妖奇退魔夜行/胞衣壺(えなつぼ)の怪 其の拾陸
2019.08.23


陰陽退魔士・逢坂蘭子/胞衣壺(えなつぼ)の怪(金曜劇場)


其の拾陸 追跡


 開け放たれた窓辺に寄りかかるようにして神田美咲が立っていた。
「どうやら罠に掛からなかったようだね」
「初歩的なトラップでした」
「ふむ、さすが陰陽師というわけですか」
「なぜ知っている?」
 自分が陰陽師である事は、美咲には教えていない。
「あなたの体内からあふれ出るオーラを感じますから」
「なるほど」
「で、どうなさるおつもりですか?」
「悪しき魔物は倒す!」
「そうですか……」
 ニヤリとほくそ笑むと
「ならば……逃げます」
 机の上の壺を抱え込んで窓の外へと飛び出した。
 しまった!
 という表情で、窓辺に駆け寄る蘭子。
 窓の下を覗いてみるが、すでに美咲の姿は消え失せていた。
 改めて部屋の中を観察する。
 見た目には綺麗に拭き取られているが、そこここに血液の痕跡が浮かんでいた。
 通常の警察鑑定のルミノール反応を調べれば確かな証拠が出るだろう。
 井上課長に一報を入れようかとも思ったが……。
 警察の現場検証が入れば後戻りはできない。
 魔人との決着が着いてからでもよいだろう。

「白虎、来い!」
 四聖獣であり西方の守護神でもある白虎を呼び出す。
 それに答えるように、見た目虎の姿をした大きな身体の聖獣が姿を現す。
 蘭子が幼少の頃に召喚に成功し、以来ずっと蘭子を見守っている。
「魔物を追ってちょうだい」
 といいながら、その背中に乗る。
 追跡するのに犬ではなく、猫科の虎なのか?
 匂いで追跡するのではなく、白虎の神通力を使って、魔物が持つ精神波を探知するの
である。
 白虎の背に乗った蘭子が、闇に暮れた街中を疾走する。
「この先は?」
 白虎が突き進む先には、例の旧民家解体現場があった。
「そうか……そこへ向かっているのね」
 人生に行き詰った時、人は故郷を目指すという。
 いや、犯人はいずれ犯行現場に戻るもの、というべきだろうか。


11

- CafeLog -