響子そして(二)覚醒剤
2021.07.06
響子そして
(二)覚醒剤
離婚調停が成立し、わたしは資産家の祖父を持つ母親に引き取られる事になった。
自宅は、祖父が建ててくれたものである。当然、母親はそのまま自宅に住み、父親
は愛人の元に去って行った。
母子家庭になったとはいえ、祖父の資産で裕福な生活を続けられた。父親がいない
のを可哀想に思い、以前にも増してやさしくなった母親の下で、それなりに幸せな家
庭を築いていた。
その後、母親にはいろんな男が言い寄ってきた。祖父の資産が目的なことは明らか
であったので、母親は突っぱねていた。息子であるわたしに対してもやさしく近づい
て来る者も多かったが、当然わたしだって御免こうむる。
しかし、ついに母親はある男の手中に落ちた。
母親は、その男に夢中になった。
男を家に迎え入れ、毎夜を共にするようになった。
わたしは、財産目当てのその男を毛嫌いし、母親に早く別れた方がいいと言った。
懇願した。
しかしいくら懇願しても、母親は言う事を聞かなかった。
やがて男は、水を得たように散財をはじめた。祖父から譲り受けた資産を食い潰し
ていった。それでも母親は、別れたがらなかった。
貞操だった母親がこうも変わるはずがない。
不審に思ったわたしは、小遣いをはたいて興信所を使って、男の素性を調べはじめ
た。
男は暴力団に所属している覚醒剤の売人だった。
母親が離婚訴訟で四苦八苦している時に接近し、
「この薬を飲めば疲れが取れますよ」
と騙して覚醒剤を渡し、言葉巧みに母親を術中に陥れたのである。
覚醒剤の虜となった母親は、その男のいいなりになった。
ある夜。母親の寝室に忍び込んだ。
「さあ、今夜も射ってあげようね」
覚醒剤を母親の白い腕に注射する男。まるでそれを待っていたかのように母親の表
情が明るくなった。
「ああ……」
覚醒剤を打たれた母親は、やがて虚ろな眼差しになり、
「あなた……愛しているわ。抱いて」
と、男にすがりつくように抱きついた。
貞操を守り続けてきたはずの母親の変貌ぶりが信じられなかった。
その身体に男が重なっていく。
その柔肌を男の手が蛇のように撫で回していく。
ふくよかな乳房を弄ばれ、女の一番感じる部分に触られる度に、歓喜の声を上げる
母親。
「お願い、入れて。せつないの、早く」
「なにをしてほしいんだ」
「あなたのアレをわたしに入れて」
「アレとはなにかな」
「お・ち・ん・ち・んよ。お願いじらさないで……」
「もう一度言ってみな」
「あなたのおちんちんをわたしのあそこに入れて」
「そうか……入れて欲しいか」
「お願い、早く入れて」
わたしは、淫売婦のように男の言いなりになっている母親の姿をこれ以上黙って見
ていられなかった。たまらなかった。
気がついたら、わたしは近くにあった電気スタンドを手に握り締め、ベッドの上の
男を襲っていた。
ベッドの白いシーツが、男の鮮血で染まった。
裸の母親の身体にも血が飛び散る。
それでも構わず、男の頭を何度も何度も電気スタンドで殴りつける。
男はベッドから、どうっと落ちて床に倒れ動かなくなった。
はあ、はあと肩で息をし、母親の方を見る。
自分の愛する男が、目の前で殺戮されたのに、少しも動揺していなかった。
やがて母親は擦り寄ってきて、あまい声で囁くようにねだった。
「抱いて……入れて、はやく。もう我慢できないの」
両腕をわたしの背中に廻すように抱きついてくる母親。
完全な覚醒剤中毒症状だ。
意識が弾き跳んでしまって、愛人と自分の息子との区別すらできなくなっていた。
男に抱かれて、ただ愛欲をむさぼるだけのメス馬に成り下がっていた。
こんな惨めな母親の姿は見ていられなかった。
わたしは、その白くて細い首に手を掛け、力を入れた。
「く、くるしい……。ひ、ひろし」
首を絞められて息が詰まり、正気を取り戻してわたしの名を呼ぶ母親。
しかし、わたしは力を緩めなかった。
わたしの腕を振り解こうとする母親のか細い腕にあざとなった数々の注射痕が痛々
しい。
涙で目が霞む。
「ご・め・ん・ね……」
母が、かすれながらも最後の力を振り絞って声を出していた。
それが母親の最後の言葉だった。
死ぬ寸前になって、自分のこれまでの行為を息子のわたしに詫びたのだった。
母親は、息絶えベッドに倒れた。
わたしの目に涙が溢れて止まらなかった。
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特務捜査官レディー(二)ニューヨーク市警
2021.07.06
特務捜査官レディー
(響子そして/サイドストーリー)
(二)ニューヨーク市警
そして旅立ちの日。
薫の母が空港ロビーまで見送りに来ていた。
「そうやって二人で一緒にいるところを見ると、まるで新婚旅行に出かけるカップルみたいね」
「あはは、やっぱりそう見えます? 実は俺もそう思ってたんですよ」
「何言ってんのよ。もう……」
思わず赤くなる薫だった。
「おまえが本当の女の子だったら、敬くんとそういうことになっていたと思ってるんだけどね」
「お母さん。それは言わない約束でしょ」
「研修で行くのが目的じゃなくて、本当は性転換手術目的だったりしてね」
「え? 薫、そうなのか? 日本じゃほとんど絶望的だから」
「そんなはずないじゃないの。馬鹿」
「でも一応言っておくわ。わたしは、性転換することには反対しないから、もしその気になったら遠慮しないでね」
「うん。わかった……」
やがて搭乗手続き開始のアナウンスが聞こえた。
「じゃあ、敬くん。薫をお願いね。あなただけが頼りなんだから」
「まかしておいてください」
薫の母に見送られながら搭乗ゲートを向かう二人だった。
およそ九時間の長丁場の末に、ニューヨークのケネディー空港に到着。
こちらのことは、すべてニューヨーク市警が手筈を整えているはずである。
とにかく市警本部へと向かうことにする。
ニューヨーク市警本部。
本部長オフィスに、研修の挨拶をする二人。
恰幅の良い中年の本部長と面会する。
『よく来てくれたね。長旅で疲れただろうし時差もある。今日明日はゆっくり休んで、時差を克服し体調を整えてくれたまえ』
満面の笑顔だった。
『ありがとうございます』
『捜査にはかなりの腕前と聞いているよ。その手腕を発揮してニューヨーク市警においても、犯罪撲滅に協力してくれたまえ』
『恐れ入ります』
『それじゃあ、勤務は明後日ということで頼むよ』
『はい、判りました』
『君達の生活の場となる宿は、警察官舎の夫婦寮を宛がっておいた』
『夫婦寮ですか?』
思わず見合わせる二人。
『君達は恋仲と言うじゃないか、別に不都合はないだろう。独身寮の空きが少なくてね、丁度夫婦寮が開いていたので、そうさせてもらったよ』
『ですが、私たちは……』
『いや、皆まで言わなくても判っている。佐伯君は男性だけど、性同一性障害者なんだってね。それで女性の姿でいると……。あ、いや。恐縮しなくてもいいよ。日本じゃどうだか知らないが、アメリカではそういった人々に対する理解度は高いからね。ある州では同性でも結婚を認めているくらいだから。当警察署では君を女性として扱うことにしているから』
『本当ですか?ありがとうございます。感謝します』
薫が目を爛々として輝かせている。
日本では、性同一性障害ということはある程度認められつつあるが、実際にはまだはじまったばかりというところだ。
それから数時間後、署内の挨拶まわりを済ませて外へ出てくる二人。
「さて、日も高いし、ニューヨーク観光といきましょうか」
「俺は宿舎で眠りたいね」
「何よお、新妻を放っておくつもりなの?」
「おいおい。新婚旅行に来たんじゃないんだぞ」
「いいじゃない。二人きりの時くらい、新婚気分でいたって。警察官舎だって夫婦の部屋だって言ってたじゃない」
といいつつ敬に擦り寄ってくる薫。
「ちぇっ。好きに考えてろ」
「うん。好きに考える」
というわけで、仲良く腕を組んで新婚気分でニューヨーク観光に出歩く二人だった。
意外にもニューヨーク市警のミニパトは、一人乗りがやっとの小型のオート三輪車だった。NYPD POLICEの文字と市警マークとがブルーカラーの車体にペイントされている。
「あ! 信号無視したわ」
「おいおい。嘘だろ」
何と警察官の乗るミニパトが、目の前で信号無視して走り去ってしまったのである。通行人もそれが日常茶飯事な行為みたいに平然としている。
ニューヨークのトイレ事情も最悪である。どの観光ガイドにも書いてあるが、探して見つかるものでないことが、現地に行った人の異口同音である。
また公衆トイレは安全対策上使わない方が無難だ。悪餓鬼に入り口を塞がれて他の人間が入れないようにして、中で何があっても助けにきてくれない状態となる。金を奪われるくらいならまだいいが、女性だったらやりたい方だい輪姦されてしまう。白昼堂々とそれが行われる。だからガードマン付きのトイレがあったりして、申し出れば鍵を開けてくれるところもある。だがそのガードマンが襲ってきたらどうしようもない。鍵はガードマンが持っているから完全な密室状態となる。
地下鉄は、どこまで乗っても1.5$だ。日本のように区間運賃というものがない。以前は恐い汚いというイメージがつきまとっていたが、最近は治安改善の努力がなされてかなり健全になってきている。たまに空き缶を振って「Give me help」とか言って寄ってくる奴もいるが無視するに越した事はない。
バスも1.5$でどこまでも行ける。ただしマンハッタンは一方通行が多いので、行きと帰りではバスストップの場所が違うので要注意。
タクシーに乗るなら、ニューヨーク市公認の車体を黄色に塗ったイエロー・キャブに乗る事。チップは料金の10から15%、これが1$に満たない時は1$支払う。ただし、出稼ぎの運転手も多く、ホテルなどの名前だけでは通じない事も多いから住所は把握しておくことが肝心だ。
日が暮れはじめた。
「そろそろ宿舎に戻るとするか」
「そうね。本当はマンハッタンの夜景も見たい気もするけど……」
「んなもん。いつだって見られるだろう。俺はもう眠たいの! どうしても見たいというのなら一人で見るんだな」
「あのね、ニューヨークの夜の一人歩きがどれだけ危険か知ってるくせに……。判ったわよ。戻るわよ。一人で見たってちっとも面白くないだろうし」
「どうせマンハッタンの夜景見るなら、どこかホテルの展望レストランかなんかで、ドレスアップしてディナーしながら優雅に眺めたいよ」
「あ! それいい。いつにする?」
「こっちでの最初の給料が出たら」
「判った。約束だよ。ホテルでディナー」
*注 文中の料金などは執筆当時です。
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