銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第四章 新型モビルスーツを奪還せよ XVI
2019.09.01


 機動戦艦ミネルバ/第四章 新型モビルスーツを奪回せよ


                XVI

 潜砂艦の指揮塔から、砂の上に降り立つ、艦長以下の参謀達。
 砂塵を巻き上げながら降下するミネルバを見上げている。
 ミネルバの砲塔が旋回して潜砂艦に照準が合わせられたようだ。抵抗する気配を見せ
たら、容赦なく攻撃を開始するという牽制である。
 やがて降下したミネルバの昇降口が開いて、フランソワやベンソン副長が降り立ち、
歩み寄ってくる。
「どうやら向こうの艦長は女みたいですね」
「それだけじゃない。胸の徽章を見てみろ。戦術用兵士官だ」
「なるほど、旗艦という理由が納得できたみたいです」
 フランソワが目の前に立った。
 一斉に敬礼する潜砂艦の乗員達。
 それに応えてフランソワも敬礼を返しながら、
「これはどういうことですか? ハルブライト・オーウェン中尉」
 名前を言い当てられて、少し驚きの表情を見せる艦長のオーウェン中尉。
 艦艇データから、艦長名などを調べ上げたようだ。
「申し訳ありませんね。こちらに記録されております艦艇データが古くて、そちらの
データが載っていなかったのですよ。そちらさんは、どうやら新造戦艦のようですから
ね。確認が取れない以上、連邦軍の未確認艦として、攻撃を行ったというわけです」
 嘘も方便である。確かに艦艇データに記録はないのだから、言い逃れはできそうであ
る。
 副長は笑いを押し殺している。
「そういうわけで、そちらの艦長さんのお名前も知らないわけでして……」
 言われて頷くフランソワ。まだ自分の身分を名乗っていなかった。味方に攻撃されて
興奮していたせいであろう。
「ミネルバ艦長、フランソワ・クレール上級大尉です」
「ミネルバというと、メビウス隊の旗艦となる艦でしたよね。なるほど、それで我々の
攻撃をいとも簡単に凌いでしまわれたわけだ。感心しましたよ」
 その時、通信が急ぎ足でオーウェンのもとに駆け寄ってきた。フランソワに一礼して
から通信文を艦長に手渡す。
 その通信文を読み終えて、
「新しい任務が届けられました。取り急ぎの用なので、これで失礼します。今回の件に
つきましては、そちらの方で本部に伝えておいてください」
 と言い残して、踵を返して潜砂艦に戻っていった。

 潜砂艦艦橋。
「潜航開始!」
 ゆっくりと砂の中に潜っていく潜砂艦。
「作戦の前にオアシスによって水を補給する。微速前進」
「取り急ぎの用ではなかったのですか?」
「自分の娘ほどの若い上級士官から小言を聞かされるのは耐えられんからな。任務にか
こつけてオサラバしたのさ」
「あの上級大尉さん。呆然としていましたよ」
「まあ、俺の方が世渡り上手なだけだ」
「そんなものですかね」
 それから小一時間後。
 オアシスの湖に浮かんでいる潜砂艦。
「水の補給完了しました」
「それでは、行くとしますか。潜航!」
 湖に沈んでいく潜砂艦。というよりも潜水艦と言った方が良いだろう。
 この艦は流砂の中はもちろんのこと水中へも潜れる、SWS(サンド・ウォーター・
サブマリン)と呼ばれる兼用潜航艦である。


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