銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅶ
2021.03.27
第十一章 帝国反乱
Ⅶ
神聖銀河帝国母星アルデラーンの衛星軌道上にある宇宙ステーション。
その展望ルームに大演習観艦式用の特設会場が増設されている。
壇上に立つのは、神聖銀河帝国皇帝ロベール三世。
その両側に、ロベスピエール公爵と摂政エリザベス皇女の姿がある。
後方には、第一艦隊以下の指揮官提督が並んでいる。
彼らの目前を、各艦隊から選び抜かれた精鋭部隊が、整然と隊列を組んで進んでゆく。
二チームに分かれて両側から進軍し、すれ違った後に反転して攻撃開始という内容だった。
展望ルームの前を艦艇が通過する度に、特設スクリーン上に艦橋内の映像が流され、艦長が敬礼していく。展望ルーム後方の将軍達も敬礼している。
第一艦隊旗艦エリザベス号は、第一皇女の名を冠してはいるが、実質的にはロベスピエール公爵の息が掛かっている提督が乗艦している。
フランシス・ドレーク提督。
戦闘経験の少ない帝国軍にあって、唯一と言ってもよいくらい戦闘経験豊富な逸材だ。
彼は海賊として帝国内を荒らしまわった経歴がある。
ある時、彼の標的として狙われたのが、ロベスピエール公爵の奴隷貿易船だった。
奴隷密売買がために詳細は闇に埋もれて公表されていない。
あくまで商人たちの噂話でしかないが、彼が貿易船に勇躍飛びついたところが、敵は護衛船団を隠し持っていて、手痛い反撃を喰らって航行不能となり、彼は拘束されてしまったらしい。
公爵の前に突き出されたものの、その気っ風に惚れた公爵が自分の配下にした。
奴隷狩りの私掠船(しりゃくせん)の艦長に取り立てられ、摂政派VS皇太子派分断騒動時に第一艦隊の提督に推挙された。
艦艇のすれ違いが終わり、反転しはじめる。
態勢を立て直して、戦闘準備にかかる。
最初から向き合ってすぐさま撃ち合ってもよいのだろうが、戦意高揚と冷静沈着とを両立させるにはこの方が良いとされていた。
すれ違ううちに精神を安定させる時間を与えるのである。
公爵がロベール皇帝に耳打ちしたかと思うと、やおら右手を上げる皇帝。
その手を降ろした時が、戦闘開始の合図のようである。
振り下ろされる小さな手。
砲弾飛び交う模擬戦闘の開始だった
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅵ
2021.03.20
第十一章 帝国反乱
Ⅵ
事件の発端は、皇室議会だった。
今後の方針について、議論を始めようとした時だった。
突然、武装した兵士がなだれ込んできた。
「君たちはなんだ!」
議員の一人が乱入者に向かって叫んだ。
「黙れ! これが見えないのか?」
と、サブマシンガンを構える兵士。
「な、何をするつもりだ!」
だがその答えは、マシンガン掃射であった。
シャンデリアなどの調度品が片っ端から破壊されてゆく。
議場内の人々には危害はなかったものの、問答無用という意思表示は伝わった。
「皇室議会は、本日をもって解散する。諸君らは拘禁させてもらう」
次々と連行されてゆく議員たち。
アルタミラ宮殿でも、ひと悶着が起きていた。
「これは、どうしたことですか?」
玉座に座っていた摂政エリザベス第一皇女が、居並ぶ大臣たちに叱咤していた。
ロベスピエール公爵が前に出て答える。
「どうやら、ジョージ王子を皇帝に擁立する一派が立ち上がったようですな」
あくまで自分は知らぬ存ぜぬ、一切関わっていないという表情を見せる公爵だった。
エリザベスも承知の上ではあるが、言葉には出せなかった。
息子と弟とを両天秤に掛けても、どちらに傾くかは自分では図ることができない。
もはや情勢にまかせるしかなかったのだった。
突然、宮殿入り口が騒がしくなった。
おびただしい軍靴の音が鳴り響いている。
謁見の間へと姿を現した軍人たちがなだれ込んで来る。
銃を構えて、大臣達を威嚇する。
軍人たちをかき分けて、リーダーらしき人物が入ってくる。
「我々は、ジョージ親王殿下を皇太子として擁立するものだ!」
大臣の一人が異議を訴える。
「何を言うか! 皇太子はすでにアレクサンダー王子が……」
そこまで言ったところで、兵士に銃床で腹部を殴られて倒れる。
さすがにエリザベス皇女の前では、発砲流血騒ぎは起こせないようだ。
例えジョージ親王が帝位に就いたとしても、まだ幼くて政治を執ることは不可能であるから、摂政が立つことになる。
後日に分かったことであるが、議員の中でも摂政派に属する者は解放されたという。
これによって、摂政派による反乱ということが明らかとなった。
反乱軍は、放送局、宇宙港などの公共機関、財務省などの政府機関を次々と掌握していった。
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 V
2021.03.13
第十一章 帝国反乱
Ⅴ
アルビエール侯国のアレックスの元に、ウィンディーネ艦隊がタルシエン要塞を出立したとの報告が届いた。
「そうか、配下の将兵達にも受け入れられたということだな。まずは一安心だ」
「こちらに到着するのは、五日後になるもよう」
パトリシアが報告する。
「それにしても……」
と、言いかけて言葉を一旦中断してから、
「なんでこうも反乱が続いて起きるのかな。連邦も共和国も、そして今度は銀河帝国だ」
「その銀河帝国は、数百年前にも二度反乱が起きてますけどね。これで三度目になります」
二度の反乱とは、トリスタニア共和国同盟の独立戦争、その後に起きたバーナード星系連邦の軍事クーデターである。
「皇太子殿下、よろしいですか?」
アルビエール侯国の宮殿の一室に執務室を与えられたアレックスの元に、ハロルド侯爵が訪れた。
「摂政派率いる第一艦隊以下の艦隊が、近々軍事訓練を始めるそうです」
「ほほう。今更ですか?」
「一朝一夕で、艦隊をまとめ上げられるものではないのでしょうが。やらないよりはましということでしょうかね」
「これまで訓練などやったことはないらしいし、まともな訓練マニュアル作成できる士官がいるのかも怪しいですな」
「これまで、ぬるま湯に浸かっていましたからね」
「共和国同盟軍絶対防衛艦隊が、一瞬で簡単に滅んだのもそこにあるのです」
「これからどうなされますか?」
「そうですね。いつまでも分裂状態にしておくわけにもいかないでしょう。混乱に乗じて連邦が、諜報員や破壊工作員を送り込んでくる可能性もあります」
「破壊工作ですか?」
実際問題としても、ウィディーネ艦隊反乱の時のように、政情不安などによって国民が疑心暗鬼になっている状態になれば、簡単に扇動されることもあるのだ。
「何にしても、ウィンディーネ艦隊が到着してからです」
「ウィンディーネ艦隊ですか……。ゴードン・オニール少将でしたよね。釈放し艦隊をまかせて良かったのでしょうか?」
「また反乱を起こすと思いますか?」
「い、いえ。そこまでは……」
一度でも裏切った者は、何度でも裏切りを繰り返し、敵側に寝返るということもある。
侯爵が心配するのも無理からぬことであろう。
かつてアレクサンダー王子行方不明が原因で国内分裂を生じ、皇太子即位となって安寧していたら、今また反乱が起きた。
主義主張というものはなかなか覆されにくいものなのだから。
特にそれが銀河帝国という国家そのものならばなおさらである。
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅳ
2021.03.06
第十一章 帝国反乱
Ⅳ
艦橋に戻ってきたゴードン。
軍医が額の傷の手当てをしている。
「そうか……。そういうことだったのか」
副官のシェリー・バウマン大尉からウィンディーネ Ⅱ世号の成り立ちを聞いたゴードン。
シェリーだって、拘禁を解かれて説明を受けたばかりなのだから。
「ご指示を」
シェリーが促した。
すでに出航準備は完了しているので、ゴードンの指令待ちとなっていた。
軽く息を整えてから下令する。
「出航する。微速前進!」
すかさずシェリーが復唱する。
「出航! 微速前進せよ」
オペレーターが応える。
「微速前進!」
ゆっくりと船台を離れて動き出すウィンディーネ。
「要塞ゲートオープン!」
「ゲート通過中!」
「前方オールグリーンです」
タルシエン要塞をゆっくりと離れてゆく。
その進路を囲い込むように、ウィンディーネ艦隊の艦艇が浮かんでいた。
「入電しました」
「繋げ!」
正面スクリーンに、ゴードン配下の将兵達が映りだされた。
「閣下! どこへどもお供します」
敬礼しながら意思表示する。
「また、一緒にやらせてください」
「解放されると信じていました」
ゴードンのウィンディーネ艦隊への復帰を、口々に喜んでいた。
共和国同盟に弓引くこととなっても、ゴードンにつき従った信頼厚き部下達だった。
ランドール戦で、愛着のある指揮艦を大破させられて、乗り換えることになった者もいるが、それはせんないこと、提督には恨みを持ってはいない。
「ディープス・ロイド大佐は? 艦隊を預かっていたと聞いているが」
「はい。大佐殿は、タルシエン要塞の駐留艦隊の副司令官に戻りました」
「そうか……」
アレックスの意向次第では、ウィンディーネ艦隊が彼の指揮下に入る可能性もあった。
それにしても不可解だ。
銀河帝国アルビエール侯国へ向かうことは決まっていることなのに、ウィンディーネ艦隊を帝国へ先着させなかったのは何故か?
ロイド大佐がいたのだからできたはずである。
ゴードンが釈放されるのを待っていたのか?
しばし感傷に浸るゴードンだった。
「艦隊の足並み、揃いました」
「よし! 全艦ワープ準備だ」
ハッカーによって改竄(かいざん)されたタルシエン要塞のシステムの改修はまだ終わっていないので、ワープゲートの使用は不可能だった。よって、自力でワープするしかない。
「これより、リモコンコードを送信する。各艦は同調させよ」
七万隻の艦隊が理路整然とワープ行動を起こすには、艦制システムに依存するしかない。
スクリーン上に示された艦影が、赤から青へと次々と変化していく。
すべての艦が青の表示に変わった時、
「全艦リモコンコード同調完了しました」
オペレーターが報告する。
「全艦ワープせよ!」
ゴードンの下令のもと、七万隻の艦隊がタルシエン要塞からワープした。
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銀河戦記/鳴動編 第二部 第十一章 帝国反乱 Ⅲ
2021.02.27
第十一章 帝国反乱
Ⅲ
正面パネルスクリーンには、アレックス・ランドールが出ていた。
「やあ、驚いたかね?」
スクリーン上のアレックスが語り掛ける。
「これは、どういうことですか?」
「簡単なことだよ。ウィンディーネ艦隊を指揮できるのは君しかいないからだよ」
「しかし、自分は……」
「いろいろと誤解はあったが、水に流そうじゃないか」
「誤解……で済まされるのですか?」
反乱という言葉を使わないアレックス。
「そう、誤解だよ。それ以上でも以下でもない」
それでも納得できないゴードンだった。
本来なら免職の上、禁固刑が言い渡されてもいいくらいであるのだから。
「君に任務を与える」
アレックスが姿勢を正して命令を下す。
「はっ!」
直立不動になって命令を受ける体制を取るゴードン。
両拳を握りしめて微かに震えている。
「ウィンディーネ艦隊を率いて、銀河帝国アルビエール侯国に来たまえ」
「了解しました!」
「事の詳細は、シェリーに聞いてくれ」
通信が途絶えた。
「さあ、一刻も早く馳せ参じましょう。詳細は道々お話しします」
「ガードナー少将が出ておられます」
「繋いでくれ」
映像がガードナーに変わった。
「アレックスは、君に捲土重来(けんどちょうらい)の機会を与えるつもりのようだな」
「ありがとうございます」
「まあ、頑張りたまえ」
ガードナーは軽く微笑むと通信を切った。
「ちょっと考え事がある」
といって、一時司令官室へと籠った。
心配になって付いてくるシェリー。
「ちきしょう!」
突然、扉を通して中から叫び声が聞こえた。
そして何かを打ち付ける鈍い連続音。
シェリーは感じていた。
自虐行為で頭を壁にぶつけているのだと。
「閣下……」
やがて音はしなくなり静かになった。
しばらくして、ゴードンが額から血を流しながら出てくる。
「閣下!お手当を」
「構わん。私の判断で血を流した部下の傷を考えれば大したことじゃない」
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