銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 デュプロス星系会戦 Ⅶ
2021.06.07

第二章 デュプロス星系会戦




 連邦軍旗艦。
 ミストを左舷後方に見る位置に、隊列を組んでいるミスト艦隊。
「敵本隊は、ミストの前方、十時の方向」
「取り舵十度! 敵艦隊に向かえ!」
「全艦取り舵十度! 進路変更します」
 ゆっくりと方向転換をはじめる連邦艦隊。
 超巨大惑星の影響だろうか、艦体がミシミシと音を上げていたが、艦橋要員達は軽く考えていた。
 この時、艦の異常を真剣に受け止めて、対処しようとしてる者たちがいた。
 機関部の要員である。
 方向転換と同時に、急激に機関出力がダウンしてしまったのである。
『おい、機関出力が落ちているぞ。すぐさま上げてくれ』
 さっそく艦橋からの催促がかかる。
「了解! 出力を上げます」
 機関出力が上げられ、機動レベルを確保したものの、エンジンは異常音を立てていた。やがて方向転換が完了してエンジンの負担が軽くなって異常音は止まったが、
「これはただ事ではないぞ」
 誰しもが感じていた。
 外の状況や艦橋の様子などがまるで見えない機関部には、ただ上から命令されて出力を上げ下げするしかない。
 機関長のところに数人の機関士が集まってきていた。
「超巨大惑星の影響に間違いありません」
「そうです。カリスの強大な重力に艦が引き込まれていると思われます」
「私もそう思います。上に意見具申なさった方が……」
 だが機関長は意外な発言をした。
「君達は艦内放送を聞いていなかったのか? 上はランドール提督を捕虜にしようとしているのだ。いいか、宿敵サラマンダー艦隊のランドールだぞ。奴を捕らえれば、聖十字栄誉勲章間違いなし、報償は思いのままで一生を楽に暮らしていけるはずだ。例えエンジンが焼け切れたとしても全力で追いかけるのは、判りきったことではないか。言うだけ無駄だよ」
「やっぱり……ですかねえ」
「外がまるで見えない鉄の箱の中で、一生を終えるのはご免ですよ」
「俺達には選択の余地はない。上に指示に従うまでだ。さあ、配置に戻りたまえ」
 諭されておずおずと自分の部署に戻る機関士達だった。

 その頃、機関部要員の気持ちもお構いなしの艦橋では、ランドール捕虜作戦の真っ最中であった。
「ランドールの乗艦を特定しろ。そして攻撃目標から外すのだ」
「了解」
 オペレーターが機器を操作して、ミスト艦隊の各艦をスキャニングしはじめた。
 やがてスクリーン上のミスト艦隊の中に赤い点滅が現れた。
「ランドール提督の乗艦しているものと思われる旗艦を特定しました」
「よし、攻撃目標から外せ」
「了解。戦術コンピューターに入力して、攻撃目標から外します」
「後方から、別働隊が追い着いてきました」
「構うな。今は正面の艦隊に集中しろ」
 司令の脳裏にはランドールしかないという風だった。
 聖十字栄誉勲章が目の前にぶら下がっているのだ。
 二階級特進も夢ではなかった。
 鼻先に吊るされたニンジンを追いかける馬のようなものである。


 戦闘状態に突入して五分が経っていた。
 アレックスはスクリーンを見つめながら、戦況分析の真っ最中というところだった。
「当艦に対する敵艦隊からの攻撃がまったくありません」
「思惑通りだ。これで心置きなく指揮を取れるというものだ」
 呟くように言ったことを聞きつけて、副司令が答える。
「そうか……。判りましたよ、提督が敵艦隊に対して国際通信を行った理由」
「聞こう」
「連邦軍にとって提督は、鬼の首のようなもの。捕虜にした者には、最高の栄誉勲章が与えられると聞きます。それが当艦に攻撃がこない理由です。自分がランドールであることを知らしめれば、決して攻撃してこないだろう。我が艦隊は少数ですから、拿捕して捕虜にするのも簡単だと思う。提督がこの艦隊を指揮するのは初めてです。じっくりと指揮を執るには、落ち着いた環境が必要だった。そういうことですね」
 さすがに副司令官だけのことはあった。
「考え方によっては自己の保身を優先したようにも取れるんだが……」
「大丈夫です。誰もそんな風には考えません。提督は指揮に専念なさってください」
「ありがとう」
 そうこうしているうちにも、味方艦隊は次々と撃沈されていた。
「戦艦ビントウィンド撃沈。巡洋艦ハイネス大破……」
 多少の被害は覚悟の上ではあったが、もたもたしていては全滅するのは時間の問題である。
「急速接近する艦があります」
 目の前のスクリーン一杯に敵艦隊が映し出された。
「斉射しつつ、面舵で交わせ!」
「どうやら接舷して白兵戦で提督を捕虜にしようとしているのでしょう」
 最初の艦はなんとか交わしたものの、次から次と襲ってきていた。
 単独でならともかく、複数の艦で体当たりされては交わしきれない。
「そろそろだな……。これより敵中の懐に飛び込む。全艦全速前進!」
 アレックスが最初から突撃を敢行しなかったのは、味方艦及び敵艦の力量を推し量っていたのだ。
 特に敵司令官の人となりを、その戦い方ぶりから判断していたのである。
 加速して敵艦隊に向かって進撃するミスト艦隊。
 多勢に無勢の時は、まともに正面決戦は自滅を早めるだけである。
 相手の懐深く飛び込んで乱激戦に持ち込み、あわよくば同士討ちに誘い込む。
「ランドール戦法だ!」
 誰かが思わず叫んだ。
 アレックスの得意戦法であり、敵艦隊をことごとく葬ってきた有名な戦法である。
 その戦いを目の当たりにし、しかも自らが参加している。
 兵士達の士気は大いに盛り上がっていく。
「お手並み拝見ですね」
「それは違いますよ。実際に戦うのは配下の将兵達です。指揮官を信じて指令通りに動いてくれるからこそ作戦は成功します。指揮官のすることは、部下を信じさせることだけなのです」
 両艦隊はすれ違いながら互いに攻撃を加えていく。
 後方へ過ぎ去っていった艦は相手にはしない。
 前からくる艦のみを各個撃破していくだけである。
 機関出力最大で防御スクリーンにほとんどのエネルギーを回して、攻撃力よりも防御力に重点を置いていた。
「敵艦を撃破することは考えなくても良い。全速力で敵艦を交わしていくのに全精力を注ぐことに尽力せよ」
 早い話が、戦わずに逃げまくれと言っているに等しかった。
 領土防衛の戦いなのであるから、敵艦隊を殲滅させずして、逃げるなどとは理不尽な指令である。
 逃げている間に占領されてしまう。
 しかし、ランドールが下した指令には、深い熟慮の上に計算され尽されてのものであることは、誰しもが良く知っていた。
 例えばシャイニング基地攻防戦などが有名であり、ハンニバル艦隊来襲の時もカラカス基地を空っぽにした。

 十五分が経過した。
 連邦軍旗艦には苦虫を潰したような表情の司令官がいた。
「ミスト艦隊は、我々の中心部分に入り込んだ模様です」
 両艦隊が全速力で進撃しているので、すれ違いの時間は短かった。
 すでに旗艦同士はすれ違いを終えていた。
「どうして討ち果たせん! 敵は我々の五分の一にも満たないのだぞ」
 理由は判りきっていたが、尋ねずにはおれなかった。
 懐に飛び込まれての乱激戦は同士討ちが避けられない。
 砲術士の腕も鈍るともいうものであった。
「すれ違う前には、正面に向き合っていたはずだ。どうして体当たりしてでも、これを止めんかったのだ」
 これも判っていた。
 ミスト艦隊は小回りのきく惑星航行用の戦艦が主体であるから、旋回して体当たりを避けることは簡単であった。
 司令は、競走馬と荷役馬と比喩したが、競走馬は真っ直ぐ走ることには得意でも、曲がりくねった道を走るのは苦手である。
 これは戦国時代の城下町の街並み設計に取り入れているものだ。城の防衛のために高速で騎馬が駆け抜けられないように、城下町には紆余曲折の道を作るのは常道であった。
 いかに高速を出せる艦艇でも、ちょこまかと動き回る艦艇をしとめるのは至難の伎である。体当たりしようとしても、簡単に交わされてしまう。ただでさえ数度の加速を行って最大限に達しているのである。軌道変更は困難であった。
「ええい。反転しろ! 反転して奴らの背後から攻撃する」
 しかし、その命令が悲劇のはじまりだった。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.06.07 14:00 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 デュプロス星系会戦 Ⅵ
2021.06.06

第二章 デュプロス星系会戦




「全艦、回頭せよ」
 オペレーターが復唱する。
 ゆっくりと回頭をはじめる連邦艦隊。
 しかし、様子がおかしかった。
 回頭の中途で失速し、その体勢のまま流されている艦が続出していた。
「どうしたというのだ?」
 司令が怒鳴り散らすが、事態が好転するはずもなかった。
 艦体はガタガタと異常震動を続けており、オペレーター達の表情は暗かった。
「機関出力、大幅なパワーダウン」
「出力をもっと上げろ!」
「機関オーバーロード。これ以上出力を上げれば暴走爆発します」
「ええい、かまわん! 目の前にアイツがいるのに、みすみす逃してたまるものか。出力を上げろ、もっと上げるんだ!」
 カリスの強大な重力によって引き寄せられていることが、誰の目にも明らかとなっていた。外宇宙航行艦にとっては、方向転換をも不可能とする強大な重力である。

 その一方で、惑星間航行艦ながら馬力のある荷役馬のミスト艦隊は、カリスの重力をものともせずに、悠然と突き進んでいた。
「後方の敵艦隊が乱れています。どうやら失速しているもよう」
 オペレーターの報告を受けて頷くアレックスだった。
「こちらの思惑通りだ」
 そして総反撃ののろしを上げる。
「よし、今だ! 後方で回頭する連邦艦隊を撃て!」
 それまで前方を向いていた砲門が一斉に後方へと向き直った。徹底防戦に甘んじていた隊員は、鬱憤を晴らすかのように、夢中になって総攻撃に転じたのである。
 その破壊力はすさまじかった。あまつさえ失速して機動レベルを確保できない敵艦隊は迎撃の力もなく、一方的に攻撃を受けるのみであった。
 千隻の艦隊が、百五十隻の艦隊に翻弄されていた。
 やがて別働隊も追いついてきて攻撃に参加した。
 次々と撃破されてゆく敵艦隊。無事に攻撃をかわせたとしても、カリスの強大な重力がそれらを飲み込んでゆく。カリスに近寄りすぎて、その重力から逃れるのは競走馬の連邦艦隊には不可能だった。
 十分後、敵艦隊は全滅した。
 千隻の艦隊に、三百隻で臨んで勝利したのである。
 艦橋に歓喜の大合唱が沸き起こった。
 ミスト艦隊司令のフランドル・キャニスターは、アレックスの作戦大成功を目の当たりにして感心しきりの様子であった。
「これが英雄と呼ばれる男の戦い方か……。カリスの強大な重力を味方にしてしまうとはな。交戦状態に入ったときにはすでに敵は自滅の道を突き進んでいたのだ。その情勢を作り出してしまう作戦の妙というところだな」

 アレックスの乗る旗艦でも拍手の渦であった。
「おめでとうございます提督。ミストは救われました」
 と言いながら、右手を差し出す副司令。握手に応じるアレックス。
「いやいや。当然のことしただけですよ。共和国同盟軍の同士ではないですか」
「共和国同盟ですか……なるほどね」
 事実上として共和国同盟は滅んではいるが、解放戦線を呼称するアレックスたちにとっては、今なお健在なのである。


 衛星ミストの軌道上に浮かぶ軍事宇宙ステーションに近づく小艦隊があった。
 アレックスを迎えるために、スザンナが寄こした高速艦隊である。
 艦隊はステーションの周囲に待機し、指揮艦と思しき艦だけが入港ゲートへと進行していく。
 その指揮艦の艦内では、入港に向けてのステーションとの交信がひっきりなしに続いている。
「艦長。入港許可が出ました」
「よし、入港せよ」
「入港します」
 操舵手が答え、艦に制動が掛けられる。
「ステーションより、誘導すると言ってきておりますが」
「丁重にお断りしろ。我が艦は手動制御で入港する。操舵手いいな」
「了解しました。これより手動による入港体勢に入ります」
 操舵手に緊張した表情は見られないし、気負った態度もなかった。ごく自然に平然と答えている。
「サラマンダー艦隊の操艦技術を見せつけてやれ」
「了解」
 他のオペレーター達も、自分に与えられた端末を黙々と操作しており、余裕のあるところを見せていた。
 艦体の側面には、真っ赤に燃える火の精霊を配色し異彩を放っている。
 暗号名「サラマンダー」を呼称するもう一つの旗艦「ヘルハウンド」が正式称号である。
 そう……。
 アレックス・ランドール提督が、少尉時代に乗艦・指揮し、ミッドウェイ会戦で大戦果を挙げたあの艦である。
 ヘルハウンドはゆっくりと橋梁に近づき、所定の位置から五センチもずれることなくピタリと接岸した。
「見事だ。さすがに提督が直接指揮したことがあるだけのことはあるな」
 ステーションの管制員は感心しきりだった。
 タラップが掛けられ、艦長以下の出迎え陣が勢揃いした。

 ここで改めて確認することにしよう。
 サラマンダー艦隊と言えば、ハイドライド高速戦艦改造II式「サラマンダー」以下の二千隻の旗艦艦隊だと思っている者が多いが、それは正しくない。
 アレックスが初めて独立遊撃艦隊を任され、その旗艦として高速巡洋艦「ヘルハウンド」が与えられた。その暗号名が「サラマンダー」であるから、艦隊としての行動する時の暗号名も「サラマンダー艦隊」というのがそもそもの名称のはじまりなのである。これらの呼称は軍籍簿にも登録されている正式称号であることを忘れてはいけない。
 その後に転属してきたレイチェル・ウィングの骨折りで、高速戦艦五隻を手に入れ、新たに「サラマンダー」と名づけられた艦に、アレックスが乗艦するようになった。しかしながらその時点では、純然として旗艦登録は「ヘルハウンド」のままであった。
 高速戦艦サラマンダーが正式に旗艦登録されたのは、アレックスが中佐となり艦隊数が増強されて以降のことである。しかしながら、ヘルハウンド以下の独立遊撃艦隊はそのまま残され、アレックスの直属のサラマンダー艦隊として、ヘルハウンドも旗艦登録されたまま今日に至っているのである。
 アレックス配下の全艦隊を総称する時は、ランドール艦隊と呼称するのが正しい。


 アレックスがフランドルに案内されながら現れた。
 一斉に敬礼して出迎える艦長達。
「出港準備完了しております」
「うん。ご苦労だった」
 振り返ってフランドルに別れの挨拶をするアレックス。
「おせわになりました」
「何もできませんが、せめて補給基地に立ち寄って補給を受けてください。二千隻すべてへの補給は無理でしょうが、行って帰ってこれる程度の備蓄はあります」
「よろしいのですか?」
「なあに、これくらいの礼はさせてもらわないと、罰が当たりますよ」
「そうですか……。それではご好意に甘えさせていただきます」
「ご武運を祈っています」
「ありがとう」
 握手をして別れ、アレックスはヘルハウンドに乗艦した。
「おめでとうございます。提督のご奮戦振りモニターしておりました」
 艦橋に入るやいなや、女性オペレーター達の熱烈な祝福を受ける。
「そうか……」
 指揮艦席に腰を降ろすアレックス。
 この席に座るのは実に久しぶりのことであった。
 懐かしそうに、機器を撫でている。
「ステーションより、補給基地のベクトル座標データが入電しております」
「よし、データを艦隊に送信し、先に補給しろと伝えろ」
「了解」
「提督。このベクトル座標データからすると、補給基地は中立地帯のすぐそばです」
 航海長が説明した。
 数字の羅列を読んだだけで、およその位置を言い当ててみせるのは、その頭の中に航海図がまるごと入っているからだろう。
「補給基地の位置を五次元天球儀に投影してみろ」
「判りました」
 五次元天球儀は、透明球状体にレーザーを照射して、その内側に航路図を投影できるものである。ワープ中でも常に艦の位置を表示できる。敵艦隊や新築されたばかりの施設などの更新されていないデータは表示されないので、構築物の所有者や国家は、国際宇宙航路図協会への報告を厳重に義務付けられている。
 補給基地を示す青い光点が明滅し、そのすぐそばを銀河帝国領との境界にある中立地帯が、淡いレッドゾーンとして表示されている。
「目と鼻の先だな」
「中立地帯近辺の警備における補給を担っているのでしょう」
「だろうな……」
 と頷いて、オペレーター達を見渡してから、
「出航する。機関出力五分の一、微速前進」
 命令を下した。
「了解。機関出力五分の一、微速前進」
 艦長が命令を復唱する。
「機関出力五分の一」
「微速前進」
 各オペレーター達が復唱しながら機器を操作している。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.06.06 14:01 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第十三章 カーター男爵 Ⅰ
2021.06.05

第十三章 カーター男爵




 エセックス侯国より帝国へと帰還の途についたマンソン・カーター男爵。
「まったく、どうなってるのだ? 候女の誘拐に成功したんじゃないのか?」
 憤懣やるかたなしという表情。
 王太子誘拐事件の時も、ぬか喜びした挙句が未遂だったという落ち。

「前方に艦影多数!」
 進路を塞ぐようにして多数の艦艇が出現した。
「相手より入電。停戦せよ!」
 停船命令に怒りを露にする男爵。
「どこのどいつだ! 私を誰だと思っているか! 映像に出せ!」
「映像に出ます」
 通信スクリーンに姿を現したのは、ジュリエッタ第三皇女だった。
「じゅ、ジュリエッタ皇女さま!」
 まさかの人物の登場に驚愕する男爵。
「ジュリエッタ皇女さまの旗艦、巡洋戦艦インヴィンシブルを確認しました」
 映像の皇女が告げる。
「停止して下さい。さもなくば撃沈もやむなしです」
 冷たく言葉を発するジュリエッタ皇女の姿に反発する男爵。
「理由を聞かぬ内は、同意できませぬ。いかに皇女だとしても、我々の行動の自由を妨げる権利はありますまい」

「あなたが海賊を使役して、セシル候女を誘拐したことは分かっております」
「証拠はあるのか?」
 図星を指されて、言葉使いが荒くなっていた。
「証拠ですか……。これなどはいかがでしょうか?」
 映像がどこかの部屋の中に切り替わった。机に対面する二人の表情は、一方は項垂れており、一方は胸を張って睨めつけるようにしていた。どうやら尋問部屋のようであった。
「これがどうしたというのだ?」
「尋問を受けているのは、帝国第一艦隊司令フランシス・ドレイク提督の副官です」
「そ、それがどうした? 私と何の関係がある?」
「そうですね。これだけでは、因果関係は分かりませんよね。では、これではどうでしょうか?」
 音声通信の声が再生されている。
「こ、この声は!?」
 聞こえてきた音声は、紛れもなく自分自身の生声だった。
「この音声は、海賊基地の通信記録です。海賊ですよ。なぜ海賊との通信記録にあなたの声が入っているのでしょうか?」
 証拠を突き付けられて、極まった男爵。
 意味深な合図を砲撃手に目配せで送る。
 それに気づいた砲撃手は、黙って指示に従って主砲の安全装置を外し、準備OKのサインを返す。
「答えはこれだ!」
 指をパチンと鳴らすと、砲撃手が発射スイッチを押す。
「発射!」
 艦首から一条のエネルギーが、インヴィンシブルへと一直線に走る。
 スクリーンを凝視する男爵。
「くたばりやがれ!」
 しかし、エネルギーは軌道を逸れた。
 逸れた一瞬だが、一隻の船が浮かび上がってすぐに消えた。
 その艦影は、紛れもなくPー300VXだった。
 特殊索敵機に搭載された、歪曲場透過シールドの威力だった。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


ファンタジー・SF小説ランキング



2021.06.05 15:34 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 デュプロス星系会戦 V
2021.06.04

第二章 デュプロス星系会戦




 別働隊指揮艦の艦橋。
 迫り来る敵艦隊との会戦の時が迫り、オペレーター達の緊張が最高潮を迎えようとしていた。
 正面スクリーンが明滅して、敵艦隊の来襲を知らせる映像が投影された。
「敵艦隊捕捉! 右舷三十度、距離三十二光秒!」
 目の前を敵艦隊が悠然と進撃している。
 ミスト艦隊が取るに足りない弱小艦隊とみて、索敵もそこそこにしてミスト本星へ急行しているというところだ。
 手っ取り早くミストを攻略し、先遣隊が帝国皇女の拉致に成功した後に、この星に連行してくるつもりなのかも知れない。
「時間通りです」
「ようし! 全艦攻撃開始だ」
 アレックスの作戦プランに従い、別働隊の敵艦隊に対する側面攻撃が開始された。

 敵艦隊の旗艦艦橋。
「攻撃です! 側面から」
 不意の奇襲に、声を上ずらせてオペレーターが叫ぶ。
「側面だと? こざかしい!」
「艦数およそ二百隻です」
「所詮は陽動に過ぎん。放っておけ。加速して振り切ってしまえ!」
「こちらは外洋宇宙航行艦、向こうは惑星間航行艦。速力がまるで違いますからね」
「競走馬と荷役馬の違いを見せてやるさ」
 別働隊の攻撃を無視して、速度を上げて差を広げていく連邦艦隊。

 別働隊指揮艦。
 正面スクリーンに投影された敵艦隊の艦影が遠ざかっているのが判る。
「距離が離れていきます。追いつけません」
「それでいい。作戦通りだ」
 落ち着いた口調で答える司令官。
 敵艦隊が別働隊の奇襲を無視して加速して引き離すことは予測していたことであった。
 アレックスの思惑通りに、事は運んでいた。
「さて、後方からゆっくりと追いかけるとするか……」
 艦橋にいる人々に聞こえるように呟く司令。
 頷くオペレーター達。
「よし、全艦全速前進!」
 ゆっくりと追いかけると言ったのは、敵艦隊のスピードに対しての皮肉であった。
 追いつけないまでも、敵艦隊に減速の機会を与えないように、後方から睨みを利かせるためである。

 その頃、連邦軍の艦影を捉えたミスト旗艦のアレックスは全艦放送を行っていた。
「……いかに敵艦が数に勝るとも、無用に恐れおののくことはない。わたしの指示通りに動き、持てる力を十二分に引き出してくれれば、勝機は必ずおとずれる。どんなに強力な艦隊でも所詮は人が動かすもの、相手を見くびったり、奢り高ぶれば油断が生じるものだ。その油断に乗じて的確な攻撃を敢行すれば、例え少数の艦隊でもこれを打ち砕くことができるだろう……」
 感動したオペレーターが、思わず拍手をすると、その波はウェーブとなった。
 放送を終えて照れてしまうアレックスであった。
 しかし、アレックスにはもう一つの放送をしなければならなかった。

 敵艦隊の指揮艦。
 機器を操作していた通信士が報告する。
「敵の旗艦から国際通信で入電しています」
 戦闘に際しては、通信士の任務は重大である。
 味方同士の指令伝達は無論のこと、敵艦同士の通信を傍受して作戦を図り知ることも大切な任務である。
「正面スクリーンに映せ」
「映します」
 オペレーターが機器を操作し、正面スクリーンにアレックスの姿が映し出された。
 スクリーンのアレックスが語りかける。
「わたしはアル・サフリエニ方面軍最高司令官、アレックス・ランドールである」
 途端に艦橋内にざわめきが湧き上がった。
 ランドールと聞けば知らぬ者はいない。
 そのランドールが、なぜミスト艦隊に?
 オペレーター達が驚き、隣の者達と囁きあっているのだ。
 スクリーンのアレックスは言葉を続ける。
「わけあって、このミスト艦隊の指揮を委ねられた……」
 疑心暗鬼の表情になっている司令官であった。
 ランドールと名乗られても、『はいそうですか』と即時に信じられるものではない。
 副官は機器を操作して、スクリーンに映る人物の確認を取っていたが、
「間違いありません。正真正銘のランドール提督です。それに、ミストから離れつつある艦隊を捕らえました。サラマンダー艦隊です」
「どういうことだ。タルシエン要塞にいるはずのやつらが、なぜここにいる?」
 何も知らないのは道理といえた。
 ランドール率いる反乱軍は、堅牢なるタルシエン要塞を頼りにして、篭城戦に出ているのではなかったのか……。
「おそらくランドールの目的は銀河帝国との交渉に赴いたのではないでしょうか?」
「交渉だと?」
「はい。反政府軍が長期戦を戦い抜くには強力な援護者が必要です。帝国との交渉に自らやってきて、補給に立ち寄ったこのミストにおいて、我々との戦いを避けられないミスト艦隊が、提督に指揮を依頼した。そんなところではないでしょうか」
「なるほどな……。とにかく大きな獲物が舞い込んできたというわけだ」
 すでにアレックスの挨拶が終わっていて、スクリーンはミスト艦隊の映像に切り替わっていた。
「敵艦隊、速度を上げて近づいてきます」
「全艦に放送を」
 通信士が全艦放送の手配を済ませて、マイクを司令に向けた。
「敵艦隊の旗艦には、宿敵とも言うべき反乱軍の総大将のランドール提督が乗艦しているのが判明した。その旗艦を拿捕してランドールを捕虜にするのだ。それを成したものは、聖十字栄誉勲章は確実だぞ。いいか、ランドールは生かして捕らえるのだ、決してあの旗艦を攻撃してはならん」
「なせです。捕虜にするのも、撃沈して葬るのも同じではないですか」
「ばか者。ここはミスト領内で、あやつの乗艦しているのはミスト艦隊だぞ。撃沈してしまったら、どうやってランドールだと証明できるか? 宿敵艦隊旗艦のサラマンダーならともかくだ」
「そうでした……」
「指令を徹底させろ」
「判りました。指令を徹底させます」

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.06.04 08:47 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)
銀河戦記/鳴動編 第二部 第二章 デュプロス星系会戦 Ⅳ
2021.06.03

第二章 デュプロス星系会戦




 サラマンダー艦橋では、アレックスからの連絡を今か今かと待ちわびていた。
「あれからだいぶ経ちますが、いまだに連絡がありません。提督はご無事なのでしょうか?」
「提督は十分な熟慮の上に行動なされたのです。心配することはないでしょう」
 アレックスとの付き合いが最も長く、その人となりを知り尽くしているスザンナが平然と答えた。
 いっかいの旗艦艦長から旗艦艦隊司令へと大抜擢され、アレックスからの信望厚い人物の発言である。その言葉を疑うものはいなかった。
「それよりも敵艦隊の動静に変わりはないか?」
「はい。侵攻ルート及び速度共に変化ありません」
「よろしい。こちらは戦闘態勢を維持、進路そのまま」
 アレックスからは戦闘態勢の発令があったものの、その後の指示はいっこうに出されていなかった。
 巨大惑星による重力ターンの実行中であり、進路を変えて迎撃に向かうことは不可能だった。
 仮に進路転換しようものなら、強力な重力によって失速し、巨大惑星に飲み込まれるのは必至だった。そのことは、スザンナが一番良く知っていることである。
「提督より入電です」
 一同がいっせいに通信士の方を振り向く。
「映像を正面スクリーンに映せ」
 敵艦隊の進撃推定コースの投影されていた正面スクリーンがアレックスの映像に切り替わった。SPとして同行しているコレットも側に待機している。
「提督、何かありましたか?」
 スザンナが尋ねる。
「ああ……。このわたしがミスト艦隊を臨時に指揮することになった」
「提督がミスト艦隊の指揮を?」
 スザンナに驚いた表情は見受けられなかった。もちろん通信を聞いている他の者も同様であった。
 敵艦隊の来襲となれば、英雄と称えられる提督に指揮を依頼することは、誰にも納得できる。
「そういうわけだ。君達は、そのまま予定通りに動いてくれ。こちらのことが済めば、後を追いかける」
「お一人で大丈夫ですか}
「我々は部外者だ。ミストのことに関しては、君達の手を借りることはできないだろう? ああ、戦闘態勢を解除して、警戒態勢に変更しておいてくれ。やつらが追撃してくることは不可能だろうからな」
「判りました。警戒態勢に移行し、このままのコースを予定通りに進みます」
「よろしくな」
 通信が切れ、敵艦隊の侵攻ルートの映像に切り替わった。
 アレックスらしく簡潔明瞭な短い通信だった。
「ということだけど、パトリシアはどう思っているの?」
 艦橋の後部で通信を聞いていたジェシカが隣にいるパトリシアに囁く。
「成り行き上で、そういうことになったのでしょうけど……。心配する必要はないと思いますよ」
「その根拠はどこから?」
「提督は、勝算のない戦いはなさりませんから」
「なるほど……。提督はミスト艦隊を指揮して、敵艦隊との戦いに勝利できると考えているわけね? それも三倍の敵艦隊と……」
「はい」
「そっか……。あなたがそう思っているのなら、確かなものでしょうね」
 パトリシアに限らず、艦橋にいる者のほとんどが、アレックスが負けるとは誰も思っていなかった。
 たとえ一度も指揮をとったことのない、未知数の多い艦隊としてもである。
「スザンナ。提督は後から追いかけられるとのことですから、その足となる高速艦艇を残しておかなければ」
「はい。すでに手配済みです」
 スザンナが答えた通りに、旗艦艦隊から護衛艦を含めた十二隻の小隊が、列から離れて惑星ミストへと向かっていた。
 もちろん重力ターンの最中なので、巨大惑星の重力に逆らわないように遠回りではあるが、いったん惑星をぐるりと周回するようなコースを取らなければいけない。
「旗艦艦隊が中立地帯に到着するのが早いか、提督がこの場を早々に片付けて、追いついてくるのが早いか……。ぎりぎりかしらね」
「そうですね……」
 敵艦隊の本体である連邦の先遣隊の動きが気になっていた。
 第三皇女を拉致しようとして、中立地帯へと向かっているはずである。
 もう一つの競争が存在していたのである。
 ランドール提督が追いついてくるのが早いか、連邦が中立地帯から帝国領内へ侵入して第三皇女が拉致されるのが早いか。
 時間との戦いでもあった。


 ミスト艦隊旗艦の作戦室。
 アレックスは各艦の艦長と部署の責任者を招集して、作戦会議を開いていた。
 アレックスが育て鍛えた艦隊の士官達なら、一つのことを伝えれば十のことを理解してくれていた。これまでのアレックス流の戦闘のありかたを知り尽くしていたので、こまごまとした残りの九割の部分は、言わずとも確実に伝わったのである。
 今回の戦闘に勝利するには、意思伝達を緊密に図っておかなければ、勝てるものも勝てなくなる。
「艦隊の半数を別働隊として、このラグランジュ点に待機させて、側面攻撃をかけます」
「別働隊ですか? ただでさえ、こちらの艦数が少ないというのに、別働隊を無視して本隊に急襲をかけられれば持ちこたえられません」
「そうかも知れませんが、我々に勝つ方法があるとすれば、これしか考えられません。側面から攻撃を掛けられたら、回頭して相手にするか、やり過ごして加速し本隊を急襲するかでしょう。そこに勝算が生まれます」
 会議に参加する者には、アレックスの真意が伝わらないようであった。自分が育てた艦隊ではないから致し方のないことであろう。
「詳しく解説してください」
「判りました」
 アレックスは苦々しく思った。
 パトリシアがいれば……。
 サラマンダーに残してきた作戦参謀。身近にその存在がないというのは、痛切なほどに身に沁みた。
 最高速・高性能のCPUを持っていたとしても、ディスプレイなどの表示装置や通信機器などの周辺機器が接続されていなければ、無用の長物と化してしまうのは必至である。
 敵に確実に打ち勝つには、綿密なる作戦立案が必要である。それはアレックスの頭の中でまとまってはいるのだが、何も知らない一兵卒に至るまで周知させるのは並大抵のことではない。
 早い話が口下手といって良いかも知れない。
 作戦会議から三時間が経過した。
 ミスト艦隊の本隊から離れていく別働隊。
 その指揮を執るのは、ミスト艦隊司令のフランドール・キャニスターである。
「司令、どうして別働隊の指揮を買って出たのですか?」
 副官が改めて聞きなおした。
 本来ならよそ者のアレックスが率いるべきはずである。
「別働隊は陽動とし、敵の攻撃を直接受け止めるのが本隊と考えるのが普通なのだが、提督はこちらが主力だと言った。それがゆえに半数の艦隊を割いたのだと」
「それが判りません。一応説明はされたのですが、どうしても納得できません」
「納得するしかないだろう。これまでの提督の作戦は、当初には誰にも受け入れられないことが多かったじゃないか。しかし、最終的には劇的な戦果を挙げて昇進してきた」
「それはそうですけどね」
「ともかくだ……。我々の総意で提督に指揮を委ねたのだから、最後まで信じて戦うよりないだろう」
「判りました」

 ミスト旗艦。
 その指揮官席に陣取るアレックス。
 正面のスクリーンには、本隊から離れていく別働隊が映し出されていた。
「別働隊。予定のコースに入りました」
「よろしい。敵艦隊との遭遇推定時刻は?」
「およそ五時間後です」
「そいじゃ、お出迎えするとしますか。全艦微速前進!」
「全艦微速前進」
 アレックスの補佐を勤める役になった副司令のコーマック・ジェイソンが命令を全艦に発令する。
 艦橋にいるすべての者が、これから繰り広げられることになる連邦軍との戦闘に胸をときめかせていた。
 何せ、共和国同盟の英雄と称えられる名将が、自分達の艦隊の指揮を執るのである。
 たとえ相手の艦数が数倍に勝り、歴戦の勇士達だったとしても、誰一人として不安を抱く者はいなかった。

↓ 1日1回、クリックして頂ければ励みになります(*^^)v


ファンタジー・SF小説ランキング


小説・詩ランキング



11
2021.06.03 16:40 | 固定リンク | 第二部 | コメント (0)

- CafeLog -