銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 V
2021.06.23

第四章 皇位継承の証




 宮殿謁見の間。
「アレックス、だいぶ活躍しているようですね」
 エリザベスは、統制官大号令によって貴族達の反感が高まってきているのを知っていた。貴族達からの陳情もあったが、あえて是正はしなかった。
 ひたひたと押し寄せてくる外敵からの脅威に備えなければならないのは、ジュリエッタが襲われたことからしても、身に沁みて感じていたからである。
「はい。総督軍なり連邦軍との戦争が間近に控えているというのに、平和的ムードに浸っている人々があまりにも多いので、致し方なくはっぱを掛けております」
 すると大臣の一人が意見を求めた。
「統制官殿は戦争が間近だとおっしゃられたが、連邦・共和国双方とは友好通商条約を締結しており、戦争の危惧はないはずですぞ」
 大臣達は、貴族達の代弁者でもある。何かにつけて統制官たるアレックスのやることに異論を訴えていた。
「条約はいずれ破られるものです。過去の歴史をみれば判るでしょう。ジュリエッタ皇女が襲われたことは知らぬとおっしゃられるか?」
「いや、あれは海賊の仕業だということだが……」
「連邦軍ですよ。連邦艦を偽装して海賊に見せかけてはいるが、内装やシステムは紛れもなく連邦のものです。搾取した艦艇を調べて判明しました。総督軍は着々と侵略に向けての準備を進めています」
 さらに大臣達に脅しをかけるように強い口調で言った。
「もし仮に帝国軍が敗れるようなことになれば、貴族達のすべてが爵位を剥奪され、領地や土地を没収されてしまいます。よろしいのですか?」
 さすがに反論はできないようであった。
「私は、共和国同盟において連邦軍と戦い、同盟が滅んだ今もなお解放戦線を組織して戦い続けています。解放戦線の情報部からは、リアルタイムで連邦軍や総督軍の動きが、逐一報告されてきているのです。総督軍の帝国侵略近しとね」
 実際に戦い続けてきた解放戦線最高司令官としての発言は、重厚な響きを持っていた。
 静まり返る謁見の間。

 統制官執務室に戻ったアレックス。
 窓辺に佇みながら、眼下の宮殿参りの貴族達の行列を眺めている。
「戦争が間近に迫っているというのに、呆れた連中だな。己の保身のことばかり考えている。貢物を献上するくらいなら、民衆にほどこしをするなり、税金を下げるなりしないのだ。賄賂が横行し腐敗政治となっている委任統治領も少なくないという。いっそのこと統治領を輪番制にして、三年なり四年の任期で、どんどん頭を挿げ替えればいいのかも知れないな」
「それは軍部統制官の職務からはずれます」
 そばに控えていた次官が忠告した。
「判っている。言ってみただけだ」
 軍部統制官の仕事だけで、問題が山積みとなっているのである。
「国政のことを考えている暇はありません」
 とでも言いたげな次官の表情である。
「国政に関しましては、皇太子におなりになられた時に、改めてお考えになってください」
「ああ、そうだな……」
 それがいつになるかは判らないが……。
「さてと……。明日、明後日は故郷へ里帰りだ。留守の間のことは、予定通りに進めておいてくれ」
「かしこまりました」
 故郷とは、アレックスが生まれ育った土地である。アルビエール候国ハロルド侯爵の領地、惑星ソレントである。
 アレックスがこの大切な時期に、ソレントへの渡郷を決断したのには理由がある。
 あることを確認しようと考えたからである。


 首都星アルデランを出立する二百隻ほどの艦隊。
 アレックスを乗せたソレント行の一団である。
 アルデランを出立して六時間が経過した頃、艦のレーダーにほぼ同数の艦隊が映し出された。
「お迎えがきたようだ」
 それはサラマンダー艦隊であった。
 旗艦ヘルハウンドに乗り移り、ここまで送ってきた帝国艦隊に帰還を命じた。
 それは当初の予定にない行動であった。
「さてと……。奴らが乗ってくるかだな……」
 一言呟いて、サラマンダー艦隊に、予定していたコースを進軍させた。
 アルビエール候国との領界に差し掛かった時だった。
「右舷三十度前方に、国籍不明の戦艦多数! その数およそ三百隻」
 警報が鳴り響き、正面スクリーンには迫り来る敵艦隊が映し出された。
「やはりおいでなすったな。これで帝国内に内通者がいることがはっきりした」
 帝国内には、【皇位継承の証】を持つ皇太子に生きていられては困ると考えている連中がいるということである。彼らはどうやってかは知らぬが、海賊達と連絡を取り合って、今回と幼少の頃のアレックスを襲って、将来邪魔となる人物であるアレックスを消しに掛かっているのである。あるいは莫大なる身代金目的の場合もあるだろう。
「戦闘配備! 相手は国籍を隠蔽している海賊だ。徹底的にやっても構わん。しかしリーダーと思しき艦は足止めするだけにしておけ。捕らえて首謀者を吐かせてやる」
 いかに戦闘能力の高い海賊艦とて、サラマンダー艦隊とは比較にもならなかった。瞬く間に全滅させられ、リーダーらしき数隻がエンジン部を打ち抜かれて漂流していた。
 投降を呼びかけるアレックスだったが、リーダー達は無言で自爆の道を選んだ。
「こうなるとは思っていたが……。ま、確認が取れただけでよしとしよう」
 海賊艦隊を全滅させて、アルビエール候国へと向かうアレックスだった。

 アルビエール候国は、先代皇后の故郷であり、アレックスの故郷でもある。
 領主のハロルド侯爵は、自分の甥の来訪を大歓迎した。
「これはこれは、アレクサンダー皇子。よくぞ参られた」
「今日、明日とおせわになります」
「いやいや、二日間だけと言わずに、お好きなだけご滞在なされても結構ですぞ」
 血の繋がった叔父と甥という関係なのだから、もっと親しく会話してもよさそうなのであるが、幼少の頃より二十余年もの間音信不通で、形式ばった会話になるのは仕方のないことだった。
「メグも一緒だと思っていたのですが」
 もちろんメグとはマーガレット皇女のことである。
「いや、皇女は謹慎処分が完全に解けていないのです」
「それは残念です。次の機会には兄妹ご一緒にどうぞお越しください」
「ぜひ、そうさせて頂きます」

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.06.23 09:18 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
コメント一覧
コメント投稿

名前

URL

メッセージ

- CafeLog -