梓の非日常/第三章・ピクニックへの誘い(一)フランス留学?
2021.02.13

梓の非日常/第三章 ピクニックへの誘い


(一)フランス留学?

 英語の授業で担任の下条教諭が出席を取っている。
「よし、全員出席と……」
「先生よお。梓ちゃんと絵利香ちゃんがいないじゃんか」
「あれ、君達にまだ話してなかったっけ。あの二人は、英語の授業は免除されてるんだ」
「免除ってどういうことですか?」
「実は二人は、生まれも育ちもニューヨークの帰国子女でな。完璧な英語を流暢に話せるんだ。特に真条寺君は、母親ともどもアメリカ国籍で、帰国というより留学で日本に来ているというのが正しい。逆に我々英語教師の方が彼女達に教えを請うくらいで、英語の授業を受ける意味がない」
 二人の意外な真相を知って、教室がざわめきだした。
「二人が、ちゃきちゃきのニューヨーカーだったなんて……」
「どうりで、雰囲気違ったわけだよな」
「そういえば、昨日英語がびっしり書かれた本を読んでたよ。表紙の絵は風と共に去りぬだったけど」
 一同が、主のいない二人の席を注視し、ため息をもらす。
「まあ、そんなわけだ」
「へえ。そうだったんすか。んじゃ、俺、英語の授業はさぼろうかな。梓ちゃんいないとつまんないもんね」
「こらこら、教師の前で堂々と言う奴があるか。第一そんなことしてみろ、彼女達との距離がよけい遠退くんじゃないのか。少しでも近づきたいなら英語が話せなきゃ、な!」
「うう。それ言われるとつらい」
「ちなみに英語と日本語どっちが難しいか尋ねたら、日本語の方が難しいと答えた。真条寺くんなんか、男性言葉と女性言葉の区別がわからなくて、時々男言葉になっちゃうとぼやいていた」
「あ、それ違うよ。梓ちゃんの場合は、元々男っぽいんだ。地の言葉っすよ。あれは」
 あはは。と、教室中の生徒達が納得して笑っている。
「そうなのか? ま、とにかくだ。彼女達は、英語のかわりに校長室でフランス語を習っているよ。校長の都合もあるから、毎回というわけじゃないけどな」
「フランス語ですか?」
「ああ、しかもだ。フランス語だって日常会話程度ならちゃんと話せるんだぞ。高校卒業後は、二人ともフランスの大学に進学するそうだ。日本留学の次ぎはフランス留学か、国際人だなあ」
「フ、フランス留学?」

 下条教諭の英語の授業が終わり、梓と絵利香が教室に戻ってきた。
 愛子ら女子生徒達が、早速話し掛けて来る。
「ねえねえ。二人ともニューヨーク帰りなんだって?」
「あら、先生から聞いたのね」
「どうして話してくれなかったの?」
「別に隠してるわけじゃなかったんだけど。ね、絵利香ちゃん」
「そうね。話す必要がないと思ってたから」
「一応梓ちゃんは、アメリカ人ということになるのね。当然永住権もあるわけだ」
「ついでに、お母さんもアメリカ国籍だよ。お父さんは日本だけど」
「頼む。フランスに行かないでくれ」
 突然慎二が割り込んできた。
「何、言ってんだ。おまえ」
「日本の大学ならまだ何とかなるかもしれないけど、フランスになんか行かれたら……お、俺は」
 いきなり梓に抱きつく慎二。
「捨てないでくれえ」
「どさくさに紛れて抱きつくなあ!」
 床に転がっている慎二を足蹴にしながら、
「悪いけど、これは真条寺家のしきたりなんだよ。英語圏に六年、その他の語圏に三年以上留学することが、家訓に定められているんだ」
「絵利香さんはどうなの。真条寺家とは何の関係もないんでしょ」
「そうなんだけど、三歳の時からずっと一緒だったから、ついて行くことにしたの」
「腐れ縁というやつね」
「そうじゃないでしょ。梓ちゃん」
「ははは……」

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