銀河戦記/鳴動編 第二部 第十六章 交渉 Ⅱ
2021.08.26

第十六章 交渉




 帝国内のだいたいの後片付けが済んだのを機に、皇女や参謀たちを集めて会議を開いた。
 議題は、もちろんタルシエン要塞についてである。
「この時勢で、要塞を奪取した真意がわかるか?」
 静かに質問を投げかけるアレックス。
「帝国と同盟は内紛で政情不安定でした。それが統一されてしまった今、最後のチャンスに賭けてみたのではないでしょうか」
 ジュリエッタが答える。
「そうですね。国境を接する銀河帝国方面、三国中立地帯を経ての共和国同盟方面、そのどちらからも進軍は難しくなりました。ですから辺境の地であるタルシエンの橋から攻め立てたというところじゃないでしょうか」
 とはマーガレットの意見。
「ふむ。論点を間違えているが……」
「殿下のお考えは?」
「要塞を攻略したのは、和平交渉の席に着くための条件作りだよ」
「和平交渉ですか?」
「そうだ。この時勢で戦争を継続するのはもはや自殺行為だ」
「といいながら要塞を陥落させましたよね」
「交渉の席に着くには、やはり対等の立場でないと不利になるからね」
「実力を見せつけたというわけですか」
「まあ、そういうところだろう」

 数日後。
 サラマンダーに戻り、共和国同盟に戻る準備をしていたアレックスであるが、バーナード星系連邦より使節団の往訪許諾要請が届いたことをパトリシアが報告した。
「いかがなされますか?」
「断る理由はないだろう。応じようじゃないか」
「会合の場所はどちらに致しますか」
「そうだな……シャイニング基地がいいだろう」
「かしこまりました。
 シャイニング基地は、アレックスが少佐となり独立遊撃艦隊の最初の基地とした星である。さらには第十七艦隊司令として赴任したのもここだ。
 共和国同盟とバーナード星系連邦は数百年もの長い間戦争を続けてきた。
 銀河帝国は、海賊の侵入はあったものの、連邦とは直接の戦争を行っていない。

 共和国同盟への一時帰国に際して、マーガレット皇女が同行することとなった。
 ジュリエッタ皇女も同行を願ったが、帝国内政をエリザベス皇女一人では辛かろうと残された。

 サラマンダー艦橋。
 指揮官席に腰を降ろすアレックスの両側には、パトリシアとマーガレット皇女が控えている。
 マーガレットの乗艦アークロイヤルは長旅には向かないので、サラマンダーに同乗させてもらったようだ。
「全艦、共和国同盟首都星トランターに進路をとれ!」
 サラマンダー以下の旗艦艦隊に命じるアレックス。
 首都星アルデラーンからトランターまでは、ワープゲートが開かれていないので、自力でワープしていかなければならない。トランターからは、シャイニング基地まではワープゲートが使える。
「全艦、微速前進!」
「進路、共和国同盟首都星トランター」
 和平交渉に向けての道行きがはじまった。

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2021.08.26 06:58 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十六章 交渉 Ⅰ
2021.08.25

第十六章 交渉





 要塞周辺の基地に撤収した各艦隊だが、クリーグ基地には第十一艦隊、シャイニング基地には第十七艦隊と第五艦隊、カラカス基地にはカインズの独立遊撃艦隊を置いて光背のアルサフリエニ共和国の防衛の任に当たっている。

 タルシエン要塞が陥落してしばらくは音沙汰なしであった。

 銀河帝国内紛後の後始末に没頭しているアレックスには大助かりというところだろう。
「静かだな」
「まずは要塞の損害状況把握と修繕をしているのでしょう」
「それと、システムのチェックをしているだろうな」
「トロイの木馬が仕掛けてあると?」
「まあ、誰しもそう思うだろうからな」

 タルシエン要塞のことも気になるが、今のアレックスにはやるべきことが山積みだった。
 帝国の内乱の後始末である。
 まずは首謀者たるロベスピエール公爵の処遇である。
 ウェセックス公国の自治領主であるがゆえに、話を難しくしている。
 最悪として、銀河帝国から脱退して独立宣言をするかもしれない。
 自分はぽっと出のよそ者だったのだから、貴族内の確執に土足で踏み込むのは気が引ける。『貴族社会のことも知らない田舎者』と内心思っている者もいるだろう。でなきゃ内乱など起こらなかったはずである。
 銀河帝国には、称号剥奪法というものが存在していた。
「皇帝は枢密顧問官よりなる委員会を設けることができる」と定める条文があり、枢密院司法委員会の少なくとも2人の委員を含めて審議を行ったうえで、同委員会の報告に基づいて剥奪する旨を規定していた。
 そこで枢密院特別委員会を招集して、公爵の処遇について検討させることにした。
 旧摂政派と皇太子派それぞれの委員に結論を出させることで、自身への反感を反らそうとしたのである。
 穏便に事態を収拾させるには仕方がない。


 やがて枢密院特別委員会から、公爵の処遇についての結論が出た。
「ロベスピエール殿は、自治領と爵位を弟のアルバート・タウンゼンド伯爵に譲位することとし、自身はニューサウスウェールズ植民星総督官として赴任する」
 ニューサウスウェールズ植民星は、本来流刑地として罪人が送られて、開墾に従事させれていたのだが、開発が進み観光資源としての重要性が鑑みられるようになった。その地に総督府を置いて監督させる監督官を置いていた。
 つまり自治領領主(公爵)から、一植民星の総督(男爵相当)に降格されたということになる。
 国家反逆罪は死刑であるから、生かされたというだけでも情状酌量ということだろう。最も貴族としての面子は潰れるだろうが。
「なお、エリザベス皇女さまはお咎めなしで、摂政のお務めも引き続きお願いすることになりました」
「そうだな。帝国の内政のことはまだ分からんしな。それでいい」

「殿下、皇帝即位はなさらないのですか?」
 皇帝となれば絶大なる権限が付与される。
 頭の固い連中を従わせるのにも必要であろうが、
「内紛で政情も安定しない現状では無理だな」
 と、あっさりと否定するアレックスだった。

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2021.08.25 07:14 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十五章 タルシエン要塞陥落 V
2021.08.24

第十五章 タルシエン要塞陥落の時





 タルシエン陥落の報がアレックスの元へと届けられた。
 通信用スクリーンにフランク・ガードナー少将が出ている。
「すべての艦艇は、一旦シャイニング基地及びカラカス基地、そしてクリーグ基地へと寄港の予定だ」
「そうか……仕方がないですね。将兵のほとんどが無事だったのは幸いです」
「要塞の再奪取は考えているのか?」
「いえ、今のところは必要ないでしょう」
「そうか……」
「ともかく敵さんとの戦闘記録をこっちに送ってください」
「分かった。一両日中に送るよ」
「よろしくお願いします」

 タルシエン要塞陥落を受けて、アルタミラ宮殿鏡の間にて会議が開かれた。
 アレックス、パトリシア、二皇女、ゴードン・オニール、スザンナ・ベンソン以下の参謀たちが集っている。
 まずは、タルシエン要塞陥落の詳細映像がモニターに再生された。
「氷の戦艦を盾にして、要塞砲を防ぐなんて思いもよりませんでした」
 パトリシアが口火を切る。
「防衛の要でしたからね。それを無効化されてしまっては陥落もやむなしです」
 スザンナが感心した。

「この時勢において、要塞を取り返した真意が分かるかな?」
 アレックスが問いかける。
「帝国の統一がなされて、共和国同盟も解放されました。連邦にとって、このまま放っておいては、連邦への逆侵攻の可能性もあると考えたのではないでしょうか?」
 ジュリエッタが答え、マーガレットが追加する。
「そこで要塞を落とせば、そっちに視線が回るし、場合によっては共和国侵攻も可能になるということでしょうか?」
「私たち側から見れば、その逆侵攻に備えて兵力を割いておかなければならないということですね」
 そしてパトリシアが答えた。
「殿下はどのようにお考えであられますか?」
「そうだな……」
 としばし考えてから、
「講和のための下準備というところかな」
「和平交渉のために、要塞を奪取したとおっしゃられるのですか?」
「現時点での帝国と共和国の総兵力を鑑みるに、戦力差でバーナード星系連邦に勝ち目はない」
 全員が頷いている。
「要するに連邦とて要塞を陥落させるだけの力を持っているんだと誇示することで、我々が連邦に侵略すればそれ相応の損害を与えることも可能だぞ! と言っているのだよ」
「対等な立場での交渉を引き出すためだったというわけですね」
「まあ、そういうことだ。でなきゃ要塞駐留艦隊を無傷で攻撃することなく退去させはしなかっただろう」
「要塞には、ランドール提督の懐刀と呼ばれる将軍や主力艦隊がいましたからね。それを失ってしまったら、提督も引くに引けない心境になられたでしょう」
「敵もそれを十分承知の上で、総攻撃せずに撤退勧告をしたのでしょうか?」
「私は信じられませんね。司令官のスティール・メイスンって、バリンジャー星域会戦やベラケルス星域会戦で、星を破壊して艦隊を殲滅させる冷酷非情な司令官じゃなかったですか?」
「心変わりじゃないの?」
 と飄々と答えるアレックスだった。
 敵司令官の心情までは計り知れないというところか。

第十五章 了

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2021.08.24 11:39 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十五章 タルシエン要塞陥落 Ⅳ
2021.08.23

第十五章 タルシエン要塞陥落の時





 敵旗艦シルバーウィンド艦橋。
「要塞、沈黙しました」
「うむ、予定通りだ」
「いかがなされますか? 総攻撃なさいますか?」
「いや、要塞にはこれ以上の損害を与えたくないな。戦闘中止だ! 敵司令官に通信を繋いでくれ」
「かしこまりました」
「全艦戦闘中止!」
 要塞との通信回線が開かれる。
「敵司令官が出ました」
 通信用スクリーンに、要塞司令官のガードナー少将が出ている。
「私は、タルシエン要塞攻略部隊指令のスティール・メイスン中将です」
 自分の姓名と官職を名乗るスティール。
「自分はタルシエン要塞防御司令官、フランク・ガードナー少将です」
 同様にガードナーも返答する。
「私は、これ以上の流血は無意味だと思います。なので、要塞を明け渡して貰いたい」
 単刀直入に要求する。
「要塞を明け渡す?」
「素直に出て行ってくれるというなら、こちらからは攻撃を致しません」
「攻撃をしないという保証は?」
「私を信じてもらうしかないですね。三時間の猶予を差し上げます。それまでに返答がなければ総攻撃に移ります」
「分かった。配下のものと相談して、それまでに返答する」
「三時間です」
 そう言って、通信を切断した。


 要塞会議室に集まったガードナー以下の参謀たち。
「まずは最初に言っておく。ランドール提督からは、この要塞を預かった時にいつでも放棄しても良いという言質(げんち)を頂いている」
「つまり提督は、要塞を奪取した時から既に放棄することも考えていらしたということですか?」
「その通り。要塞の必要性は、その時々の情勢によって変わるものだ」

「しかし撤退するとしても、敵が攻撃しないという保証は?」
「ない……が、信用するしかないだろう」
「再奪取は、ランドール提督にお任せしようじゃないか」
「その必要性があればですけどね」
「この要塞のことは、建設した連邦が一番良く知っている。我々の知りえない情報も握っているやも知れんからな。決定的な弱点とか」
「あり得ますね。だからこそ、投降を呼びかけているのかも」
 建設的でない意見が続いていた。
「これ以上、議論しても仕方がない。結論を出そうと思う、挙手してくれ。撤退に賛成なものは?」
 半分近くが手を挙げ、しばらく考えてから手を挙げた者を入れて過半数に達した。
「撤退に決定した」
 議場を見渡して、挙手しなかった者の表情を窺ってから、
「総員に撤退準備! 敵さんとの通信回線を開け!」

 通信回線にスティール・メイスンが出ている。
「賢明な判断を感謝する。先にも述べたように、こちらからは攻撃を仕掛けないから安心して退去したまえ」
「ありがとうございます。我々は六時間以内に撤退を完了する予定です」
「分かりました」

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2021.08.23 08:28 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十五章 タルシエン要塞陥落 Ⅲ
2021.08.22

第十五章 タルシエン要塞陥落の時





 要塞砲の発射によって、その軌跡上の無人戦闘機はすべて蒸発した。
 タルシエン要塞中央制御室。
「要塞砲、発射完了しました」
「うむ。様子を見る」
「どうでしょうか……射程内に敵さんが入っていればいいのですが」
「期待しようじゃないか」
 タルシエンの橋に消えたエネルギーの渦は沈黙していた。

 次の瞬間だった。
「タルシエンの橋に高エネルギー反応!」
「こ、これは?」
 スクリーンにエネルギー波が迫り、そして真っ白になったかと思うと、激しい衝撃が要塞を襲いブラックアウトした。立っていた者はほとんどが床に倒れている。
 管内の電源が落ち真っ暗になった。
「な、なんだ! 何が起こった?」
「主電源がショートして落ちたようです!」
「補助電源に切り替えろ! 主電源は直ちに修理にかかれ!」

「損害を調べて報告せよ!」
 やがて電源が回復して、損害報告も上がってくる。
「要塞砲が破壊されました!」
「モニターに映してみよ」
 要塞の外部TVカメラが要塞砲の様子を映し出した。
 要塞砲の反射エネルギーによって、射出口がほぼ完全に破壊されていた。
「これは酷いな。もはや使用不能だろう」
「エネルギーの逆流を防ぐために、粒子加速装置を閉鎖した方がよろしいかと」
「そうだな。そうしてくれ」

「敵の秘密兵器でしょうか? とても戦艦搭載の砲ではありえません!」
「制空権を取られた上に、要塞砲なしでは勝ち目はないか……」

「なんだあれは?」
 タルシエンの橋からゆっくりと出現したものがある。
「真っ白ですね」
「まるで氷のようですが……」
「いや、氷ですよ。本物の氷の壁です!」
「分かりました! あの氷の壁で要塞砲のエネルギーを反射させたのではないでしょうか」
「できるのか?」
「間違いありません」
「で、あれを壊せるか?」
「要塞砲を反射させたくらいですから、熱エネルギー攻撃は無理でしょうが、ミサイルのような物理攻撃なら壊せるでしょう」
「氷の壁に対してミサイル攻撃を敢行する。各レーザー砲は無人戦闘機撃墜に専念せよ」
「残存艦隊及びカーグ少佐達に、無人機は無視して氷の壁の向こう側の敵へ攻撃開始せよ」
「了解! ホスター准将に連絡」
「了解! カーグ編隊へ連絡」

 無人機による要塞への攻撃はさほどのことでもなかった。攻撃して反撃される方が痛い目に会うことになる。そのようにして外に出ていた第十一艦隊は半数に激減していた。
「氷の向こう側にどれだけの艦艇が潜んでいるかだな」

 やがて姿を現したのは、
「敵勢力、重戦艦を主体とした八十万隻のもよう」
 その兵力に驚くガードナー。
「まいったな……」
 外に出ている味方艦艇では戦力不足だった。

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2021.08.22 08:52 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

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