銀河戦記/鳴動編 第一部 第二十二章 要塞潜入! Ⅲ
2021.05.02

第二十二章 要塞潜入!




 アレックス達が要塞潜入に成功し中央制御コンピューターに取り掛かっていた頃、ゴードン率いる第六突撃強襲艦部隊は、要塞の索敵レーダー圏外で、出撃のチャンスを窺っていた。
「提督が潜入してどれくらい経つか?」
 準旗艦ウィンディーネ艦橋から、P-300VX特務哨戒艇より送られてくる、要塞の全景を見つめるゴードン。
「およそ三十分です」
「そうか……」
 潜入成功を知らせる『赤い翼は舞い降りた』を受電し、配下の部隊に突撃準備をさせて待機していた。
 ゴードン配下の部隊の任務は、潜入部隊が北極及び南極のドッグベイを開くと同時に、要塞内に突入して内郭軍港や反物質転換炉を押さえ、さらに中殻居住区にある中央コントロールルームなどの主要施設を制圧することだった。
 要塞攻略の主任務部隊となるわけであるが、北・南極が解放されなければ成す術もなかった。
「作戦待機時間は二時間だ。それまでに成功してもらわないとな」
 潜入から二時間以上を経過した時には、第六突撃強襲艦部隊を含めて、第十七艦隊は要塞攻略を断念し撤収する命令を受けていた。
 いつまでも何もしないで要塞の外で待機しているわけにはいかないのだ。いずれ要塞内に潜入したことが発覚し、手を打たれてしまう。
 潜入部隊が密かに行動できるタイムリミットが二時間とされたわけである。
「しかし提督を残して撤収などできませんよ」
「だからといって、艦隊をみすみす全滅に追いやることもできないだろう」
「それはそうですが……」
「捕虜交換で戻ってこれる可能性もあるしな。こちらには先のシャイニング防衛の際に捕虜にした、敵の大将のキンケルがいる。准将と大将との交換だ。相手も応じるかも知れないだろう」
「問題は、こちらがわの軍部の反応ですよ。果たして提督を助けますかね」
「また、軍法会議の時みたいにTVを利用するか?」
「そうそう何度も同じ手が使えるとは」
「何にせよ。参謀長殿がいい手を考えてくれるさ。或いは捕虜になった時の救出作戦のことも、とっくに手を打ってるかも知れないしな」

 旗艦サラマンダーにおいても、アレックスの無事と作戦成功を祈っていた。
 時を刻む時計表示だけがむなしく進んでいく。
 やがて一人のオペレーターが声を上げた。 
「大佐! 北極が開いていきます!」
 オペレーター達が一斉に声を出した方へ振り向いた。
「やったか!」
 スクリーンを凝視するカインズ。
「続いて南極も開いていきます」
 両極を閉じている分厚い装甲ハッチがゆっくりと開いていく。
「提督が両極を開け放したんですね」
「ああ、そうだとも」
 パトリシアの方に見直るカインズ。
 両手を合わせて唇に指先を当てて涙を流していた。
 感激の余りに言葉に詰まり、指令を出せないでいる。
 その気持ちが痛いほどに判るカインズだった。
「第六突撃強襲艦部隊が突撃を開始しました!」
 勇躍、要塞に向けて進撃を開始する第六突撃強襲艦部隊がスクリーンに大写しにされる。
「よおし! 全艦、攻撃開始だ! 第六部隊を援護する」
 パトリシアの指示を待つことなく、自らの判断で命令を下し始めた。
 全艦一斉に砲撃を開始する第十七艦隊。
 これまでの鬱憤を晴らすかのような猛攻撃である。
「フランドル少佐に連絡」
 スクリーンにジェシカが出る。
「艦載機への補給状態は?」
『すでに完了して、全機発進させました。もうじきそっちに到着するはずです』
「さすが航空参謀ですな。手際が良いですね」
『一刻一秒を争いますからね。艦載機を遊ばせておくわけにはいかないでしょう』
「なるほどね。ああ、今到着したようだ」
 スクリーンに敵守備艦隊への攻撃を開始した艦載機群が映し出されている。
『それでは、要塞の中で再会しましょう』
「判った」
 通信が切れて、北南極へ突入していく第六部隊の映像に切り替わった。
「要塞の中で会いましょうか……」
 ジェシカの言葉が確実性を帯びてきたことを認識するカインズだった。
 パトリシアは後部座席に腰を降ろしたまま、フランソワに介抱されるようにただ黙って俯いていた。
「所詮、愛する人に心砕くごく普通の女性と言うことだ……。これまでの緊張が一気に解き放たれたというところだな」
 神のような提督に比べれば、なんと人間性のあることか。返って親しみが湧いてくる。
「後のことは任せて、そこでゆっくり休んでいてくれたまえ」
 提督やウィンザー少佐、そしてウィング少佐らによって、綿密に精緻に組み敷かれた作戦というレールの上に置かれた機関車の発射ベルは鳴った。後は時刻表通りに突き進むだけだ。
 作戦立案者の手を離れ、実行部隊の指揮官に委ねられている。
「守備艦隊を足止めする。軍港に入港させるなよ。全艦突撃開始」
 これまで囮役として敵の注意を引き付けていたが、勇躍敵艦隊に向けて進撃を開始した。
 守備艦隊を要塞内に入れるわけにはいかないからだ。


 要塞内、中央コントロール。
「誰が、軍港を開放した!」
「判りません。勝手に開いてしまいました」
「そんな馬鹿なことがあってたまるか」
「敵艦隊が軍港に侵入してきます」
「駐留艦隊に迎撃させろ!」
「だめです。駐留艦隊は、休息待機でほとんどの兵士が降りています。動かせません」
 スクリーン上には、軍港に接舷した強襲艦から怒涛のように白兵の戦士達が飛び出してくる映像が映し出されていた。
「要塞内の警備隊に侵入する奴らを撃退させろ」
「そ、それが外部との連絡が取れません!」
「なんだと?」
「軍港に通ずる遮蔽壁も作動しません」
「システムが……システムが乗っ取られています」
「乗っ取りだと?」
「おそらく中央制御コンピューターに何者かが侵入して操作しているものと思われます」
「何てことだ! さてはあの時に侵入したのか!」
 第二弾の次元誘導ミサイルが隔壁を破砕した時のことを思い出したのだ。
「あの不発弾の中に潜んでいたのか……」
 地団太踏んでくやしがる司令官。
「こうなったら要塞を自爆させる」
「無駄ですよ。システムが乗っ取られているんですから」
「やってみなけりゃ、判らないだろう」
 胸ポケットから鍵を取り出す司令官。
 それを自爆用のシステム起動装置に差し込んで、自爆コードを入力する。
「どうだ?」
 鍵をゆっくりと回すと、正面スクリーンにカウントダウンの数字が表記された。
「自爆コードが入力されました。これより60秒後に自爆します」
 コンピュータの合成音が発声される。
「59・58・57……」
「み、見ろ。やってみなけりゃ判らんといっただろう」
「43・42……」
 カウントダウンが続いている。
 息を呑んでそれを見守るオペレーター達。
 誰も動かなかった。
 所詮60秒では逃げ出せないと判っているからである。
「10・9・8・7・6・5・4・3・2・1」
 大半のオペレーターが目を瞑った。

 しかし、何も起きなかった。

 爆発どころか、コンピューターも静かになっている。
「どうしたというんだ……」
 ほっと胸を撫で下ろすオペレーター。
 遮蔽壁が開いて、白兵の戦士達がどっとなだれ込んできたのはその直後だった。
「全員、手を挙げろ!」
「席を離れて壁際に並ぶんだ」
 銃を構えられ、仕方なく手を挙げ席を離れて、壁際に移動するオペレーター達。
 やがてゆっくりとゴードンが入室してくる。
「要塞は、すでに我々の手に堕ちた。あきらめたまえ」
 肩をがっくりと落とす司令官。

 タルシエン要塞陥落の報が、全世界に流されたのは、それから二時間後だった。

第二十二章 了

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2021.05.02 07:25 | 固定リンク | 第一部 | コメント (0)

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