思いはるかな甲子園~梓、登板~
2021.06.30

思いはるかな甲子園


■ 梓、登板 ■


 場内アナウンスが栄進高校の先発メンバーを打順に読み上げていた。

『栄進高等学校の先発メンバーをお知らせします。
 一番、ファースト、木田考司君
 二番、ショート、城之内啓二君
 三番、キャッチャー、山中太志君
 四番、センター、郷田健司君
 五番、セカンド、武藤剛君
 六番、ライト、安西次郎君
 七番、レフト、熊谷健司君
 八番、サード、田中宏君
 九番、ピッチャー、白鳥順平君に代わりまして、真条寺梓君です。
 以上です』


 栄進高校の部員達が試合前の守備練習にグランドに駆け出す。
 梓もピッチャーズマウンドに登って投球練習をはじめた。
『おっと、白鳥君に変わって登場しました真条寺君です。背番号11番、なんと一年生です。手元の資料では、中学時代の記録は白紙になっております。どんな選手なのでしょうか』
『ずいぶんと小柄ですが、大丈夫でしょうか』
『投球練習を始めました』
『うーん。アンダースローですね。球威はそれほどなさそうですが、果して超高校級スラッガー沢渡君率いる城東高校に対して、どこまで投げ切るか注目いたしましょう』


 城東学園のダッグアウト。
「監督! あの真条寺ってのは、女子生徒ですよ」
 梓に気づいた部員の一人が叫んだ。
「なに、本当か」
「抗議しましょう」
「そうだな」
「待ってください!」
 動きだそうとした部員達を、沢渡が制止した。
「このまま黙って投げさせましょうよ」
「何を言うんだ」
「あの梓さんに打ち勝てるようでなきゃ、甲子園に出られても一回戦敗退するのが、関の山ですよ。去年のレギュラー部員で残っているのは、僕と捕手の金井主将だけです。いくら前年度優勝といったって、ほとんど実績はないに等しいですからね。選抜だって一回戦で敗退したじゃないですか」
「そうかも知れないが……」
「それに仮に負けてもですよ、女子生徒であることを隠し通せないでしょう。身近で見れば可愛い女の子だとすぐ判ります。ルール違反で没収試合となります。どっちに転んでも僕達の甲子園出場は決まっているんですから」
「そりゃあ、そうだが」
「彼女との練習試合での雪辱をはらさなくては心残りになるというものです。栄進の連中も、そのことを念頭に、彼女を送り込んできたんです。打ち崩せるなら打ち崩してみろとね。これは奴等の、我々に対する挑戦状なんです。逃げるつもりですか?」
 鬼気迫る勢いで沢渡が監督に進言する。
「わかったよ。おまえの好きなようにしろ」
「ありがとうございます」
 監督に礼をのべて、梓の方に向き直る沢渡。
「さて、さいは投げられたよ、梓さん。君の戦いぶりをじっくり拝見させてもらおう」

 グランドに二列に並ぶ両校。
 一様に梓に視線を送る城東の部員達。
「城東学園高校の先攻ではじます」
「お願いします」
 試合前の挨拶を交わしてグランドに散る栄進高校の部員達。

『ウォーミングアップが終って、いよいよ真条寺君第一投を投げます。試合開始です』

 一番の金井主将が打席に向かう。
「おい。じっくり見て行けよ。前回のように短打で転がせ。ぶんまわしても外野飛球だからな」
 沢渡が助言を述べる。
「わかった」

『さあ一番の金井君がバッターボックスに入りました』
 プレーボールの声が掛かる。
『真条寺君、ゆっくりとプレートを踏んで下手から……投げました!』
『金井君、見送ってワンストライク』
『球筋を見たようですね』
『さあ、二球目投げました。打ちました!セカンドゴロです。セカンドの武藤君難なくこれを捕って一塁へ、アウトです』


 あっけなくセカンドゴロに終わる金井主将。
 ベンチに頭を掻きながら戻る。
「キャプテン、何してるんですか」
「いやあ、悪い悪い。あまりの絶好球だったもんで、つい手が出ちまった」
「それが彼女の狙いなんですよ」
「わかった、次からはちゃんとやるよ」

『真条寺君。一回の表を難無く三人で終わらせましたが、その裏栄進の攻撃も三人で終わってしまいました』

 攻守を交代して移動する部員達。
 梓が再び登場してマウンドに向かう。

『さて、四番打者の沢渡君の登場です。真条寺君、どんな投球を見せるでしょうか』
 ゆっくりと振り被り、一球目を投げる梓。そして二球目。
『ツーストライクです。沢渡君、一球・二球と様子を見ましたか。打つそぶりも見せませんでした』

「なるほど、相変わらず絶妙のコントロールだ。打ち気をそそるコースをボールが通るが、打点の直前で微妙に変化する。これでは内野ゴロが関の山だ」
 ボールのコースをじっくりと観察していた沢渡が感心する。
 梓が三球目の投球モーションに入る。
「しかし、この僕には通用しない」
 沢渡、渾身の一撃で外野へボールを運ぶ。
「センター、右バック!」
 センターに向かって指示する梓。
 指定された地点の真下に走りこみ、打球が落ちてくるのを構えるセンター。
 一・二塁間の線上で、打球が補球されるのを確認して立ち止まる沢渡。そして梓に視線を送りながら引き返していく。
 ベンチに戻ると、部員達の激励が待っていた。
「しかし惜しいですね……今のは完全に抜けていたと思いますが」
「まぐれですね」
「いや、違う。俺が打った瞬間に、彼女は球の行方も見ないでセンターに向かって守備方向を指示していやがった」
「まさか」
「事実だ。彼女は打った瞬間の球音だけで、球がどの方向にかつどのくらい飛ぶかが判るんだ。それを即座に外野に指示しているんだ。外野手にしても球の行方なんて見ちゃいない、彼女が指示する位置にすばやく移動して、球が落ちてくるのを待っていればいいのだ」
「そ、それじゃ……」
「ああ、彼女がいる限り、外野飛球はすべて補球されてしまう。かといってあの絶妙のコントロールと球速ではホームランするのも困難だ」
「球速が速ければ速いほど、ジャストミートすれば遠くへ飛びますからね。あれでは腕力で強引に持っていくしかありませんから、外野飛球にはなってもなかなかホームランになりませんよ」
「どうしますか」
「球速はないんだ、じっくり見ていくんだ。ジャストミートを心がけて、ライナーで転がせ。決して長打を狙って大振りするな」
「わかりました」
「しかし、外野に簡単に飛ばされる球威しかないのを、守備力で完全にカバーしてやがるとは……こんなにも天性の感覚を見に付けているやつは、今までにたった一人しかいないと思っていたが……」
「え? 他にもいたんですか」
「去年の夏の選手権大会県予選準決勝戦で三度ものノーヒットノーランを達成し、決勝では我々と戦うはずだった、エースピッチャーの長居浩二だ」
「あ……」
「俺達は決勝戦を目前にして死んだ長居浩二の亡霊と戦っているのかも知れないぞ」
「よ、よしてくださいよ」

 回は進んで六回表の三人目の打者をピッチャーゴロに討ち取る梓。

『おおっと、真条寺君よろけました。が、何とか体勢を立て直してファーストへ。アウト、アウトです。辛うじて間に合いました。スリーアウト、チェンジです』
『一年生ですからね、体力不足は否めないでしょう。一球も手を抜けない城東打線に対し、精根疲れて果てていると思います。しかもこの暑さに、さすがに体力が持たないでしょう。彼の体力がどこまで続くかが、勝負の分かれ道でしょうね』
『真条寺君、何とか六回の表を守り切りましたが、残る三回が心配になってまいりました。しかし、これまで一人のランナーも出していないのは見事です』





今回もおまけの画像をどうぞ。
PC-9801VX21にマグペイントで描画。
16色MAG画像を256色GIF変換。
梓と絵利香のイメージ画像ですが、この二人は私の小説に頻繁に登場します。



ちなみに発売当初、PC-9801VX21, 433,000円で、今からは想像も出来ないお値段。
現在、オークションでは5000円台で出品されているようです。

かつて、NIFTY Serve というテキストベースのパソコン通信があって、会議室と
よべれる場所があり、会員同士でわいわいがやがやと会話していた。
また付属として画像データ保管所があり、腕に覚えのある絵描き達が奮ってアッ
プロードして見せあい批評しあっていた。
MAG画像形式は、盛んに使用されていたフォーマットでした。

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冗談ドラゴンクエストRPG/攻略ヒント集
2021.06.29
●オープニングが終了後
1,東の家が勇者の自宅です。
  祖母に話しかけると、お小遣い1,000G貰えます。
2,道具屋の前にいる左の女性に話しかけると、ポーションが貰えます。
  ただし、右の子供に話しかけるとポーション取られます。
3,宿屋の西の片隅に、宝箱に1,000Gと地面に1,000G落ちています。

●オリコレ村
1,この村は、すべて全自動でイベントが進みます。
2,宿屋のそばの立て札を読むと、最初の町で3,000G貰えたことを説明しています。
3,村を出たら、自分の足で東へ進んで山登りに突入します。

●滅びの森
  初めてのダンジョンです。
1,北西の泉のそばに妖精の宿屋があり回復できます。
2,南東の隅に木が邪魔で取ることのできない宝箱がありますが、
  今の時点では取ることはできません。
  実は、最終ボスを倒すのに必要な【???】が入っています。
3,出口付近でミノタウロスが出現、勇者が倒れコンラッドが登場するイベントが発生!

●カタリ村
1,倒れた勇者を復活させる儀式を始めますが、
  花売り娘リリアが間違って降臨してしまいます。
2,村を出るためには、
 ①北西の門番に話しかけて【通行証】が必要なことを知る。
 ②南側の大きな家が村長。通行証の情報を得ていると、ただでくれます。
3,通行証を持って、再び北西の門番に話しかけると、道を開けてくれます。

●氷の洞窟
1,南東の片隅に、【炎の剣】が宝箱に入っています。
  攻撃力100の炎属性の強力武器です。
  装備するとファイアーの魔法が使えるようになります。
  これを勇者が装備すると、やっとまともな戦闘ができるようになります。
2,北西の泉のそば(妖精の宿)に【氷の杖】が落ちています。
  本当の持ち主は洞窟を抜けた宿にいる老婦人の物。
  持っていない時に老婦人に話しかけると、
  拾いに行くイベントが発生します。
  氷の杖を老婦人に渡そうとすると、代わりの杖が届いたからあげると言われます。

●ニーチェ村
1,洞窟を出て南に行くとたどり着く、リリアの故郷。
2,リリアが身支度を整えて、寂しく旅立つ。
3,村を出て東へ向かう。

●モトス村
1,村人全員ネコになっていますが、荷物届け先の道具屋だけが人間のまま。
  荷物を預けると、【マンドレイク】イベントが発生します。
2,マンドレイク採集のために、南西にあるという妖精の森へと向かいます。

●妖精の森
1,マンドレイクを見つけることが先決。
  見つけない限り、森から出ることはできません。
  場所は、壁に梯子の掛かっている所を登った先の行き止まりの地面を
  クリック(リターンキー)するとマンドレイクとの戦闘になります。
  勝利するとマンドレイクが手に入ります。
2,マンドレイクを所持した状態で、
  妖精の女王に話しかけると逃げ道を開いてくれます。
  直後に、オーガとオーク2体との戦闘になります。
  オーガの腹の中からコクーン(繭)が出てくる。
  勝利して繭を拾って、森の外へ出る。

●モトス村
1,マンドレイクを道具屋に渡します。
  この後は、自動イベントが進んで、宿屋に入る。
  この時点で、村人は人間に戻っています。
2,宿屋に話しかけると、第二のムフフイベント発生。
3,村を出てフェリス王国へ向かう。

●フェリス王国
1,城下町に入ったら、北の城門の兵士に話しかける。
2,入城を断られるが、王国騎士団副団長が出てきて、コンラッド一人だけでフェリス城に入城する。

●フェリス城
3階
1,謁見の間に傅くコンラッド。
2,国王に話しかける。
3,王妃にも話しかけると、セシル王女にも会ってくれと言われる。
4,王女の間の衛兵は、女王と話していると中へ通してくれる。
5,王女と話すと、一緒に連れ立って場内を歩くことになる。
6,2階への階段は、国王・女王に話しかけ、王女と一緒でないと通過できない。

2階
  一応通過するだけですが、衛兵たちの会話が聞けます。
  転送の間があるバルコニーに通じていますが、現時点では使えません。

1階
1,騎士団副団長と話して、宿舎に泊まる(王女は自室へ)
2,夜が明けて、宿舎を出ると再び王女と同行になる。
3,3階に戻って、国王から【紹介状】を貰う。
4,食堂の給仕が、意味深な【結婚】という言葉を聞く。
5,紹介状を持ち、王女と一緒の状態でないと城外には出られない。

城外
1,城下町へ出ようとすると王女が抜けて、コンラッド一人でパーティーの待つ外へ。
2,1階の給仕係から【結婚】という言葉を聞いた状態で、東の端の方へ行き、岩を転がして進むと、隠し階段が現れています。
3,階段を、コンラッドと王女とで降りて突き進むと宝箱があり、開けると結婚式イベントに突入します。

以下続く

思いはるかな甲子園~決勝戦~
2021.06.29

思いはるかな甲子園


■ 決勝戦 ■

 夏の全国高等学校野球選手権大会の県予選がはじまった。
 栄進高校は、一年生ピッチャーの白鳥順平を、守備でカバーしあって、記録係り兼コーチとしてダッグアウトに入っている、司令塔の梓の作戦に従って勝ち進んでいた。
 そしてとうとう決勝戦に駒を進めたのである。その対戦相手校は城東学園となった。
 二年連続の決勝進出ということで、学校やOB会、地元商店街後援会が大々的な応援団を組織して、決勝大会野球場へ乗り込んできていた。
 県の決勝大会にはTV中継が入っており、各所にTVカメラがグランドや両校のベンチの様子を捉えている。アナウンス室にはアナウンサーと解説者が陣取って、実況中継をしていた。

『さて、全国高等学校野球選手権県大会も大詰め、とうとう決勝戦に駒を進めました。対するはくしくも去年と同じカードとなりました、城東学園高校と栄進高校です』
『プロのスカウトも注目の、超高校級スラッガー沢渡健児君のいる城東学園に、一年生ピッチャーを盛りたてて勝ちあがってきた栄進高校が、どんな戦いを挑んでくるかが見物ですね』
『両校の応援席には溢れんばかりの人々が陣取り、甲子園に期待を膨らませています』

 栄進高校のダッグアウト。山中主将が、うろうろして落ち着かない様子。
「遅い!」
 イライラしている山中主将。
「順平の奴、どうしたんだ。もうじき試合が始まっちまうぞ」
 学校から球場へバスで来ていた部員達。
 そのバスの発車時刻になっても木下順平が来なかったのである。
 電話連絡しても繋がらず、自宅では出た後だという。
 仕方なく順平には、タクシーで来るようにと連絡要員に言付けて、見切り発車した。
 いつまで経っても来ないまま、ついに試合開始直前となったのである。

 その時、部員の一人が息せき切って入ってくる。
「大変です。順平のやつが!」

『ちょっと、お待ち下さい。あ、大変です。栄進高校のピッチャー白鳥君、球場に来る途中で負傷したとの知らせが入ってまいりました。自転車で学校へ向かっていた所、子供が路地から飛び出し、それを避けようとした際に転倒して、腕にひびが入ったそうです』
『これは先の夏の長居浩二君の時の再来になってしまいましたね。実に不運としか言い用がありませんねえ。白鳥君、軽傷で済めばいいのですが』
『さてエース白鳥君不在の栄進高校、誰をマウンドに送るのでしょうか』
『えーと。部員数が不足していて、ベンチ入り十二名でこの試合に臨んでいる栄進高校です。控えの投手はいないようですが……』

 病院で治療を終えた順平がダッグアウトに入ってきた。
 肩から下げた三角布に、ぐるりと包帯を巻いた右腕が痛々しい。
「すみません、キャプテン。みなさん」
 うなだれて言葉も弱々しい。
「事故はどうしようもないさ。まあ、ベンチで応援していてくれ」
 事故の報告を受けていた山中主将が、順平の肩を叩きながら諭すように言う。
「それにしても……」
 ダッグアウトから応援席に視線を移す山中主将。
 栄進高校の甲子園出場を夢見て集まった大勢の人々。
 このまま試合放棄となれば、黙っていないだろう。去年の試合後にだって、散々陰口を叩かれたのだ。
 なにより順平のことが心配だ。二度と立ち直れないほどの精神的ショックを被ることになる。来年、再来年のエースピッチャーとなる素質を失うわけにはいかなかった。
「梓ちゃん。君が投げてくれ」
「え? ボクが」
「一応、梓ちゃんを選手として登録してあるんだ。部員が少ないからね。髪をまとめて帽子を深く被れば女の子とばれないかも知れない」
「しかし、ルール違反ですよ」
「そんなことは、わかっているよ」
「じゃあ……」
「栄進高校がここまでやってこられたのは梓ちゃんのおかげだ。これには誰も異議をとなえるものはいないだろう。
「そうですよ。他の部員が投げてもコールド負けが目にみえていますよ。相手は城東ですからね」
 山中主将に答えるように武藤が賛同する。
「梓ちゃん。投げなよ、どんなになってもみんな恨みはしないよ」
「そうそう。女の子とばれちゃったりして没収試合になってもね」
 みんなが異口同音に誘う。
「梓さん。僕からもお願いします。このままでは、去年死んだ長居先輩も浮かばれないと思うんです」
 最後に口を開いた順平。
「長居……」
 その言葉が梓の心を動かした。
「わかった。みんながそこまでいうなら、ボク投げるよ」
「よっしゃー! 武藤、先発メンバーの変更を届けてこい」
「あいよ」

 髪を掻き上げてまとめヘアピンで固定する。そして帽子を深く被って、はみ出した髪の毛をその中に押し込む。
「うん。まあまあ、いけるんじゃないか」
 準備が整った梓の姿を山中主将が誉める。
「しかし、城東の連中がどう出ますかね。梓ちゃんとは一度対戦してますから、すぐにわかっちゃいますよ」
「そこは、彼らの野球道精神にかけるさ。梓ちゃんには破れているから、雪辱戦を挑んでくることを期待しよう」
「野球道精神ねえ……」

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