銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第三章 狼達の挽歌 VIII
2019.04.29



 機動戦艦ミネルバ/第三章 狼達の挽歌


 VIII 養成機関

 カサンドラ訓練のとある教室。
 訓練生達が机を並べて、教官から講義を受けていた。
「……であるから、この養成機関はこれまで通りに存続することとなった。もちろん
君達パイロット候補生達もだ。かつての共和国同盟に忠誠をつくすために集まった諸
君だが、今後は新しく再編された共和国総督軍のために尽力してほしい。さて、君達
も知っての通りだが、ランドール提督はアル・サフリエニ方面軍を解体することなく、
あまつさえ我が国に対して反旗の狼煙を揚げ周辺地域を侵略するという暴挙に出た。
ここに至っては、ランドールとその艦隊を反乱軍として、総力をあげてこれを鎮圧す
るために総督軍を派遣することに決定した。また、このトランター本星においては、
ランドール配下の第八占領機甲部隊【メビウス】がパルチザンとして活動をはじめて
いる。この養成機関に与えられたことは、このメビウスに対抗するために組織される
部隊の戦士を育てることだ。諸君らの健闘を期待したい。話は、以上だ。何か質問
は?」
 教官が声を掛けるとすかさず手を上げる候補生達。
「我々が戦うことになる相手は、共和国同盟にその人ありと讃えられる不滅の常勝将
軍です。あのタルシエン要塞攻略も士官学校時代から数年に渡って作戦立案を緻密に
計算され尽くされての偉業達成です。このトランターが陥落するなどとは、誰しもが
考えもしなかった人々の中にあって、提督だけがこの日を予測しての【メビウス】を
この地への派遣。パルチザン組織の急先鋒としての任務を果たすこととなりました。
まるで未来を予見する能力があるように思える提督に対し、果たして我々に勝算など
あるのでしょうか?」
「何もランドールと戦えとは言ってはいない。彼は宇宙だからな。君達が実際に戦う
のはメビウス部隊だ。指揮官が誰であろうと、ランドールにかなうほどの技量を持っ
ているはずがない。心配は無用だ」
 と言われて、「はい、そうですか」と納得できるものではなかった。
 ランドール提督に限らずその配下の指揮官達も、並外れた才能を有している連中ば
かりなのである。メビウス部隊だって、ランドール提督から厚い信頼を受けて、トラ
ンター本星へ配属されてきているはずである。
「それではお伺い致しますが、共和国同盟軍には環境を破壊する禁断の兵器として封
印されていた【核融合ミサイル】があったはずですが。それは今どこに保管してあり
ますか?」
「どうして……そのことを?」
「ネットに情報が流れていて、誰でも知っている公然の事実じゃないですか。核融合
ミサイルは、反政府パルチザン組織のミネルバ部隊の管轄にある。そうですよね?」
 糾弾されて言葉に詰まる教官だった。
「そ、それは……」
 教官が動揺するのは無理もない。
 メビウス部隊の司令官は、特務科情報部所属のレイチェル・ウィングであり、その
背後にはネット界の帝王と冠されるジュビロ・カービンがいる。共和国総督軍をかく
乱するために、ありとあらゆる情報をネットに流すという情報戦を展開していたので
ある。
 いかに強力な政府や軍隊を作っても、それを支えているのは民衆であり、そこから
得られる税金によって成り立っていることを忘れてはならない。民衆からの信頼を得
られなければ、その屋台骨を失うこととなり、政府軍はやがて自我崩壊の危機に陥る
ことになる。
 反政府ゲリラなどの常套手段として、各地に大量に地雷を埋め込んだり、爆弾テロ
などで多くの不特定多数の民衆を巻き添えにすることは、よくあることである。これ
は、強力な軍隊を持つ政府軍と直接戦うよりは、か弱い民衆を相手にして数多くの犠
牲者を生み出すことによって、政府軍の民衆に対する信頼を失墜させることが目的だ
からである。
 たった一発で大都市を灰燼にし、放射能汚染で数十年以上もの長期に渡って人々を
住めなくする核融合ミサイル。そのすべてを使用すればもはやこの星は人の住めない
状態の死の惑星となるのは必至である。

 その禁断の破壊兵器を、占領時の混乱に乗じてミネルバ部隊が密かに接収してしま
った。
 そんな情報をネットに流したのである。

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