梓の非日常/第三部 神条寺家の陰謀 part-1
2021.05.07

第三部 神崎家の陰謀
ノベルアドベンチャーゲームシナリオ(小説版)


part-1

 目が覚めると、何も見えない暗闇だった。
「ここはどこだ?」
 どうやらベッドの上に寝ているようである。
「くうっ!頭が痛い……」
 どうやら、誰かに催眠剤のようなもので眠らされて、ここへ運び込まれたようだ。
「……」
 思い出そうとするが、何も思い出せない。自分が誰なのか?名前さえも覚えていない。
 いつまでもこうしていても仕方がない。彼は、ベッドを降りて辺りを探り始めた。
「出口はどこだろう?」
 何も見えないので、慎重に足を運ぶ。
「痛い!」
 何かに躓(つまづ)いて転んでしまう。


 ともかく、この現状を打破するためにも、
 調べる以外にないだろう。
 床をまさぐるようにして、
 躓いた何かを触ってみる。
 何か生暖かい物に触れた。
 さらに場所を変えて触っていくと……。
「足だ!」
 人間の足のようだった。
 なんで人間が倒れているのか?
 生きているのか?
「あの、あなた……」
 声を掛けてみるが、返事はない。
 足から胴体へと移っていく。
「服を着ていない?」
 裸のようであった。
 胸のところにきた時、なにかヌメヌメした液体に触れた。
 裸でヌメヌメした液体……。
「血だ! 死んでいる?」
 どうやら、血を流して倒れている。
 驚いて、その身体から離れ引き下がってしまう。


 人死には怖いので、部屋を調べることにする。
 四つん這いで壁際にたどり着いた。
 立ち上がり壁沿いにドアがないか調べはじめる。
 手を一杯に上へ伸ばしたり、
 床付近まで降ろしたりして感触を頼りに、
 丁寧に壁を調べて回る。
 ドアが見つかった。
 しかし鍵が掛かっているようで、
 ドアノブをガチャガチャ動かしてみたり、
 体当たりして開かないかチャレンジしたが、
 びくともしなかった。
 鍵穴らしきものはあった。
「鍵が必要だな」
 念のため四回、部屋の角を回ったが、
 他に出口らしきものは見当たらなかった。
 鍵ならば、床に倒れている人物が持っているかもしれない。
 もう一度、人物を調べてみるしかないようだ。
 人物の所に戻ってみる。
 手探りで調べると、胸にナイフのようなものが刺さっていた。
 やはり死んでいるようだ。
 血液が完全に固まっていないところをみると、
 死んでからそう時間は経っていない。
 結局何も身に着けていないことが分かった。


 他に調べられるとしたら、
「俺の寝ていたベッドか……」
 自分が寝ていたベッドに戻って調べ始める。
 鍵が見つかれば良いが、
 なければせめて明かりが欲しいところだ。
 暗闇の中、手探りでは見つかるものも見つからない。
 布団を退けたり、枕の下を探ったりしたが、何も見つからない。
 つと、つま先にコツンと何かが当たった。
 コロコロと転がる音。
「何だ?」

 音を頼りに、その何かを探し求める。
「確か、この辺で止まったような気がするが……」
 手探りで床をくまなく探すと、それは見つかった。
「百円ライターか!」
 千載一遇(せんざいいちぐう)の好機。
 これの火が点けば現場がはっきりと見渡せるはずだ。
 ただし、遺体の惨状も目に飛び込んでくることになる。
 しかし躊躇していられない。
 ここから出るためには、そんなことは言っていられないのだ。

 無臭の引火性ガスが漂っていたら一巻の終わりだが……。
 しかし、明かりがなければ解決の糸口を見つけることも叶わない。

 ライターの火を点ける。
 真っ暗闇の中に、ライターの火が辺りを照らした。
 床に倒れている人の姿が浮かび上がる。
 どうみても裸で死んでいるとしか思えない。
 人の方には意識しないようにして、周囲を見渡す。
 部屋の中は、殺風景なまでにベッドしかなかった。
 窓はなく、出入り口はあのドアだけなのか?
 そのドアの壁際に照明用のスイッチらしきものがあった。
 暗闇で調べた時には気がつかなかった。

 スイッチを入れて照明が点いたら、 犯人に察知されるかも……。
 そう思ったが、心細いライターの灯りだけでは、物を探すのは辛い。
 スイッチを入れてみると点かなかった。
「電気が通じていないのか?」
 天井の照明に向けて、ライターをかざしてみる。
 蛍光管が入っていなかった。

 ずっとライターを点けていたので、手元が熱くなってきていた。
 ガスが無くなっては大変だ。
 火を消し、ベッドに腰かけて考えることにする。
 これまでのことをまとめてみる。

・そもそも、自分がここに運ばれた理由や経緯。
・そして何より、床に倒れている遺体。
・遺体のナイフはいずれ役に立つかもしれない。
・ドアを開けるには鍵が必要。
・部屋をくまなく捜索するには、やはり天井の照明が重要だろう。
 点くかどうかは不明だが。
・ライターのガスには限りがある。


 考えても分からないので、捜索を再開することにする。
 ライターを点けて、もう一度部屋の中を見渡した。
 ベッドと遺体の他は何もない。
「……? ちょっと待てよ」
 彼は気が付いた。
 遺体から流れ出た血液が、一部途切れていたのだ。
 それも直線的にだ。
 まるで吸い込まれるように……。
 よく見ると床に正方形の溝があり、埋め込み半回転式の取っ手が付いていた。
 台所によくある床下収納庫のようなものではないのか?
 遺体のナイフを不用意に抜いて、さらに血が流れていたら、溝を埋めて気付かなかったかもしれない。
「もしかしたら、この下に何かあるのか?」
 遺体に怖がって注視していなければ、完全に見落としていた。
 ただ、遺体が上に乗っているので動かさなければ、蓋を開けられない。
 触るのは怖いが……。
 遺体を動かして、床下収納庫を調べることにする。

 蛍光管と懐中電灯があった。

 懐中電灯のスイッチを入れると、点いた!
「やったあ!」
 思わず声を出して喜ぶ。
 さらに天井の蛍光灯が点けば、この部屋全体をくまなく調べられそうだ。
 蛍光灯を点けたまま床に置いて、ベッドを蛍光灯の真下に動かし、蛍光管を取り付けた。
 そしてドアそばの照明スイッチを入れた。
「点いたぞ!」
 蛍光灯の明かりが、こんなにも頼もしく感じたことはない。


 ライターに比べれば、眩いばかりの光によって、捜索は捗るかと思われる。
 今まで気づかなったことも明らかになるだろう。
 もう一度念入りに部屋の中を探し始める。
 壁に色が変わっている場所があった。
 手のひらを当てて、右にスライドさせると、中は戸棚となっていた。
「鍵だ!」
 十本くらいの鍵の束が入っていた。
「これで扉が開くか?」
 小躍りしてドアの所に駆け寄る。
「だめだ! 合わない」
 いずれの鍵もドアの錠前には合わなかった。
 消沈するが、鍵は後で役に立つかもしれないと持っていることにした。

「待てよ。床下収納庫って確か……」
 思い出した。
 床下収納庫は、ボックスが外せるようになっていて、
 床下に入れるようになっているはずだ。
 ここにはもう何もないようだ。
 床下に降りることにする。
 ボックスを枠から外して床下に降りる。
 遺体に突き刺さったナイフが目に入った。

 そうだ!
 自分を閉じ込め、殺人を行った犯人がまだどこかにいるかもしれない。
 身を守るためにも、武器は必要かも知れない。
「なんまんだぶ……」
 ナイフを引き抜いた。
 血液がいくらか流れたが、広がるほどではなかった。凝固が始まっていた。

 懐中電灯片手に、床下へと降りる。
 念のために床下収蔵庫の蓋を閉めておいた。
「ここにも遺体がありませんように」
 殺人事件ではよくある話で、床下や天井裏に隠すものだが。
 上の方で、ドカドカと大勢の人間の足音が聞こえて来た。
 どうやら警察官が入ってきたみたいだ。
「人が倒れています! 死んでいます。 なんだこれは! 毒ガスだ、一旦退避しろ!」
 そんな叫び声が聞こえてきた。
「危なかったな。いずれここも見つかるだろうが、しばらくは時間稼ぎができる」
 祈りながら、床下を懐中電灯で照らす。
 這いずり回っていくが、本当に別の出口があるのか心配になってくる。
 そもそも、今は何時なのだろうか?
 昼なのか夜なのか……。
 今のところ完全に閉ざされた空間ばかりなので、外からの光が入ってこないから、判断不能であった。

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