あっと!ヴィーナス!!第二部 第一章 part-7
2020.01.13

あっと! ヴィーナス!!第二部


第一章 part-7

「とにもかくにも、お困りのようだな」
「ああ、愛ちゃんが誘拐された」
「取り戻したいか?」
「もちろんだ。出来るのか?」
「出来ないこともない」
「どういうことだ?」
「愛を誘拐したのが、アポロの使徒だからな」
「アポロって、すけべったらしで、とっかえひっかえ女を漁るという奴か?」
「言いたい放題だな。まあ、そのアポロだ」
「で、そのアポロが愛ちゃんを拐ったのはなぜ?」
「ふむ、ちょっとした人違いだったのだがな」
「人違い?」
「これを見よ」
 と差し出したのは、一枚の写真だった。
 そこには学校の校門を出てくる二人の少女。
 愛と少し遅れて自分の姿が映っていた。
「愛ちゃんだ!隠し撮りか?」
「そのようだな。これと同じものがアポロの手にある」
「つまりこの写真に映っている愛ちゃんを誘拐したと?」
「そのようなんだが、実は後ろにいる君が本当の標的だったんだ」
「僕を誘拐するつもりが、人違いで愛ちゃんを拐ったということか?」
「そういうことだな」
「しかし、なんで僕を?」
「ああ、それは極秘事項なので言えないんだ」
「じれったいなあ!愛ちゃんを助け出せるのか、助けられないのかはっきりしろよ」
「助けたいのか?」
「もちろんだよ」
「人違いだと言ったよな」
「ああ」
「愛君の代わりに君がアポロの元へ行けば良い。早い話が、人質交換というわけだ」
「一つ聞いていいか?」
「なんだ」
「僕がアポロの元へ行ったらどうなる?」
「行けばわかる」
「それでは答えになっていないぞ」
「神は気まぐれなものさ。少なくとも命を奪われることはないぞ」
「わかったぞ!女たらしで有名なアポロのことだ。そういうことだな!?」
「そういうことにしておこうか」
「僕が行くと思うか?」
「なれば愛とやらがどうなるか判らんぞ。今頃衣服を引っ剥がされて、乳房をもろ出しに
弄ばれているかもな」
「ううっ。卑怯な」
「行くの?行かないの?」
「わかったよ。行けばいいんだろ!」
「素直でよろしい」

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第一章 part-6
2020.01.09

あっと! ヴィーナス!!第二部


第一章 part-6

 愛が連れ去られた!
 しかも羽根が生えた黒服の天使?によって空の彼方へと。
 天使、天使、天使……。
 天使といえば天上界。
 天上界といえば、ヴィーナス!?
「まさか、ヴィーナスの差し金か?」
 大急ぎで、自宅へと駆け出す弘美。
 息咳切りながらたどり着いた自宅に駆け上がり、台所に飛び込む。
 そこには、相も変わらず酒びたりのヴィーナスがいた。
「ヴィーナス!愛ちゃんをどこへ連れて行った!!」
「なんのことらろ?」
 呂律の回らない口調で問い返すヴィーナス。
「愛ちゃんが連れ去られたんだよ!」
「つれはられた?」
「羽根の生えた天使のような黒服に空の上に連れ去られたんだよ!」
「なんらろ?」
「天使は、おまえの仲間だろうが。おまえが指示したんだろ?」
「なんのことらあ?」
 へべれけに酔っていて、意思の疎通ができない。
「まったく肝心な時に役に立たない奴だなあ」
 どうするべきかと悩む弘美。
 こうしている間にも、愛が何をされているか……。
「なんで、愛ちゃんがさらわれなきゃならないんだよ」
 憤りいきどおりを収めきれない。

 その時だった。
「お困りのようだな」
 どこからともなく声がした。

 その声は母ではなく、もちろんヴィーナスでもなかった。
 ヴィーナスの方を見ると、すでに昏睡状態のようで話しかけることはできないだろう。
 あたりを見回したが、自分とヴィーナス以外は、ここにはいなかった。
 では、誰の声だ?
「うふふふ……」
 まただ。
 姿は見えないが、確かに誰かがいて話しかけている。
「もしかして、ディアナですか?」
 姿が消せるということは、神の部類以外に無い。
 ヴィーナスに初めて会った時に、天空の女神ディアナのことを、口を滑らしていた。
「ほほう……。記憶力は良い方だな」
 と言いながら、スーーと姿を現した。
「ヴィーナスが話していましたからね。女神は他にはいない」
「なるほど。改めて、天空の女神ディアナだ」

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第一章 part-5
2020.01.08

あっと! ヴィーナス!!第二部


第一章 part-5

 数日後。
 ファミレスのバイトを始めた二人。
「ありがとうございました」
 バイトの仕事にも慣れて、そつなくこなしている。

「いらっしゃいませ!」
 客が入店してくる。
 その客の姿を見て、ヒソヒソと店員たちが耳打ちしている。
 それもそのはずで、来店客は黒眼鏡に頭から足まで黒ずくめの衣服を着ていたからだ。
「なにあれ。少年探偵コナンのコスプレ?」
 客が席に着いて、テーブル担当の店員が注文を取りにいく。
「これとこれと、それからこれ」
 と注文した品は、調理に時間のかかるものばかりだった。
「これとこれと、それからこれ、でよろしいですね」
「ああ、たのむ」
「かしこまりました」
 一礼して、オーダーを出しに厨房へ伝えに行く店員。
「オーダー入りました!これとこれと、それからこれ、です!」
 客は、お冷を一口飲むと、ポケットから何かを取り出した。
 写真のようだった。
 それをジッと見つめたかと思うと、店員と見比べている。
「何、あの客。うちらのこと見つめたりして、気色悪いわあ」
「もしかしたら、興信所の人?」
「ええ?じゃあ、誰かを調べているの?」
「よく観ると、新人の方を見ているみたいよ」
 確かに客は、新人である弘美と愛の動きを追っていた。
 やがて注文した料理が届くと、一口入れては観察、一口入れては観察。
 咀嚼の間中は二人を交互に観察していた。

 そうこうする内に、二人の勤務時間の終了となる。
「お疲れ様でした!」
 更衣室で制服から、自分の服に着替えて、店を出る二人。
「ふうっ!疲れたあ」
 大きく伸びをする愛。
「それにしても……あの人、なんだろうね」
「例の客?まだ食べているのかな」
「ううん……どうかな。もう食べ終わってるんじゃない?」
 談笑しながら帰り道を歩く二人。

 その時、一陣の風が吹いた。
 スカートの裾が舞い上がり、慌てて両手で抑える。
「酷い風ねえ」
 砂が目に入ったのか、目を擦っている弘美。
「きゃあ!」
 悲鳴を上げる愛。
 目を開けると、愛を抱えて走り去る黒尽くめの男。
「ああ、あの変な客だ!」
 なんて言ってる暇は無い。
 黒尽くめを追いかける弘美。
「待ちなさい!愛をどこへ連れていくの!!」
 人一人抱えて走りづらいはずなのに、黒服は軽々と走り続ける。
 じりじりと差を詰めていく弘美。
 あと一歩!
 手を伸ばした瞬間だった。
 ふわりと黒服が宙に浮かんだのだった。
 見ると黒服の背中から真っ白な羽根が生えている。
 その羽根をバサバサと羽ばたかせて、空高く舞い上がってゆく。
「天使!?」
 羽根の生えた黒服は、すでに空の彼方に消え去っていた。

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第一章 part-4
2020.01.07

あっと! ヴィーナス!!第二部


第一章 part-4

 それから数日後。
 愛と一緒にファミレスの面接を受けている。
 勤務希望日時とか尋ねられて、
「やっぱり土日の午前中かな……」
「あのねえ、夏休みなのよ。もう少し働かないと雇ってもらえないでしょ。ねえマネージ
ャー」
「そうですね。最低でも三日間のフルタイムか、五日以上のハーフタイムは働いて頂かな
いとね。シフトが組めませんから」
「ほらね」

「うーん……。どうしようかな」
 頭を抱えている弘美。
「取りあえず四日以上のフルタイムを働いて頂けるなら、採用決定なんですけどね」
「へ? 採用決定?」
「新店舗が出来たせいでかなりの従業員がそちらに振り分けられて、こちらの人員が足り
なくて、急ぎ募集する必要があるんですよ。今なら無条件採用です。いかがですか?」
「念のためにお聞きしますけど、時給はいくらくらいですか?」
「採用条件に合えば、時間七百五十円をお支払い致します」
「七百五十円? それって平均的?」
「そうですね。高校生の時給としては妥当なはずですが」
「フルタイムって何時から何時ですか?」
「あなた達は、女子高校生ということで、就業規則により午前十時から午後六時までとな
っております。それ以降の勤務時間は、学校側や父兄から帰宅に問題が生ずるとクレーム
がくるからです。大切なお嬢様をお預かりするわけですから当然の配慮です」
「ふうん……お嬢様ねえ」
 そっかあ……。
 一応あたしはお嬢様なんだ。
 そう言われると悪い気はしなかった。
 あれ?
 女の子として扱われることに抵抗してたんじゃなかったっけ?
 うーん……いつの間にか、女の子としての生活に慣れ親しんでいるってことか。
 そりゃそうだ。
 実際にしても、誰が見ても正真正銘の女の子だものな。
「ねえ。どうするの? 早いところ決めておかないと他の子に仕事取られちゃうよ。ここ
のアルバイト、結構人気があるんだから」
「そうなんだ」
「どうしますか?」
「決めちゃいなよ」
「マネージャーさんも忙しい中を時間を作って、相手してくださっているんだから。今更
断りきれないわよ」
「あ、あのねえ……」
 それじゃあ、脅迫みたいじゃない。
「わかったわ。取り合えず、四日のフルタイムということでお願いします。ただ曜日はも
う少し考えさせていただけませんか?」
「結構ですよ。四日のフルタイムですね。曜日に関してはある程度融通が利きますから大
丈夫です」
「それじゃあ、そういうことでお願いします」
「判りました。一応採用ということで、こちらこそ今後ともよろしくお願いします」
「やったね」

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第一章 part-3
2020.01.06

あっと! ヴィーナス!!第二部


第一章 part-3

 そうこうするうちに弘美の家が見えてきた。
 そういえば、愛ちゃんを家に上げるのは幼稚園の時以来かな……。
 男の子と女の子、異性を感じるようになった頃から、互いに遠慮するようになっていた。
 しかし今は女の子同士、愛も何のためらいもなく家を訪問することができるというわけ
である。
「ただいま!」
「お帰り」
 母が出迎える。そして……、
「あら、愛ちゃんじゃない。久しぶりね」
「おばさま、お邪魔します」
 幼馴染みの母親という記憶は、どうやら残っているようだった。
 都合の悪いことは消したりすり替えたりしているが、影響のないことはそのまま記憶を
残しているようだった。まったく見ず知らずの他人というわけにはいかないらしい。
「遠慮しないで、ゆっくりしていってね」
「はい」
 というわけで、自分の部屋に案内する。
「へえ……、久しぶりだけど。弘美の部屋ってこんなだったんだ」
 そりゃそうだろな。
 愛がちょくちょく遊びに来たのは幼稚園の頃だ。
 月日も経っているし、女の子的な雰囲気にすっかり模様替えしてしまったから。
 あの頃はまだ異性ということを意識していなかったからな。
 
「悪いけど、着替えるね」
「うん……」
 帰ったらすぐに着替えるように母に言われていたからだが、他人がいるとやはり恥ずか
しいものだ。とはいえ、学校の体育の授業前に、何度もクラスメート達と一緒に着替えを
する機会があったので、少しは慣れっこにはなっている。
 授業前にはじめて着替えするときは、心臓どきどきものだったけどね……。
「それでさあ、朝のことだけど……何が言いたかったわけ? そろそろ話してくれてもい
いよね。夏休みの予定がどうのとか……」
「それなんだけどさあ……」
「なに?」

「あのね……。一緒にアルバイトしないかな? と思ってさ……」
「バイト?」
「ファミリーレストラン」
「ファミレス?」
「うん……一緒にアルバイトしない?」
「なんでそうなるわけ?」
「一人じゃ行きづらくて……」
「だったらやめとけば?」
「そうもいかないのよ」
「どうして?」
「実はね……。バイト料でお父さんの誕生日プレゼント送ろうと思っているの。冬なら手
編みのセーターとかでいいんだろうけど。夏にセーターはねえ……」
「そっかあ……、誕生日プレゼント送るんだ」
「そうなの」
 といいながら、じっと弘美を見つめる愛。
「わかったわよ。一緒にバイトしてあげる」
「やった!」

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