銀河戦記/鳴動編 第二部 第一章 中立地帯へ Ⅱ
2021.05.28
第一章 中立地帯へ
Ⅱ
アレックスは、タルシエン要塞においての篭城戦を想定していた。
防御においては鉄壁のガードナー少将が篭城戦の布陣を敷いて総督軍との戦いを長期戦に誘導している間に、アレックスは銀河帝国との共同戦線の協定を結び、援軍を得て一気に反抗作戦に打って出る戦略であった。
ところが周辺国家から相次いで救援要請が出され、タルシエン要塞から艦隊を派遣する必要が生じたのである。
「救援要請への援軍派遣をガードナー提督に意見具申したのはゴードン・オニール准将です。ガードナー提督はその強い要望に根負けして派遣を受諾したらしいです」
「ああ……。ゴードンはじっとしていられない性格だからな。そして後のことを任せたガードナー提督が、それを許可したのだから私が言うべきものでもないのだが……。最大の問題は補給だよ。遠征を行うには十分な補給が必要だ。そのためにシャイニング基地とカラカス基地の封印を解いて補給拠点とし、それぞれに一個艦隊の守備艦隊を配置しなければならなくなった。このことがどういう意味をなすか判るかね?」
「兵力の分散……」
「そうだ。総督軍に各個撃破の機会を与えるだけじゃないか」
「しかし、シャイニングには大型の戦艦を建造できる造船所もあります。フル稼働させて戦力を増強できます」
「おいおい。戦艦を建造するのに何年掛かると思うかね。一隻完成させるまでに、最低三年は掛かるのだぞ。解放軍を支えていくだけの戦力としては期待するだけ無駄だ。多くを持たない弱体な解放軍が勝利するには、短期決戦しかないのだ」
深い思慮の元に発言するアレックスの意見に反対できるものはいなかった。
「とはいえ……。動き出してしまったものを止めることは、もはや不可能と言わざるを得ない。事ここに至っては不本意ではあるが、解放軍として要請がある限り救助に赴くのは致し方のないことだ。遠き空の下、解放軍の善戦を祈ろうじゃないか」
「はい!」
「さて、会議の続きをはじめようか。リンダからの報告もあったデュプロス星系についてだ」
航海長のミルダ・サリエル少佐が、リンダの報告を受けての補足説明をはじめた。
「デュプロス星系は、二つの巨大惑星である【カリス】と【カナン】を従えた恒星系で、二惑星の強大な重力によって、三つ目以上の惑星が存在できないものとなっております」
「三つ目が存在できない? それはどうして?」
ジェシカが尋ねたが、ミルダはアレックスの方を見やりながら、
「とっても難しい理論の説明をしなければいけませんが……」
と、この場で解説するにはふさわしくないことを暗にほのめかしていた。
「あ、そうね。次の機会ということで、先を続けて……」
それに気がついて、質問を撤回するジェシカだった。
解説を続けるミルダ。
「デュプロス星系は、銀河帝国に至る最後の寄港地です。それゆえに最大級の補給基地となり、また銀河帝国の大使館なども誘致されております。本来はサーペント共和国の自治領内にあるのですが、軍事的外交的に重要な拠点惑星として、特別政令都市国家としての自治権が与えられております。
銀河帝国との協定により共和国同盟軍の駐留が認められていなかったために、現時点においても連邦ないし総督軍の駐留艦隊はいないとの情報ですが、旧共和国同盟時代から引き続き辺境警備に当たっている国境警備艦隊がいます。まあ、実戦経験はまるでないので、いざ戦闘となっても脅威はまったくないのですが……」
その言葉尻をついて、ジェシカ・フランドルが答える。
「かつての同輩との戦いになるということね」
「はい、できれば、何とか説得して戦闘回避できれば良いのですがね」
「ランドール艦隊のこれまでの実績を考えれば、戦闘を選ぶことがどれほどの愚の骨頂である判るはずですけどね」
「そうあって欲しいですね」
ため息にも似たつぶやきを漏らすミルダであった。
ちなみにこのミルダは、あの模擬戦闘にも参加し、ミッドウェイ宙域会戦からずっとアレックスの乗艦の航海長を務めてきた古参メンバーの一人でもある。階級は少佐ではあるが、艦長のリンダ同様に一般士官としてであり、戦術士官ではないので艦隊の指揮権は有していない。戦術士官が必ず受けることになる佐官へのクラス進級に掛かる査問試験を受けずして少佐になっている。共和国同盟のすべての星系マップ、航海ルートを知り尽くしており、作戦を実行し宇宙を航海する艦隊にとっては必要不可欠な人材である。
艦長のリンダにとっては、こちらの方が上官になるので、何かとやりずらい悩みとなっている。
アレックスは一同を前にして毅然と言った。
「何はともあれ、銀河帝国と交渉し協力関係を結ぶためには、そのデュプロスに滞在して帝国に対しての使節派遣などの折衝を執り行う必要がある。デュプロスはどうしても確保しなければならない。かつての同輩である辺境警備隊との交戦になることも仕方なしだ」
その言葉によって、一同の考えは一致をみることとなった。
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11
銀河戦記/鳴動編 第二部 第一章 中立地帯へ Ⅰ
2021.05.27
第一章 中立地帯へ
Ⅰ
漆黒の宇宙を、整然と隊列をなして進む艦隊があった。
共和国同盟解放戦線最高司令官、アレックス・ランドール提督率いる旗艦艦隊、その数およそ二千隻である。
先頭を行く艦隊旗艦、ハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式「サラマンダー」。艦体にはその名を象徴する、何もかもを焼き尽く伝説の「火の精霊」が図柄として配されている。バーナード星系連邦の司令官達はその名を聞いただけで恐れおののいて逃げ出したとさえ言われる名艦中の名艦である。
同型艦として、水・木・風・土の精霊の名を与えられた「ウィンディーネ」「ドリアード」「シルフィーネ」「ノーム」の四艦があり、それぞれを象徴する図柄を艦体に配している。
現在四艦は、タルシエン機動要塞以下、シャイニング基地・カラカス基地・クリーグ基地を包括するアル・サフリエニ方面軍の中核として、旧共和国同盟周辺地域に出没してゲリラ戦を展開、連邦艦隊を各地から追い出してその脅威から解放しながら、その勢力圏を次第に広げつつあった。
追従するのは、旗艦艦隊の直接運用を任されているスザンナ・ベンソン少佐坐乗の旗艦「ノーム」である。
サラマンダー艦橋。
その指揮官席に陣取り、艦長のリンダ・スカイラーク大尉が艦隊の指揮を執っていた。リンダは艦隊運用士官{戦術士官}ではないが、旗艦艦長は通常航行においては司令官に代わって艦隊の指揮権を行使できるとする、ランドール艦隊の慣例に従ってのことである。
旗艦艦隊司令官に昇進した前艦長のスザンナ・ベンソン少佐の後任として、第十七艦隊第十一攻撃空母部隊の旗艦「セイレーン」艦長の任から、部隊司令官のジェシカ・フランドル中佐の推薦でサラマンダーの艦長に抜擢された。スザンナ同様に将来を有望視されている一人である。
「まもなくデュプロス星系に入ります」
一等航海士のアニス・キシリッシュ中尉が報告する。
「特殊哨戒艇からの連絡は?」
「今のところ、変わったことはありません。進行方向オールグリーンです」
特殊哨戒艇「Pー300VX」2号機。
基地に設置された高性能の索的レーダーの能力をはるかに超えた索的レンジを誇る最新鋭の索的用電子システムを搭載した哨戒艇であるが、戦艦百二十隻に相当する予算を必要とするために、ほとんどの司令官が配備に二の足を踏んでいた。
そんな金食い虫を配備するより安かな駆逐艦を索的用に出すだけで十分だという意見が多かったのである。しかしアレックスだけは、サラマンダー以下の旗艦にそれぞれ配備するという積極的方針をとっていた。
アレックスの戦術の基本が一撃離脱であり、敵をいち早く発見して敵に気づかれる前に奇襲攻撃を敢行して即座に離脱、という作戦を身上としているために必要不可欠だったからである。もっともランドール艦隊の攻撃力はすさまじく、最初の一撃をかわして無事でいられた艦隊は皆無に近かったが……。
「このまま予定コースを取ります。全艦、進路そのまま」
「全艦、進路そのまま!」
副長のナターシャ・リード中尉が復唱する。
「全艦、恒星系内亜光速航行モードへ移行。機関出力三分の一」
艦長としての任務をそつなくこなしているリンダであった。
艦橋のすぐそばにある高級士官専用ラウンジ。
アレックスや艦隊参謀達が休憩を取ったり、作戦立案のための会合を図る場所である。コーヒーやサンドウィッチなどの簡単な軽食をとりながら、全体的な作戦会議に諮るための身内的な会議を行っていた。
同席しているのは、アレックス以下、パトリシア・ウィンザー、ジェシカ・フランドル、スザンナ・ベンソン、そして航海長のミルダ・サリエル少佐である。旗艦艦隊所属ではないジェシカは本来ここにいるはずのない人物なのであるが、第十一攻撃空母部隊の指揮をリーナ・ロングフェル少佐に任せて、強引について来てしまったのである。
彼女達参謀はもちろんのこと、艦橋オペレーター達全員にしても、アレックス以外に男性が一人もいないところが、旗艦サラマンダーの特徴である。
彼曰く、適材適所で人員配置をしたら、こうなってしまっただけと淡々と答えているのだが……。
他の艦隊では、彼女達をタイトスカートの参謀と呼び、ハーレム艦隊などと揶揄している者も多いと聞く。
アレックスといえば、自分自身が人選したものであり、パトリシアという婚約者もいるせいもあって、全然気にもしていない。
通常ならゴードンやカインズなどの各男性司令官達もいるのであるが、旗艦艦隊のみの作戦任務のために彼らはいない。
パネルスクリーンに、リンダ艦長が映し出されており、定時報告がなされていた。
「……報告は以上です。現在のところ全艦隊は正常に運用中、航行に支障なし」
報告を終えたリンダ艦長にアレックスが返答する。
「ご苦労さま。そのまま引き続いて指揮を執りたまえ」
「了解! 引き続き指揮を執ります」
スクリーンからリンダが消えて、タルシエン要塞にいるフランク・ガードナー少将に切り替わった。
「先輩、失礼しました。続きをお願いします」
「わかった」
こちらも定時報告の最中だったのだが、リンダの報告の方が優先されて割り込みが掛けられたのだった。
定時報告というものは、前線にいる艦隊などから基地や要塞へ連絡を入れるものだが、アル・サフリエニ方面軍の最高司令官はアレックスである。
もちろん双方間の連絡・報告にあたっては特秘暗号コードによって厳重に守られ、内容が外部に漏れ出すことはなかった。そう断言できるのは、その特秘暗号コードを開発したのが、システム管理技術士のレイティー・コズミック中佐と科学技術主任のフリード・ケースン中佐の二名によるものだからである。その両名の名前を聞いただけで、その技術の信用性を疑うものはいないだろう。
「ゴードン率いるウィンディーネ艦隊は、コリントス星系において連邦軍駐留部隊を掃討して、コリントスを解放。コリントスのセルゲイ・ワッケイン議会議長は、ゴードンとの会見に応じ、我々解放軍に対して協力・援助を約束した。一方のカインズ率いるドリアード艦隊は、デュイーネ星系を解放の後、現在ハルバート星系へと進行中である」
アレックスの留守を守るアル・サフリエニ方面軍こと共和国同盟解放戦線は、旗揚げ以来周辺地域に出没しては、駐留部隊を掃討しては周辺地域を連邦軍から解放して、
解放戦線に対しての協力を取り付けていた。
その急先鋒はゴードンのウィンディーネ艦隊と、カインズのドリアード艦隊であり、地の利を知り尽くしたゲリラ戦を展開して、連邦艦隊を次々と撃破していた。こうして解放戦線とその協力関係を結ぶに至った勢力は次第に大きくなり、旧共和国同盟の十分の一にあたる宙域を制圧し、一つの国家と言えるほどにまでになっていた。ここに至っては、連邦軍もおいそれとは手を出せない状態に陥ることになった。
元々アル・サフリエニ方面は、トランター本星からはるかに遠い辺境の地にあって、バーナード星系連邦との間に横たわる航行不可能な銀河渦状腕間隙に架けられた【タルシエンの橋】は、その一方を解放戦線によって奪取されているために、連邦側から侵攻することも不可能となっていた。
「まあ、今のところ順調だ。安心して自分の任務を遂行することだけを考えてくれ」
「ありがとうございます」
「それじゃあな。頑張れよ」
ガードナー少将の映像が消えて、タルシエン要塞との定時連絡が終わった。
「困ったものだな……」
と、映像の映し出されていたパネルスクリーンを見つめたまま、腕組みをした。
「何がですか?」
「周辺地域への救援出動だよ。当初の計画から逸脱しているじゃないか」
「ですが、救援要請を無視することはできないでしょう。我々は解放軍を名乗っているんですよ」
「時期早々だと言っているんだよ。銀河帝国との協定を結んでからでも遅くないだろう」
トリスタニア共和国同盟はその名の通りに、銀河帝国に対抗するために数多くの共和国が寄り集まって構成されている連邦国家に近い組織であった。ただ連邦と違うのは、それぞれの国家には完全なる自治権が与えられているということである。 その勢力圏の中でも2/3という最大領有地を誇り、強大なる経済力を持つトリスタニア共和国が、同盟の事実上の政治的支配力を行使していたのである。各共和国には宇宙艦隊への軍資金の供出と派兵義務、そして政治参加と発言のための評議会評議員の選出権が与えられていた。
そのトリスタニア共和国が降伏し、共和国同盟は事実上崩壊したが、自治権を所有するそれぞれの共和国には、トリスタニアに新たに設立された総督府と総督軍に参画するか、それとも独立するかの選択を強いられることになる。
だがそう簡単に独立を維持できるわけがないだろう。総督軍は容赦なく攻め入って配下に治めていた。そこでアル・サフリエニ方面の解放軍に救援の要請を打診してきていたのである。
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十二章 海賊討伐 V
2021.05.22
第十二章 海賊討伐
V
海賊基地コントロールルーム。
攻撃を受けて、そこら中から火を噴いていた。
多くの族が倒れている。
「どうやら候女は救助されたようです」
「候女を浚ったのが運の尽きだったのかな」
「跡を付けられていたようですね」
「しかも出てきた奴がウィンディーネ艦隊とはついてない」
頭領の腹には、大きな金属の破片が突き刺さって、多量の血液を流していた。
致命傷と思われ、手当てをする甲斐がないのは一目でわかる。
副長の方も負傷はしているが、立つだけの体力はあった。
誘爆は続いている。
やがて声を発しなくなった頭領と立ちすくむ副長を炎が包む。
海賊の最期だった。
その直後にやってくる突撃隊。
惨状を確認しながら、生きている者はいないか確認する。
「こいつが頭領か?」
椅子に腰かけて死んでいる海賊。
「後で役に立つかもしれんな。運び出せ!」
DNAによる人物特定から、海賊頭領としての証拠となるだろう。
そのすぐ傍に倒れている人物に調べている隊員が叫ぶ。
「この人、生きています!」
声の主が見つけたのは、副長だった。
大火傷を負ってはいるが、何とか生きていた。
「よし、運び出せ! 他には生存者はいないか?」
「いません!」
誘爆はさらに激しくなっている。
装甲服を着ているとはいえ、生命の危険が迫っていた。
「危険です。早く脱出しましょう!」
「わかった。総員退却だ!」
爆音の続く中、艦へと急いで戻る兵士たち。
途中、他の班が投降した海賊達を連行していた。
海賊など即刻処刑しても構わないのだが、有用な証拠証言を提供することで処刑を免れて懲役刑で済まされることもある。
ウィンディーネの艦橋に報告が届く。
「総員退却完了しました!」
「全艦攻撃用意! 跡形もなく基地を消し去る。基地の近くにいる艦は直ちに回避せよ!」
突撃強襲艦が基地から離艦してゆく。
発射体勢に入る艦隊。
「発射準備完了しました!」
「よし! 撃て!」
ゴードンが右手を差し出す動作と同時に全艦攻撃が開始される。
一斉攻撃を受けて炎上、やがて大爆発を起こして粉々に砕け散った。
「海賊基地消滅しました」
「うむ。これで治安も少しは良くなるだろう。
そこへ突撃部隊の隊長が報告に来た。
「閣下! 候女を貴賓室にお通ししました」
「そうか、ご苦労だった。下がって休んでいいぞ」
「はっ! ありがとうございます」
そういうと、敬礼し踵を返して退室していく。
「さてと、候女さまにお会いするか」
隊長の跡を追うように貴賓室へと向かうゴードン。
エルバート侯爵邸。
「それはまことか?」
候女救出の報を受けて、歓喜に沸く公邸。
執事が落ち着いた表情で伝えていた。
「アレクサンダー殿下の命を受けた配下の者が海賊基地を急襲して救い出されたそうです」
「殿下のご命令なのか?」
「そのようでございます」
「そうか……」
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十二章 海賊討伐 Ⅳ
2021.05.15
第十二章 海賊討伐
Ⅳ
海賊基地近くまでたどり着いたウィンディーネ艦隊。
海賊を一隻でも取り逃がさないように、ぐるりと基地を包囲しようとしていた。
第六強襲艦の突入用待機室に集合した兵士。
装甲服を着こみ、それぞれにお気に入りの白兵用の武器を携えている。
「第六突撃強襲部隊の準備完了! 白兵戦、いつでも行けます!」
隊長らしき人物が、艦橋に連絡を入れている。
『了解! そのまま待機せよ』
シェリー・バウマン大尉がゴードンに、そのまま伝える。
そして全艦隊も包囲陣を完成させた。
「閣下! 総員突撃準備完了しました!」
「よし、速攻で行くぞ! 候女が人質として担ぎ出される前に救出する。
「全艦突撃開始!」
「強襲艦は直ちに基地に強行突入せよ! 他の艦は基地から出てくる艦を片っ端から撃沈させよ!」
迎撃に出した艦隊が次々と撃ち落されるのを見つめながら消沈する海賊達。
「完全に包囲されました」
「普通ならば、投降を呼びかけるのだがな」
「こっちは海賊ですからね。国際条約とか通用しませんから……」
「全員皆殺しにしても、どこからも批判はこないってことだ」
「敵艦が突っ込んできます!」
「近づけるな! 弾幕を張れ!」
だが、戦闘機の大編隊が襲い掛かり次々と砲台を叩いていた。
「多勢に無勢か……」
やがて次々と強襲艦が取りつき始めた。
戦闘機が砲塔を破壊し続けてゆく。
「よおし、砲台は全部撃ち壊したぞ!」
「アンカーを打ち込め!」
基地に艦を固定させて、突入の足掛かりを作る。
外壁を溶断機で切り崩して突入口を作る。
「突入せよ!」
隊長の一声で、一斉になだれ込む。
基地内に突入した白兵部隊。
「どっちへ行けばいいんだ?」
「情報部の奴らも、ここの見取り図は入手できなかったみたいだ」
「当たってくだけろだ!」
密かに建設された海賊基地だけに、規模はそれほど大きくなく、行き当たりばったりでも探し当てられそうである。
分岐路に当たれば、とにかく人の気配のする方へと向かう。
海賊の掃討でもあるが、人質を人気のない所に監禁するはずがないからである。
やがて歩哨の立っているところに出くわした。
こちらに気が付いて武器を構えるが、こちらの動作の方が早かった。
その場に崩れる歩哨。
慎重に近づいて、のぞき窓を見ると、一人の少女が消沈した様子で、ベッドの縁に腰かけていた。
「候女だ!」
歩哨の腰ベルトに下げられていた鍵を取って、ドアを開ける。
怯えたような表示を浮かべる少女。
「セシル候女さまですか?」
できるだけ優しい声で尋ねる兵士。
少女が静かに頷くのを見て、
「エルバート侯爵さまの命を受けて、お助けに参りました」
と傅いて、救出にきたことを告げる。
「父上の?」
「さようにございます」
侯爵の命というのは嘘であるが、誘拐されて怯え切っている候女を慰め落ち着かせるためだった。
「さあ、参りましょう」
候女の手を取って促す兵士。
「わかりました」
立ち上がって兵士に着いていく候女。
候女を前後に挟むようにして、立ちはだかる海賊を薙ぎ払いながら、元来た道を戻る兵士たち。
その間にも、味方の砲撃による破壊は進み、至る所で火を噴いていた。
「急いでください」
足の遅い候女を急かしながらも、何とか強襲艦に舞い戻ることができた。
「こちら第一班、候女を救出しました!」
『よし! 直ちに帰還せよ』
「了解!」
『第二班は、引き続き海賊の頭領を探して捕らえよ!』
「こちら第二班、頭領を探して捕らえます」
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十二章 海賊討伐 Ⅲ
2021.05.08
第十二章 海賊討伐
Ⅲ
中立地帯を越えて、踏み込んではならない宙域へと立ち入るウィンディーネ艦隊。
「PーVX300より海賊基地の座標入電しました」
「よし。座標を設定しろ」
「了解。座標設定します」
「索敵機を下がらせてくれ」
「Pー300VXに連絡、後方に撤退を指示します」
指示を受けて、ゆっくりと後方に下がる索敵機。
「そろそろ敵の索敵範囲に引っかかると思われます」
「よし、戦闘配備だ。ウィンディーネ艦隊の底力を見せつけてやれ!」
声高らかに指令を出すゴードンの言葉に、副長も張り切って復唱する。
「了解! 全艦戦闘配備!」
「第六突撃強襲艦部隊に白兵戦を準備させろ!」
任務は海賊を殲滅するだけでなく、候女の救出作戦をも担っている。
ただ海賊基地を殲滅するだけではいけないのである。
海賊基地中央コントロールルーム。
「レーダーに感あり! 接近するものがあります」
「接近だと!? まさか跡をつけられたのか?」
「艦数増大中! 二千、三千、さらに増大」
「この基地の位置がバレたというわけか?」
「迎撃を出しますか?」
「無論だ!」
基地から迎撃の艦隊が出てくる。
「艦数五万隻を超えました!」
「こりゃ正規の艦隊のようだな。どこの艦隊は分かるか?」
「どうやら帝国の艦隊ではなさそうです」
「帝国じゃない? じゃあ、どこだ?」
「識別信号は……共和国同盟のものです!」
「ランドールか!」
やがて前方で交戦が始まる。
「艦数七万隻!」
「交戦部隊より報告! 敵艦の中にハイドライド型高速戦艦改造Ⅱ式を視認とのことです」
「ハイドライド型だと!」
「旗艦と思しき艦体に、水の精霊ウィンディーネ! ウィンディーネ艦隊です!」
「馬鹿な! 情報ではオニール提督の反乱の際に、ランドールによって撃沈されたはずじゃないのか?」
「間違いありません。攻撃を仕掛けているのは、ウィンディーネ艦隊です」
「まさか修理して、出直してきたというわけじゃないだろうな」
海賊基地には、ハイドライド型の六番艦が存在したことと、新生ウィンディーネ艦として配属された事は知れ渡っていなかったようだ。
「人質の候女がいるのを知らせて停戦させますか?」
「皆殺しのウィンディーネ艦隊だぞ! そんなもん通用するか!」
皆殺しのウィンディーネ艦隊とは、アレックスが帝国宇宙艦隊司令長官と元帥号を授与され、アルサフリエニ方面で活躍していた時に名付けられた称号である。連邦によって暴行されて身ごもり自殺した実の妹、その復讐に煮えたぎっていた。
しかし今は、改心して冷静さを取り戻したゴードンには、その名は似つかわしくないだろう。
そこまでの新情報も伝わっていなかったらしい。
「とにかく相手がウィンディーネ艦隊、しかも七万隻となると勝ち目はない。逃げる準備をしろ。候女も連れてゆくのだ」
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