妖奇退魔夜行/胞衣壺(えなつぼ)の怪 其の廿
2019.09.13


陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪


其の廿 魔法陣


 蘭子が、トンと地面を踏むと、地鎮祭に使用された縄張りを中心として、敷地全体に
魔法陣が出現した。
「ほう、奇門遁甲八陣図ですか」
「その通りよ。もう逃げられないわよ」
 今日のこの日を予想して、縄張りを片付けずに、魔の者には見えない魔法陣を描いて
いたのである。
「なるほど、そういう手できましたか。弱りましたね」
 と言いながらも、不死身ゆえに余裕の表情を見せていた。
 しかしながら、自由を奪われて身動きできないようだった。
「白虎!」
 言うが早いか、霊魂から離れて美咲に飛び掛かった。
 白虎が爪を立てて狙ったのは?

 胞衣壺だった。

 その鋭い爪で、魔人が抱えていた胞衣壺を弾き飛ばした。
 胞衣壺は宙を舞って、蘭子の方へ飛ぶ。
 それをしっかりと受け取る蘭子。
 白虎は再び霊魂の押さえに戻っている。
「さて、それをどうする? 壊すか?」
 意味ありげに尋ねる美咲魔人。
 胞衣壺は、単なる依り代でしかない。
 壊したところで、別の依り代を求めるだけである。

 さあどうする、蘭子よ。

「そうね……こうします」
 というと呪文を唱え始めた。

「こ、これは、呪縛封印の呪文かあ!」
 さすがに驚きの声を上げる美咲魔人。
 蘭子の陰陽師としての能力を過少評価していたようだ。
 不死身という身体に油断していた。
 不死身ならば封印してしまえば良いということに気が回らなかった。
*参考血の契約

 一心不乱に呪文を唱えながら、胞衣壺の蓋を開ける蘭子。
 美咲の身体が輝き、白い靄のようなものが抜け出てくる。
 やがて白い靄は、胞衣壺の中へと吸い込まれるように消えた。
 すかさず蓋を閉め、呪符を張り付けて封印の呪文を唱える。
 無事に胞衣壺の中に魔人を閉じ込めることに成功した。
「ふうっ……」
 と深い息を吐く。
 後に残された霊魂も、魔人の呪縛から解かれている。
「白虎、もういいわ」
 静かに後ずさりするように、霊魂から離れる白虎。
 怨念の情は持ってはいても、蘭子の手に掛かれば浄化は容易い。
 浄化の呪文を唱えると静かに霊魂は消え去り、輪廻転生への旅へと出発した。
「さてと……」
 改めて、魔人が抜け出して放心して、地面にへたり込んでいる美咲を見つめる。
 白虎がクンクンと匂いを嗅ぐような仕草をしている。
「大丈夫よ。気を失っているだけだから」
 血の契約を交わしたとはいえ、精神を乗っ取られた状態であり、本人の承諾を得たと
は言えないので契約は無効である。
 美咲に近寄り抱え上げると、白虎の背中に乗せた。
「運んで頂戴ね」
 白虎としては信頼する蘭子以外の者を背に乗せることは嫌だろうが、優しい声でお願
いされると拒否できないのだ。
「土御門神社へ」
 霊や魔人との接触で、精神障害を追っているかも知れないので、春代に霊的治癒を行
ってもらうためだ。
 蘭子と美咲を背に乗せながら、夜の帳の中を駆け抜ける白虎。


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