銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第五章 ターラント基地攻略戦 IV
2019.10.13


 機動戦艦ミネルバ/第五章 ターラント基地攻略戦


                 IV

「リスキー開発区のモビルスーツ研究所及び生産工場の破壊とモビルスーツの奪取が
我々に与えられた任務です」
「リスキー開発区の攻略ですか」
「それはまた難儀な指令ですね」
「モビルスーツ同士の激突になりますよ」
「どれほどのモビルスーツが出てくるか判りません」
 各艦長はそれぞれの意見を述べた。
「その心配はないでしょう。どんなに機体があろうとも、動かすにはパイロットが必要
ですが、戦闘経験のほとんどないシロートだそうです」
「かも知れませんね。せいぜい動かせるだけのレベルでしかないでしょう。戦闘レベル
は実戦で経験するしかありませんから」
「モビルスーツの奪取の任務は、ナイジェル中尉とサブリナ中尉にやってもらいます」
 頷くナイジェルとサブリナ。
「今回の任務上、研究所への攻撃は極力避け、出てきたモビルスーツと戦闘機を撃ち落
し、岩壁の砲台を叩いて無防備にした後に、殴り込みをかけます」
「まもなくリスキー開発区です」
 オペレーターが報告する。
 フランソワは一呼吸おいてから、静香に下令した。
「全艦、戦闘配備!」
 各艦長達は、それぞれの艦に急行すべく乗り込んできた艀に向かった。
 来た時にも感じたが、ミネルバの艦内装備と施設には圧倒されるばかりであった。
「こんな機動戦艦を操艦してみたいものだな」
 全員一致の思いだったに違いない。

 リスキー開発区は砂漠にそそり立つ巨大な岩盤の中腹に建設されていた。かつては良
質のレアメタルが採掘されていたが、ほぼ掘り尽くされて廃棄された。
 その廃坑後にモビルスーツ研究・生産工場として再開発されたのである。
「戦闘配備完了しました」
「よろしい。このまま前進して敵の出てくるのを待つ」
 完了したと言っても、今回の作戦ではミネルバの艤装が活躍する場はほとんどないだ
ろう。原子レーザー砲も速射砲もお役御免のようである。
 せいぜい敵が身近に迫った時のためのCIWS(近接防御武器システム)くらいであ
る。
「敵のモビルスーツ隊が出てきました」
 高速移動用のジェット・エアカーに乗ってモビルスーツが向かってくる。
「こちらもモビルスーツを出して」
「モビルスーツを出撃させます」
 フランソワは手元にある端末を操作して、サブリナ中尉とナイジェル中尉を呼び出し
た。
「その新型は性能諸元がまったくの未知数です。十分気をつけて戦ってください」
「判りました。十分気をつけます」
「それでは艦長、行って参ります」
 勇躍大空へ飛び出してゆく新型モビルスーツ。
 超伝導磁器浮上システムを採用した完全飛翔型ゆえに、エアカーを使用することなく
縦横無尽に飛び回る。
 完全飛翔型とはいっても、磁気浮上システム自体は浮き上がるしかできないので、ジ
ェットエンジンの飛行装置が取り付けられている。それでもエアカーに乗らなければな
らない旧式よりははるかに機動性は高い。
「この分では五分ほどで決着が着くでしょう」
 副長のベンソン中尉が進言した。
「そうね」
 ベンソン中尉の言う通りにほどなく決着がついた。
「モビルスーツの回収部隊を突入させてください」
 フランソワが説明した通りに、敵には熟練したパイロットがいなかった。
 そのほとんどが、機体を動かせるだけのレベルだけしかない。研究所という環境を考
えれば当然のことなのだろうが、ミネルバが目標にしているという情報が入っていれば、
それなりの対応ができただろう。
 情報戦を仕切るレイチェル・ウィンザー大佐の力量というところだろう。
 研究所には研究員や警備兵が、まだ立て篭もっているはずである。
 モビルスーツの回収の援護なら、旧式機体でも十分であろう。
「サブリナ中尉とナイジェル中尉は戻ってきて、上空の警戒にあたってください」
「了解。戻ります」
 いつどこから来襲があるかも知れないから、それに備えていなければならない。
 研究所を完全制圧するには、まだ少し時間がかかる。
 サブリナを呼び戻して、警戒防衛に当たらせるのは当然であろう。
 ミネルバの上甲板に着艦して上空警戒に入るサブリナ。
「これより上空警戒に入ります」
 新型が上空警戒に入ると同時に、回収部隊が研究所に突入してゆく。
 警備兵とて黙ってモビルスーツが奪取されるのを指を加えて見ているわけがない。
 激しい銃撃戦がはじまる。
 研究員も銃を取って参加する。
 研究所内にはまだ数多くのモビルスーツがあり、研究員が乗り込んで侵入者を迎撃し
ようとする。
 しかし所詮はただの研究員。それらを蹴散らし、完成したばかりのモビルスーツを回
収していく。
 輸送トラックに積んで運び出したり、パイロットが乗り込んで自ら操縦して移動させ
てゆく。
 所内にずらりと並んだモビルスーツ。各艦から選りすぐりのパイロット達には、一目
で旧式と新型の区別がつく。旧式には目もくれずに、より新しいタイプの機体を選んで
乗り込んでいく。
 もっとも新型と言っても、旧式に比べればということで、サブリナ達が乗っている新
型とは性能がまるで違う。
 やがて研究所は制圧され、モビルスーツの搬送も完了した。
 搬送しきれないモビルスーツを残しておくわけにはいかないので、研究所・生産工場
もろとも爆破するに限る。
 要所要所に爆弾がセットされてゆく。
「よおし、作戦終了。撤退するぞ」
 研究所の搬送口から次々と撤退してくる回収部隊。
 ほどなくして、仕掛けた爆弾が炸裂する。轟音とともに研究所のある岩壁もろとも崩
れ去った。
「回収、終了!」
「基地へ連絡。任務完了、次なる指令を待つ」
 通信士が暗号文に直して、メビウス部隊の基地へ向けて打電する。
 ほどなくして返信が戻ってくる。
『本部了解。次なる作戦は考慮中にて、それまで自由行動を認める』
「自由行動を認めるだそうですよ」
 嬉しそうに副官のイルミナ少尉が言った。
 自由行動イコール休暇とでも考えたのだろう。
「良い機会です。搾取したモビルスーツを利用して、戦闘訓練を行いましょう。サブリ
ナ中尉を呼んでください」
 それを聞いて怪訝そうな表情を見せるイルミナだった。
「何か不服でも?」
 すかさずフランソワが尋ねる。
「いえ、訓練は大切ですよね」
「そう、一人でも多くの正規パイロットを育てることが、私達の任務なのです」


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銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第五章 ターラント基地攻略戦 Ⅲ
2019.10.06


 機動戦艦ミネルバ/第五章 ターラント基地攻略戦(3)


                 Ⅲ

 海上を進むミネルバ。
 補給を終えて、次の作戦地であるリスキー開発区へと向かっていた。
 艦橋において艦の指揮を執っているフランソワ。
「艦長。指示された合流地点に近づきました」
 航海長が報告する。
「よろしい。減速、三分の二。アクティブ・フェーズドアレイレーダーで周囲を探索」
「了解。減速三分の二。アクティブ・フェーズドアレイレーダーで周囲を探索」
 副長が復唱し、
「減速三分の二」
「アクティブ・フェーズドアレイレーダーで周囲を探索します」
 各オペレーターが呼応する。
「しかし、いかがなものでしょうかねえ」
 副長がフランソワに話しかける。
「何がですか?」
「合同作戦のことですよ。ここは敵の真っ只中です。情報が漏れてしまっていたら」
「待ち伏せを受けて殲滅される危険がある……ですか?」
「可能性はあります」
「ウィング大佐のことですから、その辺のところは抜かりはないでしょう。情報漏れと
かがないように万全を期していると思います。例えば指令の伝達に無線を使用せずに補
給艦の艦長に伝令を任せていましたしね」
「そうですかね」
 ウィング大佐と面識のない副長が懐疑心を抱くのも当然かもしれない。
 フランソワとて、ほんのひと時しか会ったことがなく、その人となりを理解できてい
ないのである。
 ミネルバの乗員にとって、すべては噂の人でしかなかったが、所属するメビウス部隊
の司令官であり、上官として命令を受けたからには、その指示に従うよりなかった。
「右舷後方、五時の方向に艦影。味方です」
 レーダー手が二人の会話を遮るように伝えた。
「おいでなさったようですね」
「通信士、艦名は判りますか?」
「戦艦ポセイドン、巡洋艦ネプチューン、巡洋艦ユニコーン、空母サンタフェ、空母サ
ンダーバード以上五隻の僚艦です」
「副長、知ってますか」
「はい、メビウス部隊として数々の作戦を一緒に戦ったことがあります。各艦長とは面
識もあります」
「それはよかった」
 共同作戦を行うに当たっては、見知らぬ相手より見知った仲間がいた方が良いに決ま
っている。
「各艦長にこちらに来るように伝えてください。作戦会議を行います」

 第一作戦会議室。
 フランソワ以下、各艦の艦長・副長や航海長などが集まって、作戦会議がはじめられ
た。
 まずは、各艦の艦長の自己紹介である。
「ポセイドンのアイザック・カニンガル大尉だ」
「ネプチューン、オスカル・ハミング中尉」
「空母ユニコーン艦長、ミランダ・ノイマン少尉です」
「サンタフェのコニカ・バカラック大尉です」
「サンダーバード、ニック・スタブロス大尉」
 男性三人、女性二人のそれぞれの艦長である。
 さすがに女性艦長がいるのは、ランドール提督配下の艦であることを象徴している。
 そしてフランソワが名乗った。
「フランソワ・クレール上級大尉です」
 艦長の中では唯一の戦術用兵士官であり、それを示す胸の徽章がひときわ目立ってい
た。
「上級大尉殿、早速今回の任務を聞かせていただけますか?」
 艦長の中でも最古参であるカニンガル大尉が尋ねた。
 集合場所は指定されても、作戦内容までは知らされていなかったようである。
 秘密情報の漏洩を極力避けるためであろう。


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銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第五章 ターラント基地攻略戦 II
2019.09.29


 機動戦艦ミネルバ/第五章 ターラント基地攻略戦


                 II

 CCU(循環器系集中治療室)では、医師や看護師が二十四時間交代制で緊急事態に
備えていた。
 当直の医師に尋ねるフランソワ。
「どんな具合ですか?」
「かなり心臓が弱っています。極度の脱水症状によって、血液量が減少し心臓に戻って
くる血液が不足して、空打ち状態となって負担が増し、心室細動などの症状が出ており
ます」
「助かりますか?」
「最善を尽くしますが、五分五分というところでしょうか」
「とにかくお願いします」
「はい」

 ミネルバ発着場。
 訓練生達が全員勢揃いしている。
 その最前列に対面するように、サブリナ中尉とハイネ上級曹長、そしてナイジェル中
尉とオーガス曹長が並んでいる。
「我々四人は、君達の訓練教官を任じられた。そちらの二人は、パイロット養成教官の
ナイジェル中尉とオーガス曹長。そして私はサブリナ中尉、こっちがハイネ上級曹長。
君達の基礎体力をつけさせるための体育教官である」
 ワイワイガヤガヤと隣同士で囁き合っている訓練生達。さしずめハイネ上級曹長のこ
とであろう。
「それでは、早速はじめるぞ! まずは場内五十周からだ」
 ええ!
 訓練生達から悲鳴があがる。
 場内外周はおよそ五百メートルほどであるから、五十周となると二万五千メートルで
ある。
「先頭をハイネ上級曹長がスローペースで先導する。諸君らは遅れないように、しっか
り着いていくように。もし周回遅れとなって追い越されたら、居残り特訓を行うのでそ
のつもりでいろ」
「ええ! うそお!」
 またもや悲鳴。
「ようし。それじゃ、出発!」
 ハイネが走り出す。
 それに続いて仕方なく、ゾロゾロと走り出す訓練生達。
「しっかり走れ! 居残り特訓がやりたいのか!」
 はっぱをかけられてスピードを上げる。
 サブリナ中尉は一緒には走らないようで、号令係というところであろう。
 女性であるがゆえに筋骨隆々とはいかないが、その引き締まった身体は相当な鍛錬を
していることを物語っている。

 パイロット養成官のナイジェル中尉とオーガス曹長は、取りあえずは用がないので、
自分に与えられた新型モビルスーツに乗り込み、システムの調整をはじめた。
「しかし……すごいな。ミネルバと同じ超伝導磁気浮上システムだ。これなら空中を自
由に飛びまわれるぞ」
 機関担当のナイジェル中尉が感心していた。
「超伝導ということは、冷却用の液体ヘリウムの補充が欠かせないということですよ
ね?」
「しかしシステムは非常にコンパクトにまとめられている。超伝導回路に電力を供給す
る核融合炉も、並みの戦艦クラスのパワーゲージがある。つまり、これ一機で戦艦と互
角に戦える。いや、機動力を考えればそれ以上ということか」
「艦長や上層部がこの機体の回収にこだわったのもそのため?」
「そういうことだ。実に素晴らしい機体じゃないか」
「感心するのはともかく、機内に入り込んだ砂をまずどうにかしませんか? 砂漠に長
時間放置されていたので、砂だらけじゃないですか」
「ああ、そうだな」


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銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第五章 ターラント基地攻略戦 I
2019.09.22


 機動戦艦ミネルバ/第五章 ターラント基地攻略戦


                 I

 ムサラハン鉱山跡地に時間通りに到着したミネルバ。
 補給艦とも無事に接触して補給の真っ最中だった。
 相手の艦長は、前回と同じベルモンド・ロックウェル中尉だった。
 ロックウェル中尉は、補給の任の他に、次の作戦指令を伝達する任務も負っていた。
「次なる作戦は、モビルスーツ生産工場であるリスキー開発区の攻略です。工場を破壊
するのが目的ですが、出来うる限りのモビルスーツをも奪取することも、作戦内容に含
まれております」
「工場の破壊とモビルスーツの奪取ですか……」
「その通りです。モビルスーツ戦となることは必定でしょう」
 ここに至って、バイモアール基地攻略の作戦理由が見えてきた。
 新型モビルスーツを手に入れ、このリスキー開発区の攻略に当たらせることだったの
だ。
 カサンドラ訓練所の訓練生を収容したのも、モビルスーツ奪取の後のことを考えての
ことだったようだ。
「今回は、ミネルバ以外にも計五隻の艦艇が作戦に参加することになっています。ミネ
ルバは、その旗艦として働いています」
「合同作戦ですか?」
「戦術士官としての腕の見せ所ですね」
 たった六隻の小隊とはいえ、複数の艦艇を指揮運用できるのは戦術用兵士官だけであ
る。
 一般士官の艦長の権限では、自艦のみしか指揮できない。
 フランソワの出番だった。
 合同作戦の旗艦として、ミネルバが位置づけられたことで、フランソワの責任も重大
なものとなりつつあった。
「モビルスーツ同士の格闘戦ですか。壮絶なる戦いとなることが避けられないでしょう
ね」
 副長のベンソン中尉が、感慨深げそうに言葉を漏らす。
「新型は、経験豊富なナイジェル中尉とオーガス曹長、そしてサブリナ中尉とハイネ上
級曹長に任せましょう」
「無難でしょうね。ついでにパイロット候補生達の訓練教官になってもらいましょう」
「それは結構ですね」
「パイロット候補生というと、例の三人組の男子が意識を取り戻したそうです。女子の
方はまだのようですが」
「そう……。お見舞いにいってみましょう。しばらくここをお願いします」
 立ち上がって、指揮官席を交代するフランソワ。
「了解。指揮を交代します」

 フランソワが医務室に入ると、すでに先客がいた。
 特殊工作部隊の隊長のシャーリー・サブリナ中尉だった。
 バイモアール基地において、訓練生の行動を阻止できずに、結果としてこのような事
態になった責任を感じているのである。
「あ、艦長殿もお見舞いですか?」
「具合はどうですか?」
「元気なものですよ」
 とはいうものの、訓練生はガラスで隔たれた集中治療室に入れられていた。
 ベッドに横たわり、点滴の針を刺されている。
 突然一人が起き上がって、ガラス窓にへばりついて叫びだした。
「なあ、いい加減ここから出してくれよ!」
 ジャンである。
「だめだ! おまえは死にかけていたんだぞ。見た目は元気でも内臓は弱っているぞ。
その点滴も内臓を回復させるためだ。感染を防ぐためにもまだそこから出すわけにはい
かん」
「いつまで入ってりゃいいんだ?」
「回復するまでだ」
 アイクの方は、背を向けたまま動かない。
「もう一人はどうしたんですか?」
「いやいや、向こう向きで見えませんが、携帯ゲームで遊んでいるんですよ。心配はい
りません」
「そう……。重体の女の子は?」
「CCUの方です」


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銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第四章 新型モビルスーツを奪還せよ XVⅢ
2019.09.15


 機動戦艦ミネルバ/第四章 新型モビルスーツを奪回せよ


                XVⅢ

「高速推進音接近! 魚雷です」
 聴音機(パッシブソナー)に耳を傾けていたソナー手が報告する。
「急速浮上! デコイ発射」
 魚雷が急速接近してくる。SWSは急速浮上してこれを交わしながら、デコイ
(囮魚雷)で魚雷の目標を反らしてしまおうというのだ。
「アクティブ・ソナー音が強くなってきます。敵艦接近中」
 超音波を出して、その反響音から敵艦の位置を探るのがアクティブソナーである。
敵艦を補足して、頭上から爆雷を投下するのが、攻撃の手順である。
 敵艦を探知するには確実であるが、逆に言えば音源を発していることから逆探知
されることを意味して、隠密を前提とする潜水艦側から使用することはまれである。
「爆雷です!」
 イヤフォンを急いで外しながら、再び叫ぶソナー手。
「取り舵十度! 深度百メートル」
 逃げ回るしかなかった。
 水上艦対潜水艦の一対一の戦闘の場合、圧倒的に水上艦の方が優位だとされてい
る。艦の速度差、探知装置の充実性、攻撃力の相違など、水中にある潜水艦は劣勢
に立たされる。よって水上艦と接触したら逃げ回るしかないのが現状である。
 最上の方策が、敵の攻撃や探知の届かない深深度潜航で逃げるのが一番である。
 しかしこの艦長は、反撃を企んでいるのか、浅い水域を逃げ回っていた。
 一回目の爆雷攻撃を終えた水上艦は一旦離れていった。が、やがて引き返してき
て攻撃を再開するだろう。
「もう一度魚雷がくるはずだ。それを交わして次の爆雷攻撃の直後に、潜望鏡深度
に急速浮上して、魚雷攻撃を敢行する。狙いはつけられないが、必ず当てられるは
ずだ」
 予想通りに魚雷が襲い掛かってくる。
「アンチ魚雷発射! 五十まで浮上」
 迫り来る魚雷を直接破壊する迎撃魚雷である。
 難なく魚雷を交わして、次の攻撃を待つ。
「さて、次にくる爆雷攻撃の後が肝心だ。艦尾魚雷発射管に魚雷を装填。発射角度
を三度で調整」
 逃げ回ってはいるが、余裕綽々の艦長であった。そもそも潜砂艦として建造され
た構造上、通常の潜水艦に比べて外壁に格段の相違があったのだ。その厚さだけで
も二倍以上あるし、砂の中を進行する為に非常に滑りやすくできていた。仮に爆雷
が炸裂してもビクともしないし、魚雷もつるりと滑って反れてしまう確率が高い。
 ソナー音が近づいてきた。
「おいでなすったぞ」
 やがて水上艦からの爆雷攻撃が再開された。
「よおし。潜望鏡深度まで浮上! 魚雷発射準備」
 爆雷の雨の中を上昇するSWS。
 すでに水上艦はすれ違いを終えている。
「今だ! 魚雷発射!」
 艦尾魚雷が発射される。
 扇状に開きながら、敵艦に向かう魚雷。
 そして見事に敵艦に命中した。
 火柱を上げながら沈んでいく水上艦。
 SWSの艦内にも、きしみ音を上げて水没していく様子が、水中を渡って響いて
くる。
「撃沈です」
「よし。皆、よく耐えて頑張ってくれた。これより基地に帰還する」
 乗員達の表示に明るさが戻ってくる。
 久しぶりの基地帰還である。
 艦内ではできなかったシャワーを浴びたり、豪勢な肉料理にかぶりついたり、そ
して何より、しばしの休暇が与えられるの一番の喜びだった。

 第四章 了


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