにそれとなく誘導したら、『弘美ちゃんて、とても可愛
いいお嬢さんね。うらやましいわ』って言ってたから」
「ほんと?」
「だから心配しなくてもいいのよ。学校の先生やお友達も、記憶をすり替えてあるはずだ
から、安心して女の子として当校できるわ」
「ほんとかなあ……」
 この目で確認するまでは信じられない。なにより信じて女子制服で登校して、以前のま
まだったら、それこそ一生笑い草にされてしまうじゃない。
 気が思いよお……。
 なんて言ってるうちに、すっかり女子制服姿になっていた。
 母さんは着せ替え人形が得意?
「さあ、下へ行きましょう。みんなが待ってるわ」
「待ってるって?」
「可愛い弘美ちゃんを一目見てから、出かけるつもりみたいね」
「そんなのないよ。あ、あたしに構わず行ってくれりゃいいものを」
「そんなこと言うんじゃありませんよ。せっかく家族愛に燃えているんだから」
「結局さらしものにされるだけじゃない」
「弘美ちゃん……」
「いいよ、もう……。どうせ避けられない運命なんだから、串刺しにでも何でもしてよ」
 といいながら鞄を手に取る弘美だった。
「そうそう、何事もあきらめが肝心よ。昨日も言ったけど、一度その姿を見せれば慣れち
ゃうから」


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