銀河戦記/機動戦艦ミネルバ 第四章 新型モビルスーツを奪還せよ XIV
2019.08.18


 機動戦艦ミネルバ/第四章 新型モビルスーツを奪回せよ


                XIV

 砂漠の上空を飛行しているミネルバ。
 艦橋では、フランソワがカサンドラから収容した訓練生の名簿に目を通していた。
「男子二十八名、女子十四名、合わせて四十二名か……。数だけで言えば補充要員は確
保できたけど」
「心配いりませんよ。ミネルバ出航の時だって、士官学校の三回生・四回生が特別徴用
されて任務についていますけど、ちゃんとしっかりやっていますよ」
 副官のイルミナ・カミニオン少尉が進言する。
「それは元々専門職だったからですよ。それぞれ機関科、砲術科、航海科という具合
ね」
「今回の補充は、全員パイロット候補生というわけですか。結構プライドの高いのが多
いですから、衛生班に回されて便所掃除なんかやらされたら、それこそ不満爆発です
ね」
「トイレ掃除だって立派な仕事ですよ。ランドール提督は懲罰として、よくトイレ掃除
をやらせますけど、皆が嫌がるからではなく、本当は大切な仕事だからやらせているん
だとおっしゃってました」
「へえ。そんな事もあるんですか。そういえば発令所ブロックの男子トイレは、部下に
やらせないで、提督自らが掃除していると聞きました」
 感心しきりのイルミナであった。最も発令所には男性はアレックスだけだからという
事情もあるが。
 名簿に署名をしてイルミナに渡すフランソワ。
「新型モビルスーツの位置が特定しました」
 通信が報告し、正面スクリーンにポップアップで、位置情報が表示された。
「ただちに急行してください」
 砂漠上空の外気温は四十度を超えていた。
 新型モビルスーツはともかく、乗り込んでいたという三人の訓練生が気がかりだった。
砂漠という過酷な環境で、水なしで放置されたら干からびてしまうだろう。

 砂漠の真ん中。
 モビルスーツによって日陰となっている地面に、力なく横たわっている三人の姿があ
った。口は渇ききり唇はひび割れている。日陰の場所でも、砂漠を吹き渡る熱風が、三
人の体力を容赦なく奪っている。水分を求めてどこからともなく飛んでくる蝿が、目の
周りに集まっているが、追い払う気力もないようだ。
「俺達、死ぬのかな」
「喋らないほうがいいぞ。それよりサリー、生きているか?」
 アイクが心配して尋ねる。
 しかし、サリーは喋る気力もないのか、微かに右手が動いただけだった。
 三人の命は、風前の灯だった。
 薄れる意識の中で、ある言葉が浮かんだ。
『いざという時に、一番発揮するのは、体力だということが判っただろう』
 特殊工作部隊の隊長の言葉だった。
「まったくだぜ……」
 小さく呟くように声を出したのを最期に、意識を失うアイクだった。


11

- CafeLog -