銀河戦記/鳴動編 第二部 第四章 皇位継承の証 VI
2019.09.28


第四章 皇位継承の証


                 VI

 アレックス・ランドール提督は、第一皇子として最上位にあるものとして、謁見
の間の壇上の玉座のそばの位置を与えられた。大臣や将軍達を上から見下ろす格好
となったわけである。
 何かと反問していた大臣達の、ばつの悪そうな表情が印象的であった。
 そして、マーガレット皇女が、眼下にかしずいて、アレックスの言葉を待ってい
た。
 アレックスは、マーガレット皇女、すなわち自分の双子の妹の助命嘆願を、摂政
であるエリザベス皇女に申し出た。
「そもそもマーガレット皇女は、私の身分を保全・確保しようとしたことが、反乱
の要因となったわけで、今こうして私がここにいることが、皇女の正当性を証明す
るものです。情状酌量をもって対処していただければ幸いです」
「と、第一皇子が申しておる。大臣達はどう思うか?」
 何せ第一皇子は、皇帝に次ぐ地位であるから、その嘆願となれば絶対的とならざ
るを得ない。
「いえ……。第一皇子のご意見となれば、我々一同に反対する者はおりません」
「そうか……」
 と頷いたエリザベス皇女は、マーガレット皇女に向き直って発言した。
「マーガレットよ。そなたの起こした罪は重大ではあるが、皇子の温情をもってこ
れを許すことにする。今後とも第一皇子、並びに帝国に対して忠誠を誓うこと。よ
いな」
「はい。誓って忠誠を守ります」
「よろしい。では、列に戻りなさい」
 マーガレット皇女は深々とお辞儀をすると、ジュリエッタ皇女と対面する位置に
並び立った。
 ほうっ。
 というため息が誰ともなく沸き起こる。

 その夜の宮殿での皇家の夕食の席。
 アレックスとマーガレットと家族が全員揃ったはじめての食事となった。
 政治においては摂政であるエリザベスが統制権を有しているが、身内だけの席で
はアレックスが主人として最上の席を与えられた。それまではエリザベスが座って
いた席である。
「ところで、アレックスが願い出ていた協定のことだけど……。まだまだ難解でさ
らに時間が掛かりそうです」
 エリザベスが申し訳なさそうに答える。ここは身内の席なので、皇子や皇女と言
う公称は使わない。
「ベス、どういうことなの?」
 ジュリエッタが質問する。アレックスの第一皇子という地位をもってすれば、で
きないことなどないと思っていたからである。
「解放戦線との協定ともなれば、援軍を送るとしても一個艦隊やそこらで済むはず
がないでしょう。それに援助物資の運搬にしても多くの輸送船を割譲しなければな
らないわ。しかも中立地帯を越えて共和国同盟に進駐することになる。総督軍や連
邦軍が黙っているはずがないじゃない。これは国家間の紛争となるに十分な意味合
いを持っている。つまり結局として全面戦争に向けて、銀河帝国艦隊全軍を動かす
だけの権力が必要なの。それができるのは皇帝か、皇太子だけに許されていること
なのよ」
「つまり、第一皇子の権限を越えているというわけね」
 マーガレットがエリザベスの後を受けるようにして答えた。


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