銀河戦記/鳴動編 第二部 第十二章 海賊討伐 Ⅱ
2021.05.01
第十二章 海賊討伐
Ⅱ
中立地帯海賊基地。
海賊艦隊が近づいてゆく。
ゲートがゆっくりと開いてゆき、艦隊が入港してゆく。
中央コントロールルームに、フランシス・ドレーク提督が候女を引き連れて現れる。
「お帰りやす! 提督殿」
「その提督というのは、ここでは止めてくれないか」
「ではお頭、その娘が候女さまですかい?」
「ああ、大切な人質さまだ。手荒に扱うなよ」
「へいへい」
通路を手縄を掛けられて、連行されてゆく候女。
海賊が営倉の一つを開けて、
「さあ、ここに入るんだ!」
と指示する。
抵抗しても無駄だと悟っているので、素直に入る候女。
鍵を掛けて、離れてゆく海賊。
ベッドに腰かける候女。
その候女の姿は、天井の片隅に設置された隠しカメラで映されていた。
サセックス侯国エルバート侯爵家。
候女が誘拐されたことが発覚して騒動になっていた。
「シルビアはまだ見つからないのか?」
いらつく侯爵が怒鳴り散らしていた。
「見つかりません!」
侯爵は疑心暗鬼になっていた。
使節団がやってきて、味方になることを断った直後だった。
もしかしたら、使節団が……?
その時、デスクの上の端末が鳴った。
「なんだ? こんな時に」
端末を操作すると、そこに映りだされたのは……。
「シルビア!!」
候女のシルビアだった。
驚愕する侯爵。
映像が切り替わり、ゴツイ顔の男になった。
「おまえの娘は預かっている」
「何故だ! 娘を浚ったのは? 娘は大丈夫なんだろうな? 要求はなんだ?」
続けざまに質問をあびせるが、
「今は何も言えん。いずれ連絡をする」
それだけ言うと、映像が切れた。
「シルビア……」
中立地帯への境界にたどり着いたウィンディーネ艦隊。
赤色灯が点滅し、警報音が鳴り響いている。
「まもなく中立地帯に入ります」
航海士が忠告する。
「ここから先に侵入するのは、国際条約違反になりますが」
「なあに大丈夫だ。これは救助活動だからな。誘拐されたエルバート侯爵のご息女の救出作戦である」
「了解! これより候女救出作戦による中立地帯への進入封鎖を解除します」
「警報解除します」
「Pー300VXから入電! 海賊基地と思われる基地を発見したとのことです」
「ついに見つけたか!」
「Pー300VXの現在地座標を確認!」
「よおし! 海賊基地に向けて進撃開始!」
「座標入力完了!」
「微速前進!」
ゆっくりと中立地帯への動き出したウィンディーネ艦隊であった。
某氏館内。
「侯爵の娘の誘拐に成功したようです」
「さすが海賊上がりのドレーク提督だな」
「早速、脅迫をはじめましょうか?」
「いや、まだ早いだろ。誘拐が起きたばかりだからな」
「そうですか……」
「それにしても、ドレーク提督は連邦軍にいたって噂は本当ですかね?」
「しっ! それは秘密事項だ。他の誰にも喋っていないだろうな?」
「は、はい。喋っていません」
「ならばよい」
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十二章 海賊討伐 Ⅰ
2021.04.24
第十二章 海賊討伐
Ⅰ
アルビエール侯国アレックスの執務室。
「ヘルハウンドから連絡が入りました。海賊船は中立地帯へと向かっているようです」
パトリシアが報告する。
「そうか、やっと本拠地を探し当てられそうだな」
「どうしますか? 戦艦が中立地帯に立ち入るのは、国際条約違反になりますが」
「そもそも中立地帯に違法に基地を建設しているのは海賊だからな」
としばし考え込んでいたが、
「この際、大掃除するか?」
「中立地帯でドンパチやらかすのですね」
「害悪を放っておいては、摂政派との交渉にも水を差される事態になるかもしれないからな」
「誘拐された候女救出という名分があれば、大丈夫なのではないでしょうか」
「そうかもしれないな」
「それでは、征伐には誰を向かわせますか?」
「ここはやはり、ゴードンがいいだろう」
「捲土重来(けんどちょうらい)ですね。失った信用を取り戻させようと?」
「まあな……」
海賊征伐の命はすぐさまゴードンに伝えられた。
副官のシェリー・バウマン大尉が、頬を紅潮させて言う。
「提督の恩に応える機会を与えられましたね」
「すぐさま海賊討伐に向けて準備せよ!」
「はいっ! 海賊討伐に向けた準備を進めます」
キリッと姿勢を正して、命令を復唱するシェリーだった。
「ヘルハウンドに連絡! 我々が到着するまで、索敵に専念させて早まった行動は取らせるな!」
通信士も思いは同じだった。
いや、ここにいるすべてのオペレーター達の思いも。
ウィンディーネ艦隊が結成されて以降、指揮官たるゴードンに付き従ってきた同志だった。
「了解! ヘルハウンドどうぞ!」
『こちらヘルハウンド』
「索敵に専念し、ウィンディーネ艦隊の到着を待て!」
『ヘルハウンド了解! ウィンディーネ艦隊を待ちます』
数時間後。
「出航準備完了しました!」
「よおし! 中立地帯へ向けて全速前進!」
「了解!」
「進路、中立地帯へ!」
「全速前進!」
ウィンディーネ艦隊七万隻が、中立地帯に潜む海賊討伐に向けて動き出した。
銀河帝国にしろ、共和国同盟にしろ、長年の頭痛の種を葬り去る好機がやってきたのだ。
その頃、追撃艦隊が動き出したのも知らずに、中立地帯へと踏み込む海賊船団。
「まもなく中立地帯に入ります」
航海長が報告する。
「警報装置を切っておけよ」
戦艦に搭載された航路ナビには、中立地帯に近づくと警報を鳴らすシステムが組み込んである。
結構大きな音を立てるので、煩いからと切るのがいつものことである。
国際条約上では切ってはいけないことにはなっているのであるが海賊には無用である。
「中立地帯に入りました」
「跡をつけている奴はいないか?」
「感応ありません」
「ならば基地に帰還する」
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅹ
2021.04.17
第十一章 帝国反乱
Ⅹ
Pー300VXからの報告を受けて、首都星サンジェルマンから遠く離れた場所で待機していた部隊が動いた。
艦体に赤い火の精霊が描かれた高速巡航艦「ヘルハウンド」に従えられた、本家本元のサラマンダー部隊十二隻である。。
指揮官トーマス・マイズナー少佐が頷く。
「提督の危惧した通りに、敵さんが動いたな」
「さすがですね。先見の明には感服します」
副長のクランシス・サックス少尉が感心する。
「提督自身も誘拐された経験があるからな」
「もしかしたら、今回の誘拐犯もその時の奴では?」
「かも知れない」
「直ちに救出作戦に入りますか?」
「いや待て! 奴らがどこへ向かうかを見定めなくてはならない。アルデラーンに向かうか……」
「中立地帯の海賊基地に向かうかですね」
「そうだ。もし海賊基地に向かうならば、摂政派と海賊、というかバーナード星系連邦との繋がりも判明する」
「そういえば、海賊基地はまだ判明していないんですよね」
「ああ、惑星ミストと補給基地から通信傍受して、場所を割り出そうとしているのだが、あれから探知できるような通信記録はないそうだ」
「もしかしたら移動基地のようになっているのかも知れないのでは?」
「可能性はあるが……。ともかく跡をつけていけば、何らかの事実が判明するだろう」
「ですね」
「よおし! 尾行していることを悟られないように、微速前進で追跡する」
「了解! 微速前進」
先行するP-300VXに案内されるように、私掠船の尾行を始めた。
私掠船内にある一室。
少女がベッドの縁に座り、虚ろな表情で天井を見つめている。
拉致監禁され、どうしようもない状態を悲観している。
少女の力では成す術もなかった。
唯一の救いは、拘束されていないことだけだった。
「侯女はどうしておるか?」
「おとなしくしておりますよ。浚った当初は抵抗していましたが、宇宙に出た今は逆らっても無駄だと悟ったようです」
「大切な人質だ。一応大切に扱わなくてはな」
「一応ですか」
とほくそ笑む副長。
「よし。進路を中立地帯へ向けろ!」
「久しぶりに基地に戻るのですね」
ゆっくりと方向を変えて、中立地帯へと転進した。
ヘルハウンド艦橋。
「やっこさんが、中立地帯に向かうようです」
「跡をつけられているのに気づかないか。案内してもらおうか、海賊基地まで」
「さすが、Pー300VX偵察機ですね」
「ああ、戦艦千二百隻分の予算が掛かっているからな」
「それもこれも、ランドール提督の采配というところでしょうか?」
「まあな。俺だって、戦艦千二百隻の方を選んださ」
「問題は、偵察機の燃料ですね。エネルギー切れで正体を明かしてしまわなければいいのですが……遮蔽装置って結構エネルギーを消耗するのでしょう?」
「やつらが真っすぐ基地へ向かってくれる分には、十分燃料は持つはずだ」
「寄り道しないことを祈りましょう」
第十一章 了
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅸ
2021.04.10
第十一章 帝国反乱
Ⅸ
アルビエール侯国首都星サンジェルマン、執務室で談話するアレックスとハロルド侯爵。
「どうやら摂政派は、サセックス侯国を自陣に取り込もうと画策しているようです」
「当然でしょうね。味方は多ければ多いほどいいですから」
「こちらも交渉した方がよろしいのではないでしょうか?」
「そうなのかもしれませんが……。紛争が泥沼化した際には、仲裁役として中立を保っていて欲しいものです」
「しかし反乱を起こした側にとっては、溺れる者は藁をも掴むです」
「そうですね。取りあえずは、保険を掛けておくとしますか」
数日後。
サセックス侯国のエルバート侯爵の館を訪れた使節団があった。
使節の代表は、ロベスピエール公爵の懐刀のマンソン・カーター男爵である。
応接室で応対するエルバート侯爵。
「早い話が、味方になれということですかな」
「その通りです」
「我が国が、バーナード星系連邦に対する盾になっていることはご存じですよね」
「はい。しかし連邦は、革命直後で侵略する可能性はありません」
「それは分かっております。とはいっても、アルビエール侯国側にしても、同じことを考えておりましょう。どちらか側の肩を持つというのは、不公平というものです」
数時間後。
館から出てくる使節団。
「想定通りだったな」
「仕方ありませんね。やりますか?」
「無論だ。後はドレーク提督に任せよう」
やがて乗ってきた車で帰ってゆく。
宇宙空間に十二隻の宇宙船が停止している。
その中心にフランシス・ドレーク提督の乗船する私掠船カリビアン号。
かつて海賊として帝国内を荒らしまわった船である。
久しぶりに仲間を招集して海賊団を結成したのだった。
船橋では、今しがた通信が終わったばかりのところ。
「男爵は、説得に失敗したか……。まあ、想定内だ」
「次は我々の番ですね」
「標的は今どこにいる?」
「今の時間は、女学院にいるはずです」
「よし! 先に潜入している奴と連携して、下校するところを襲うぞ!」
「彼女は、送り迎えの車で通学しています」
「運転手は殺しても構わん。娘だけ誘拐できれば良い」
数時間後。
数隻の高速艇が惑星へと降下していった。
女学院から公爵家へと向かう自動車。
車内で本を読んでいる少女。
その自動車の前方に出現する高速艇。
道を塞ぐように停止する。
何事かと車を降りてくる運転手だったが、バタリと地面に倒れてしまう。
高速艇から数人の男達が降りてきて、自動車を取り囲む。
怯えている少女。
「お嬢さま、お迎えに参りました」
ドアを開けて、降車を促す男。
「おとなしくして頂ければ、危害は加えませんから」
逆らってもしかたがないと思った少女は、言われるままに男達に着いてゆく。
少女を乗せた高速艇は上空へと飛び去り、待機していた私掠船に合流する。
やがて、どこかへと消え去った。
その私掠船の後を密かに追跡する一隻の船。
その機影はレーダーからは確認できず、肉眼でも視認できない。
歪曲場透過シールドで守られていた。
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅷ
2021.04.03
第十一章 帝国反乱
Ⅷ
大演習は終わった。
すでに展望ルームには、皇帝の姿はない。
幼い皇帝に長時間同じ場所に立たせておくのは無理だろう。
ぐずって泣いて周りの者を困らせたのであろう。皇帝をあやしながら侯爵とエリザベス皇女と共に帰ったと思われる。
残っているのは将軍達だけのようである。
「大演習を終了する。これより反省会を開くので、各艦隊の指揮官及び参謀はステーション作戦会議室に集合せよ」
本部から連絡が届く。
数時間後作戦室に集合する面々。
議長は、当然ロベスピエール公爵子飼いのアルバード・ギンガム大将である。
「反乱軍は、アルビエール侯国に集結している」
摂政派においては、反乱を起こしたのは前回に続いて皇太子派ということになっている。
前回はともかく今回はどうみても摂政派の謀反であることは確か。
しかし国政においては、帝都を押さえている摂政派に分がある。
「帝国を放ったらかしにして、共和国同盟にばかり加担して国政を疎かにしている」
アレクサンダー王子に、皇帝になる資格はないと吹聴しまくっていた。
盗人にも三分の理があるということだろう。
摂政派にとって、アレックス(アレクサンダー)が皇位継承継承権を有する王子であることまでは認めているようだが、皇太子としては認めない。
話題は中立を保っているサセックス侯国の話しとなった。
「サセックス侯国は、今まで通り中立を保っている」
「まあ、バーナード星系連邦の侵略を阻止するためには致し方ないでしょう」
「連邦? 今はあっちも謀反が起きて分裂しているのだろ? こちらに攻め入る余裕はまだないと思うのだが」
「さすれば、サセックスをこちら側に引き込むこともできるじゃないか」
「使者を送ってみたらどうだ?」
「そうだな。手をこまねいていたら、反乱軍に先を越されてしまうぞ」
「だが、これまでの経緯をみても、エルバート侯が首を縦に振るとは思えないが?」
頭を抱える一同だったが、
「人質を取って、言うことを聞かせるしかないだろう」
と進言したのは、フランシス・ドレーク提督であった。
海賊上がりのドレーク提督にとっては、人質作戦を実行するのも容易いだろう。
「ならば貴官が陣頭指揮を執ればどうだ?」
「いいですとも。ご命令なさればいつでもよろしいですぞ」
と議長のギンガム大将を見る。
「それは良いのだが……一応公爵に伺ってからでないと結論は出せない」
国家間の案件であるがゆえに、公爵の了解を取る必要がある。
最高権力者であるはずの皇帝ロベール三世でも、摂政エリザベスでもない公爵の名を出すことからして、真の実力者は誰かを示していた。
「ところで、ジュビロ・カービンはどうしておるか?」
「例の同盟分断作戦を上程した奴か? 闇の帝王とか名乗っていたようだが」
「議会進行中のスクリーンに突然現れたのにはビックリしましたよね。ハッキングの能力は認めますけど」
「しかし彼の進言通りに途中までは上手く運んでましたよ」
「共和国同盟内に反乱を起こさせたのは、素晴らしい手腕でした」
「いっそ参謀に取り入れたらどうでしょうか?」
「いや、それはよした方がいい。ああいう奴は、自分の都合で簡単に裏切る」
ということで、話題を変える一同だった。
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