あっと!ヴィーナス!!第三章 part-1
2019.12.07


あっと!ヴィーナス!!


第三章 part-1

 夜が明けた。
 これからの将来を案じてほとんど眠れなかった。
「弘美ちゃん。朝ですよ」
 朝はいつも低血圧だった。
 だから誰かに起こされる。ほとんどが武司兄さんだが……。
 あれ? 何で母さんが起こしにくるの?
 何せ六人分の朝食の支度やその他もろもろ、主婦の朝は忙しいから、起こしにこれる状
況ではないはずなのに。
「早く朝食を食べないと、学校に遅れますよ」
 と、やんわりとやさしく起こそうとしている。まるで女の子を起こすように……。
 女の子?
 あ?

 がばっ! と飛び起きて確認する。
 髪……長い。
 胸……ある。
 あそこ……ない。(涙)
「あーん。やっぱり夢じゃないよ……。女の子のままだよー」
 忙しい母さんが、わざわざ起こしにきたのはそのせいだったのね。女の子の部屋という
ことで、兄さん達は遠慮しているようだ。
「何を今更なことを言ってるんですか。ほらほら、早く着替えなさい」
 と、パジャマを脱がされ、素っ裸に……。
 うーん。この姿は兄さん達には見せられないよなあ……。
 ここにいるのは母と娘、女同士だからいいんだけど……。産みの親とはいえ、あまり裸
は見られたくないな。
 しかし母は一向に気にしていない。昨日のようにブラジャーとかの下着を着せられる。
 ブラジャーを着用しはじめて二日め。そうそう慣れるものではない。どうも窮屈な感じ
がする。
「いいわね……。じゃあ制服を着なさい」
「これって、栄進の女子制服じゃない。ヴィーナスがくれたやつ……」
「当たり前でしょ。女の子なんだから」
「これで学校に行くの?」
「大丈夫よ。ヴィーナスさんがおっしゃってたじゃない。ご近所さんから学校関係者まで、
弘美ちゃんに関わる人々の記憶をすり替えたって。戸籍も女の子になってるしね」
「そんなこと信じられないよ」
「女神さまなんだから間違いないわよ。今朝のゴミ出しの際に、近所の奥さんと話してい
て、弘美ちゃんの話題になるようにそれとなく誘導したら、『弘美ちゃんて、とても可愛
いいお嬢さんね。うらやましいわ』って言ってたから」
「ほんと?」
「だから心配しなくてもいいのよ。学校の先生やお友達も、記憶をすり替えてあるはずだ
から、安心して女の子として当校できるわ」
「ほんとかなあ……」
 この目で確認するまでは信じられない。なにより信じて女子制服で登校して、以前のま
まだったら、それこそ一生笑い草にされてしまうじゃない。
 気が思いよお……。
 なんて言ってるうちに、すっかり女子制服姿になっていた。
 母さんは着せ替え人形が得意?
「さあ、下へ行きましょう。みんなが待ってるわ」
「待ってるって?」
「可愛い弘美ちゃんを一目見てから、出かけるつもりみたいね」
「そんなのないよ。あ、あたしに構わず行ってくれりゃいいものを」
「そんなこと言うんじゃありませんよ。せっかく家族愛に燃えているんだから」
「結局さらしものにされるだけじゃない」
「弘美ちゃん……」
「いいよ、もう……。どうせ避けられない運命なんだから、串刺しにでも何でもしてよ」
 といいながら鞄を手に取る弘美だった。
「そうそう、何事もあきらめが肝心よ。昨日も言ったけど、一度その姿を見せれば慣れち
ゃうから」


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