銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第四章 新型モビルスーツを奪還せよ II
2019.05.26


新型モビルスーツを奪回せよ


                II

「バイモアール基地周辺の詳細図を」
 これから戦闘が行われるだろう基地の情報を、前もって知り事前の作戦計画を練るこ
とは大事である。
 オペレーターが機器を操作すると、それまでの航海図からバイモアール基地の投影図
へと切り替わった。
 基地の名称ともなっているバイモアール・カルデラは、数万年前に大噴火を起こして
陥没して広大なカルデラを形成したもので、その後東側の外輪山の山腹に新たな噴火口
ができて爆発、山腹を吹き飛ばして海水が流入し現在のカルデラ湾となった。
 バイモアール基地は、このカルデラの火口平原に設営されたもので、海側は入り口が
狭い湾となっているし、山側は高い外輪山に阻まれ、さらに後背地は砂漠となっていて
格好の天然要塞となっている。
「基地の兵力はどうなっているか?」
 作戦計画なので、各自意見のあるものは遠慮なく発言を許されている。
「湾内には共和国同盟の水上艦が守りを固めているはずです」
「基地直轄としては、三個大隊からなる野砲兵連隊が配備されておりまして、各大隊は
7.5cm野砲8門、10.5cm榴弾砲4門の構成。内二個大隊は湾側の防衛、一個大隊を砂漠側
の防衛にあたっております」
「野砲はそれほどの脅威はないでしょう。脅威なのは湾を望む高台に設営されている
トーチカ、そこに配備されている205mm榴弾砲ではないかと思います。直撃されれば一
撃で撃沈されます」
 一同が頷いている。
 ミネルバ搭載の135mm速射砲でも敵戦艦を一撃で撃沈させたのだ。それが205mmともな
れば、言わずもがなである。
「まず最初に破壊する必要性があるでしょうが、いかんせん向こうの方が射程が長いの
が問題です。こちらの射程に入る前にやられてしまいます。近づけません」
「ですが、こちらにはより長射程の原子レーザー砲があるじゃないですか」
「強力なエネルギーシールドがありますよ。原子レーザーは無力化されてしまいます」
「軍事基地をたった一隻の戦艦で攻略しようというのが、いかに最新鋭戦闘艦といえど
もどだい無理な話なのでは?」
 一人の士官が弱音を吐いた。
 すかさず檄が飛ぶ。
「馬鹿野郎! 戦う前からそんな弱気でどうする。困難を克服しようと皆が集まって作
戦会議を開いているのが判らないのか? 艦長に済まないとは思わないのか」
「も、申し訳ありません」
 フランソワの方を向いて、平謝りする士官だった。
 遙か彼方のタルシエン要塞から遠路はるばるこの任務に着任してきたフランソワ・ク
レール艦長。共和国の英雄と称えられるあのランドール提督からの厚い信望を受けての
ことであるに違いない。
 たんなる戦艦の艦長であるはずがない。
 それは一同が感じていることであった。
 暗くなりかけたこの場を打開しようとして、副長が意見具申する。
「この際、背後の砂漠側から攻略しますか?」
 砂漠には、丘陵地や谷間などがあって、砲台からの死角となる地形が多かった。
 それらに身を隠しながら接近して、砲台を射程に捕らえて攻撃しようという作戦のよ
うであった。
 しばし考えてから答えるフランソワ。
「いえ。海上側から攻略しましょう。砂漠から攻略してトーチカを破壊しても、山越え
した途端に基地からの総攻撃を受けます。基地に配備されたすべての兵力の集中砲火を
浴びせられては、さすがのミネルバも持ち堪えられません」
 トーチカの205mm榴弾砲のことばかりに気を取られていた一同だったが、基地の総兵
力の九割が海側にあることを失念していたようだ。トーチカだけなら砂漠からの方が楽
であるが、その場合は基地に入るためには山越えをしなければならず、満を持して構え
ていた基地から一方的に攻撃を受けることになる。
「海上からなら、まずは水上艦艇、次に野砲兵連隊、そして基地直営ミサイル部隊と、
射程に入り次第に各個撃破しつつ基地に接近することができます」
「トーチカからの攻撃はどうなさるおつもりですか?」
 海上では隠れる場所がない。トーチカの格好の餌食となるのは必定である。
 それがために皆が頭を抱えて思案していたのである。
 が、フランソワは一つの打開策を用意していた。
「基地には、モビルスーツを奪回するために潜入している特殊部隊がいるはずです。彼
らに協力を要請しましょう」
 特殊部隊?
 一同が目を見張ってフランソワを見た。

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銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第四章 新型モビルスーツを奪還せよ I
2019.05.19


第四章 新型モビルスーツを奪回せよ


                 I

 海上を進む機動戦艦ミネルバ。
 第一作戦室では台上に投影された航海図を囲んで士官たちが作戦を討論していた。
「しかし……、ここまで来て、バイモアール基地が陥落したことを知らせてくるとは。
何も知らずに基地に向かっていたらどうなっていたか……」
「それは無理からぬことではないでしょうか。何せ敵の只中にいるのですから、通信は
基地の所在を知らせる危険性があります。もちろん敵も通信傍受の網を広げて、我々を
必死で探し求めています」
「で……。どうなさいますか、艦長」
 一同の視線がフランソワに集まった。
 フランソワは毅然として答える。
「命令に変更はありません。情報によれば、最新型のモビルスーツを搭載していた輸送
艦が搾取されて、基地に係留されているという。最新型を回収し、予定通りに訓練生を
収容します」
「訓練生と申されましても、すでに敵軍に感化されてしまっていて、スパイとして紛れ
込むという危惧もありますが……」
「それは覚悟の上です。何しろこの艦には乗員が足りないのです。交代要員もままなら
ない状態で戦闘が長引けば、士気は減退し自我崩壊に陥るのは必至となります」
 いかに最新鋭の戦闘艦といえども、それを運用する兵員がいなければ、その戦闘力を
発揮できない。問題とするなれば、カサンドラ訓練所はモビルスーツ・パイロットの養
成機関であり、パイロット候補生に艦の運用に携わる任務をこなせるかどうかである。
それでも、猫の手も借りたい状況では、一人でも多くの兵員が欲しい。特殊な技術や知
識を必要としない部門、戦闘で負傷した将兵を運んだり介護する治療部衛生班や、艦載
機などに燃料や弾薬などを補給・運搬する整備班など。特に重要なのは、戦闘中に被爆
した際における、艦内の消火・応急修理などダメージコントロール(ダメコン)と呼ば
れる工作部応急班には、事態が急を要するだけにパイロットであろうと誰であろうと関
係なしである。とりあえずはパイロットであることは忘れてもらって、各部門に助手と
して配備させて、手取り足取り一から教え込んでいくしかないだろう。

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 X
2019.05.12


 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌


 X 撃沈

 ミネルバ艦首の三連装135mm速射砲が火を噴いた。
 砲口から飛び出したAPFSDS弾は、加速ブースターとも言うべき離脱装弾筒を
切り離して、後尾翼のついたペンシル状の弾丸となって敵艦を襲う。
 砲口初速は2100m/s(7560km/h)とハープーンの巡航速度(970km/h)とは桁違いの
速度であり、しかも電波を出さず推進用の熱源もないために、着弾時の終速値がかな
り低下していたとしても、これをミサイルで迎撃するのは至難の業である。
 余談だが、かつては大砲の砲身には砲弾を回転させ安定感を与えるための旋条砲身
というもの使われていたが、最近のAPFSDS徹甲弾のように、その直径と長さの
比が大きい(L/D比が6以上)弾種は、旋動させる方が飛翔中の安定性が悪くなること
が判った。そのため旋条のない滑腔砲身が使用され、弾丸の安定には翼が付くように
なった。なおラインメタル対戦車榴弾なども滑腔砲身用である。

 APFSDS徹甲弾はザンジバルの後部エンジンに見事着弾して炎上させた。
 炸薬がないとはいえ、凄まじい運動エネルギーの放出によって、衝撃波が生じ付近
一帯をことごとく破壊する。
 ザンジバル艦橋。
 大きな衝撃を受けてよろめく乗員達。
「後部エンジンに被弾しました!」
 オペレーターが金きり声で叫ぶ。
「エンジン出力低下! 機動レベルを確保できません!!」
 火炎を上げながらゆっくりと降下するザンジバル戦艦。
 艦内では、消火班や応急処理班が駈けずり回って、何とか艦を立て直そうと必至に
なっている。
 やがて海上に着水し、加熱したエンジンに大量の海水が流入して、水蒸気爆発を起
こして火柱が上がった。

 艦橋に伝令が駆け寄ってきて報告を伝えた。
「艦長! 至る所から浸水が始まっています。艦を救える見込みはありません!」
「判っている。副長、総員を退艦させろ!」
「了解、総員を退艦させます」
「通信士。艦隊司令部に打電だ。『我、撃沈される。速やかなる救助を願う』艦の位
置も報告しろ」
「了解!」
 総員退艦の指令を受けて、艦の至るところで退艦の準備が始められた。
 救命ボートや救命艇が海上に降ろされて、次々と兵員が乗り込んでいく。
 艦橋からそれらの様子を眺めている艦長。
「だめだ! 敵艦は、エンジンから武装、その他すべてにおいて大気圏内戦闘のため
に特殊開発された特装艦だ。宇宙戦艦一隻が太刀打ちできる相手ではない」

 ミネルバ艦橋。
「敵艦、海上に着水。撃沈です」
 一斉に歓声が上がる。
「スチームの射出を停止。当艦はこのままカサンドラ訓練所のあるバルモアール基地
へ向かう。全速前進!」
「了解。進路バルモアール基地、全速前進します」

第三章 了

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 IX
2019.05.06



 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌


 IX 一撃必殺!!

「ミサイル高速接近中!」
「ヒペリオンで迎撃せよ」
 フランソワが発令すると、副官のリチャード・ベンソン中尉が復唱して指令を艦内
に伝える。
「ヒペリオン、一斉掃射。ミサイルを迎撃せよ!」
 次々と飛来する誘導ミサイルをヒペリオン(レールガン)が迎撃していく。
「誘導ミサイルは、ヒペリオンで十分迎撃できますね」
「現時点で、ヒペリオンに勝るCIWS(近接防御武器システム)はないでしょう。
何せ初速19.2km/s、成層圏到達速度でも13.6km/sありますから、軌道上の宇宙戦艦さ
えも攻撃できる能力を持っていますからね」
「しかし炸薬がないので、船体に穴を開けることはできても撃沈させることはできま
せんよ。誘導ミサイルないし戦闘機の迎撃破壊が精一杯です。砲弾に炸薬を詰められ
れば良いのですが」
「それは不可能よ。あまりにも超高速で打ち出すので、炸薬なんかが詰まっていると
その加速Gの衝撃だけで自爆しちゃいますから」
「でしょうね……。誘導ミサイルはヒペリオンに任せるとしても、そろそろ敵艦のプ
ラズマ砲の射程内に入ります。撃ってきますよ」
「そうね……。スチームを全方位に散布してください」
「判りました」
 答えて、端末を操作するリチャード。
「超高圧ジェットスチーム弁全基解放! 艦の全方位に高温水蒸気噴出・散布せよ」
 艦のあちらこちらから高温の水蒸気が噴出し始めた。と同時に雲が発生してミネル
バを包み隠した。

 敵艦の方でも、その様子を窺っていたが、
「何だ、あれは?」
「敵艦のまわりに雲が発生した……て、感じですかね」
「馬鹿なことを言うな。あれは水蒸気だ。艦の周りに水蒸気を張り巡らしているの
だ」
「どういうことでしょうかね?」
「今に、判る」
 その言葉と同時に、オペレーターが報告する。
「ゴッドブラスター砲の射程内に入りました」
 コッドブラスター砲は、245mm2連装高エネルギーイオンプラズマ砲のことで、ザ
ンジバル級戦艦の艦首と艦尾にある格納式旋回砲塔に設置されており、大気圏内にお
ける実質的な主砲と言える。
「よし、ゴッドブラスター発射準備! 目標、敵戦艦」
 旋回砲塔がゆっくりと回って、ゴッドブラスター砲がミネルバを照準に捕らえた。
「ゴッドブラスター砲、照準よし。発射態勢に入りました」
 砲塔からプラズマの閃光がミネルバへと一直線に走る。

「ゴッドブラスター砲のエネルギー、敵艦の到達前に消失しました」
「消失だと?」
「誘導ミサイルも、あの雲の中で自爆しているもよう。敵戦艦は無傷です」
 思わず、ミネルバを注視する司令官。
「そうか……。あの水蒸気の雲がエネルギーをすべて吸収してしまったのだな」
「どうしますか?」
「ミサイルを誘導弾から通常弾に転換、引き続き撃ち続けろ。後、使えそうなのは
75mmバルカン砲だな……。気休めにしかならないだろうが、砲撃開始だ」

銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 VIII
2019.04.29



 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌


 VIII 養成機関

 カサンドラ訓練のとある教室。
 訓練生達が机を並べて、教官から講義を受けていた。
「……であるから、この養成機関はこれまで通りに存続することとなった。もちろん
君達パイロット候補生達もだ。かつての共和国同盟に忠誠をつくすために集まった諸
君だが、今後は新しく再編された共和国総督軍のために尽力してほしい。さて、君達
も知っての通りだが、ランドール提督はアル・サフリエニ方面軍を解体することなく、
あまつさえ我が国に対して反旗の狼煙を揚げ周辺地域を侵略するという暴挙に出た。
ここに至っては、ランドールとその艦隊を反乱軍として、総力をあげてこれを鎮圧す
るために総督軍を派遣することに決定した。また、このトランター本星においては、
ランドール配下の第八占領機甲部隊【メビウス】がパルチザンとして活動をはじめて
いる。この養成機関に与えられたことは、このメビウスに対抗するために組織される
部隊の戦士を育てることだ。諸君らの健闘を期待したい。話は、以上だ。何か質問
は?」
 教官が声を掛けるとすかさず手を上げる候補生達。
「我々が戦うことになる相手は、共和国同盟にその人ありと讃えられる不滅の常勝将
軍です。あのタルシエン要塞攻略も士官学校時代から数年に渡って作戦立案を緻密に
計算され尽くされての偉業達成です。このトランターが陥落するなどとは、誰しもが
考えもしなかった人々の中にあって、提督だけがこの日を予測しての【メビウス】を
この地への派遣。パルチザン組織の急先鋒としての任務を果たすこととなりました。
まるで未来を予見する能力があるように思える提督に対し、果たして我々に勝算など
あるのでしょうか?」
「何もランドールと戦えとは言ってはいない。彼は宇宙だからな。君達が実際に戦う
のはメビウス部隊だ。指揮官が誰であろうと、ランドールにかなうほどの技量を持っ
ているはずがない。心配は無用だ」
 と言われて、「はい、そうですか」と納得できるものではなかった。
 ランドール提督に限らずその配下の指揮官達も、並外れた才能を有している連中ば
かりなのである。メビウス部隊だって、ランドール提督から厚い信頼を受けて、トラ
ンター本星へ配属されてきているはずである。
「それではお伺い致しますが、共和国同盟軍には環境を破壊する禁断の兵器として封
印されていた【核融合ミサイル】があったはずですが。それは今どこに保管してあり
ますか?」
「どうして……そのことを?」
「ネットに情報が流れていて、誰でも知っている公然の事実じゃないですか。核融合
ミサイルは、反政府パルチザン組織のミネルバ部隊の管轄にある。そうですよね?」
 糾弾されて言葉に詰まる教官だった。
「そ、それは……」
 教官が動揺するのは無理もない。
 メビウス部隊の司令官は、特務科情報部所属のレイチェル・ウィングであり、その
背後にはネット界の帝王と冠されるジュビロ・カービンがいる。共和国総督軍をかく
乱するために、ありとあらゆる情報をネットに流すという情報戦を展開していたので
ある。
 いかに強力な政府や軍隊を作っても、それを支えているのは民衆であり、そこから
得られる税金によって成り立っていることを忘れてはならない。民衆からの信頼を得
られなければ、その屋台骨を失うこととなり、政府軍はやがて自我崩壊の危機に陥る
ことになる。
 反政府ゲリラなどの常套手段として、各地に大量に地雷を埋め込んだり、爆弾テロ
などで多くの不特定多数の民衆を巻き添えにすることは、よくあることである。これ
は、強力な軍隊を持つ政府軍と直接戦うよりは、か弱い民衆を相手にして数多くの犠
牲者を生み出すことによって、政府軍の民衆に対する信頼を失墜させることが目的だ
からである。
 たった一発で大都市を灰燼にし、放射能汚染で数十年以上もの長期に渡って人々を
住めなくする核融合ミサイル。そのすべてを使用すればもはやこの星は人の住めない
状態の死の惑星となるのは必至である。

 その禁断の破壊兵器を、占領時の混乱に乗じてミネルバ部隊が密かに接収してしま
った。
 そんな情報をネットに流したのである。

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