あっと!ヴィーナス!!第五章 part-6
2019.12.30

あっと! ヴィーナス!!


第五章 part-6

 ええと……。どれかな……。
 昨日と今日と買ったばかりの新品衣料の中からパジャマを探し出す。昨日着用したもの
はすでに洗濯機の中だ。以前なら二三日は同じのを着ていたりしたが、女の子としては毎
日着替えるようにとの厳命だ。だから洗濯サイクル、乾きにくい雨の日のことをも考慮し
て、最低でも後三着はあるはずだ。
「これかな……」
 可愛い花柄のネグリジェだった。
「ん……。パス!」
 どうも、てるてる坊主のネグリジェは敬遠したい。
 整理好きな母だから、同じ物をあちこちばらばらにしまうことはしない。当然、これの
下が……。
 胸元に華やかなレースが施されたネグリジェだった。
「……。つぎね」
 さらに下を探る。
 肩紐式のストレートなスリップドレスのネグリジェだった。
「肩紐な分、胸の膨らみがくっきりとでそう……パス」
 さらに下を探る。
 透け透けとは言わないが、ピンクのナイロン製のネグリジェだった。
「こいつは暑い夏には着れないね」
 さらに下を探る。
 もうなかった……。
 …………。

 ということは、パジャマが一着にネグリジェが四着というわけか……。
 もろ母の好みで選んでるというところ。
 母はネグリジェ派だった。
 もっとも結婚していて、旦那との夜の相手をするには、ネグリジェの方がなにかと都合
がいいからに違いないが……。

 はあ……

 思わずため息が洩れてしまう。
 シーツがよけいに汚れるからと母がうるさいので、裸で寝るわけにもいかない。
「しようがない……こいつでいいや」
 一番最初に取り出した花柄のネグリジェにした。

「しかし……今日も一日、ほんとに疲れたよ」
 朝目覚めた時から今この時まで、緊張と羞恥心との連続で、ひとときも気の休まること
はなかった。
 ベッドに潜り込み祈る。
 朝目覚めたらすべてが元に戻っていますように。


第一部 完

 引き続き第二部をお楽しみください。

11
生活保護申請と自己破産 その1
2019.12.30

○月○日 生活保護申請と自己破産 その1


 長い入院生活によって、いろいろとやらなければならない事が山積みだった。
 まずは保健所に特定疾患「クローン病」の認定申請だろうか?
 今後想定される再発に対して医療費免除は必要不可避だからである。
 これ以上の治療費の出費は痛い。一回の入退院だけで、軽く30万円を超えるからだ。そ
れが何度も繰り返される。しかし入院費滞納してては、認定申請のための医師の診断書が
貰えるかは未知数である。
 だが、保健所の申請は止めて、生活保護を受けることにする。

 そして、市役所に生活保護の申請である。難病のクローン病を抱えながら、度重なる入
院によって仕事先から解雇を言い渡されて収入が閉ざされており、入院治療費が支払えな
い。税金やローンの支払いも滞っていた。
 しかし自宅があり銀行ローンを支払っているということで認定が降りないことを説明さ
れた。
 そして、預貯金合わせて所持金3万円以上あると駄目ということも念押しされた。


 入院費を払うために消費者ローンなどにも手を出して多額の借金を抱えており、もはや
返済不能となっていた。

 残る手段は、自己破産しかない。

 法律相談センターで債務整理を弁護士と相談。相談無料の三十分以内で、自己破産する
ことに決めて、その日の担当弁護士に法律の手続きをお願いすることにした。
 弁護士に支払うべき十万円ほどの着手金が必要だったが、法テラスという法律互助会組
織に申請して決済され、月々5千円の支払いで済むことになった。

 まずは自己破産の申請書類の作成である。

① 債務のすべての洗い出し、どこのローン会社にいくら、どこの消費者金融にいくら、と
こと細かく書き出す。
② 債務超過に陥った理由書き。これはもちろん診療費の支払いをするために借金したこと
が主な理由である。長期の入退院によって勤めていた会社を解雇され無収入になったこと
も。
③ 自己所有のあらゆる財産目録。手持ち金、預貯金、自動車等の動産、宝石などの高額商
品(概ね10万円以上)、犬猫、その他諸々。
④ 前年度の所得証明書。
⑤ 住民票(発行6ヶ月以内)
⑥ 実印と印鑑証明。
⑦ そして誓約書(もう二度と借金を重ねません)
⑧ その他諸々の書類。

 実は、ここへきて住宅ローンの督促状や最後通告書などが届いていた。
 ローン会社は二種類あった。通常の銀行ローンの他に、年金公庫融資という公的なもの
だ。その年金公庫融資分が、ついに債務管理団体に債務が移された。債務の一括返済の督
促状と共に、期限までに返済されない場合、競売に掛けられるとの通告書が届いた。
 競売となれば自宅は二束三文の捨て値となる。
 残る銀行ローンの担当者と相談して、自宅売却することにした。もちろん自己破産の手
続きを進めていることを伝えた。
 自宅売却のための不動産会社も紹介された。


 数日後、弁護士から連絡があって、自己破産の審理が開始されたとのこと。

 破産手続きが開始されると、一定の資格を利用することが制限される。
 例えば、弁護士・司法書士・宅地建物取引主任者などの公的資格を取得することや、資
格取得者はその資格が使えなくなる。
 また、居住制限や通信の秘密の制限もなされる。

 破産手続きとは、破産者の財産を換価処分して、それによって得た金銭を債権者に弁済
または配当するという手続き。換価処分しても債務が充当できなければ、残りの分は返済
の義務が生じる。
 法人では、破産した法人が消滅するので、債務の主体が消滅するので問題はない。
 個人での破産ではすべての債務を返済できるはずもなく、生きていく金も必要がある。
 そこで免責という、もう一つの手続きが同時進行で進められていた。

 もう一度確認、自己破産では免責の決定が受理されるまでは、債務はなくならない。

 弁護士から連絡があって、家庭裁判所から招聘があったのことで、裁判所で待ち合わせ
る。
 今日は、自己破産の免責についての説明があった。
 自己破産しても、債務返済の義務は無くならない。一時的に返済猶予が与えられただけ
だ。
 免責の決定が出て、はじめて債務や資格停止処分(復権)が帳消しになる。
 但し、未払い税金や健康保険料などの公的債務は免責にならない。
 また、ギャンブルや投資などによって負った債務も免責にならない。


 自己破産決定は、官報に載る。
 その官報を見て、ローン会社から甘い勧誘が来るようになるので、要注意だ。
「自己破産した方にでも、お貸し致します」
 という葉書が度々送られてきたものだ。

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