梓の非日常/第三章・ピクニックへの誘い(四)旅行会社
2021.02.16

梓の非日常/第三章 ピクニックへの誘い


(四)旅行会社

 教室。
 梓と絵利香が戻って来る。
「今、確認中だから、ちょっと待ってくれるかな」
「わたしの方は、大丈夫だって。運転手の日当と燃料代分貰えればいいって」
「宿の方が取れるかどうかは別として、とりあえず場所は蓼科高原でいいと思うんですけど、いかがでしょう。ピクニックなんかいいですよね」
「いいね。どこかの河原でバーベキューというのもいいかも」
「こういうことは旅行会社に相談してみるのがいいわ。近くにあるから行ってみましょう」
「そうね。そこ絵利香ちゃんの親戚の旅行会社でしょ」
「こほん……」
 よけいなことは言わないで、といった表情を梓に投げかける絵利香。

 校門前。
 梓達が連れ立って歩いている。
 鞄にストラップで繋がれた梓の携帯電話が鳴る。
「はい、梓です。麗香さん、それで? うん、わかった。ありがとう。それで、お願いします」
 携帯を切り、二つ折りにして、鞄に戻す梓。
「研修保養センターの予約が取れたわ」
「本当ですか?」
「うん。三十一人全員泊まれるよ」
「あの、それで。宿泊代なんだけど……」
「あ、それなら、ただでいいんですって」
「ええ! ただ?」
「ええと……」
 言い訳を考えている梓だが、妙案を思い付く。
「そ、そうなの。実は、ホテルの従業員の研修があるんですって。その研修の一貫の実務体験ということで、あたし達の接待をするそうなの。だから、お代は頂けないって」
「研修か……そういえば、研修・保養センターだっけ。それもありかな」
「そうそう。あはは」
 苦笑する梓。絵利香も、くすっと笑っている。

 旅行会社の玄関前。
 国内旅行はもとより海外旅行も手掛ける大手である。
「ちょっと、会ってもらえるか聞いてくるから待っててね」
 一人で中に入って行く絵利香。
 受付嬢が絵利香の姿を見て、明るく声をかけてくる。
「お嬢さま、いらっしゃいませ。梓さまは、今日はご一緒じゃないのですか?」
「こんにちは、河内さん。梓ちゃんは、お友達と外で待ってもらっているわ」
「そうでしたか。それで、今日はどのようなご用で? 確か連休には蓼科に行かれると伺っておりますが」
 今日決まったばかりなのに、すでに全社的に連絡が届いているらしく、旅行のことを切り出す受付嬢。
「実はそのことで相談にのってもらいたいの」
 絵利香は実情を受付嬢に話した。
「わかりました。今は吉野が明いていますので、彼に担当してもらいましょう」
「お願いします」

 玄関前。
「なあ、絵利香さんて、もしかしてこの旅行会社の人? ほらここに書いてあるよ」
 鶴田が指し示したのは、旅行会社の看板であった。国際観光旅行社という会社名の下に、篠崎グループと書かれている。
 ……あ、見つかっちゃったか……
「さ、さあ。あたしは、知らないわ。親戚と言っていたから、名前が同じでも不思議じゃないでしょ」
「そりゃまあ、そうだろうけど。篠崎グループといえば造船・海運業では業界一を誇る篠崎重工が親会社だよなあ。タンカーやジャンボジェット機の保有数は世界一だそうだ」
「そ、そうみたいだね。あはは……」
 冷や汗かき、しどろもどろの梓。

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