銀河戦記/鳴動編 第二部 終章 新たなる地への誘い
2021.09.02

終章 新たなる地への誘(いざな)い


 和平交渉の協定書は両国に持ち帰えられて、議会の承認と元首の裁定を受けて批准書が作成されて、再び両国で交換されて和平交渉は正式に締結された。

 数か月後、各惑星都市にて和平祝賀パレードが開催された。
 首都星トランターでは、街中をオープンカーが並んでゆっくり走り、ビルの窓々からは紙吹雪が舞う。
 それらの車に、アレックスとパトリシア、ゴードンとシェリー・バウマン、カインズとパティー・クレイダーらが乗り込んで、沿道の観客に手を振って応えていた。

 パレードを終えて、一同は統合参謀本部(旧総督府)の応接室に集まった。
「お疲れさまでした」
 誰からともなく、慰労の言葉を掛ける。
「平和は戻りました。これからどうなさりますか?」
 パトリシアが尋ねる。
「そうだな。すべての国家を集めた銀河統一連邦でも樹立してみるか?」
 アレックスが軽い気持ちで提案してみる。
「それいいですね。初代大統領は提督ということで」
「殿下、掛け持ちだと大変ではありませんか?」
 ジュリエッタ皇女が真剣な顔で心配する。
「本気にしたのか? 冗談だよ」
「でも統一できたら素敵ですよね」


 一段落して、アレックスは皇女達とアルビエール侯国のハロルド侯爵を呼び寄せて、自分の意思を伝えた。
「私は、皇位継承権第一位の権利をハロルド侯爵に譲位しようと思います」
 一斉に驚く一同。
「どういうことですかな?」
 指名されたハロルド侯爵が一番に答えた。
 皇位継承権順位は、次位のデュプロス公爵が失脚して、ハロルド侯爵が繰り上がりで次位となっている。三位はサセックス侯国のエルバート侯爵である。
 アレックスが皇位を譲るとなれば妥当であろう。
「私は、そもそも共和国同盟の人間。ある日突然、皇太子だと祭り上げられて内紛を鎮めることもした。頼られれば断りにくい性格だからな」
「しかし殿下が、皇位継承権第一位の王子であることは間違いありません」
「皇家の子息として生まれたら、必ず皇位を継がなければならないということはないだろう? 歴史的にも譲位されてきたしな。皇帝に相応しいか或いはなりたいものがなるべきだよ。私の器ではない」
 それから侃々諤々の論争となるが、アレックスは一同の同意を得ることに成功したのである。

 数日後、謁見の間に高級貴族と大臣達を呼び寄せたアレックス。
「ハロルド侯爵、前へ」
 恭(うやうや)しく壇上の前に進む侯爵。
「皆の者聞くがよい。私は、このハロルド侯爵に皇位継承権第一の座を譲ることにした」
 そして皇位継承権譲位を伝えるのだった。
 騒めく場内。
 アレックスは言葉を紡ぐ。
「皇位を譲り、この身は銀河系を離れることにした」
 銀河系を離れる?
 首を傾げる一同。
「この銀河系は増えすぎた人口を養うには手狭と言わざるを得ない。それがゆえに資源を奪い合う戦争となったのである。もはや新たなる開拓地を探すしかないだろう。その候補地として、伴銀河であるマゼラン星雲への移民開拓船団を送る。天の川銀河と大マゼラン星雲との間にたなびく帯状のマゼラニック・ストリーム(星間ガス)の流れに乗って移動する」
 それは予てより、アレックスの構想にあったものだった。
 銀河が平定された今がその時期だ。


 数年後。
 各国から資金が集められ、移民船の建造が始まった。
 大マゼラン銀河移民船団が編成され、移民に賛同した三カ国からなる総勢一億人にも及ぶ市民が乗船することとなった。
 大マゼラン銀河まで163,000光年と、天の川銀河の直系の約1.6倍もの距離となる。
 おそらく大マゼラン銀河までの間には、恒星や惑星はないだろうから途中補給はできない。
 航続距離と到達期間そして食料事情を考慮して、運航に携わる一部の人を除いて冷凍睡眠カプセルで眠ることとなった。
 その一部の人達も、船は全自動航行なので、計器をモニターするだけであり、一定期間ごとに交代してカプセル冬眠に入る。
 行く先に何が待っているか分からないため、護衛艦隊としてサラマンダー以下の五艦を含む護衛艦隊も同行することとなり、総司令官にアレックスが就任した。


 移民船は巨大であり、通常のプラズマエンジンでは微動だにしないくらいなので、初動にブースターエンジンの力を借りることになった。
「ブースターエンジン始動点火!」
 推力の高い固体燃料エンジンに点火される。
 これで初期最高速度まで一気に加速される。
「ブースターエンジン燃焼終了まであと十秒。九、八、七、六、五、四、三、二、一。ブースターエンジン燃焼終了」
「ブースター切り離し!」
「ブースター切り離しします」
 切り離されるブースター。
「プラズマエンジン(VASIMR)に点火!」
 メインエンジンは、最大比推力二十万秒という比推力可変型プラズマ推進機を搭載している。

 漆黒の宇宙を進む移民船団。
 護衛として随伴しているサラマンダーの艦橋。
「艦隊リモコン順調に作動中、順調に航行しています。冷凍睡眠カプセルの人々も健やかに眠られています」
「そうか。そろそろ自分達も冬眠に入るとしようか」
 コールドスリープ中に、恒星が発見された場合や何らかの緊急事態になった時には、自動解除モードになるように設定されている。

 移民船団には一億人もの人々が乗っている。
 こうして殆どの人々がコールドスリープに入ったまま、大マゼラン銀河へと静かに航行するのだった。


銀河戦記/鳴動編 完


 移民船団の行き先に惑星のある恒星が見つかり、冷凍睡眠カプセルから目覚める移民達。
 早速、その惑星の開拓を始めたのだが……。

 突如として見知らぬ艦隊が襲ってきたのだった。

銀河戦記/脈動編に続く

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2021.09.02 08:25 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十七章 決闘 Ⅳ
2021.09.01

第十七章 決闘





 炎上するシルバーウィンド。
「弾薬庫がやられました! 火災発生!」
「消火急げ!」
 艦内を弾薬庫へと急ぐ消火班。
 しかしあまりの惨状に消火を諦める。
「これはダメだ!」
 すぐさま艦橋へと報告される。
「そうか……これまでだな。機関停止して投降信号を打ち上げろ!」
「機関停止!」
「投降信号打ち上げます」
 シルバーウィンドから投降信号が打ち上げられる。
 それに答えるようにサラマンダーからも戦闘停止信号が上がった。
「よし。向こうも気づいたようだ。通信士は後方の艦隊に救援を頼んでくれ」
「了解しました」
 救難信号を打電する通信士。
「それと、サラマンダーと繋いでくれ」
 呼び出されたアレックスが、通信用スクリーンに出ている。
「御見それいたしました。降参です」
『いやいや。こちらも最後の切り札を使わなければ勝てませんでした』
「確かに、円盤部を切り離すなんて考えもしませんでした」
『また後日会いましょうか』
「そうですね。ではまた」
 通信が切れる。
「それでは、総員退艦せよ」
 ミサイルなどの弾薬に火が付けば、ほとんど消火は不可能である。それらには酸化剤が入っていて、水の中でも真空中でも燃え上がり爆発する。
 弾薬庫の誘爆が艦全体に回る前に脱出しなければならないようだ。
 総員の退艦が始まる。
 脱出用の舟艇に乗り込み、次々とシルバーウィンドを離れる乗員たち。
 その様子を艦橋から見つめているスティール。
「閣下もご退艦を」
 副長が促す。
「分かった」
 艦と共に自沈するという気概は持ち合わせていないので、素直に退艦に同意するスティール。
 ただ、これまで自分と共に生死の縁を渡ってきた愛着のある艦を見捨てるのが口惜しいだけだ。


 サラマンダー艦橋。
「敵艦、乗員たちが次々と脱出しているようです」
「後方の艦隊宛、救援要請が発せられています」
「そうか。なら、こちらから救援する必要はないな」
「収容するスペースもありませんから」
「こちらも救援を頼みましょう。退艦するほどではありませんが、損傷が激しくて自力航行は厳しいです」
「そうだな。そうしてくれ」
 後方に待機している艦隊に連絡する通信士。
「改めて人的被害と艦内の損傷個所を詳しく調査してくれ」
 艦内、負傷者を運ぶ兵士たち。
 担架に乗せられて運ばれる兵士、肩を貸してもらっている兵士、壁にもたれて治療を受けている兵士。
 しばらくして損害報告が届けられる。
「……以上です」
 勝利したとしても、こちらの損害も甚だしかった。
 報告書に署名して返す。

 やがてサラマンダーの円盤部と共に、救援艦隊が到着した。
 修復を終えた円盤部が前方部と合体し、本来の姿を取り戻した。
「第一艦橋へ戻ろう」
 しかし転送装置が故障していた。
「しようがない。ドッキングベイから行こう」
 重力のない前方部を空中浮遊しながら円盤部との接合部分へと向かう。
 円盤部の第一艦橋に戻ると、指揮を執っていたハワード・フリーマン少佐が出迎えた。
「お疲れ様です。艦の損傷個所は応急処置で航行可能まで修復できています」
「ご苦労様」
 パトリシアがトレーを運んでくる。
「お食事はいかがですか?」
「おお、丁度腹が減っていたんだ」
「ご無事でよかったです」
 サンドイッチを頬張りながら、指揮パネルを操作するアレックス。
「指揮権を交代する」
「アレックス・ランドール ト カクニンシマシタ。シキヲドウゾ」
「よし、全艦帰投する」
 ゆっくりと動き出すサラマンダー艦隊だった。

第十七章 了

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2021.09.01 07:42 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十七章 決闘 Ⅲ
2021.08.31

第十七章 決闘





 シルバーウィンド艦橋。
 すれ違いを終えて、後方確認をしていた副長が驚いて言った。
「見ましたか? サラマンダーの形状が変わっていました」
「ああ、居住区の円盤部を切り離したようだな。かなりの損傷を与えたようだ」
「損傷部を切り離して軽量化を図ったのでしょう。速力がどれだけ上がったかが問題ですね」
「いや。速力よりも旋回半径の方が問題だ」
「ランドール戦法ですか? ですが、艦の全長が短くなると、艦の操縦性と安定性が悪くなるのではないですか? 拳銃でも銃身の長い方が命中率が上がるみたいな。それに円盤部は回転によるジャイロ効果で姿勢安定効果を与えていましたし……」
 結論を出せないまま、オペレーターの声で中断した。
「所定の位置に付きました」
「コース反転せよ」


 両艦、反転して戦闘態勢に入った。
「どうだ? 操縦性能は把握できたか」
「大丈夫です。操作性はヘルハウンドと同等と思っていいと思います」
「そうか。機関出力は倍近くあるが、慣らし運転をしていないエンジンだ。最大出力の九割ほどにセーブしていけよ」
「了解しました」
 どういうことかというと、前方後円墳の状態では円盤部にあるメインエンジンで航行しており、前方部のロケットエンジン部は円盤部の中に格納されている状態だったのだ。いわゆる多段式打ち上げロケットを想像すれば分かる。
 おそらく進宙式後のテスト航行ぐらいしか、前方部エンジンは起動していないだろう。
「格納式三連式レールガンを出せ!」
「了解。三連式レールガンを出します」
 円盤部が接合されている時は、それが邪魔で使用不能だったのが、三連式電磁加速砲(レールガン)である。
 艦体の後部より可動式砲塔が繰り出して、レールガンを展開させる。
「レールガン展開完了!」
「超伝導発電機より、レールガンへ電力供給開始!」
「敵艦へ照準合わせ!」
「合わせます」
 砲塔が回って砲身が敵艦に向いていく。
「照準会いました」
「そのまま待て!」
 レールガンは非常用なので、発射体の弾数が少ない。
 適時的確に狙わなければ無駄撃ちになる。
「まもなく射程内に入ります」


 シルバーウィンド艦橋。
 スクリーンを指さして副長が尋ねる。
「あれは何でしょうか?」
 サラマンダーの後部に今まで見たことがなかったものが映っていた。
「拡大投影してみろ」
 クローズアップされる。
「あれは大砲か……? いや、レールガンだな」
「レールガン?」
「まずいな。レールガンにビームバリアーは無効だ」
「どうしますか?」
「敵艦の下へ潜れ! 急速にだ!」
 レールガンは艦の上側に設置されており、下に逃げれば撃てないだろうと判断したようだ。
「上部ミサイル口開け!」


「敵艦、下に潜るようです」
「なるほど、そう来たか」
「レールガンの死角に逃げようとしています」
 宇宙に上も下もないが、航行の都合上として銀河平面に対して左回転となる直交する方向を、習慣的に上としている。
「艦を百八十度ローリングさせる。急げ!」
 相手が下に潜るなら、艦を回転させて対応するようだ。
 ゆっくりとローリングを始めるサラマンダー。
 重力のある惑星上でローリングすれば大変なことになるが、無重力空間では何でもない。
「ローリング終了しました」
 回転が終了し、レールガンの射程には、ミサイル発射口が開いていた。
「撃て!」
 アレックスの下令と同時に、弾体が発射口へ、さらにミサイル貯蔵庫へと飛び込んでゆく。
 そしてミサイルが次々と誘爆を始めた。

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2021.08.31 07:16 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十七章 決闘 Ⅱ
2021.08.30

第十七章 決闘





 双方の転回が終了して向き合った。
 一旦停止して、体制を整える両艦。
「戦闘配備せよ」
 艦内に警報が鳴り響き、それぞれの配備場所へと急ぐ。
「総員配置に着きました」
「よし! 機関出力最大、全速前進!」
 アレックスの下令を復唱するオペレーター。
「機関出力最大!」
「全速前進」
 やがて前方視界を映すスクリーンに敵艦のシルバーウィンドが現れる。
「射程まで三十二秒です」
「安全装置解除」
 さらに接近する両艦。
「射程内に入りました!」
「撃て!」
 戦闘が始まるが、当然相手も撃ってくる。
 粒子ビーム砲が炸裂するが、バリアーがそれを防ぐが、僅かにビームが貫通して艦に損傷を与えた。
「損傷軽微です。戦闘には支障はありません」
 ダメコン班から連絡が入る。
「防壁が弱いな……。原子レーザー砲への回路を遮断して、バリアーに回せ!」
「原子レーザー砲を使用しないのですか?」
「使用しない。防御を優先する」
 サラマンダー型の主砲である原子レーザー砲は、今回のような接近戦には使用不能である。あくまで艦隊戦のように向かい合って撃ち合うためのものだ。
 使えないものに貴重な電力やエネルギーを消耗させるのは無駄だ。
「まもなくすれ違いに入ります」
「面舵衝突回避。左舷に攻撃がくるぞ。左舷砲塔は防御態勢を取りつつ攻撃開始!」

 側面攻撃が始まる。

 シルバーウィンド側でも、側面攻撃に対処していた。
「側面攻撃きます!」
「衝撃に備えよ。反撃開始!」
 そもそもが通常の宇宙戦艦は、舷側は攻撃力も防御力も高くない。
 戦列艦ヴィル・デ・パリスのように側面攻撃に特化した戦艦でなければだが。
 艦内のあちらこちらで火の手が上がる。
「火災発生! 消火班を急行させます」
「さすがランドール戦法というところだな。近接戦闘には一日の長ありだ」
「原子レーザー砲を撃ってこないので助かってます」
「この戦闘では使えないからな」
「まもなくすれ違いを終えます」
「ダメコン班は今のうちにダメージ箇所を復旧させよ」
 すれ違いを終えて離れてゆく両艦。
「第一次攻撃終了。引き続き第二次攻撃態勢に移る。コースターンだ」


 双方Uターンして、第二次攻撃に入る。
「今度は右舷で戦う! 取り舵で回り込め」
 相手側も呼応して右舷での戦いになる。
「撃て!」
 両艦の間に炸裂するエネルギー、激しい撃ち合いが続く。
 その一発がサラマンダー後部エンジンに直撃し、激しい火炎を噴き出す。
「メインエンジンに被弾! 機動レベル七十パーセントダウン!」
「速力が半減します」
「補助エンジンを始動!」
 メインエンジンをやられて、艦橋要員も気が気ではない。
 しかし、アレックスは冷静に次の指令を下す。
「円盤部を切り離して、私は戦闘艦橋へ移動する」
「自分も艦長として艦の指揮を執ります!」
「いいだろう。着いてこい」
 艦長席を離れてアレックスに従うスザンナ。
「円盤部の指揮は、ハワード・フリーマン少佐に任せる」
「了解! 円盤部の指揮を執ります」
 艦橋の後方にある転送装置に向かうアレックスとスザンナ。
「パトリシアは、ここで勝利祈願していてくれ」
 この戦いに作戦参謀は必要がない。
 無駄な犠牲とならないように置いておくことにするのだった。
 転送装置は、円盤部にある第一艦橋から前方の戦闘艦橋へと転送するものだ。
「円盤部切り離し準備!」
 円盤部を任されたフリードマン少佐が指揮を取り始めた。

 転送装置によって、戦闘艦橋へと送られた二人。
 アレックスは指揮官席に、スザンナは艦長席にと着席する。
 戦闘艦橋には通信統制管制室もなければ、艦隊を動かす戦術コンピューターも接続されていない。
 すべてはオペレーター達の力量にかかっている。

「こちら第一艦橋。フリードマン少佐。切り離し準備しました! これより分離作業に入ります」
 着々と切り離し作業が進む。
 ゆっくりと次第に切り離される前方部と後円部。
 いわば前方後円墳から前方部だけで行動するのだ。
「切り離し完了」
「分かった。こちらはUターンする」
 慣性で進む円盤部から離れて、敵艦へと向かう前方部。
「これより円盤部は惰性にまかせて後方に下がります」
「よろしく頼む」
 後方へと下がってゆく円盤部。
 それを見届けて、
「機関全速前進!」
 スピードを上げた。

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2021.08.30 07:21 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十七章 決闘 Ⅰ
2021.08.29

第十七章 決闘




 打ち合わせで決められた決闘の詳細の一部は以下の通り。

1、対戦場は、テルモピューレ宙域限定。
2、一艦対一艦のPVP。
3、艦種は自由とする。
4、燃料・弾薬の補給はなし。
4、行動不能となるか、宙域を出た場合は負け。
6,非戦闘員は退艦しておく。


 数日後の決闘の日。
 それぞれの基地から出立した両艦隊が、テルモピューレ宙域の両端にたどり着いた。
 その中から、サラマンダーとシルバーウィンドが宙域へと進み出るのだ。

 サラマンダーの前方部にある戦闘艦橋。
「定刻になりました」
 パトリシアが合図する。
「よし。微速前進」
「了解。微速前進」
 久しぶりに艦長席に収まったスザンナ・ベンソンが復唱する。
 決闘と聞いて、是非ともと艦長復帰を願ったのである。
 ゆっくりと静かにテルモピューレ宙域へと進入するサラマンダー。


 一方のスティール・メイスン率いるシルバーウィンドの艦橋。
「テルモピューレ宙域に入ります」
 オペレーターが報告する。
「因縁のある宙域だな」
 アレックスがカラカス基地を奪取し、奪還に向かったバルゼー提督が破れ捕虜となった宙域である。その会戦でアレックスは大佐となり、艦隊司令官たる将軍への昇進となる足掛かりを確保したのだった。
 カラカス基地奪還には、三個艦隊を持って当たるべしというスティールの意見具申が通っていれば、今頃アレックスは捕虜収容所暮らしだったであろう。
* 参照 第一部/第十二章・テルモピューレ会戦
「全速前進せよ!」
 と、こちらも速度を上げた。


「まもなくすれ違いに入ります」
「面舵五度、進路変更!」
 地球古代史から面々と続く、国際海事機関(IMO)が定めた世界共通の交通ルール。 右の方から船がやってきて、このままだと衝突してしまいそうな場合には、相手船を右側に見る船が右方向に進路を変えてお互いの左舷と左舷が向き合う形、すなわち右側通行ですれ違う。 これが海上及び宇宙での最も基本的なルール。
「通信回線を開け」
「通信回線、開きます」
 正面スクリーンに相手方のスティール・メイスンが出る。
「いよいよですね。お手柔らかにお願いします」
「こちらこそ。手加減なしでいきましょう」
「もちろんです」
 そして、儀礼的に敬礼を交わす二人。
「それでは」
 映像が消えた。
 両艦はすれ違いを終えて、一旦離れてゆく。
 一定距離を進んだところで停止する。
「所定の距離に到達しました」
「よし。回頭せよ!」


 シルバーウィンド艦橋。
「回頭終了しました」
 オペレータの声にすかさず、
「よし! 戦闘配備、全速前進せよ」
「戦闘配備!」
「機関一杯! 全速前進!」
 オペレーターの復唱とともに、戦意は嫌でも高揚する。
「さて、お得意のランドール戦法を見せてくれますかね」
「どうかな……。この宙域は航行域が狭くなっているので、ベンチュリ効果(霧吹き)が起きて、星間ガスが乱れているからな。小ワープしたくてもできないはずだ」
「なるほど、それで戦闘域をここに設定したのですね」

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2021.08.29 06:57 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

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