あっと!ヴィーナス!!第二部 第二章 part-2
2020.01.21

あっと! ヴィーナス!!第二部


第二章 part-2

 天空城の中にある神殿。
 玉座に座り神子を侍らせて、酒をあおっているアポロがいる。
 そこへ、愛を誘拐した黒服が入場する。
「ご命令のものをお連れしました」
 と抱えていた愛を、慎重に床に降ろした。
「ご苦労だった。下がってよいぞ」
「ははっ」
 静かに退場する黒服。
「ご尊顔を拝見するか……」
 アポロが右手を前にかざすと、愛の身体が浮き上がって、アポロの方へ。
 そしてふわりと、その膝の上に乗った。
「さて、どんな顔をしているかな」
 愛の顎をしゃくりあげるようにして、その顔を眺めるアポロ。
「ほほう。なかなか可愛い顔立ちをしておるな。気に入ったぞ」
 と、ほくそ笑んだその時。
 神殿にテレポートしてきた者がいた。
 ゼウスの妻のヘラだった。
 アポロの膝の上の愛を見て、
「どうやら無事に成し遂げたようだね」
 安堵の表情をしている。
「約束通り、わたしの女にするよ。いいね」
「好きにするが良い」
 念のためにと近づいて、顔を確認するヘラ。
「違う!この子じゃない。人違いだ!」
 驚いた表情のヘラ。
「どうして?写真の女の子だろ?」
 例の写真と見比べている。
「その女の子の後ろにいるのが本物だよ」
「はん?後ろの女の子?」
「そうだ!」
「いい加減な写真を渡すなよ。後ろなら後ろとちゃんと言えよ」
「それは悪かった。とにかく、もう一度やってくれ」
「やってやらないことはないが……。この娘は頂いておく」
「勝手にしろ!」
 というと、いずこへともなく消え去るヘラ。
「いい加減だから、ゼウスにも飽きられるんだよ」
 アポロが呟いた途端、
「今、何か言ったか?」
 忽然と、再び現れたヘラ。
 聞き耳を立てていたのか?
「いや、何も。空耳だろう」
 陰口に戸は立てられぬ、という諺どおりである。
「そうか……では、頼んだぞ」
 念押しして再び消え去る。

「黒服を呼べ!」

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第二章 part-1
2020.01.20

あっと! ヴィーナス!!第二部


第二章 part-1

「アポロが無類の女好きなのは、君も知っているだろう」
「まあな」

 アポロと関係した女性は、すべて悲劇的な運命をたどることになる。
 プロローブでも紹介したが、改めて再掲しよう。
  さて諸君もご存じの通り、このアポロはゼウスの最初の浮気の相手とされる
  レトが産んだ双子の一人で、姉(妹?)がディアナである。
  なぜか彼が恋する相手は悲劇を迎える。
  月桂樹となったダフネ。
  ヒヤシンスの花にまつわる美少年ヒュアキントス。
  他にもシビュレーやカッサンドラーなどなど。
  それがゆえに常に新しい恋を求めてさまよう。
  なお、アポロとはディアナ(ダイアナ)と同じく英語名。

「いずれ、手下の黒服である使徒が、人違いで愛を誘拐した事に気づくだろう。改めて本
命の君に目がいくことになる。がしかし、その君が男言葉に男的態度をしていたらどうな
るかな?」
「それがどうした」
「とりあえず本命の君には失望して、煮るなり焼くなりした後で、愛を手篭めにするのは
判りきったことじゃないか。可愛い女の子には目が無いからね。それでいいのかい? 弘
美」
「そ、それは……」
 言葉に詰まる弘美。
「愛を助けるためには、君がアポロの目に留まらなければならない。しかも飛び切りの
可愛い女の子としてだ。間違いに気づいて愛を解放するかも知れない」
「俺はどうなるんだよ」
 と言った途端。
「ちっちっ!(と人差し指を目の前で横に振りながら)俺、じゃない。あたしと言いなさ
い」
 ヴィーナスが注意した。
「あ、あたし……はどうなる……の?」
 しどろもどろに言い直す弘美。
「そうそう、その調子。声が可愛いんだからね。態度も女の子らしくすれば完璧よ」
 しょげかえる弘美に、思い通りに事が進んで上機嫌のヴィーナス。
「さあ、雲の中に突入するぞ!しっかり掴まっていろよ」
 ディアナが手綱を操りながら、雲塊に突入する体勢を取る。
 弘美とヴィーナスは、振り落とされないように、戦車の縁にしっかりと掴まる。
「突入する!」
 大声で合図をすると、雲塊の中へと突入する。
 凄まじい突風が襲い、戦車を激しく揺さぶる。

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第一章 part-10
2020.01.16

あっと! ヴィーナス!!第二部


第一章 part-10

「呼んだか?」
 突如として、天駆ける戦車にヴィーナスが姿を現した。
「危ない!」
 重量が偏るように増えたので、戦車が揺れて落ちそうになる。
 ディアナが天馬の手綱を操作して、体勢を立て直した。
「危ないじゃないか、ヴィーナス」
「わたしを呼んだだろう?」
「呼んでねえよ」
「いや、確かにわたしの名を呼ぶ声が聞こえたぞ」
「相変わらず地獄耳だな。おまえは」
「神なのに地獄耳とはこれいかに、だな」
「確かに呼んではいないが、名前が挙がったのは確かだ」
「酔っ払って寝込んでたんじゃないのかよ」
「人の口に戸は立てられない、っていう諺があるだろう。たとえ眠っていても耳に入れば
目が覚める」
 呆れ返る弘美とディアナ。
「来てしまったのは仕方が無い。邪魔だけはするなよ」
「判っている。もちろん事情はすべて理解している」
「ならいい」
 改めて、ラピュタに向けて帆を上げる一行だった。
「天空城な。解説が間違えるなよ」
 あ、すいません……天空城です。
「どっちも同じだろうが」
 天駆ける戦車は、天空城に向けて一直線に進む。
「ところで、弘美」
「なんだよ」
「女の子らしくしろと、いつも言っているだろう。なんだ、その男の言葉は」
「地の言葉で悪いか」
「悪いわい。その女の子の格好で、喋る言葉じゃない」
「女の子?」
 改めて自分の姿を見る弘美。
 学校帰りの女子校生の制服姿だった。
 学校から直接ファミレスに向かい、着替えてウエイトレスの仕事をして、終了後に再び
制服に着替えて、家に帰る途中に誘拐事件に遭遇したのだった。
 大慌てでヴィーナスの元に駆けつけたものの泥酔状態、困ったところにディアナが登場
して、その格好のまま追撃戦に参加していたのである。
「その可愛い女子校生の制服姿が似合う君なら、やはり可愛い声で優しく喋るのが本筋と
いうものだろう」
「勝手に女の子に変えておいて、よく言うよ。俺は男なんだぜ」
「違うぞ!」
 と、鼻同士がくっつくぐらいに顔を近づけて警告するヴィーナス。
「そもそも、君は女の子として生まれるはずだったんだ。運命管理局のちょっとした手違
いで男の子になってしまったのだ」
「そこは違うな。こいつの酒癖が原因だよ。プロローグを読めば判る」
 ヴィーナスを指差しながらディアナが横槍を入れる。
「こほん!」
 咳払いをして話を続けるヴィーナス。
「と、とにかく。弘美、あなたは女の子として生きるしかないのです。あなたが一人前の
女の子として生まれ変わるためなら、このヴィーナス全精力を賭けるぞ」
「ことわる!」
 拒絶する弘美。
 これまで男として生きてきたのだ、神の手違いだとしても、今更として女の子にはなれ
ないであろう。
 ことあるごとに男に戻せと言うしかない弘美だった。
「さてと……だ」
 ディアナが話題を変えるように話し出した。
「アポロの前に出ても、その男の子言葉でいる気かな?」
「アポロ?」

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第一章 part-9
2020.01.15

あっと! ヴィーナス!!第二部


第一章 part-9

 やがてファミレスから二人の後を追うように黒服が出てくる。
「あ、あいつだ」
 飛び出そうとするのを、止めるディアナ。
「なぜ止める!」
「言っているだろ。すでに起きてしまった過去に干渉するなと」
「だからって黙って見ているのかよ」
「そうだ。おまえが出て行けば、おまえが二人になるってことだ。これが判るか?」
「う……」
 図星をつかれて、しどろもどろになる弘美。
 そうこうするうちに、黒服が愛をさらって行く。
「よし、いいだろ」
 というと、手のひらを上向きにして何やら呟くと、その上に小さな天使が現れた。
「あの、黒服が抱えている女の子を追いなさい」
「はあい」
 かわいい声で返事をすると、ぱたぱたと羽ばたいて黒服を追い始めた。
「エンジェルに尾行させるのか?」
「ああ。あの子は、黒服には見えないからな」
「なるほど」
 やがて黒服も小さな天使も空の彼方に消え去った。
「で、これからどうするんだ?」
「なあに大丈夫さ。これがある」
 と、スマートフォンを取り出した。
「スマホか?どこに隠し持ってたんだよ」
「秘密のポケットがあるのさ」
「ドラ〇モンかよ」
「これで天使と連絡を取れる」
「神でも電話するのか?」
「神を馬鹿にするなよ。天上界にはパソコンもインターネット環境も揃っているぞ」
「なんだよ、それ。エンジェルもスマホ持ってるのか?」
「彼女とは探偵バッチで通話できるぞ」
「少年探偵コナンかよ」
「ついでに天使の位置情報を表示することができるぞ、ほら」
 と見せ付けるスマホの画面には、赤い点滅が表示され動いていた。
「眼鏡レーダーじゃないんだな」
「そこまではパクレないわよ」
 スマホ画面を見つめる弘美とディアナ。
 と、突然スマホから音声が、
「あーあー。本日は晴天なり、本日は晴天なり」
 聞こえた。
「なんだ?近くにハム無線局でもあるのか?」
「彼女からの通信だよ」
「あ、そう」
「感度良好だよ。何かあったか?」
 スマホに話しかけると、答えが返ってくる。
「今、黒服が大きな雲の塊の中に入っていきます」
「追えるか?」
「任せてください」
 通信が途絶えた。
「大きな雲の塊ねえ……」
 と空を仰ぐ弘美。
 すでに黒服と天使の姿は見えない。
 真っ青な空に雲一つ見えない快晴。
 なのだが、場違いとも思える巨大な雲塊がゆっくりと流れていた。
「入道雲じゃないな。どうやら、あの雲みたいだ」
 ディアナの言葉を受けて、
「もしかしたらラピュタか?中に城があってさ」
 弘美が推測する。
「うむ、そうかもな。アポロの居城があるのかも知れない」
 意外にも同調するディアナ。
「どうやって、空の上の雲に行く?」
「大丈夫さ。これがある」
 と突然姿を現したのは、ディアナの愛機。
天駆けるあまかける戦車だよ」
 古代ギリシャで使われていた、馬が戦車を引くアレだが、ソレは空を飛べる天馬が繋いであった。
「ソレで近づいたら、アポロに気づかれないか?」
「なあに、アポロは女以外は興味がないし、全知全能のゼウスの息子だ。たかが一般職の神相手には目もくれないさ」
「一般職ってなんだよ」
「知らないのか?」
「知るかよ」
「アポロから見れば、わたしはただの時間管理局の局長だし、ヴィーナスは運命管理局の局長だ」
「なるほど。ゼウスが国王とするならば、アポロは大臣で、ヴィーナス達は各省の政務次官というところか」
「そうなるな」

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第一章 part-8
2020.01.14

あっと! ヴィーナス!!第二部


第一章 part-8

「で、どうやってアポロの元へ行くんだ?」
「わからん」
「わからんって……なんでやねん」
「ああ、アポロは居所をちょこちょこ変えるし、隠れ家なんかもあるからね」
「じゃあ、どうやって探すんだよ」
「愛を連れていったのは使徒だ。そいつを追いかければ判る」
「何言ってるの。そいつはとっくに空の彼方だ」
「わたしを誰だと思っている」
「天空の女神だろ」
「で、能力を知っているか?」
「天空を駆け巡り、時を操る……って、おいまさか!」
「そのまさかよ。愛が誘拐されるその時限に遡り、使徒の後を隠れて追いかけ、アポロ
の居場所へ案内してもらうのさ」
「なるほどな」

「では行くぞ」
「おうともよ」
 ディアナが手を前に突き出すようにして、
「ゲート、オープン!」
 と言うと、目の前に扉が現れた。
「なんだ?どこでもドアか?」
「ドラエ〇ンではないぞ」
 扉には【過去への扉】という札が掛かっていた。
「なんだよ、この札は」
「君にも理解できるようにしたつもりだが」
「そうか。では、ノックしてから入るのか?」
「なぜそうする?」
「部屋に入るときは扉をノックするのが礼儀だろう」
「その必要は無い」
 というとディアナは扉のノブを回した。
 目の前には、どこへ続いているか判らぬ暗黒の闇が広がっていた。
「着いて来い!」
 扉の中へと入ってゆくディアナに続いて、弘美も恐る恐る入る。

 暗い扉を抜けた先は雪国、ではなくて弘美が働いているファミレスの前だった。
「なんだファミレスじゃないか」
 行き交う人々の中に、見知った人物がいたので声を掛けようとすると、
「待ちなさい。ここは過去の世界だ、干渉することは許されない」
「未来が変わるとか、パラレルワールドに突入するとかか?」
「それもあるが、アポロに気づかれるかも知れぬ」
「触らぬ神に祟りなしか」
「まあ、そういうことだ。そもそも我々の姿はこの世界の人々には見えない」
「なんだ」
 ファミレスから弘美と愛が楽しそうに出てくる。
「ふうっ!疲れたあ」
 大きく伸びをする愛。
「それにしても……あの人、なんだろうね」
「例の客?まだ食べているのかな」
「ううん……どうかな。もう食べ終わってるんじゃない?」
 談笑しながら帰り道を歩く二人。
「同じこと喋ってるな」
「当たり前だろ」

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