梓の非日常/第三部 神条寺家の陰謀 part-2
2021.05.14

神条寺家の陰謀


partー2

 床下を四つん這いになって進む。
 やがて、前の部屋のような床下収納庫と思われる場所に出た。
 ボックスこそないが、埋め込み半回転式の取っ手の裏側が突き出ている。
 直接上に出られるようだ。
 そこには、犯人が待ち構えているかもしれないが……。
 耳を澄ませて、上の床の音に耳を傾ける。
 足音などの生活音がないか。

 静かだった。

 少し蓋を持ち上げて、部屋の中を懐中電灯で照らしてみる。
 誰もいないようだ。
 音を立てないように、静かに床下から這い上がる。
 台所のようで、ドアが二つあるだけで窓のない殺風景な部屋だった。
 一つは玄関ドア。もう一つは隣の部屋に通じているようだ。
 調べ回ってみたが、何も見つからなかった。

 玄関ドアのカギを開けて外へ出ようとしたが、ここも鍵が掛かっていて出られなかった。

 仕方なく、玄関は無視して隣の部屋に向かいます。
 こちらも真っ暗だったが、ドアの壁際に照明スイッチがあった。
 やはり照明はあった方が良いだろう。
 ドアを閉めてから、照明を点けた。

 ソファーやら書棚とかが置いてあって、リビングルームという感じだった。
 ふと疑問が沸いた。
 殺人部屋はベッドはあるものの、まるで物置みたいだったが……。
 この住居の全体像が想像つかない。
 アパートなのか? 個人の住宅なのか?

 ともかくリビングを調べ始める。

 まずは本棚からだ。
 よくある話に、本棚がスライドして隠し通路が現れるとかがある。
 試しに本棚を横から押してみたが、ピクリとも動かなかった。
 どこかにスイッチがあって、電動で動くかもしれない。
「片っ端から、本を動かしてみるか……」
 ともかく本棚の右上段から順番に本を動かしてみる。
 探す途中で、本のページからはみ出た紙切れが見つかった。
 紙切れには、色覚テストに使われるような模様が描かれていたが、複雑すぎて何が描かれているか判読できない。
 五段ある本棚の三段目まで調べ終わる。
「何か仕掛けがあるとしたら、普通は手を掛け易い目の高さ辺りだと思うのだが……」

 さらに念入りに、本棚をさらに調べてみると、一番下の本の隙間に何か隠れていた。
 取り出してみると、チュールと呼ばれる猫のオヤツが一本入っていた。
 役に立つか分からないが、ともかく持っていくことにした。


 ソファーを調べてみる。
 見た目は、ごく普通のソファー。
「座面を持ち上げると、小物入れになっているものがあるよな」
 持ち上げようとしたが、残念ながら固定されていた。
「外れたか……」
 横へずらしてみようとしても駄目だった。
「腰が痛え……」
 床下を這いずり回っていたので、足腰を痛めたようだ。
 ソファーの背もたれに持たれかけて、思いっきり背伸びしてみた。
「うわわっ!」
 背面側に重心を持っていきすぎたのか、ソファーの前脚部が持ち上がって、後ろに倒れ込んでしまう。
「こ、これは⁉」
 ソファーが倒れたことで、床に隠し扉が現れた。
 床下収納庫……? ではなさそうだった。
 蓋には鍵穴が仕込んであったのだ。
「金庫か? それとも下へ続く通路か?」
 試しに、持っていた鍵の束で開けてみる。

 カチャリ!

 鍵の一つが合って、蓋が開いたのだった。
「階段だ! 地下室に通じているのかな?」

 ここは降りてゆくしかないだろう。
 念のために部屋の電気を消してから、いざ! 地下室へと向かった。

 階段を降りると、鍵の掛かった扉があったが、先ほどの鍵で開いた。
 扉側の壁にスイッチがあったので点けてみる。
 ここまできたら、スイッチに罠があるかなんて、もうどうでもよくなっていた。
「また部屋かよ……」
 中は、画廊のような風景であった。
 いくつかの彫刻と絵画が展示されていた。
「そとに通ずる道は?」
 入ってきた反対側に、横スライド式の電動らしきドアがあった。
 手でこじ開けようとしたが、びくともしなかった。
「どこかに電動ドアのスイッチがあると思うんだけどな……」
 それらしきものはあった。
 ドアの側の壁際に銀行ATMでよく見るような、暗証番号入力式のプッシュキーが並んでいた。
 適当に打ち込んでみようかと思ったが、間違った場合に警報が鳴るかもしれない。
 3回間違えるとロックされるとか……。
「忘れた場合に備えて、どこかに暗証番号書いたメモ帳とかないかな?」
 まずは絵画の裏を探してみる。
 額縁を動かすと、一枚の赤色をした透明シートがヒラヒラと舞い落ちた。
「赤の透明シート? そうかアレだ!」
 ピンとくるものがあった。
 本棚の本に綴じてあった、色覚テスト用のような紙切れだ。
 透明シートで紙切れを透かして見る。
「5963か」
 電動ドアの暗証番号だと思われる。
 こんな手間暇かけるより、素直に紙に番号を書いておけばいいのに……。
 と、思ったが考えるのをやめた。
 すぐ分かる場所に、すぐ分かる方法で残していたら暗証番号の意味がない。

 自動ドアの所に戻って、プッシュキーを押す。
「ごくろうさん……と」
 ピポパポと音がして、ドアが開いた。

 そのまま出ようとも思ったが、念のためにさらに部屋を探してみる。
 彫刻の中に手の上に何かを持っている仏像があった。
 調べてみると、今度はグレーの透明シートが入っていた。
「グレー透明シートか……。また何かを透かして見るのかな?」
 とりあえず貰っておく。

 他には見当たらないので、自動ドアから外へと向かった。

 そこは通路で、正面と両側に4つのドアがあった。
「とりあえず手前から調べてみるか」
 手前左のドアを開けようとするが締まっていた。
 持っている鍵束で開けて入ってみる。
「ハズレだ! 何もねえや」
 手前右の扉も何もなかった。
 先方左手ドアは、合う鍵がなくて開けられない。次だ。
 先方右手ドアを開けると……。

 そこには、猛獣のライオンが待ち構えていた。
「なんでこんなところに、ライオンがいるんだよ!」
 とっさに持っていたナイフで応戦する。
 ライオンを倒して、部屋の中を探してみる。
「ライオンが守っていたんだ! きっと重要な何かが隠されているはずだ!!」
 丁寧に隅から隅まで探してみる。
 机が置いてあり、引き出しから新たな鍵が見つかった。

 その部屋を出て、通路に残る正面の扉の前に立つ。
 鍵束の鍵は合わなかった。となると……、
「さっき手に入れたばかりの鍵か?」
 ライオンを倒して得た鍵を差し入れてみると、開いた。

 そこはまた別の部屋だった。

 ガランとして何もない部屋だった。
 扉も今入ってきた所しかない。

「しかし何もないってことはないんじゃないか?」
 今まで手にしてきたアイテムを取り出してみる。
 まだ使っていないのは、猫用おやつのチュールとグレーの透明シートだ。
 猫はどこにもいないから、今使うのは透明シートか……。
 グレーの透明シートで部屋の壁を透かして見る。
 すると壁の一カ所に何やら浮かんできた文字があった。
「そうか! これは偏光板だったんだ」

 参考=Nitto実験動画「偏光板 魔法のフィルム篇

『ここまで来た中に猫のいる部屋がある。最後の鍵は猫が持っている』
 猫のいる部屋? 鍵を持っているだと? ライオン(ネコ科)のことじゃないよな。
 ともかく戻って、もう一度よく確認してみよう。

 先ほどの五つの部屋があった通路に戻ってみる。
「何もないと思ってみたが、何かあるのか?」
 画廊から見て手前右手扉に入ってみる。
「猫はいるか?」
 いないようだ。
 手前左手扉の部屋にも、猫どころか鼠もいない。
 最後に、先方左手扉の部屋だ。
「ここは鍵が合わなかったよな……。待てよ、最後の鍵といっていたな」
 よく見ると、ドアの下側に小さな扉があった。
「これか!? 猫用通路口だ!」
 前回見に来た時は、下の方に目がいかなかったので気付かなかったようだ。
 この扉の中に鍵を持った猫がいるのか?
「猫ならコイツに反応するかな……」
 チュールを開封して、猫通路口から差し入れてみる。
 すると、中の方でコトンと音がした。
「にゃーん!」
 猫がチュールにしゃぶりついてきた。
 チュールを手前に引くと、釣られて猫も外へ出てくる。
 その首には鍵がぶら下がっていたのだ。
 猫を捕まえて、最後の鍵を手に入れた!
 チュールを全部舐め終わった猫が、足元にじゃれついてくる。
「よしよし。いい子だ」
 最後の鍵を使って、その扉の錠前に差し込んでみると、見事に開いた。
「ここが最後なのか?」
 部屋の中に入る。

 そこは窓のある明るい部屋だった。
 開いた猫用のゲージがあり、餌皿と水飲みが置いてあり、ここで放し飼いされているらしい。
 ということは、いずれ飼い主がやってくるかもしれない。
 もしかしたら、そいつが殺人犯か?
 もちろん、トットと逃げ出すに限る。
 ドアには、円筒錠というごく普通の錠前が付いていた。
 外からは鍵が必要だが、内からは鍵なしで開くという奴。
 手を掛けて回してみると、何の抵抗もなく開いた。
 外へ出てみると、光ある世界だった。
 振り返ってみると、今までいた所は何やら研究所のような建物だった。

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