あっと!ヴィーナス!!第二部 第二章 part-7
2020.01.29

あっと! ヴィーナス!!第二部


第二章 part-7

 天上界にあるゼウスの妻、ヘラの神殿。
 イライラと玉座の前を、行ったり来たりしているヘラがいる。
「アポロはまだか?」
 弘美を捕らえたという報告を受けていた。
「まだのようです」
「今度また人違いだったら、ただじゃおかないからね」
 この目でしっかりと確認しないと安心できない。
 ファイルーZの存在を知って以来、是が非でも邪魔しようと思っている。
 そのリストにあったかつての女性たち。
 ヘレネー(スパルタ王テュンダレオースの娘・実父ゼウス)から始まって、
    クレオパトラ7世(古代エジプト・プトレマイオス朝最後のファラオ)
    虞美人(楚の将軍項羽の愛妾)
    則天武后(唐の皇宗の皇后から中国唯一の女帝となる)
    楊貴妃(唐玄宗の皇妃)
    小野小町(平安時代前期の歌人)
    エリザベス1世(英国女王)
    エカテリーナ2世(ロシア女帝)
    ジャンヌダルク(英仏百年戦争の英雄)
    インディラ・ガンジー(インド初の女性首相)
    クララ・バートン(米国赤十字の創始者)
    マリリンモンロー(米国超有名な歌手)
    マーガレット・サッチャー(鉄の女と称された英国首相)
    などなど……。
 なおリスト上の女性について当局は一切関知しない。保存ディスクは当人の死亡と同
時に自動的に消滅した。

 そして、相川弘美だ。

「アポロ様がお見えになりました」
 神子の声に振り返り、駆け寄るヘラ。
「首尾は?」
 頭上左右に浮遊させた状態で、弘美と愛を運んできたアポロ。
「ご覧のごとく」
 ヘラの視線が弘美に集中する。
「確かに、ファイルーZの娘じゃ」
「というわけで、この娘たちは貰い受けた」
「ふん。好きにするがよい」
 言いながら玉座に腰を下ろすヘラ。
 ファイルーZの娘が、ゼウスにさえ渡らなければ、アポロの妻になろうが下僕になろ
うが、どうでもよいことなのである。
 改めて許可を貰ったので、弘美と愛を連れて自分の居城へと向かおうとする。
 そこへ、ヴィーナスとディアナが登場する。
「待ってください!」
「なんだ?お前たちは呼んでおらんぞ」
「アポロ様に用があります」
「ならばアポロと話し合え。わたしは忙しいのだ」
 手を振って、シッシッと追い払うような仕草する。
「わたしの城で話そう」
「わかった」
 ということで、アポロの城へと向かった。

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第二章 part-6
2020.01.28

あっと! ヴィーナス!!第二部


第二章 part-6

「バルス!」
 エンジェルが最後のボタンを押した。
 と同時に、コントロールルームが激しく振動した。
「な、なに?」
 慌てて飛び上がって、制御盤から離れる。
 何事かとしばらく様子を見ていたが、床や壁が次々と崩壊していくのを見て、ディアナ
に報告しなきゃと、その場を離れた。
 天井が崩れて落下してくるのを避けながら急ぐエンジェル。

 アポロンのいる玉座付近でも騒動が起きていた。
 足元から城が崩れてゆくのに動揺するヴィーナス達。
「城が崩れる!」
 そこへエンジェルが駆けつけて、実情をディアナに報告する。
「城から離れないと」
 天駆ける戦車を呼び寄せるディアナ。
「弘美は?」
 心配になったディアナが見たものは、バリアーの中で平然としているアポロンと茫然自
失のままの弘美だった。
 天空城が崩壊する中、バリアーは完全防御状態で、その中は安全地帯となっていた。

 天空城は崩れ去った。
 しかし、アポロンのいるバリアーは球体状となって浮かんでいた。
 玉座に座ったアポロン、取り巻きの神子、そして愛も弘美も無事息災であった。
 球体の周りを飛び回る、天駆ける戦車に乗ったディアナとヴィーナス。
「なんてことだ」
 上へ上へと昇ってゆく球体を追いかけながら、自分達の浅はかさに悔しがる女神。
 アポロンの深層意識までは読みきれなかったという。
「アポロンの行き先は、判っている」
「ヘラ様のところね」
「その通りだ」
 ヘラのいるところ、天上界へと向かう女神だった。

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第二章 part-5
2020.01.27

あっと! ヴィーナス!!第二部


第二章 part-5

 アポロが決断を迫る。
「さあ、人質交換に応じるのかな」
 愛は可愛いが、ゼウスのお気に入りリスト【ファイルーZ】の弘美は、さらに可愛い。
 成長すれば、それこそ絶世の美女となりうるのだ。
 アポロにしてみれば、愛より弘美を選ぶのは当然だろう。
 たじろぐ弘美。
 愛は助けたい。
 かといって、人質交換に応じて、アポロの元に行くのも、吝かやぶさかである。
「どうするかね?」
「本当に愛を解放する気はあるのか?」
 ヴィーナスが確認する。
 アポロの周りを見渡せば、篭絡ろうらくした女の子や神子をはべらしているのだ。
 弘美を手に入れても、愛を手放すとは言い切れない。
「約束しよう」
「言い切ったな。約束したぞ」
 ヴィーナスとディアナが見詰め合って確認している。
「さあ、こちらへ来なさい」
 アポロが手招きする。
 躊躇ちゅうちょするが、愛を助けたい気持ちには変わらない。
 ここにはヴィーナスとディアナという女神がいる。
 愛と自分を助ける算段をしているかも知れないし。
 ゆっくりと前へ、アポロに向かって歩き出す弘美。
 時々振り返りながら。
 後数歩にまで来たときだった。
 突然、弘美を含めたアポロの周囲にバリアーのようなものが発生して、女神との間を遮断した。
「何をした!?」
 ヴィーナスが近づこうとしたが、バリアーが進入を防いで、その身体を弾き飛ばした。
「だましたな!約束が違うじゃないか」
 ディアナが叫ぶ。
「はて?何か約束をしたかな?」
 知らぬ存ぜぬといった風情のアポロ。
「弘美、大丈夫か?」
 何があったのか、茫然自失状態の弘美。
 愛は可愛い、弘美はもっと可愛い。
 女たらしのアポロが、どちらか一方を手放すと思ったのが間違いだったのだ。
 地団太踏んでくやしがる女神。

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第二章 part-4
2020.01.23

あっと! ヴィーナス!!第二部


第二章 part-4

 その頃。
 姿を消したエンジェルは、ディアナの特命を受けて、天空城の内部を探索していた。
 ラピュタが飛行石で浮遊していたように、この天空城も何らかの機関が動いているはず
だ。
 その動力源の位置を確かめるためである。
 さすがに神のアポロでも、この巨大な城を神通力で動かすことはできないだろう。
「あーん。広すぎて、どこにあるかわかんないよー」
 ただでさえ、小さな身体である。
 飛翔能力にも限界がある。
「疲れたあ……ちょっと休憩」
 といいながら、小さな突起の上にちょこんと座って羽を休めた。
 折りしもその真下の通路を、衛兵が会話しながら通り過ぎる。
「しかし、すごい機関だよなあ」
「ああ、超伝導磁気浮上システムなんて、誰が考えたんだろね」
「この天空城、実は人間が作った戦争のための要塞だったらしい」
「それをアポロ様が奪い取ったんだよな」
 などと言いながら。
 エンジェルはいいこと聞いたと思った。
 人間が作ったものなら、機関を動かしたり止めたりするマニュアルがあるはずだ。
 気を取り直して、再び飛び出したエンジェル。
 やがて動力機関の心臓部であるコントロールルームにたどり着く。
 ほとんど自動で動いているらしく、人も神子も見当たらない。
 マニュアルは、当然この近くにあるはずだ。
 室内を飛び回って探し回るエンジェル。
「あった!これね」
 本棚に納められているマニュアルらしき本を引き出しに掛かる。
 人間にとって普通の本でも、小さなエンジェルには身が重い。
「ぐぬうう。何のこれしき」
 目一杯羽ばたいて、羽ばたいて、羽ばたいて。
 ドスン!
 と、マニュアルが床に落ちた。
 うまい具合に、閲覧できように上向きで開いた状態で落ちた。
「やったあ!」
 早速マニュアルに飛びつく。
「さてと、動力を止める方法は……」
 人間が書いた文字や図形に困惑しながらも解読を進めてゆく。
 エンジェルとて神の子だ。
 人間に読めて、エンジェルに読めないものはない。
 ページを捲りながら、動力停止の方法を読み解く。
「あった!これだわ」
 じっくりと読んでから、制御盤に向かう。
「ええと……」
 制御盤のボタンを確認して、
「ピッポッパッ、ポーン」
 マニュアル通りに押してゆく。

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あっと!ヴィーナス!!第二部 第二章 part-3
2020.01.22

あっと! ヴィーナス!!第二部


第二章 part-3

 その頃、神殿に密かに侵入したディアナ達。
「本当にここに連れ込まれたのか?」
 疑心暗鬼の弘美。
「それは間違いありましぇん!」
 弘美の周りを飛び交いながら、先に潜入していたエンジェルが断言する。
「あっ、そう……」
 神殿の冷たい床の上を、あまり音を立てないように慎重に歩を進める一同。
「なあ、とうにアポロに気づかれてるんじゃないの?」
「かもな」
「なら、こんな忍び足は無駄じゃないの?」
「衛兵もいるからな。少しでも争いは避けたい」
 突き進んでいくと、目の前が大きく広がった。
 玉座の間に到着したようだ。
 アポロは、どっしりと構えて玉座に鎮座していた。
「やあ、待っていたよ。ディアナ」
 指名されたディアナが、
「やはり、気が付いてたのね」
 一歩前に進んだ。
「その娘が本命だね」
 ディアナの後ろに隠れるようにしていた弘美を見て、指摘するアポロ。
「ほう、さすがゼウスの目に適う顔つきをしているね」
 穴が開くほど弘美を見つめて品定めしている。
「ゼウス?」
「あれ、知らないの?君は、ゼウスのお気に入り娘リスト【ファイルーZ】の一人なんだ
から。ZはゼウスのZというのは判るよね」
 ファイルーZという言葉を聞いて、首を傾げる弘美。
「それは、何でしょうか?」
 その言葉は、ヴィーナスもディアナも説明していなかった。
 というよりも、秘密にしていたのだから。
 読者の皆さんも、気づいていた方、気づいていなかった方いるでしょうが……。
「まあ、まあ。その話は後でゆっくりと話しましょう。今は、目の前の愛ちゃんを助ける
ことが先決です」
 ヴィーナスが話題をそらす。
「そうだねえ。その娘が、わたしの元にくるなら、この娘は解放しましょう」
 交換条件を示すアポロ。
 当然承諾できるような内容ではない。
「お断りします!」
 きっぱりと答える。
 うろたえる女神。
「そんな、いきなり断るのは……」
「そうそう、できるだけ交渉を伸ばして、時間を稼がなくちゃ」
 弘美に耳打ちする。
「時間稼ぎって、何……? そういえば、エンジェルの姿が見えないようだが」
「しーっ!」
 人差し指を唇に当てて、口止めする。

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