銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅱ
2021.02.20
第十一章 帝国反乱
Ⅱ
タルシエン要塞。
監房の独居房に拘禁されているゴードン・オニール少将。
その髭の伸び具合からして、かなりの日数を閉じ込められていたとみられる。
その房に近づく足音があった。
扉が開けられて、看守が入ってきた。
「オニール少将、出ろ!」
監房内においては、階級は関係ないので、敬語は使われないのは当然。
「腕を出せ!」
大人しく腕を出すと、カチャリと手錠を掛けた。
逃亡されないための用心である。
要塞中央コントロールセンターのフランク・ガードナー中将の前に連行される。
「オニール少将を連れて参りました」
「うむ。ご苦労だった、下がってよし!」
「はっ!」
ゴードンを残して看守は下がった。
「どうやら元気なようだな」
「一応……ね」
ぶっきらぼうに答えるゴードン。
「髭を剃ってきてくれないか。他人みたいで話しづらい」
副官に合図を送る。
「こちらへどうぞ」
手錠を外され洗面所に案内されて、髭剃りの道具を与えられる。
髭を剃り、顔を洗って再びガードナーの所へ戻る。
「早速だが、見せたいものがある。来てくれないか」
言うなり歩き出した。
後を付いていくと、艦隊の駐留機場だった。
修理や燃料補給、休息のための一時待機などの艦艇が立ち並んでいる。
ガードナーの旗艦、戦艦フェニックスの雄姿もある。
そこを通り越してさらに進む。
やがて見えて来たのは、
高速戦艦ハイドライド型改造Ⅱ式だった。
「こ、これは!」
驚愕の表情を表すゴードン。
何故なら、その艦体には水の精霊『ウィンディーネ』が描写されていたからだ。
そして艦の搭乗口タラップ前には、副官のシェリー・バウマン大尉と配下の将兵が立ち並んでいた。
「お待ちしておりました。閣下! 出航準備完了しております」
一斉に踵を揃え敬礼をする。
『ランドール提督より通信が入っております。ウィンディーネ艦橋へお越しください』
場内アナウンスが流れた。
「さあ、さあ。搭乗して下さい。提督をお待たせしては失礼ですよ」
ゴードンの背中を押して、搭乗口へと案内するシェリー。
搭乗係員に申告するゴードン。
「搭乗の許可願います」
「許可します。これをどうぞ」
係員が手渡したのは、司令官用の徽章だった。
徽章からは微弱電波が発信されており、胸に取り付けていれば、艦内を自由に行き来きできるようになる。
艦橋へとやってきた。
オペレーター達が一斉に立ち上がって敬礼で迎える。
「お帰りなさいませ、閣下!」
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅰ
2021.02.13
第十一章 帝国反乱
Ⅰ
ウェセックス公国のロベスピエール公爵率いる摂政派の貴族たちが反乱の狼煙を上げた!
衝撃的なニュースが飛び込んできた。
顔を見合わせるマーガレット皇女とジュリエッタ皇女だった。
以前からきな臭い情勢だったのだが、共和国同盟内の反乱鎮圧に、アレクサンダー皇太子と両皇女が留守にしている間に、これを機会にと決起したのであろう。
「ハロルド侯爵は?」
「無事です」
マーガレットが答える。
ハロルド侯爵はアルビエール侯国領主であり、アレックスとマーガレットの叔父にあたる人物である。
「自治領艦隊百万隻と第二・第三の駐留艦隊総勢百五十万隻が守っています」
「うむ。摂政派も連邦もすぐには仕掛けてこれないな」
「しかし帝国本星は摂政派が押さえてしまいました」
「サセックス侯国のエルバート侯爵は、従来通り中立を保っているようです」
「国境を接するバーナード星系連邦に対する守りの方が重要だからな。内戦には参加しないのも当然だろう」
連邦に対する守りであることを、摂政派も皇太子派も十分承知しているので、自派に取り込もうとはしない。
「帝国へ戻るぞ」
「御意にございます」
『内憂外患状態なのに、皇太子は何しているのだ?』
と、思われないためにも、一刻も早い帰国が必要だった。
アレックスは、ウィンディーネ艦隊をディープス・ロイド准将に預けて、急遽帝国へと向かった。
押っ取り刀で、アルビエール侯国に戻ると、ハロルド侯爵が笑顔で出迎えた。
「おお、無事でしたか。心配していましたぞ」
「ご心配おかけしました」
アレクサンダー皇太子を迎えての晩餐会が始まった。
交わされる会話はもちろん摂政派の動向である。
ロベスピエール公爵は、ジョージ親王の皇太子擁立が皇室議会で決定されていたことを根拠に、息子を帝位に就けると同時に皇太子派の貴族たちを次々と拘禁しはじめた。
配偶者であるエリザベス第一皇女が摂政を務めていただけに、内政については正常に回っているように見えた。
改めてジョージ新皇帝の戴冠式を執り行い、神聖銀河帝国の樹立を宣言したのだった。
「神聖銀河帝国ねえ……分裂も止むなしと考えたのだろうな」
「認めれば、バーナード星系連邦との分裂以来三度目となります」
かつてのソートガイヤー大公が専制君主国家アルデラーン公国を起こし、孫のソートガイヤー四世によって全銀河を統一して以来、最初の分裂がトリスタニア共和国同盟の独立だった。そして二度目、軍事国家バーナード星系連邦が分離独立を果たした。
神聖銀河帝国は防衛面から考えれば、侵略国家である連邦に対して、エセックス侯国及びアルビエール侯国が防壁となる位置にある。
摂政派は、連邦のことは考慮に入れなくてもよいと考えているようだ。
連邦の侵略を防ぐためにも、エセックス侯国自治領艦隊は動かせない。
よって、摂政派と対峙できるのは、アルビエール侯国自治領艦隊だけとなる。
摂政派の軍勢は、第二・三・六皇女艦隊を除く全軍三百万隻ほど。
皇太子派の軍勢は、皇女艦隊百四十万隻とアルビエール侯国艦隊百万隻、合わせて二百四十万隻ほどである。
「数は多くても戦闘の経験のない艦隊では、正直相手にならないかと」
「そうやって油断していると痛い目を見るぞ。一頭の羊に率いられた百頭の狼の群は、一頭の狼に率いられた百頭の羊の群に敗れる、という諺がある」
「ナポレオンですね。でも、摂政派軍に狼に匹敵するような指導者がいるかが疑問ですが……」
「隠れた逸材はどこにでもいるよ。ただ、それを見出し活用できるかが問題なのだ」
「ニールセン中将のように、たとえ有能でも自分の意にならない士官を最前線送りするようでは駄目ということですね」
チャールズ・ニールセン中将は、共和国同盟軍統合参謀本部議長であって、上位の大将が空席だったために軍最高司令官となっていた。
赤色超巨星べラケルス宙域決戦において、三百万隻の艦隊とともに消え去った。
「殿下、お見せ致したいものがあります」
ジュリエッタ皇女が話しかけてきた。
「見せたい? 何かね?」
「艦隊駐留基地格納庫にお越し願えませんか? ご覧になって頂きたいものがあります」
「分かった」
ジュリエッタに案内されて、格納庫へと訪れたアレックス。
そこで目に飛び込んできたのは、
「ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式六番艦です」
見慣れた艦の雄姿だった。
「六番艦? 六番艦があったのか?」
「はい。廃艦が決まった折に、建造途中のこの艦を譲り受けたのです」
「五隻の他に、建造中か……」
「技術者にも来ていただいて、この艦を完成させました。この艦を、殿下に献上したくご案内した次第であります」
「この艦を私に?」
「ウィンディーネを失われた今、艦隊運用にも支障が出ておられましょう。その補充に最適かと」
「本当に良いのか?」
「もちろんでございます。この艦は相当なじゃじゃ馬だとお聞きします。殿下か配下の提督しか乗りこなせないでしょう」
「そうか……ありがたく頂戴しておくよ」
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11
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅸ
2021.02.06
第十章 反乱
Ⅸ
「ウィンディーネ炎上を確認しました。どうやら航行不能に陥ったようです」
「ウィンディーネの乗員が次々と退艦していきます」
爆発炎上するウィンディーネを見つめるアレックス。
航行不能になったウィンディーネは、ゆっくりと漂流を始めた。
総員退艦したのを確認すると、
「魚雷発射準備! サラマンダーに止め(とどめ)を刺す」
「サラマンダーを葬るのですか?」
「そうだ! 反乱軍の拠り所となっているウィンディーネを沈めれば、抵抗する気力もなくなるだろう」
魚雷が発射される。
心臓部に命中した魚雷によって、ウィンディーネは跡形もなく消滅した。
こうして、ランドール艦隊の中でも、随一の戦績と功績を誇る名艦であった、ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式、旗艦ウィンディーネは宇宙から消えた。
「これまで我々の戦いを勝利に導いてくれたウィンディーネに敬礼!」
アレックスは、粉々になった残骸に対して、自らも敬礼をしてみせる。
その姿は全艦放送で流され、各艦では見習って敬礼をする士官達がいた。
「よし! 艦隊に戻る。全艦、現宙域を離脱せよ!」
ヘルハウンド以下の小隊が、ワープして宙域から離脱した。
アレックスの思惑通り、戦意を喪失した反乱軍は、白旗を揚げたのである。
七万隻を誇る艦隊のすべてを指揮統制することのできる戦術コンピューターを搭載していた旗艦ウィンディーネなしでは、まともな艦隊運用はできないからだ。
数日後、ゴードン・オニール准将がタルシエン要塞のアレックスの元へと出頭した。
「済まないが、拘禁させてもらうよ」
「自分はどんな処分でも受け入れるつもりだ。しかし、部下には情状酌量をお願いしたい」
「分かった。考慮する」
拘束されて独居房へと連行されていった。
艦橋内に寂しげな雰囲気が漂う。
同志として生死を共にし、感動を共有していただけに、ゴードンの拘禁によって、士気の低下は否めないものとなっていた。
情状酌量で反逆罪は免れても、ウィンディーネ艦隊の将兵達は無気力となっていた。
「いかんなあ……」
この状態で、連邦軍が攻め込んできたりすれば苦戦は免れず、最悪カラカス基地を奪還され、さらにはアルサフリエニ地方も陥落するかもしれない。
「連邦の革命後の組織再編が長引くことを祈るしかないな」
第十一章 了
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅷ
2021.01.30
第十章 反乱
Ⅷ
ヘルハウンド艦橋。
「集中して機関部を狙え! 動きを止めるのだ! 撃沈してはならない」
アレックスが、次々と指令を出している。
「隊長機以外は相手にするな!」
同じ共和国同盟軍であり、元はアレックスの子飼いともいうべき部下だった者たちだ。
極力被害の少なくなるように、撃沈させずに行動力だけを削ぎ落す戦法を繰り広げていた。
たとえ戦艦が何万隻あろうとも、指揮統制が乱れていては、その戦力を十分に発揮できない。
隊長機だけを狙い撃ちにして、艦隊の混乱を誘い出す戦法である。
ちょこまかと動き回る小隊を、撃ち落とすのは困難だった。
下手に迎撃しようとすると、同士討ちになってしまう。
元祖伝家の宝刀ランドール戦法の真骨頂であった。
なすがままのウィンディーネ艦隊であった。
ウィンディーネ艦内では、あちらこちらで火災が発生していた。
その原因は、各ブロック隔壁扉の閉め忘れだった。戦闘中の基本の基本が守られていなかった。
戦えば連戦連勝で気が緩んでいたとしか言えない。
日頃の防火訓練などが疎かになっていたのだ。
一カ所で火の手が上がったのが、次々と別の区画へと飛び火し、連鎖的に火災が広がったのである。
「だめです! 消火が間に合いません!」
そしてついに、火薬庫に燃え移った。
激しく爆発を繰り返すウィンディーネ。
苦々しく発令するゴードン。
「総員退艦せよ!」
もはや、ウィンディーネを救う手立てはなかった。
次々と退艦する乗員達。
その姿を艦橋から見つめるゴードン。
「乗員の退艦はほぼ終了しました。閣下も退艦してください」
シェリー・バウマン大尉が進言するが、
「いや、俺はここにいるよ」
と退艦拒否の姿勢を見せる。
「何をおっしゃいますか! 閣下がいなければ、これまで従ってきた将兵達はどうなると思いますか?」
反乱を起こした将兵には、当然審問委員会に掛けられることとなる。
「責任を放棄なさるとおっしゃるのですか? 閣下には生き残って、その責任をとる義務があります」
「責任と義務か……」
「ランドール提督は聡明なお方です。どんな理由であれ、部下を見放したりはしないでしょう。ここは退艦して、捲土重来をおはかりください」
「捲土重来か……」
「どうしても残られるとおっしゃるなら、私もご一緒します」
「何を言うのか。君が責任を取る必要はない」
「いいえ!」
キッと睨め付けるようにゴードンを凝視するシェリーだった。
このまま梃子でも動かぬだろうと、困ったゴードンの方が折れた。
「分かったよ。退艦しよう」
「では、こちらに。艀を用意してあります」
シェリーの説得により、ゴードンも退艦して、無人となったウィンディーネ。
ついにその最期を迎えることとなった。
悲鳴を上げるように爆発炎上する。
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十章 反乱 Ⅶ
2021.01.23
第十章 反乱
Ⅶ
ウィンディーネ艦橋。
正面スクリーンには、敵たるサラマンダー艦隊及び帝国艦隊の配置が示されている。
「敵艦隊の総数は、およそ一万二千隻!」
レーダー手が報告する。
「どうやら退く気配はありませんね」
副官のシェリー・バウマン大尉が意外な表情をしている。
「これだけの艦数差をもってしても前進してくるということは、何か策を練っているはずだ」
「ランドール戦法ですかね」
「それはこちら側も本望だ。どちらが上手か見せつけてやろう」
その自信はどこから来ているのだろうか?
これまでの戦いで、先鋒として敵陣に突撃して主に戦闘の要として戦ってきた歴史がある。
一方のアレックスは、旗艦サラマンダーにいて後陣にいることが多かった。
実際の戦歴では、ゴードンのウィンディーネの方がはるかに功績を立てていたのある。
一対一の艦と艦の戦いとなれば、アレックスのサラマンダーに勝ち目はないだろう。
「敵側より入電!ランドール提督が出ておられます」
「スクリーンに出せ!」
目の前に、敵側となったアレックスが映し出された。
「こうなってしまえば、双方とも言い訳は無用だろうな」
「その通り」
「ならば手加減なしで戦おうじゃないか」
「望むところだ」
「それでは」
アレックスが敬礼するのを見て、ゴードンも敬礼を返す。
そして通信が途切れて、星の海の映像に変わった。
アレックスもゴードンも、お互いの性格はよく分かっていた。
「全艦戦闘配備!」
ゴードンが指令を下す。
ついにかつての旧友同士が戦いの火蓋を切ることになったのだ。
「全艦戦闘配備!」
副官が復唱した時だった。
突然、艦が激しく振動した。
「何だ?今のは?」
「攻撃です!」
「艦尾損傷!」
「報告しろ!」
「只今、損傷状態を確認中です!」
やがて報告が返ってくる。
あたふたとしている艦橋の正面スクリーンに、見慣れた艦影が映り込んだ。
「あ、あれは!」
副官のバネッサが指さして叫んだ。
その艦は、艦体に火の精霊「サラマンダー」を配していた。
火の精霊を描いているのは、旗艦サラマンダーの他には、隠れたもう一つの旗艦である巡航艦『ヘルハウンド』しかない。
ランドール艦隊が、別名としての『サラマンダー艦隊』を称することとなった由来である、暗号名「サラマンダー」を冠していた。
ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式が、アレックスの乗艦となり旗艦となる前の旗艦であり、今でも旗艦としての登録は抹消されていない。
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