筋痛症?筋無力症?
2019.12.28

○月○日 筋痛症?筋無力症?

 ある朝のこと。
 目覚めた私は、起きようとしたが身体が動かなかった。
 全身に痛みが走る。

 まさか金縛りか?

 寝起きなどに良く起こると言われる。
 医学的には睡眠麻痺と呼ばれる睡眠時の全身の脱力と意識の覚醒が同時に起こった状態。
不規則な生活、寝不足、過労、時差ぼけやストレスなどから起こるとされる。 脳がしっ
かり覚醒していないため、人が上に乗っているように感じる、自分の部屋に人が入ってい
るのを見た、耳元で囁かれた、体を触られているといったよう幻覚を伴う場合がある。こ
れは夢の一種であると考えられ幽霊や心霊現象と関連づけられる原因になっている。 た
だし金縛りの起きる状態がほとんど就寝中であることから学者の説明は睡眠との関係につ
いてである。覚醒状態においての「金縛り」というものについては科学的にはほぼ未解明
であり、精神的なものに起因するとされることも多い。(Wikipedia 金縛り)

 一応目は開いていて、覚醒はしているみたいなのだが……。
 しばらくじっとして待ってみることするが、一向に回復の兆候は現れなかった。
 なかなか動かせない状態が続いていたが、いつまでもそうしているわけにはいかなかっ
た。
 普通、寝起きには膀胱に尿が溜まっていて、それで目覚めることもあるわけだ。

 トイレ……。

 これはもう緊急事態である。
 私は、必死になって身体を動かそうとした。
 しかしなかなか動かない。
 やがて我慢の限界を迎える。

 失禁してしまったのである。
 むなしく布団に世界地図が描かれた。
 笑い事ではない、これは異常事態である。

 とにかく身体を捻じるようにして、ベッドから墜ちるように出て、這いずりながらトイ
レへ行く。
 這いずりながら台所へ。
 喉が渇くが、水を飲むと口の中がヒリヒリと痛む。
 口内炎か?

 病院へ行くべきなのだろうが、相次ぐ入院で手持ち金も預貯金も底をついていて行くに
いけない状態。
 一回の入院で、2割負担でも月20万円から30万円もかかるのだ。
 高額医療費保障制度を使っても、月4万円余前後の負担となるが、治療費の領収書を提
出してから、3か月後の支払いとなる。入院する前に手続きして前払いしてもらう方法も
あるが、そんな体力はない。そもそもまともに歩けないのだから。

 もうしばらく我慢して様子を見よう。

 身体の自由が利かないので、ベッドサイドにワゴンを置き、飲料水や鎮痛薬などを揃え
ておいた。

 不安ながらの睡眠には、悪夢を呼び起こす。
 見る夢、見る夢、摩訶不思議な夢が続く。


 後日に判ったことは、全身性エリテマトーデスは急性期に、筋肉痛・関節痛を引き起こ
すという症状だったのではないか。

クローン病?
2019.12.27

○月○日 クローン病?

 とにもかくにも……。
 クローン病である。

 病名が確定すれば治療がはじまるのだが、クローン病には明確なる根治治療法はまだ確
立されていない。
 いわゆる対症療法しかない。
 腸が炎症を起こして腸閉塞となっているわけだから、まずは腸に休養してもらわねばな
らない。
 そのための絶飲食であり、中心静脈点滴によって、高カロリー輸液を滴下して栄養補給
を行う。
 約800キロカロリーの輸液を1日2パック使用する。都合1600キロカロリーで、
1日に必要なカロリーはこれで補える。もちろんナトリウムなどの電解質やビタミンも必
要量含まれている。
 抗生物質や抗がん剤なども投与される。

 実に退屈な日々が続いていた。
 腸閉塞だからといって、手術でお腹を切り開いて閉塞部分を治すわけでもないし、これ
といって有効な治療方法もない難病である。
 ただひたすらに点滴で栄養補給を続け、薬で腸の炎症を抑えて閉塞が治るのを待つだけ。
 時折、レントゲンやCTで状態変化の具合を調べるくらい。
 ただただ、ベッドの上に横になって時間の過ぎ行くのを待ちぼうけの日々。
 何もすることがないので、携帯電話で小説をダウンロードして読んでみる。
 西村京太郎「十津川警部の旅行ミステリー殺人」
 内田康夫「旅情ミステリー殺人シリーズ」
 一冊あたり5~8百円くらいであるが、時間潰しには丁度良い。
 病室では携帯電話の使用禁止が原則である。
 しかし、声を出して電話したり、相手の声が漏れるわけじゃなし、小説を静かに読むく
らいはいいんじゃない?
 見逃してくれるやさしい看護師もいれば、今度見つけたら没収しますなどというお堅い
看護師もいる。
 昼間だと頻繁に看護師がやってくるので、こっそりと読むには夜中ということになる。
 昼間に寝て、夜に起きているという、昼夜の逆転が起こり始める。仕事に就いているわ
けではなく、一日が丸ごと自由時間なので可能なのであるが。
 毎朝4~5時頃に、血糖値の検査がある。たいがいその時間帯は起きている。
 高カロリーの輸液を点滴しているので、血糖値を常に把握しておかなければならないら
しい。
 指先を針で刺して血を採集する。毎回痛い思いをするが一瞬のことである。
 さらに1週間に一度、血液採集もある。

 やがてお待ちかねの、経口食事療法がはじまる。
 腸の炎症が治まり、腸閉塞が改善されたかどうか、ちゃんと食事が摂れなければ、退院
はできないので重要である。
 消化器系病症の定番メニューコースである重湯(十倍粥の上澄み)からはじまる。
 急転直下のごとく、回復してゆく。
 重湯が三部粥になり、五分粥、八分粥。そして全粥になる。
 ここまでくれば、後は退院の機会を諮るだけである。

 最後に一通りの検査を行って異常が見つからなければ退院ということになる。

 そして無事に退院となったのである。
 おめでとう!!

 とは言っても、難病のクローン病である。
 完全治癒したというわけではなくて、症状が安定している時期(緩解)に入ったという
だけである。
 今後も再燃・再発を繰り返し慢性の経過をとることもある。
 これ以上病院での治療のしようがないので、自宅療養に変えて投薬と栄養管理に委ねる
ということである。
 規則正しい食事と睡眠を取りましょうというわけである。


 それからしばらく平穏無事な毎日が続いた。
 入院生活も通算で6ヶ月を越えて、ずっと病院のベッド生活だったので、体力も落ちて
足の筋肉が痩せ細っていた。
 早朝と夕刻の散歩を日課として、健康増進に努める。

 しかし……。
 そんな私を、次なる病魔が襲ったのである。

中心静脈点滴
2019.12.26

○月○日 中心静脈点滴


 やがて劇的な報告がなされる。
「クローン病ではないか?」
 という仮診断が下されたのである。
 連日のような消化管造影検査(注腸造影)や内視鏡などによる腸内検査も、これを確
定させるためのものだったのである。
 クローン病(クローンびょう、英:Crohn's disease; CD)は、主として口腔から肛門
までの消化管全域に、非連続性の炎症および潰瘍を起こす原因不明の疾患である。
 本疾患における病変は消化管の粘膜から漿膜までの全層を侵し、進行すると腸管が狭く
なる狭窄によって腸閉塞をきたすことや、腸管に穴のあく穿孔や瘻孔(ろうこう)、それ
らに膿が溜まった膿瘍ができることがある。潰瘍性大腸炎とともに炎症性腸疾患(英:w:
Inflammatory bowel disease; IBD) に分類される。
 膠原病の一つで、特定疾患治療研究事業【医療費助成制度】(対象:56疾患)の一つに
入っている難病であった。
 発症の原因不明、根治治療方法もない。
 治療は対症療法しかなく、生涯薬を飲まなければならないという難病である。

 その日から、点滴の方法が変わった。
 中心静脈点滴というものである。
 今までは、腕から点滴の針を刺していたのだが、鎖骨のところの静脈(鎖骨下静脈)か
らカテーテルを通して、心臓の近くを通る上大静脈に直接輸液を注入するという方式であ
る。脚の付け根の下大静脈から点滴を行うこともある。
 寝たきりの人なら脚からの点滴を選択できるだろうが、動き回れる健康人なら鎖骨下か
らの点滴ということになる。

 これは、高濃度・高カロリーの輸液を滴下できるようにするためのもので、腕からの末
端静脈点滴では 血管炎や血栓を起こすからである。
 血管炎を起こしやすい抗がん剤の滴下や、カテーテルを通して中心静脈の静脈圧が測れ
たり、体液量の増減やうっ血性心不全の程度を把握するのに役立つ。
 もちろん看護師にはカテーテルを通すなどの施術を行う資格がないので、当然主治医の
出番となる。
 静脈に通したカテーテルは抜けないようにしなければならないので、鈎針のようなもの
が三本ついていて皮膚に引っ掛けるようにして固定する。さらに上から固定テープを張っ
て動かないようにしておく。

 クローン病の治療薬として、メサラジン(ペンタサ錠250 等)が追加された。

 ああ……。
 それにしても、鼻からの導入管から解放されて、食事が出されるかと期待したのだが、
当分の間はお預けという状況になったのである。

 寂しい……。
小腸内造影検査
2019.12.25
○月○日 小腸内造影検査


 ともかく、入院して検査漬けの毎日が始まる。
 X線、CT、大腸内視鏡……。

 今回は、小腸内造影検査というものが新しい項目に入った。


 再び、口腔から管を挿入しての検査があった。
 ただし今回は、五メートルもの長さのある導入管を鼻から喉を通して差し入れ、造影剤
を注入して小腸をTV-X線撮像装置で撮影する検査である。リアルタイムで腸内の様子
が検査できる方法である。この管は造影剤を送るだけで、カメラは内臓されていない。

 五メートル?

 信じられない。
 そんな長いものを鼻から喉を通して小腸まで差し入れるなんて……。

 確かに小腸はとぐろを巻いて、非常に長い消化器官である。
 日本人の平均的な、その長さは6メートル以上あるといわれている。
 当然、導入管もそれなりの長さが必要なのは理解できるが……。
 実際に、鼻から差し入れるところを目撃すると、恐怖が先走る。
 管にたっぷりとゼリー(たぶん麻酔剤含む)を塗って、ゆっくりと差し入れられる。
 喉を通過するあたりでは、やはり嗚咽感が起こるが、胃内視鏡に比べれば楽である。
 するりと胃の中に入ってゆく。
 そして十二指腸へ。
 さて、ここら辺りから、苦しみがはじまる。
 小腸はまっすぐではない。
 くねくねと曲がっているから、導入管の先っぽが腸壁に当たって痛いのである。
 導入管には針金のようなものを通す穴が平行して通っているが、その針金を操作して先
っぽを自在に曲げて、小腸の屈曲に合わせるようにして、先へ先へと送り込んでいくので
ある。
 何度も何度も曲がりくねった腸壁にぶち当たる。
 痛い。
 針金を操作して屈曲を通過させる。
 また当たる。
 痛い。
 針金を操作して……。
 これの繰り返しで、少しずつ先へと送り込んでいく。
「造影剤を注入しますよ」
 所々で、造影剤を注入して撮影が行われる。

 やがて、
「今日のところは、ここまでにしておきましょうか」
 ということだった。
 やっと終わったかと思ったのだが……。
 しかし、導入管は差し入れたままだというのである。
 まだ小腸の半分にも達していないので、毎日少しずつ先へと送り込んでいくというので
ある。
 鼻から管を通したまま病室へ戻る。
 5mの管をそのままにできるのは、絶飲絶食中だから。腸内に繋がった管からは腸から
の分泌物などが常時湧き出てくるので、瓶を置いてその中に受け止める。

 その5mの管から解放されたのは、十日後のことだった。
再発・再入院
2019.12.24
○月○日 再発・再入院

 それからしばらくは安寧な生活が続いていた。

 入院生活で体力減退して、仕事をする気力もないし……。
 ともかく体力の回復に努めていた。

 退院からおよそ二ヵ月後。

 再び、食べたものを吐いてしまった。
 腸閉塞の再燃であった。
 また、敗血症か?
 例によって、

 胃に何か入っていると嘔吐。
 胃が空になると激しい痛み。

 繰り返されていた。
 これはもう入院ということが明確だったので、最初から入院の準備をして行った。


 病院を変えて、再入院となった。
 無理を言って退院した前回の病院には行きづらかったから。
「だから言ったでしょ。退院はまだ無理だったのよ」
 と言われたくなかったから。
 病名も確定できないくせに……。


 またしても入院である。
 例によって、静脈内点滴そして検査尽くめの日々の再開。

 尿検査、血液検査、レントゲン、超音波診断、CTなど。
 前回と同様の検査が実施されたのだが……。
 さらにより精査に調べるために、前回の入院では行われなかった検査が実施された。

 実施されたのは、ちょっと変わった大腸検査である。

 リアルでX線映像の見られる、TV-X線撮影装置に乗る。
 お尻からバルーンの付いた管を挿入される。
 造影剤を注入され、さらに腸管を膨らませるために、空気を送られる。バルーンは空気
や造影剤が漏れないようにするためのものである。
 気持ち悪い……。
 しかも、じっとしているだけじゃないのである。
 診察台の上を、右向いたり、左を向いたり、仰向け、俯け、と動き回って造影剤がまん
べんなく腸管内に行き渡るようにしなければならないのである。
 腕には点滴の針、お尻には管を挿入された状態で、動き回るのは苦労する。
 検査技師は、簡単に、
「今度は俯きですよ。はい、そこでじっとしてくださいね。撮影します」
 と言ってくれたりするのである。
 ほんとに疲れます。
 そして検査が終わったら終わったで……。

 造影剤や空気を注入され膨張した状態で、バルーンを抜いたらどうなると思いますか?

 想像したくないけど、悲しい現実です。
 バルーンを挿入したまま、トイレへ直行。
 看護師にバルーンを抜いてもらうと……。

 ほとほと疲労困憊状態で病室へ戻ります。
 その後も何回かトイレへ行くが、造影剤が残っていて乳白色のどろりとしたものが出て
くる。
 その日は、一日死んでいました。

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