あっと!ヴィーナス!! 第二章 part-4
2019.10.09


あっと!ヴィーナス!!


第二章 part-4

 その夜。
 部屋から一歩も出ることもなく、自分の心境を嘆いて悶々と過ごしていた。
「弘美ちゃん、ご飯ですよ」
 そう言えば朝も昼も食べていなかったよ。
 家族は買い物ついでに食べてきたようだけど……。
 おいおい、母さん。一人のけものはないよー。
 とは言ってもこの姿になってしまって、家族と一緒というのも……。
 うーん……、困ったなあ。
 家族に顔を合わせる勇気がないよお。
「弘美ちゃん、どうしたの? 入るわよ」
 いつまでも降りてこないので、母が心配して見にきたようだ。
「朝も昼も食べてないでしょ。それとも身体の具合でも悪いの?」
 あのなあ……。食べてないのを知っていながら、そのまま放っておくなよ。
 それでも母親か?
「で、でも。みんなに恥ずかしいから……」
「そんなこと気にしてたの? 大丈夫よ、みんなにはそのところはちゃんと言い含
めてあるから」
「でも……」
「いつまでも、そんな事言ってられないでしょ。同じ屋根の下に暮らしているんだ
もの。一度顔合わせしてしまえば気にしなくなるわよ。何事もね。でしょ?」
「う、うん」
 確かにそうなんだけどさあ……。
 でも、その最初のふんぎりってものが、なかなか踏み出せないものだよね。
「じゃあ、下へ行きましょうね」
 抱かれるように誘われて、下へ降りていく弘美。

 母に付き添われて食堂に降りてくる弘美。
 家族一同の視線が集中する。
 その中に父さんの顔があった。
「おお! 弘美か、待っていたぞ」
 って、何で父さんがいるんだよ。
 会社が忙しくて、いつもなら十時以降でないと帰ってこない。当然夕食を家族と
一緒に囲むことなんてなかったのに……。
 なんで今日に限っているんだよ。
 さては母さんが連絡して、早く帰ってくるように仕向けた?
「うーん。こうして見ると若い頃の母さんそっくりだな」
「でしょ? でなきゃ、この娘が弘美ちゃんだなんて信じられなかったですよ」
「弘美、お父さんはこれから早く帰るからな。今夜からは毎晩楽しい夕食になりそ
うだ」
 どうしてそうなるんだよ。
 そりゃあ、母さんと同じで娘が欲しかったらしいが、会社を早引けして大丈夫な
のか?


11

- CafeLog -