銀河戦記/鳴動編 第二部 第十六章 交渉 Ⅳ
2021.08.28

第十六章 交渉




 シャイニング基地の中でも最大規模であり、第十七艦隊司令部の置かれているターラント軍港。
 バーナード星系連邦の和平交渉使節団の乗ってきた艦艇が停泊しており、機首には両国の国旗が掲げられている。
 降り立つ使節団と、迎える共和国同盟の文官達。
 案内されて軍港そばの庁舎へと入っていく。
 まずは事務方による事前折衝と協定書への署名が行われるはずだ。協定書は八部あり、その内の七部がここで署名調印される。


 やがて首長らによる和平調印式が始まる。

 軍団音楽隊が奏でる厳かな曲が流れる中、大会議場正面壇上へと、両袖から入場する両国の使節団。
 袖口の所で一旦停止し、客席に向かって一礼してから、中央へと進んでいく。
 中央で立ち止まって、挨拶を交わす両者。
「共和国同盟最高司令官アレックス・ランドールです」
 と手を差し出すアレックス。
「バーナード星系連邦革命総統スティール・メイスンです」
 握手に応じるスティール。
 アレックスにとって、スティールは顔を知らぬ謎の人物であったが、目の前にして意外と若いなと感じていた。もっとも自分の方がさらに若いのであるが。
 そして何よりもエメラルド・アイの持ち主であることに畏敬の念を抱いた。
 一方のスティールの方では、アレックスの外形から人となりを常に諜報したいたのだが、直接自分の目で見る限り平凡な男にしか見えなかった。
「和平交渉団往訪をお受けくださり感謝致します」
「こちらこそ。願ってもない要請でした」

「こちらは銀河帝国マーガレット第二皇女、特別立会人として招聘致しました」
「なるほど、一応第三者の立場ということですね」
 この場におけるアレックスの立ち位置は、あくまでも共和国同盟としての立場であり、銀河帝国皇太子という立場は忘れてもらうことにした。

 着席しての調印がはじまる。
 協定書が交わされて、両者の署名がほどこされた後に、マーガレットが立会人の署名をして調印が完了する。
 そして再び握手を交わして、式典の終了を労う。
 場内に沸き起こる拍手の渦。
「お疲れさまでした。控室にてご休憩をどうぞ」
 と案内するアレックスだった。
「それは宜しいですが、一つお願いがあります」
「お願いですか? 控室でお聞きしましょう」

 場所を控室に移しての会談がはじまる。
「実はですね。この和平交渉に懐疑的な連中がいましてね。共和国総督軍が破れて、連邦軍は追い出されたのにと恨むのです」
「つまり、このままでは内紛になるかもしれないと?」
「早い話がそういうことになります。自分としては、これ以上の戦争は自殺行為だと思っているのですがね」
「では、どうしろと?」
「彼らを納得させるには、やはり戦ってみせるしかありません」
「戦う? 和平交渉はどうなりますか?」
「いやいや、戦争しようというのではありません」
「?」
「ここは一つ、自分と貴官とで一対一の決闘をしましょう。もし自分が勝てば彼らも納得するだろうし、貴官が勝てば諦められるというものです」
 突拍子もない提案に、しばし考えていたが、
「いいでしょう、その提案受けて立ちましょう」
「ご決断ありがとうございます。一度、貴官と一戦したかったのです。先ほどの話もYESの言葉を引き出すための口実でした」
「なるほど、よく分かります」

 それから一対一の決闘の打ち合わせが始まった。

第十六章 了

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2021.08.28 07:35 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十六章 交渉 Ⅲ
2021.08.27

第十六章 交渉





 タルシエン要塞。
 指揮官席に腰かけて、要塞砲の修理状況をモニターしているスティール・メイスン中将。

 要塞を建造したのが連邦であり、要塞砲の技術者も当然存在するので、手際よく作業がなされてゆく。
「共和国同盟から、使節団往訪の許諾が下りました」
 副官のクランシス・サックス中尉が報告した。
 第一副官のマイケル・ジョンソン中佐は、バーナード本星に残って内政に勤しんでいる。
「そうか。意外と決断が早かったな」
「私は、統一の余波を買って連邦への侵攻を考えていたのですが」
「それはないな」
「どうしてですか?」
「統一とはいっても、表面上だけだよ。残り火がまだまだくすぶっている状態だからね。それを放っておいて、欲望のままに行動すれば足元を掬われるだろう。まずは内政をしっかりとして地盤を固めるのが先決だ。逆侵攻の余裕などない」
「なるほど」
「それよりも、講和の手続きを始めよう。人選を頼む」
「かしこまりました」


 一方のアレックスもシャイニング基地に到着して、和平使節を迎える準備に入っていた。
 基地司令部秘書​官のシルビア・ランモン大尉と打ち合わせを始める。
 彼女は、アレックスが少佐となってこの基地に司令部を置いた時からの秘書官である。当時は少尉だった。
「連邦側より、タルシエン要塞から使節団が出発したとのことです。交渉人が二十名、事務方を含めると約二百人です」
「手際が良いな」
「前もって準備していたのでしょう」
「こちらは間に合うか分からんな。ともかく体裁だけでも整えておこう」
「待機要員も総動員して、大会議場の設営を行います」
「そこのところよろしく頼むよ」
 武官であるアレックスには、会場づくりなどのことは文官に任せるしかなかった。

 同盟側の参列者を誰にするか。
 どういう儀式にするか。
 壇上の署名台の設置方法。
 客席をいくつ用意し、どのように配置するか。

 アレックスには、いくら考えても思いつかないだろう。
 壇上に置ける両国の位置関係は、連邦側が上手(stage left)になるのが常識だろうが。
「上手ってどっちだ?」
「オーケストラでピアノが置いてある方が下手(stage right)ですよ。だから客席から見て、右側が上手です」
「そうか……勉強になったよ」
 というアレックスとパトリシアの会話があったらしい。


 惑星シャイニングに近づく艦艇があった。
 スティール・メイスン率いる和平交渉の一団である。
「あれがシャイニング基地ですか?」
「ああ。私もこの目で直接見たことがないがな」
「この星を攻略するには、五個艦隊必要だとされていますが、本当でしょうかね」
「そんな数値など意味がないさ。ランドールは、偽装大型ミサイルで潜入して数十名の兵だけで、この要塞を陥落させてしまったくらいだからな」
「確かにそうですけど、あれは特殊な例でしょう」

「シャイニング基地より入電。入港進路のデータが送られてきました。表示します」
 正面スクリーンに、基地を覆う全天空シールドの一部が解除されて進行ルートが表示された。
「上陸用舟艇の準備が整いました」

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2021.08.27 06:56 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十六章 交渉 Ⅱ
2021.08.26

第十六章 交渉




 帝国内のだいたいの後片付けが済んだのを機に、皇女や参謀たちを集めて会議を開いた。
 議題は、もちろんタルシエン要塞についてである。
「この時勢で、要塞を奪取した真意がわかるか?」
 静かに質問を投げかけるアレックス。
「帝国と同盟は内紛で政情不安定でした。それが統一されてしまった今、最後のチャンスに賭けてみたのではないでしょうか」
 ジュリエッタが答える。
「そうですね。国境を接する銀河帝国方面、三国中立地帯を経ての共和国同盟方面、そのどちらからも進軍は難しくなりました。ですから辺境の地であるタルシエンの橋から攻め立てたというところじゃないでしょうか」
 とはマーガレットの意見。
「ふむ。論点を間違えているが……」
「殿下のお考えは?」
「要塞を攻略したのは、和平交渉の席に着くための条件作りだよ」
「和平交渉ですか?」
「そうだ。この時勢で戦争を継続するのはもはや自殺行為だ」
「といいながら要塞を陥落させましたよね」
「交渉の席に着くには、やはり対等の立場でないと不利になるからね」
「実力を見せつけたというわけですか」
「まあ、そういうところだろう」

 数日後。
 サラマンダーに戻り、共和国同盟に戻る準備をしていたアレックスであるが、バーナード星系連邦より使節団の往訪許諾要請が届いたことをパトリシアが報告した。
「いかがなされますか?」
「断る理由はないだろう。応じようじゃないか」
「会合の場所はどちらに致しますか」
「そうだな……シャイニング基地がいいだろう」
「かしこまりました。
 シャイニング基地は、アレックスが少佐となり独立遊撃艦隊の最初の基地とした星である。さらには第十七艦隊司令として赴任したのもここだ。
 共和国同盟とバーナード星系連邦は数百年もの長い間戦争を続けてきた。
 銀河帝国は、海賊の侵入はあったものの、連邦とは直接の戦争を行っていない。

 共和国同盟への一時帰国に際して、マーガレット皇女が同行することとなった。
 ジュリエッタ皇女も同行を願ったが、帝国内政をエリザベス皇女一人では辛かろうと残された。

 サラマンダー艦橋。
 指揮官席に腰を降ろすアレックスの両側には、パトリシアとマーガレット皇女が控えている。
 マーガレットの乗艦アークロイヤルは長旅には向かないので、サラマンダーに同乗させてもらったようだ。
「全艦、共和国同盟首都星トランターに進路をとれ!」
 サラマンダー以下の旗艦艦隊に命じるアレックス。
 首都星アルデラーンからトランターまでは、ワープゲートが開かれていないので、自力でワープしていかなければならない。トランターからは、シャイニング基地まではワープゲートが使える。
「全艦、微速前進!」
「進路、共和国同盟首都星トランター」
 和平交渉に向けての道行きがはじまった。

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2021.08.26 06:58 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十六章 交渉 Ⅰ
2021.08.25

第十六章 交渉





 要塞周辺の基地に撤収した各艦隊だが、クリーグ基地には第十一艦隊、シャイニング基地には第十七艦隊と第五艦隊、カラカス基地にはカインズの独立遊撃艦隊を置いて光背のアルサフリエニ共和国の防衛の任に当たっている。

 タルシエン要塞が陥落してしばらくは音沙汰なしであった。

 銀河帝国内紛後の後始末に没頭しているアレックスには大助かりというところだろう。
「静かだな」
「まずは要塞の損害状況把握と修繕をしているのでしょう」
「それと、システムのチェックをしているだろうな」
「トロイの木馬が仕掛けてあると?」
「まあ、誰しもそう思うだろうからな」

 タルシエン要塞のことも気になるが、今のアレックスにはやるべきことが山積みだった。
 帝国の内乱の後始末である。
 まずは首謀者たるロベスピエール公爵の処遇である。
 ウェセックス公国の自治領主であるがゆえに、話を難しくしている。
 最悪として、銀河帝国から脱退して独立宣言をするかもしれない。
 自分はぽっと出のよそ者だったのだから、貴族内の確執に土足で踏み込むのは気が引ける。『貴族社会のことも知らない田舎者』と内心思っている者もいるだろう。でなきゃ内乱など起こらなかったはずである。
 銀河帝国には、称号剥奪法というものが存在していた。
「皇帝は枢密顧問官よりなる委員会を設けることができる」と定める条文があり、枢密院司法委員会の少なくとも2人の委員を含めて審議を行ったうえで、同委員会の報告に基づいて剥奪する旨を規定していた。
 そこで枢密院特別委員会を招集して、公爵の処遇について検討させることにした。
 旧摂政派と皇太子派それぞれの委員に結論を出させることで、自身への反感を反らそうとしたのである。
 穏便に事態を収拾させるには仕方がない。


 やがて枢密院特別委員会から、公爵の処遇についての結論が出た。
「ロベスピエール殿は、自治領と爵位を弟のアルバート・タウンゼンド伯爵に譲位することとし、自身はニューサウスウェールズ植民星総督官として赴任する」
 ニューサウスウェールズ植民星は、本来流刑地として罪人が送られて、開墾に従事させれていたのだが、開発が進み観光資源としての重要性が鑑みられるようになった。その地に総督府を置いて監督させる監督官を置いていた。
 つまり自治領領主(公爵)から、一植民星の総督(男爵相当)に降格されたということになる。
 国家反逆罪は死刑であるから、生かされたというだけでも情状酌量ということだろう。最も貴族としての面子は潰れるだろうが。
「なお、エリザベス皇女さまはお咎めなしで、摂政のお務めも引き続きお願いすることになりました」
「そうだな。帝国の内政のことはまだ分からんしな。それでいい」

「殿下、皇帝即位はなさらないのですか?」
 皇帝となれば絶大なる権限が付与される。
 頭の固い連中を従わせるのにも必要であろうが、
「内紛で政情も安定しない現状では無理だな」
 と、あっさりと否定するアレックスだった。

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2021.08.25 07:14 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十五章 タルシエン要塞陥落 V
2021.08.24

第十五章 タルシエン要塞陥落の時





 タルシエン陥落の報がアレックスの元へと届けられた。
 通信用スクリーンにフランク・ガードナー少将が出ている。
「すべての艦艇は、一旦シャイニング基地及びカラカス基地、そしてクリーグ基地へと寄港の予定だ」
「そうか……仕方がないですね。将兵のほとんどが無事だったのは幸いです」
「要塞の再奪取は考えているのか?」
「いえ、今のところは必要ないでしょう」
「そうか……」
「ともかく敵さんとの戦闘記録をこっちに送ってください」
「分かった。一両日中に送るよ」
「よろしくお願いします」

 タルシエン要塞陥落を受けて、アルタミラ宮殿鏡の間にて会議が開かれた。
 アレックス、パトリシア、二皇女、ゴードン・オニール、スザンナ・ベンソン以下の参謀たちが集っている。
 まずは、タルシエン要塞陥落の詳細映像がモニターに再生された。
「氷の戦艦を盾にして、要塞砲を防ぐなんて思いもよりませんでした」
 パトリシアが口火を切る。
「防衛の要でしたからね。それを無効化されてしまっては陥落もやむなしです」
 スザンナが感心した。

「この時勢において、要塞を取り返した真意が分かるかな?」
 アレックスが問いかける。
「帝国の統一がなされて、共和国同盟も解放されました。連邦にとって、このまま放っておいては、連邦への逆侵攻の可能性もあると考えたのではないでしょうか?」
 ジュリエッタが答え、マーガレットが追加する。
「そこで要塞を落とせば、そっちに視線が回るし、場合によっては共和国侵攻も可能になるということでしょうか?」
「私たち側から見れば、その逆侵攻に備えて兵力を割いておかなければならないということですね」
 そしてパトリシアが答えた。
「殿下はどのようにお考えであられますか?」
「そうだな……」
 としばし考えてから、
「講和のための下準備というところかな」
「和平交渉のために、要塞を奪取したとおっしゃられるのですか?」
「現時点での帝国と共和国の総兵力を鑑みるに、戦力差でバーナード星系連邦に勝ち目はない」
 全員が頷いている。
「要するに連邦とて要塞を陥落させるだけの力を持っているんだと誇示することで、我々が連邦に侵略すればそれ相応の損害を与えることも可能だぞ! と言っているのだよ」
「対等な立場での交渉を引き出すためだったというわけですね」
「まあ、そういうことだ。でなきゃ要塞駐留艦隊を無傷で攻撃することなく退去させはしなかっただろう」
「要塞には、ランドール提督の懐刀と呼ばれる将軍や主力艦隊がいましたからね。それを失ってしまったら、提督も引くに引けない心境になられたでしょう」
「敵もそれを十分承知の上で、総攻撃せずに撤退勧告をしたのでしょうか?」
「私は信じられませんね。司令官のスティール・メイスンって、バリンジャー星域会戦やベラケルス星域会戦で、星を破壊して艦隊を殲滅させる冷酷非情な司令官じゃなかったですか?」
「心変わりじゃないの?」
 と飄々と答えるアレックスだった。
 敵司令官の心情までは計り知れないというところか。

第十五章 了

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2021.08.24 11:39 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

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