銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 Ⅳ
2021.06.22

第四章 皇位継承の証




 アレックスが第一皇子として叙されて以来、宮殿にて謁見を申し出る貴族達が後を立たなかった。委任統治領を任せられた貴族達の統治領の安寧を諮ってのご機嫌伺いである。金銀財宝の貢物を持参しての来訪も少なくなかった。
 謁見が増えることによって、政治を司る御前会議の時間が割愛されるので、時として国政に支障が出ることもあるのだが、持参する貢物が皇家の財産として扱われるので、無碍にも断るわけにいかなかったのである。
 アレックスは、賄賂ともいうべき貢物が、当然のごとく行われていることに、疑問を抱いていた。
 しかし、宮廷における新参者であるアレックスには、口を挟むべきものではないと判断した。すでに既得権となっているものを覆すことは、皇族・貴族達の多大なる反感を抱かせることになる。
 郷に入れば郷に従えである。
 銀河帝国における確固たる基盤を築き上げるまでは、当面の間は目を瞑っているよりないだろう。

「ところで、皇子よ」
 謁見の間において、エリザベスが話題を振ってきた。
「はい」
「私は、皇帝の執務代行として摂政を務めているのですが、今後は皇子にもその執務の一部を任せようと思っています。取りあえずは軍部の統制官としての執務を担って貰いたいのですが、いかがなものでしょうか」
「軍部統制官ですか?」
 宇宙艦隊司令長官(内閣)、統合作戦参謀本部長(行政)、軍令部評議会議長
(司法)。
 以上が、軍部における三官職と呼ばれる役職である。実働部隊を指揮・運用したり、各艦隊の運行状態を把握し作戦を協議したり、人事を発動し功績を評価して昇進させ軍法会議にも諮ったりする。それぞれ重要な役職であるが、横の連絡を取り全体のバランスを調整するのが、軍部統制官という役回りで、軍部予算の配分を決
定する権限も有していた。現在そのポストは空席となっている。
 なお、司令長官は現在空位のままで、次官が代行して執務を行っている。
 アレックスを重要な官職につけようとするのには、後々の宇宙艦隊司令長官に就任させるための、軍部への足固めを図るというエリザベスの思惑があるようである。
「大臣達よ、依存はありませんか?」
 エリザベスが、大臣達に確認を求めた。
 保守的に凝り固まった大臣達である。
 即答は返ってこなかった。
 互いに小声で相談し合いはじめた。
 その相談の内容としては、第一皇子という地位や共和国同盟の英雄と讃えられるアレックスの将来性などに言及しているようであった。
 しばらく、そのやり取りに聞き耳をたてていたエリザベスだが、
「依存はありませんか?」
 再確認を求めることによって、やっとその重い口を開いた。
「依存はありません」
「将軍達はどうですか?」
 今度は将軍達に確認を求めるエリザベス。
「依存はありません」
 元々アレックスに対して好意的だった将軍達が反対することはなかった。
 これによって、アレックスは軍部統制官として、軍部の中に確固たる地位を与えられたのである。


 軍部統制官という官職に就いたことで、宮廷の一角に執務室を与えられたアレックス。
 まず最初に行ったことは、艦隊の予算配分状況を調べさせたことである。今は、想定される総督軍・連邦軍との戦闘が避けられない中で、現在予算をどれだけ消費しどれだけ残っているかを把握しておかなければ、いざ戦争という時に予算不足で艦隊を動かすこともできないという事態にもなりかねない。
 その作業は、次官として配属された新任の武官に当たらせた。
 やがて報告書を見たアレックスは驚きのあまり言葉を失ったくらいである。
 一艦隊あたりの予算がべらぼうな額だったのである。
 アレックスも共和国同盟軍や解放軍を統率しているから、軍政部長のルーミス・コール大佐の報告を受けて、どれくらいの予算が掛かっているかを知っている。
 ところが銀河帝国軍のそれは、共和国の三倍から四倍もあったのである。
 これはどういうことかと次官に尋ねるアレックス。
 委任統治領や荘園領以下城主に至るまでの何がしかの土地を与えられている高級貴族の子弟や、土地を持たない下級貴族まで、爵位を持つ者のほとんどが、将軍として任官されているという。しかも同じ階級ながら貴族というだけで、破格の給与が支払われているとも。
「貴族による、軍部予算の食い潰しじゃないか」
 階級に見合った仕事をしてくれるならまだ許せる。しかし戦闘訓練も行ったことすらない将軍が、艦隊を統率などできるはずがない。いざ戦争となれば、艦隊を放り出して一番に逃げ出すだろう。
 役に立たない金食い虫となっている貴族を軍部から放逐する事が、アレックスの最初の大仕事となった。
 人事を握っている軍令部評議会に対し、来年度から貴族を徴用することを禁じ、現在任官している貴族将軍の給与も段階的に引き下げるように勧告した。軍部統制官の権限である予算配分をカットすればそうせざるを得ないであろう。
 当然として貴族達の反感を買うことは目に見えているが、誰かが決断して戦争のための予算を作り出し確保しなければ、銀河帝国は滅んでしまうことになる。
 まさか帝国は戦争が起これば、戦時特別徴収令などを発して、国民から税金を徴収するつもりだったのか? それでは民衆の反感を買い、やがては暴動となってしまうじゃないか。
 アレックスは、あえて憎まれ役を買って出ることにしたのである。
 続いて、統合軍作戦参謀本部に対して、大規模な軍事演習を継続して行うように勧告して、演習のための予算を新たに与えた。予算の無駄使いのないように監察官も派遣した。
 そして、統合軍宇宙艦隊司令部に対しては、新造戦艦の建造を奨励して、老朽艦の廃棄を促進させた。工廟省には武器・弾薬の大増産を命じた。
 軍人なら艦を動かし、大砲をぶっ放したいと思うはずである。しかし、これまでは貴族達の予算食い潰しによって演習もままならず、大砲を撃ちたくても肝心の弾薬がないという悲惨な状態だったのである。まともに動けるのは、辺境警備の任にあって優先的に予算を回されていたマーガレットとジュリエッタの艦隊だけであった。
 すべては起こりうる戦争に向けての大改革である。
 後に【統制管大号令】と呼ばれることになる一連の行動は、貴族達の大反感を買うことになったが、一般の将兵達からは概ね良好にとらえられた。

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2021.06.22 07:57 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
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