銀河戦記/鳴動編 第二部 第十五章 タルシエン要塞陥落 Ⅱ
2021.08.21
第十五章 タルシエン要塞陥落の時
Ⅱ
数時間前に遡る。
タルシエンの橋を、共和国同盟領に向かって進軍する艦隊があった。
「閣下。無人戦闘機全機発進完了しました。タルシエン要塞に向けて進軍中!」
副長が報告する。
「よし。空母を下がらせて、氷の戦艦を前に出せ! 作戦第二弾だ」
「了解! 氷の戦艦を前に出します」
後方に待機していた氷の戦艦と呼ばれた艦艇が前方へと移動してゆく。
「廃艦寸前の艦艇でも役に立つところを見せてやろう」
艦隊の指揮を執るのは、バーナード星系連邦の若き英雄ともいうべきスティール・メイスン中将である。
共和国同盟を屈服させて、マック・カーサーに占領を任せて帰国した後、クーデターを起こした際に、旧式戦艦をもかき集めていたのだった。
その退役した戦艦の周りに分厚い氷の結晶を蒸着させ、その前面を鏡のようにピカピカに磨き上げた艦だった。
氷の戦艦を作るには、特別な工作機械など必要はない、真空中で水を吹き付けるだけで良いので費用も格安だ。いわゆる真空蒸着である。
水を真空中に放出すると沸騰するが、気化熱を奪われてすぐさま氷になる。つまり沸騰しながら氷になるという面白い現象を見せる。
「要塞に強力なエネルギー反応!」
やっぱり来たかという微笑を洩らして、
「要塞砲が来るぞ! 氷の戦艦を盾にして並べろ!」
氷を纏った戦艦が、ずらりと隙間なく並んで頑丈な氷の壁を形成させた。
「整列完了!」
その時、要塞砲の強烈なエネルギーが氷の壁に襲い掛かる。
真空中では氷が一瞬にして昇華し、エネルギーを吸収する。
水の分子の比熱及び融解熱と蒸発熱は、宇宙に存在する物質で最も高いと言ってもいいくらいである。
1gの氷を昇華(水蒸気へと状態変化)させる熱は約2,836J{ジュール}必要。
さらにライデンフロスト効果に似たような現象を起こして、強力なバリアーが発生していた。
ほぼ氷と塵の塊である彗星が、太陽近日点を通過して長い尾をたなびかせつつも、溶けて消え去らないのもこの現象である。
さしもの要塞砲も氷の壁によって完璧に防がれていた。
そのエネルギーの一部は、鏡のようになった面で反射されて、要塞の方へと向かった。
「敵さん、撃ったエネルギーが戻ってきてビックリするでしょうね」
「よし。氷の戦艦を盾にしながら、前進する! 空母は用済みだ、帰還させろ」
「了解。空母を帰還させます」
無人戦闘機の回収予定はなかった。
この作戦以降使用されることもないだろうから、箪笥の肥やしになるより断捨離してしまおうということだ。近くの恒星にでも落下させる予定だった。
参考 水の比熱=4.2kJ/kg・℃ 融解熱=333.6 kJ/kg 蒸発熱=約2,250kJ/kg
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