あっと!ヴィーナス!!第二部 第一章 part-1
2020.01.01

あっと! ヴィーナス!!第二部


第一章 part-1

 朝食を終えて学校へ行く。
「弘美! おはよう!」
 いつも聞きなれた声が背後から近づいてくる。
「愛ちゃん。おはよう」
「今日は、お兄さんと一緒じゃないのね」
「クラブで今日は早出」
「そっか、野球部だもんね。地区予選もはじまるし」
「一年だから、当分球拾いと用具片付けとかばかりだよ。後はランニングばかりらしい
よ」
「でもすぐにレギュラーになれるよ。中学ではキャプテンだったし」
「そうかな」
「それに女子の間では結構人気があるのよ。妹として鼻が高いでしょ」
「なにそれ?」
「知らないの?」
「知らない」
「呆れた、灯台下暗しね」
 知るわけないだろ。
 そういうこと、妹(弟)に自慢するもんじゃないし。
 それにしても、愛ちゃんとはすっかり仲良しになってしまった。
 もちろん女の子同士としてである。
 幼馴染として、これまでにも多少の付き合いがあったが、やはり異性ということで垣根
が存在して、これほどまでに親密にはなれなかった。男女が一緒に歩いていれば、噂の種
にもなるし……。
「ところでさあ……」
「なに?」
「もうじき夏休みだよね」
 とさも意味ありげに尋ねる。
「そうだね」
「予定あるの?」
「予定?」
「旅行とか、アルバイトとかさあ……」
「別に……ないけどさ」
「そう……」
 とぽつりとつぶやいて考え込むように黙った。
「なによ?」
「うん……ちょっとね」
「だから、なによ?」
「あのね……」
 どうやら切り出しにくい話のようだ。
「うん」
「やっぱり、後で話すわ」
「何よお、気になるなあ」
「とにかく、後で」
 結局口に出しただけで、内容を話さない。
 気になるなあ……。

11
全身性エリテマトーデス
2020.01.01

○月○日 全身性エリテマトーデス

 自己破産の手続きが進む中、大学病院へも行かなければならない。
 膠原病などと診断をくだされると緊張する。
 いったいどんな病気なんだ?
 早速紹介状を持って、埼玉医科大学総合医療センターを受診する。
 何せ大学病院である。
 診療科が無数にあると言っても良い。
 どこを受けたらよいのか判らないが、ともかく総合受付で手続きをする。
 で、リウマチ・膠原病内科という診療科を受診することになった。
 自己免疫疾患を専門に扱っている科であることが後に判明する。
 午前中は問診から始まって、血液検査・尿検査・レントゲン・心電図……と検査が続く。
 午後に入って、検査の結果が集計されて医師の元に戻されて、診察結果が報告される。
「血液検査の結果が出てますが……」
 と一息ついてから、
「このような状態で、今日までよく生きてこられましたね。普通なら、余命3年以内とい
う宣告を出しますよ」
 と驚きの報告が出された。
「よ、余命3年以内!?」
 免疫に関わる白血球などの数値が極端な異常値を示し、止血作用のある血小板などは正
常値最低限の十分の一しかない。大怪我などしたら血が止まらず出血多量で死亡の可能性
大。
 肝臓や腎臓に関するデータも、仰天するほどの数値を示していた。
(AST、ALT、γGTP=肝臓。eGFR=腎臓、など)
 数値だけを見れば、急性肝炎・肝硬変。糸球体腎炎・ネフローゼなどが疑われると……。

「全身性エリテマトーデスが疑われます。入院しての精密検査と治療が必要です」
 はじめて聞かされる病名だった。
 入院治療が必要と聞かされても驚かなかった。これまで何度も入退院を繰り返してきた
のだ。また一回増えるだけである。
 病気の簡単な説明が行われる。
 自己免疫疾患の一つで、自分自身に対する抗体ができて、免疫機能が自分自身を攻撃し
てしまうという難病だそうである。
 明確なる根治治療方法はなく、対症療法しかないらしい。
 クローン病に続く、二つ目の特定疾患を発病したことになる。
 他にも、抗リン脂質抗体症候群も合併していることを説明された。

 とにもかくにも入院は決定。
 入院申込書を貰って、一旦入院のための準備のために自宅に戻る。

 翌日、改めて生活保護の申請のため市役所へ。
 病院に書いて貰った診断書を持って、市役所で入院治療となる事を報告する。
 自己破産の手続きの申請書のコピーを提出して、自宅売却の手続き中のことも報告す
る。
 早急の入院が必要とのことで、急迫保護手続きが取られることになった。

 即座に生活保護による医療券が発行されて、それを保険証代わりに提出すれば治療費
(保険適用分)が全額無料となるものだった。
 というわけで、埼玉医科大学総合医療センターに入院することになったのである。

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