梓の非日常/第二章・スケ番グループ(一)空手部にようこそ
2021.02.04

梓の非日常/第二章 スケ番グループ(青竜会)


(一)空手部へようこそ

 空手部部室。
 空手部員達が、一所懸命に部室の掃除をしている。
 ロッカーを開けて中を整理しているもの。窓拭きするもの、雑巾掛けするもの、そ
れぞれ分担しながら掃除を続けている。
「おい、こら。こんなもん。剥がしとけ!」
 壁に張られたグラビアヌード写真を指差しながら、主将の山中大志がどなっている。
「いいか。可愛い女の子が入部してくるんだ。部室が汚いのに驚いて逃げ出されない
ように、隅々まできれいにしておくんだ。塵一つあっちゃならねえ」
「しかし、本当にその女の子来るんでしょうねえ」
「間違いありませんよ。今日最初の部会があること伝えるために、今朝彼女に会って、
念のため確認しときましたから」
「本当に可愛いのか? 武藤。空手なんかはじめようなんて女の子だ。実はぶすだっ
たなんてのは、反則だぞ」
「大丈夫ですよ。飛び切りの美少女ですから」
 武藤と呼ばれたのは、入部受け付けをやっていたあの部員だった。
「ならいいが……」

 校舎から各クラブの部室があるクラブ棟への渡り廊下を歩いている梓と絵利香。
「来ました、来ましたよ。可愛い女の子が二人こちらへ歩いてきます」
 外を監視していた部員が叫んだ。
「二人? どういうことだ。女子部員はひとりだろ」
「ああ。たぶんもう一人は付き添いですよ。男ばかりの場所に、女の子一人で行かせ
るのは心配だからって、彼女の友達が一緒に来ることになってます」
 武藤が答える。
「俺達、狼ってことかあ?」
「充分狼だと思いますけど」
 新入一年生の白鳥順平が、床に落ちていた無修正のポルノ雑誌を拾い上げて、
「こんなんありましたけど。高校生がこんなもん学校に持ってきていいんでしょう
か」
「そ、それは!」
「はい、郷田先輩。ちゃんと隠しておいてくださいね」
 といって手渡す。
「う、うう。わかった」

「ごめんください」
 部室の外から、可愛い声が聞こえてくる。
「きた!」
 一斉にドアの方に視線を集中させる部員達。
 こほん!
 と咳払いしてドアのところへいく木田孝司。
 そっと静かにドアを開けると、目の前に女子生徒が二人。梓と絵利香が微笑んで立
っている。
「入部希望の真条寺梓です。よろしくお願いします」
「付き添いの篠崎絵利香です」
「すみません。どうしてもついていくときかなくて」
「ははは、構いませんよ。女の子は多いほうが華やかでいい。そうだ、せっかくだか
らマネージャーになりませんか」
「そうだよ、絵利香ちゃん。なりなよ」
「え? そんな急に言われても」
「よし、決定! 篠崎絵利香、マネージャーになります」
「勝手に決めないでよ! もう」
「いつでもいいですよ。気がむいたらということで」
「クラブがクラブですから、怪我したりするかもしれないですよね。梓は女の子です
から、やっぱり同性のわたしが一緒にいたほうがいいと思うんです。だから今後も、
一応付き添いさせてください」
「まあ確かに一理ありますね。いいですよ」
「無理言って申し訳ありません」
「さあ、中にはいって。むさ苦しいところですけど」
「失礼します」
 部室内を物珍しそうに物色する梓。
「へえ。結構、きれいになってるわね。きっと、あたし達が来る前に掃除してたの
よ」
「ちょ、ちょっと。梓ちゃん。失礼よ」
「だって、ほら。よくある話しじゃん。男子の部室ってさあ。汚くて臭くて、たとえ
ばロッカー開けたりすると、エッチな本なんか出てくるんだよ。たとえばこのロッ
カー」
 と、ロッカーに手を当てている。
「あ!」
 部員達が息を飲んだ。そこは郷田剛のロッカーである。無修正のポルノ雑誌が入
っているはずである。
 その時ロッカーが開いて、ポルノ雑誌がこぼれ落ちる。
「あ、梓ちゃん。ひとのロッカー勝手に開けちゃだめじゃない」
「開けないよ。ひとりでに開いちゃったんだよ。ちゃんと閉まっていなかったんだ
ね」
 といいながら、雑誌を拾い上げ、ぱらぱらとページをめくる梓だが、次第に頬を赤
らめていく。
 冷や汗流している郷田剛。他の者もどうなるかと、固唾を飲んで見守っている。
 絵利香にそっと耳打ちする梓。
「ほんとに入ってたよ」
「あ、梓ちゃん」
「はい。絵利香ちゃん」
 といいながらポルノ雑誌を手渡す。
「そんなもんわたしに、渡さないでよ」
 あわてて梓に突き返す絵利香。
「ねえ、絵利香ちゃん。男の子って、みんなこういうの持ってるのかな?」
「さ、さあ。わたしには、何ともいえないわ。男の子と付き合ったことないから」
「あたしだって、そうよ」
 二人のひそひそ話しは続いている。その声が聞こえるのか、部員達は視線をずらし
て梓達を見ないようにしている。
「でも、ほら。あなたは昔……」
「だめよ。昔の記憶はないの。あるのはイメージだけ」
「そうだったわね……」
「記憶はないけど、見舞いに行った時、その人の部屋にあったわよ。こういうの」
「やっぱりねえ……」
 と言って部員達を見回す二人。
 二人と視線が合うと首を横に振って否定する部員、心あたりのある者は天井を仰い
でいる。
 梓は、黙ってロッカーにポルノ雑誌を戻しながら、
「別に、こういうもの読むなとは言わないけど……学校に持ってくるものじゃないよ。
先生に見つかったら停学か退学になっちゃうわよ。郷田先輩」
 貼られたネームプレートを読み上げ、ぱたんと扉を閉める。
「す、すまん……」
 名指しされて頭を垂れて謝る郷田。

 部室は常に清潔に保ち、グラビアヌードイラストなどは貼らないように。

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