銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十四章 新生第十七艦隊 V
2021.05.11

第二十四章 新生第十七艦隊




 タルシエン要塞には、第八師団総司令部が置かれたほか、フランク・ガードナー少将率いる第五師団も要塞駐留司令部を置いて第八艦隊が駐留することになった。
 これを機に二つの師団と要塞、及び後方のシャイニング・カラカス・クリーグの各軍事要衝基地、それらを統括運営するためアル・サフリエニ方面軍統合本部が設置されて、その本部長にアレックスが就任した。その主要兵力は艦艇数三十万隻と、それと同数に匹敵するといわれる攻撃力と防御力を有するタルシエン要塞、兵員数一億五千万人を擁する巨大軍事施設であった。

 本土にはチャールズ・ニールセン中将率いる絶対防衛艦隊があって、最終防衛ラインを守備していた。第一師団第一艦隊・第四艦隊・第七艦隊などが所属する第一軍団、及び第二・第三軍団配下の各師団の旗艦艦隊合わせて総勢三百万隻の大艦隊である。
 人々のもっぱらの噂は、最前線を戦い抜き精鋭が揃っているランドール提督率いるアル・サフリエニ方面軍と、後方でぬるま湯に浸かっている状態に近い絶対防衛艦隊とが、もし仮に戦ったとしたらどちらが勝つかということであった。
 艦艇数ではニールセン側に分があるものの、実戦経験と作戦能力に優るランドール側有利というのが大方の予想であった。

「しかし、どうして皆比較したがるのかね」
「そりゃまあ、自分の所属する艦隊や部隊が一番でありたいと思うのは自然な心理でしょう。そして自分もその一役をかっているという自負からくるのでしょう」
「士官学校の候補生の配属志望先では、圧倒的に第十七艦隊所属だそうですよ」
「志願兵も合わせて皆が皆、第十七艦隊を希望するから倍率五十倍以上の難関、逆に他の隊を志望すれば希望通りすんなり入隊できるそうです」
「席次によって順番に配属されていきますし、成績では女性士官候補生のほうが優秀ですから、自然として第十七艦隊に女性が多く集中するようになりました。現実として六割が女性士官になっております」
「優秀であるならば、性別は問わないのが提督の方針だからな。それに大昔の肉弾戦闘が主体だったころならともかく、ボタン戦争時代となりすべてはコンピューターが動かす今日では男女による体格差は無関係だから」
「しかし女性は結婚退職や育児休暇がありますからね」
「しようがないだろ。無重力の宇宙では子供は産めないからな」

 要塞に第八艦隊が到着した。
 戦艦フェニックスに坐乗して、フランクが幕僚達を従えて要塞ドッグベイに降り立った。
「よくいらっしゃいました。先輩」
 アレックスは自らフランクを迎えに出ていた。
 アル・サフリエニ方面軍統合本部の長官であるアレックスに対して、フランク以下の士官達が一斉に敬礼をほどこした。
「おう、悪いな。当分、間借りさせてくれ」
 と敬礼をしたその手をアレックスに向けて差し出すフランク。
「どうぞ、遠慮なく使ってください」
 その手を握り返すアレックス。
「早速だが、こいつらを要塞司令部に案内してやってくれないかな」
 フランクの後ろには、第五師団の幕僚と第八艦隊司令のリデル・マーカー准将が控えていた。
「フランソワ、ご案内してさし上げて」
「はい。どうぞこちらへ」
 指名されて、参謀達を案内していくフランソワだった。

「君も出世したなあ、とうとう追い越されてしまった」
「何をおっしゃいます。同じ少将じゃないですか」
「いやいや。君は、カラカス基地・シャイニング基地・クリーグ基地、そしてこの巨大要塞を統括するアル・サフリエニ方面軍統合本部長じゃないか。階級は少将とはいえ、これは中将待遇だよ。何せこの要塞だけで、三個艦隊に匹敵すると言われているからな」
「三個艦隊とはいえ、動かない艦隊では私の手にあまります。それに今後は防御戦がメインになりますからね。なんたってゲリラ攻撃戦が私の主力です。トライトン中将が、先輩をよこしてくれたのも、防御戦では同盟屈指ですからね」
「ははは。君は攻撃しか能がないからな」
「その通りです。要塞防御司令官として、先輩のお力を拝借いたします」
「ま、期待にそえるように頑張るとしますか」


 タルシエンに全艦隊が揃ったところで、改めて会合が開かれた。各艦隊の司令や参謀達を交えるとかなりの人数に及んだ。もちろん初顔合わせという士官同士がほとんどであった。
「ところで、連邦軍がこの要塞を避けてトランター本星を直接攻略するというのはあり得るのかね」
 早速、アレックスに次ぐ地位にあるフランク・ガードナー少将が質問に立った。
「当然でしょう。現在ここには三十万隻からの艦隊が駐留していますし、要塞そのものの防御力もあります。これを真正面から攻略するには、その三倍の艦隊を必要とするでしょう」
「都合九十万隻が必要ということか」
 続いてリデル・マーカー准将が問題にする。
「お言葉ですが、提督は数十人の将兵で要塞を攻略なされました。同様の奇抜な作戦で敵が奪回する可能性もあります」
「それはないと、俺は思うな。この要塞を攻略できるような作戦能力に猛る参謀が敵にはいない」
 フランクが答えると、すぐにアレックスが訂正する。
「過信は禁物ですよ。向こうにはスティール・メイスンという智将がいるんです」
「しかしこれまで表立った戦績を上げていないじゃないか」
「それは彼が参謀役に甘んじていたからです。艦隊司令官として直接戦闘を指揮するようになれば手強い相手となるはずです」
 アレックスは、これまでに調べ上げたスティールに関する情報から、彼が着々とその地位を固めていることを確認していた。もし次の侵略攻勢があるとすれば、彼が総指揮官として前線に出てくると踏んでいた。
 その作戦も尋常ならざるを得ない方法を仕掛けてくるだろうと直感していた。
 それがどんな作戦かは想像だにできないが、少なくともタルシエンの橋の片側を押さえられ、多大な損害を被ることになる要塞を直接攻略するものではないと確信できる。
「とにかく……。仮に通常戦力で敵が襲来してきた場合を想定すると、連邦軍がそれだけの艦隊をこの宙域に派遣するには相当の覚悟がいります。同盟が要塞防衛に固執して艦隊を集結させ、その他の地域の防衛が疎かになっている点に着目すれば……」
「要するに、ここには共和国同盟軍の精鋭部隊のすべてが集結しているということですよね」
「逆に言えば、アル・サフリエニ以外の後方地域は、有象無象の寄せ集めしかいないということで、本星への直接攻略という図式が成り立つというわけだ」
「侵略政策をとっている連邦は、敵陣内に深く入り込んで戦闘を継続しなければならない関係で燃料補給や艦の修繕の必要があるからこそ、要塞を建造した。そこを拠点として同盟に進撃することができるというわけですね。
 でも、専守防衛を基本としている共和国同盟にとっては、要塞を防衛することは戦略上の重要性は少ないとみるべきでしょう。いくら要塞を押さえていてもそこから先に進撃することはあり得ないのですから、燃料補給も艦隊の修繕もあまり必要ありませんからね。ゆえにこの要塞は破壊してしまうか、同盟本星近くに曳航して最終防衛戦用として機能させるべきです」
「まったく軍上層部は一体何考えているんでしょうねえ」
「というよりも評議会の連中の考えだろうさ。金儲けのことしか頭にないからな。要塞を所有していることの経済効果を考えているのだろう」
「経済効果ね……確かにこの要塞の建造費がどれくらいは知らないが、ただで儲けたものだし、ここの生産設備をフル稼動させれば、たとえ本国からの救援がとだえてもある程度は自給自足できる」
「ともかく、軍の命令には逆らえない以上、言われた通りにするしかないからな。たとえ本星が占領されても知ったこっちゃないということさ」
「それ、それですよ。本星が占領され同盟が降伏すれば、同然ここを明け渡すことになるわけですよね」
「そう。結局連邦にとっても本星さえ落としてしまえば、この要塞は苦もなく手に入れることができる。苦労して要塞を攻略する必要はないわけだ」

「果たして燃料補給の問題をどう解決するかですね」
「それさえ解決すれば、明日にも攻めてくるのは間違いない」

第二十四章 了

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2021.05.11 10:46 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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