銀河戦記/鳴動編 第二部 第十五章 タルシエン要塞陥落 Ⅳ
2021.08.23

第十五章 タルシエン要塞陥落の時





 敵旗艦シルバーウィンド艦橋。
「要塞、沈黙しました」
「うむ、予定通りだ」
「いかがなされますか? 総攻撃なさいますか?」
「いや、要塞にはこれ以上の損害を与えたくないな。戦闘中止だ! 敵司令官に通信を繋いでくれ」
「かしこまりました」
「全艦戦闘中止!」
 要塞との通信回線が開かれる。
「敵司令官が出ました」
 通信用スクリーンに、要塞司令官のガードナー少将が出ている。
「私は、タルシエン要塞攻略部隊指令のスティール・メイスン中将です」
 自分の姓名と官職を名乗るスティール。
「自分はタルシエン要塞防御司令官、フランク・ガードナー少将です」
 同様にガードナーも返答する。
「私は、これ以上の流血は無意味だと思います。なので、要塞を明け渡して貰いたい」
 単刀直入に要求する。
「要塞を明け渡す?」
「素直に出て行ってくれるというなら、こちらからは攻撃を致しません」
「攻撃をしないという保証は?」
「私を信じてもらうしかないですね。三時間の猶予を差し上げます。それまでに返答がなければ総攻撃に移ります」
「分かった。配下のものと相談して、それまでに返答する」
「三時間です」
 そう言って、通信を切断した。


 要塞会議室に集まったガードナー以下の参謀たち。
「まずは最初に言っておく。ランドール提督からは、この要塞を預かった時にいつでも放棄しても良いという言質(げんち)を頂いている」
「つまり提督は、要塞を奪取した時から既に放棄することも考えていらしたということですか?」
「その通り。要塞の必要性は、その時々の情勢によって変わるものだ」

「しかし撤退するとしても、敵が攻撃しないという保証は?」
「ない……が、信用するしかないだろう」
「再奪取は、ランドール提督にお任せしようじゃないか」
「その必要性があればですけどね」
「この要塞のことは、建設した連邦が一番良く知っている。我々の知りえない情報も握っているやも知れんからな。決定的な弱点とか」
「あり得ますね。だからこそ、投降を呼びかけているのかも」
 建設的でない意見が続いていた。
「これ以上、議論しても仕方がない。結論を出そうと思う、挙手してくれ。撤退に賛成なものは?」
 半分近くが手を挙げ、しばらく考えてから手を挙げた者を入れて過半数に達した。
「撤退に決定した」
 議場を見渡して、挙手しなかった者の表情を窺ってから、
「総員に撤退準備! 敵さんとの通信回線を開け!」

 通信回線にスティール・メイスンが出ている。
「賢明な判断を感謝する。先にも述べたように、こちらからは攻撃を仕掛けないから安心して退去したまえ」
「ありがとうございます。我々は六時間以内に撤退を完了する予定です」
「分かりました」

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2021.08.23 08:28 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十五章 タルシエン要塞陥落 Ⅲ
2021.08.22

第十五章 タルシエン要塞陥落の時





 要塞砲の発射によって、その軌跡上の無人戦闘機はすべて蒸発した。
 タルシエン要塞中央制御室。
「要塞砲、発射完了しました」
「うむ。様子を見る」
「どうでしょうか……射程内に敵さんが入っていればいいのですが」
「期待しようじゃないか」
 タルシエンの橋に消えたエネルギーの渦は沈黙していた。

 次の瞬間だった。
「タルシエンの橋に高エネルギー反応!」
「こ、これは?」
 スクリーンにエネルギー波が迫り、そして真っ白になったかと思うと、激しい衝撃が要塞を襲いブラックアウトした。立っていた者はほとんどが床に倒れている。
 管内の電源が落ち真っ暗になった。
「な、なんだ! 何が起こった?」
「主電源がショートして落ちたようです!」
「補助電源に切り替えろ! 主電源は直ちに修理にかかれ!」

「損害を調べて報告せよ!」
 やがて電源が回復して、損害報告も上がってくる。
「要塞砲が破壊されました!」
「モニターに映してみよ」
 要塞の外部TVカメラが要塞砲の様子を映し出した。
 要塞砲の反射エネルギーによって、射出口がほぼ完全に破壊されていた。
「これは酷いな。もはや使用不能だろう」
「エネルギーの逆流を防ぐために、粒子加速装置を閉鎖した方がよろしいかと」
「そうだな。そうしてくれ」

「敵の秘密兵器でしょうか? とても戦艦搭載の砲ではありえません!」
「制空権を取られた上に、要塞砲なしでは勝ち目はないか……」

「なんだあれは?」
 タルシエンの橋からゆっくりと出現したものがある。
「真っ白ですね」
「まるで氷のようですが……」
「いや、氷ですよ。本物の氷の壁です!」
「分かりました! あの氷の壁で要塞砲のエネルギーを反射させたのではないでしょうか」
「できるのか?」
「間違いありません」
「で、あれを壊せるか?」
「要塞砲を反射させたくらいですから、熱エネルギー攻撃は無理でしょうが、ミサイルのような物理攻撃なら壊せるでしょう」
「氷の壁に対してミサイル攻撃を敢行する。各レーザー砲は無人戦闘機撃墜に専念せよ」
「残存艦隊及びカーグ少佐達に、無人機は無視して氷の壁の向こう側の敵へ攻撃開始せよ」
「了解! ホスター准将に連絡」
「了解! カーグ編隊へ連絡」

 無人機による要塞への攻撃はさほどのことでもなかった。攻撃して反撃される方が痛い目に会うことになる。そのようにして外に出ていた第十一艦隊は半数に激減していた。
「氷の向こう側にどれだけの艦艇が潜んでいるかだな」

 やがて姿を現したのは、
「敵勢力、重戦艦を主体とした八十万隻のもよう」
 その兵力に驚くガードナー。
「まいったな……」
 外に出ている味方艦艇では戦力不足だった。

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2021.08.22 08:52 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十五章 タルシエン要塞陥落 Ⅱ
2021.08.21

第十五章 タルシエン要塞陥落の時





 数時間前に遡る。
 タルシエンの橋を、共和国同盟領に向かって進軍する艦隊があった。
「閣下。無人戦闘機全機発進完了しました。タルシエン要塞に向けて進軍中!」
 副長が報告する。
「よし。空母を下がらせて、氷の戦艦を前に出せ! 作戦第二弾だ」
「了解! 氷の戦艦を前に出します」
 後方に待機していた氷の戦艦と呼ばれた艦艇が前方へと移動してゆく。
「廃艦寸前の艦艇でも役に立つところを見せてやろう」
 艦隊の指揮を執るのは、バーナード星系連邦の若き英雄ともいうべきスティール・メイスン中将である。
 共和国同盟を屈服させて、マック・カーサーに占領を任せて帰国した後、クーデターを起こした際に、旧式戦艦をもかき集めていたのだった。
 その退役した戦艦の周りに分厚い氷の結晶を蒸着させ、その前面を鏡のようにピカピカに磨き上げた艦だった。
 氷の戦艦を作るには、特別な工作機械など必要はない、真空中で水を吹き付けるだけで良いので費用も格安だ。いわゆる真空蒸着である。
 水を真空中に放出すると沸騰するが、気化熱を奪われてすぐさま氷になる。つまり沸騰しながら氷になるという面白い現象を見せる。

「要塞に強力なエネルギー反応!」
 やっぱり来たかという微笑を洩らして、
「要塞砲が来るぞ! 氷の戦艦を盾にして並べろ!」
 氷を纏った戦艦が、ずらりと隙間なく並んで頑丈な氷の壁を形成させた。
「整列完了!」
 その時、要塞砲の強烈なエネルギーが氷の壁に襲い掛かる。
 真空中では氷が一瞬にして昇華し、エネルギーを吸収する。
 水の分子の比熱及び融解熱と蒸発熱は、宇宙に存在する物質で最も高いと言ってもいいくらいである。
 1gの氷を昇華(水蒸気へと状態変化)させる熱は約2,836J{ジュール}必要。
 さらにライデンフロスト効果に似たような現象を起こして、強力なバリアーが発生していた。
 ほぼ氷と塵の塊である彗星が、太陽近日点を通過して長い尾をたなびかせつつも、溶けて消え去らないのもこの現象である。

 さしもの要塞砲も氷の壁によって完璧に防がれていた。
 そのエネルギーの一部は、鏡のようになった面で反射されて、要塞の方へと向かった。

「敵さん、撃ったエネルギーが戻ってきてビックリするでしょうね」
「よし。氷の戦艦を盾にしながら、前進する! 空母は用済みだ、帰還させろ」
「了解。空母を帰還させます」
 無人戦闘機の回収予定はなかった。
 この作戦以降使用されることもないだろうから、箪笥の肥やしになるより断捨離してしまおうということだ。近くの恒星にでも落下させる予定だった。

参考 水の比熱=4.2kJ/kg・℃ 融解熱=333.6 kJ/kg 蒸発熱=約2,250kJ/kg

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2021.08.21 08:05 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十五章 タルシエン要塞陥落 Ⅰ
2021.08.20

第十五章 タルシエン要塞陥落





 銀河帝国でアレクサンダー皇太子によって、内乱が集結され統一がなった頃、タルシエン要塞では一大事が起きていた。

 タルシエン要塞内に鳴り響く警報音。
「タルシエンの橋に感あり! 何者かが橋を通過しているもよう」
「ついに来たか!」
 要塞防御指揮官であるフランク・ガードナー少将は指令を下す。
「戦闘配備につけ!」
「戦闘配備!」

「あれはなんだ?」
 タルシエンの橋から、まるで蜂の巣を突いたように、数えきれないほどの戦闘機が沸いて出てくる。
「戦闘機です!」
「カーグ少佐とクライスラー少佐に迎撃させろ!」
「すでに発艦済みです」
 無数の戦闘機群に対して、ジミー・カーグ少佐とハリソン・クライスラー少佐が出て迎撃する。
「戦闘機の数、あまりにも多すぎて計測不能です。百万機以上は軽く突破します!」
 要塞の周囲に展開していた戦艦だったが、小さな戦闘機に悪戦苦闘していた。
「だめだ! 戦艦では小さな戦闘機の相手にならない。カーグ少佐達に任せるしかないな」
 そのカーグ少佐は、戦闘機相手に奮戦していたが、圧倒的多数に苦戦していた。
 が、撃墜していく中で気が付いたのだった。
「報告! 敵戦闘機は無人だ!」
 そうなのだ。
 撃墜した敵戦闘機には人が乗っていないことが判明した。
「無人戦闘機だと?」
「おおう。有人機は一機もいねえよ」
「これではこっち側だけの消耗戦ではないですか。相手は撃墜されても人的被害はゼロです」
「なるほどな。帰還の必要のない無人機なら使い捨てだ。しかも生命維持装置や脱出装置など必要ないから、格安に大量生産できるというわけか」
「3Dプリンターで打ち出した機体に、エンジンと機関砲そして制御装置を組み込んで。はい! 一丁出来上がりですね」
「いわば百円ライター戦闘機ですか?」
「戦闘は遠隔でしょうか?」
「違いますね。プログラムをインプットされた自動戦闘でしょう」
「どういうことだ?」
「まずは設定目標に対して攻撃、進路を妨害されたら逃げるか攻撃目標を変更。最終的に燃料切れ寸前に自爆か特攻という具合です。どうやら敵さんの中に自動実行のアルゴリズムを構築できる優秀なプログラマーがいるようです」
「優秀なプログラマー? まさか例のジュビロ・カービンという奴か?」
「彼はハッカーじゃないか。綿密なプログラムなど組めるのか?」
「しかし実際に、この要塞を奪取した際にはプログラム再構築に参加してましたよね」
「そ、そうだった」

「敵さんは、この要塞の詳細を知り尽くしているからな。弱点とかもな」

「これだけの戦闘機です。橋の中のどこかに空母が潜んでいると思われます」
「だろうな。よし、一発お見舞いしてみるか。要塞砲の発射準備をしろ!」
「要塞砲発射準備!」
 陽子反陽子対消滅エネルギー砲は、銀河随一の破壊力を持つ究極の兵器である。
「陽子・反陽子加速器始動開始!」
「要塞奪取時に発射テストを行って以来だ。入念にチェックをしろよ」
「了解」
「アレックスは二度と発射することはないだろうと言っていたが、こんな形で実行することになるとはな」
「軸線上にある艦艇を下げます」

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2021.08.20 07:05 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十四章 アクティウム宙域会戦 Ⅵ
2021.08.19

第十四章 アクティウム海域会戦





 ウィンディーネ艦隊が前に突出してゆく。
 続いて本隊にも命令を下す。
「本隊も動くぞ。全艦全速前進だ!」
「御意!」
 ついに皇太子派の全軍も進軍を始めた。

 ウィンディーネ艦隊の猛烈な攻撃により、摂政派軍の中央が崩されてゆく。左右に分断され指揮系統も混乱を始めていた。
 やがて中央突破に成功したウィンディーネ艦隊が反転攻撃を開始する。
 分断されて混乱の極みに達した
「ウィンディーネに打電! 敵の右翼に砲撃を集中させよ!」
 通信士が打電する。
「了解! ウィンディーネは敵右翼に集中攻撃せよ!」
 左翼を相手にせず、右翼だけに集中すれば、対する艦数はほぼ互角となる。

 そして迂回していたマーガレット皇女艦隊が到着し、側面攻撃を開始した。
 戦闘機一機は戦艦一隻に相当する。
 ここに至って、艦数で皇太子派軍は俄然優勢となり、右翼の艦隊は壊滅に至った。
「これ以上、無駄な血を流すこともないだろう。投降を呼びかけてくれないか」
「御意!」
 残された左翼も、完全包囲される格好となり、アレックスの投降の呼びかけに応じて白旗を揚げた。
「殿下、皇太子派軍の勝利です」
 誇らしげに勝利宣言を発表するジュリエッタ皇女だった。


 摂政派軍敗北の報が、アルタミラ宮殿に届いた。
「我が軍が敗北しただと?」
 青ざめるロベスピエール公爵だが、玉座にあるロベール皇帝は何のこと? といった表情で首を傾げている。
 皇太子派軍が帝国本星に向けて進撃を開始したのを受けて、公爵は自国のウェセックス公国へと落ち延びていった。
 エリザベス皇女は、事態の収拾を図るために宮殿に留まることを決断し、アレクサンダー皇太子到着の前に、やるべき事を次々と行った。
 まずは摂政派の要人に対して、身の振り方の確認をし、ニューゲート監獄に収監されていた皇太子派の要人達を解放した。
 国民を虐げていた憲兵組織の解散。
 閉鎖されていた皇室議会の開場。
 空港・鉄道などの公共機関の解放。
 報道機関の検閲廃止と自由化など。
 そして何よりの衝撃は、ロベール皇帝の廃嫡を宣言したのである。
 退位ではなく、そもそも即位がなかったとしたのだ。そうでなければ、帝位を奪った者として処断される可能性もあったからである。

 数日後、アレックスが二皇女を引き連れてアルタミラ宮殿に入った。
「アレクサンダー皇太子殿下、マーガレット皇女様、ジュリエッタ皇女様、ご入来!」
 近衛兵が、謁見の間に通じる重い扉を開けながら宣言する。
 招聘された大臣や上級貴族、そして高級官僚の立ち並ぶ謁見の間の真紅のカーペットの上を歩いて玉座に向かう三人。
 アレックスが目の前を通る度に、深々と頭を垂れる大臣達。
 中には、摂政派に属していた者達もいたが、転身してもはや異議を訴える者は一人もいない。
 壇上への数段の階段を上り、玉座の前に立つアレックス。
 かつてロベール皇帝が着座していたが、廃嫡宣言によって空席となっている。
 玉座の脇で深々と頭を下げて、アレックスの着座を促しているエリザベス皇女。

 謁見の間の参列者を嘗め回すように見渡してから、静かに着席した。
「皇太子殿下、万歳!」
 マーガレットが高らかに唱える。
「皇太子殿下、万歳!」
 釣られる様に参列者達も続いて唱えだした。

第十四章 了

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2021.08.19 06:36 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

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