梓の非日常/第二章・スケ番グループ(二)自己紹介だよ
2021.02.06

梓の非日常/第二章 スケ番グループ(青竜会)


(二)自己紹介だよ

「さあ、さあ。二人とも立ってないで、座って、座って」
「ここに座って。新しい制服が汚れないようにちゃんときれいに磨いてあるからね」
 部員達がすすめる椅子に腰を降ろす梓と絵利香。
「ええと、とにかく。初会合ミーティングをはじめるぞ」
 山中主将は、部員達を見回しながら、
「うん。二・三年は揃っているようだな。手始めに自己紹介からいこうか。新人は最後にしよう。おまえからやれ」
 といってそばにいた部員を指差す。
 しようがねえなあという表情をみせてゆっくりと立ち上がる。
「三年、副主将の城之内啓二だ。得意技は後ろ回し蹴り」
「三年、熊谷健司、得意技は前蹴り」
「三年、田中宏。得意技は……」
「真空跳び膝蹴りだろ」
 誰かがちゃちゃを入れる。
「ちがーう。と、とにかく近接戦闘ならなんでもありだ」
「二年、木田孝司。得意技は正拳上段突き」
「二年、武藤剛。得意技はとくにない」
 と立ち上がったのは、入部の受け付けをしていて、今日の会合を確認にきた部員だ。
「こいつが、二年生ながらも部で一番強いんだ。得意技がないんじゃなくて、その時点時点で最良の技がかけられるオールマイティーなやつだ。次期キャプテン候補だな」
 一番強いと聞いて梓の眉間がぴくりと動いた。おそらく機会があれば相手してもらおうと考えているに違いない。果たして自分の腕前が通じるか、武藤と名乗った相手をじっと洞察している。
 絵利香にも梓の心情が伝わっているみたいで、心配そうに梓と武藤を交互に見やっていた。
 自己紹介は続いているが、すでに梓は全然聞いていずに武藤を見つめたままだ。
「先輩達の自己紹介は一通り終わったな。次ぎは新人いこうか。端から立って出身校を含めて自己紹介しろ。得意技は言わなくていいぞ。一応名簿に記録するからな」
 キャプテンからみて右端にいた新人が立ち上がった。
「白鳥順平です。城西中学からきました」
「橘敬太です。富士見中学です」
「甲斐野誠。初雁中学です」
 そして梓の番になった。
「真条寺梓です。出身校は……言わなくちゃだめ?」
「できれば。大会に出場する時に聞かれることがありますので」
「ん……笑わないでよ」
「笑いません」
「東京にある聖マリアナ女学院中等部」
「じょ、女学院?」
「あー。やっぱり笑った!」
 手を前に伸ばして部員達を指差して憤慨する梓。
「笑ってませんよ。意外だったから驚いているだけです」
「同じ事だと思うけど」
「と、とにかく自己紹介はこれでおしまいです」
 全員の自己紹介が終わり、一同を見渡して山中が言った。
「それでは、次回は三日後に初練習をするので、ここで着替えて道場に集まってくれ」
「あの、梓ちゃんの着替えはどうするんですか?」
 絵利香が部室を見回しながら質問した。男子ばかりのこの部室で着替えはできないと疑問に思ったからだ。
 それに山中が答えた。
「はい。真条寺さんの着替えは、隣の女子クラブ棟にある女子テニス部の部室を使ってください。テニス部に交渉して許可を得ていますので」
「そうなんだ。一人だけ部外者が着替えるというのも、恐縮しちゃうもんだけど……まあ、仕方ないか」
「ところで、道着はみんな持っているだろうな」
「はい。持ってますよ」
「真条寺さんは?」
「もちろん持っています。大丈夫」
「なら、結構。ようし、今日はこれで解散しよう」
 もし道着を持っていなければ、体育着で空手の型を中心に練習することになるだろう。
 すっと立ち上がる梓と絵利香。他の男子部員は動かない。レディーファーストなのか梓達を先に送り出す所存なのであろう。
「それでは、お先に失礼します」
 ドアノブに手を掛け扉を開けようとした梓だったが、
「最後に一言、さっきのようなポルノ雑誌ですけど。読むなとは言いませんが、それを部室に持ってくるのはやめて下さいね。なんか自分が見られているようで、いやなんです。お願いします」
 と念押しに忠告した。
「わ、わかりました」
 しばしうなだれる武藤であった。
 山中主将が部員に向き直って言った。
「おい。おまえらもわかっただろうな」
「もちろんです」
「理解してくださって、ありがとうございます」
「いえいえ。当然のことですよ。それじゃ、三日後に初練習がありますので」
「結構です」
 山中が確認する。
「はい。三日後ですね。その日に、また会いましょう」
 軽く手を振って退室する梓と、
「さよなら、みなさん」
 一礼して部室を出て扉を閉める絵利香。
 二人が出ていって、ほっと胸をなで降ろす郷田。
「しかし、美少女二人と一緒にいると、心臓に悪いな」
「ポルノ雑誌なんか持ち込むからですよ。おかげでこちらまで疑惑の眼差しをむけられたんですからね。たまらないっすよ」
「す、すまん。もう二度と持ち込まないよ」
「とうぜんです!」
 部員全員から叱責されてしょげかえる郷田。自分が蒔いた種とはいえ、面目丸潰れといったところである。

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